ケントの方舟

環境問題への意識が突き抜けている

ケントの方舟 毛利甚八 魚戸おさむ
ひさぴよ
ひさぴよ

オゾンホール問題やダイオキシン問題など、日本において環境問題への意識が最高潮に高まっていた90年代。その最中に連載されていたのがこの「ケントの方舟」です。 私の好きな「家栽の人」毛利甚八&魚戸おさむコンビなので、”良い漫画”として紹介をしたいのけど…いやいやこの漫画、なかなかの過激な思想を持つ漫画でした。 ゴリラの研究をしているサル学者・森野賢人が区議会議員選挙へ打って出て、型破りなやり方で環境保護政策を進めていくというのが基本ストーリーです。 森野の穏やかな表情とは裏腹に、突拍子もない構想を抱いている事が次第に判ってきます。 例えば、ゴリラのために東京都内に森を作り、森の壁で分断しようとする案。 さらにはゴリラと人間をかけあわせて森と人間の融合を図る案など、どう考えてもヤバい思想です。 環境問題に熱心な人ですら同意困難なレベル。 そういった考えを公に発信しているわけではないものの、ふとした時に本音が漏れ出てくるというか。もちろん漫画の中では肯定されています。 おそらく森野の中で優先順位は、自然>ゴリラ>人間なんです。 環境問題が加熱していた時代特有の狂気を感じました。 おもわず「マッド・エコロジスト」という言葉が頭に浮かんだので、ここに書き残しておくことにします。

哭きの竜

あンた、背中が煤けてるぜ

哭きの竜 能條純一
さいろく
さいろく

麻雀を打つ人はきっと「哭きの竜」という名前ぐらいは聞いたことあるでしょう。 麻雀打ちにとって神のような無敵の麻雀打ちの代名詞のようなものです。 でも意外と読んだことある人は多くないのかも? 著者の能條純一先生は今現在は「昭和天皇物語」を描いておられますが、「月下の棋士」も超有名な作品です。絵柄や間の使い方が独特で、読者を魅了する作品を残しています。 本作の主人公は「哭きの竜」と呼ばれる雀ゴロ。 竜自身はめちゃくちゃ口数が少なく、たまに喋ったと思うとヤクザの親分達相手にも怯まずズバッとコケにしちゃうという恐れ知らずにも程がある性分。 ただ、ヤクザの親分になる器が私にはないのだと思うのですが、親分さん達には「神のヒキ」と言わんばかりの竜の持つ「強運」が魅力的に映るようで、テッペンを目指す親分がたは、こぞって竜の強運を欲しがります。 しかし彼らに対して竜は 「あンた、背中が煤けてるぜ」と言います。 背中が煤けてるってどういう意味?という議論が割とあったようなのだけど私の解釈だと「死相が出てる」ってことかと思ってます。 死相が出ている、今やろうとしてるソレはやめときなよ、と言ってあげているのではないかと。 事実、それを言われた人たちはその後大体死んじゃうんですよね。 死神ってわけじゃないんだけど。 触るもの皆傷つける的な、ギザギザハートの子守唄のような存在。 竜は最初こそヤクザの代打ちで稼いでいたものの、気づけば各方面の組長達からのラブコールで引っ張りだこ。 で、仕方ないからついてって麻雀打てというから打ってあげて、勝ったら相手が激おこで死ぬ。 そりゃー竜も嫌になりますわ。 「ふっ」って嘲笑に近い感じでよく笑うんですが、親分からすりゃ「いい度胸だ」と思われて逆に気に入られちゃうっていう悪循環。 竜本人は根無し草をヨシとしているとこもあるんですが、最初の"甲斐の正三"親分から充てがわれた女をしっかり家で待たせてたりと、人情っぽいものも無くはない。ミステリアスというと安っぽいですが、不思議な魅力の持ち主。 漫画としてはどうなのかというと、抽象的な表現が多く、ヤクザ屋さん達の意地や任侠の在り方がわからない私には少し難しかったですが、逆に麻雀を打つシーンはあるものの麻雀のルールを知らなくても全く問題ない感じです。 詰まるところ、竜を囲う周囲の成り上がりたいヤクザ達の物語、と言っても過言ではない。 というかほとんど甲斐組の話ですが、京都の大親分なんかですら竜に魅了されちゃってるわけで… 竜は「ファブル」の"山岡"のような恐怖を知らないタイプの男かもしれません。 読後感はとても良く、新装版では全5巻っぽいので(1冊380Pとかあるけど)一気に読むのには最適ではないかと思われます。 麻雀打ちなら嗜みとしてマスト、そうでない人でも話のネタにはもってこいの作品でしょう。

新 男!日本海

読むとIQが下がると言われている超名作

新 男!日本海 玄太郎
名無し

読んでためになるマンガとためにならないマンガがあるとしたら間違いなく後者になる超名作「男!日本海」の新しい単行本がついに出ました。 この単行本が発売することは全く知らず何気なく新刊をチェックしてたらひときわ目立つ表紙で発見しました。 「令和」の時代にあえてこれを発売しようとすることを俺は断固支持をします。目次をみた感じだと今まで発売した全10巻以降の回を収録してあるようです。 そのためか全く説明がない状態でいつもの「男!日本海」のノリで話が進むため新規読者には理解できないと思いますが、1話を読めば全てが理解できるので問題はないです。「男!日本海」は単行本未収録回が多く全部単行本が出ていれば全30巻ぐらいにもなる長編になり、もしこれが3巻以降も発売されつ続け、20巻ほど発売した場合、昔の「男!日本海」と「新 男!日本海」で「男!日本海」の1992年から1998年までの連載時の内容を全て読むことができることになります。 これを「令和」の時代に読めることを奇跡と言わずしてなんというべきでしょうか?不寛容な社会と言われますがこのような内容のマンガを発売し続けることができる寛容な社会であって欲しいと願います。

ジュウドウズ

これを毎週楽しめたことが幸せだったと思う

ジュウドウズ 近藤信輔
名無し

作者さんの最新作「忍者と極道」の続きがあまりにも待ちきれず久々に読み返したら第一話の時点でワクワク感が"""偉大(パネ)ェ"""し、めちゃくちゃに心をかき乱されるほど面白すぎて泣いちゃった。なんで終わっちゃったんだろう。 「烈!!!伊達先パイ」も大好きなので、新連載が始まった!と本当に毎週楽しみにしていて、本誌の掲載作のどれよりも先に読んで毎週アンケートも出して、新キャラたくさん出てきた!盛り上がってきたな~!と思ったあたりで本当に終わった。 そのときの衝撃は本当に忘れられない。常に全掲載作を読んでいるわけではないとは言え、ジャンプを25年程度読み続けてきた中でもトップクラスの「えっ!?ここで終わる!?」だったと思う。 連載終了後、しばらくジャンプを読めず数週間溜め込んだ。ジュウドウズが載ってないこと、もう続きが読めないことを認めたくなかったから。当時それくらい好きだった。 単なる一介の読者の分際でめちゃくちゃ悔しかったから、作者さんはそれを遥かに超えてどれだけ悔しい思いをしたのかと考えるだけで胸が痛む。 数年経って読み返して、そんな気持ちをまた強く思い出させてくれるほど自分の中ではすごく意味のある作品に出会えたことを幸甚に思う。 あと主人公の母親が最強。絶対何かしらの性癖が目覚めたキッズたち、いるだろう?私は詳しいからそういうのがわかるんだ。 おすすめです。

夜ヲ東ニ

電子書籍だけなんて勿体ない、地下世界の冒険譚 #1巻応援

夜ヲ東ニ アンギャマン
sogor25
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その世界は明けることのない"夜"に満ちていた。人々は地下に広がる空間を拠点とし、日の光を識ることすらない世界で地下生物を狩猟して生活をしていた。 そんな地下世界を旅する青年・アナグ。彼は不思議な光を放つ"遺物"を頼りにあるものを探していた。それは旧世界の記録に遺されているだけで存在するかどうかも分からない、夜を終わらせることのできる"朝"と呼ばれる何か。 彼が地下生物に襲われているところを狩人の少女・ティオに救い出される場面から物語は始まる。 電子書籍のみで単行本が発売されている作品ではあるが、その利点を最大限に活かすかの如く、ランタンや炎という限られた光源のみが存在する地下世界をフルカラーで見事に描き出している。また、旧世代的な文明の中で"火の神"への信仰に由来する封建的な意識が人々の間に深く根ざしているという背景、それに個々に特殊な能力を宿す"遺物"というファンタジー要素が融合され、独特な世界観が生み出されている。 未知を求めて地下へと深く深く冒険するのが「メイドインアビス」ならば、作中世界では未知でも読者にはありふれた"朝"を探し求めて地下世界を冒険するのがこの「夜ヲ東ニ」という作品。冒険譚でありながら純粋な未知に対するワクワク感とは少し異なる、不思議な読後感を是非感じてみてほしい。 1巻まで読了

囀る鳥は羽ばたかない

ヤクザモノは読まんのです

囀る鳥は羽ばたかない ヨネダコウ
華子
華子

誰も知らない人などいない。 そんなBL漫画のレビューなど、今更要るのか?と、自分でもそう思うのですが、いいえ、書かせて下さい。 最近、読んだんです。 映画化かー、そんな面白いんだったら、読んでみよっかな。って。 そもそもヤクザモノは読まない。という自身の中の決まりによって、ヤクザモノにリミットをかけておったのですが、この作品をついこないだ読んで、読んだ翌日に、慌てて映画まで見に行きました。 もはや虜。 今更、虜です。 あら筋は、あらすじを読んで下さい。 矢代が変態と書かれておりますが、個人的にはあの漫画の登場人物で一番の変態は百目鬼じゃないかと思っております。 ゲイでもないのに、矢代が綺麗だと!? しかも、させ放題。 矢代よりヤバいのは百目鬼じゃないか。 などと思いながら読んでましたが、この漫画、素晴らしいのは、二人の心情も去る事ながら、その背景を彩る男達の物語なわけです。 ただ好きだ嫌いだと言い合う、恋愛漫画でないところ。 ここが味噌。 さらっと舐める程度で終わりません。 二人の葛藤の裏には、男達の生き様が描かれているのです。 どうでも良いですが、ワタシは三角ファン。 まだ読んでないという、ワタシの様な人には絶対読んで頂きたいと、そのように思います。

ほうき世界のアレアとイアラ

ボーイ・ミーツ・ガールから始まる夢と冒険に満ちたファンタジー #1巻応援

ほうき世界のアレアとイアラ 赤瀬よぐ
sogor25
sogor25

400年前に発明された"箒機関"という魔法科学によって発展した世界、図書館司書として働く本好きの少年・アレアはふとしたことをきっかけに歴史から忘却された"箒機関"を発明した伝説の魔女の名前を発見する。その名前"ERLA"を読み上げた瞬間、400年の時を越えてイアラが蘇り、アレアの目の前に姿を現したのだった…という場面から始まるボーイ・ミーツ・ガールストーリー。 そんな明るく楽しい希望あふれる物語…なのかと思いきや、ここから物語は急展開。イアラの代わりに伝説の魔女として歴史に名を残す魔女ヴィーゼの存在、魔法の使用を取り締まる政府特務機関ドライマギアの登場、そしてアレアの口から唐突に語られる「魔女狩り」の言葉。表紙の絵柄からは想像しなかった入り組んだ世界観が露わになります。 しかし!そんな世界のなぞを目の当たりにしても"本物の伝説の魔女"イアラの目に曇りは全くありません!この物語は、能天気で底抜けに明るい"伝説の魔女"イアラと歴史から隠匿された彼女の存在を世界に伝えると決心した少年アレア、2人の出会いから始まり世界を変えてゆく、夢と冒険に満ちた正統派ファンタジーです! 1巻まで読了

テセウスの船

ミステリーとしてもヒューマンドラマとしても楽しめる

テセウスの船 東元俊也 東元俊哉
六文銭
六文銭

小生、僕だけがいない街とか、タイムスリップ✕ミステリー・サスペンスが好きなんすよね。 事件を理解しているから修正していく要素も、結果として現代に影響を及ぼしてしまうのも、ほんのりロジカルな感じがいいんです。 本作も1巻読んで、これ超好き!と思っていたので、完結まで待ってました。 「待っている」理由は、至極単純で、ミステリー・サスペンスものは読み始めたら最後まで一気に読みたいんですよね。 じゃないと、毎回先が気になって発狂してしまう恐れがあるので。 (こういう方、多いと思います) テセウスの船も同様に、寝かせて楽しみの熟成をしていました。 まさか完結して速攻ドラマ放映とはね、やられました。 そんなの両方気になってみてしまいますよ。 そして、そのドラマの出来のいいこと。 (あんまりドラマ見ない勢だから、目が肥えてないだけかもですが。) 原作と犯人をかえるとかいう噂もあって、 結局、先が気になって発狂してしまう運命は避けられなかったです。 両方みているものとして、違いとしては原作のほうが犯人わかりやすかったなと感じました。 ドラマよりも怪しい雰囲気の人物が他にいなかったし、真犯人に関しても想像ができてしまいました。 そういう意味での驚きは少なかったのですが、とはいえ、最後にどういう終わり方するのかは予想もできなかったし、結末に関してはある種のカタルシスを得られました。 爽快感とは違うのですが、納得感というか満足感というか。 テセウスの船というパラドックスを使う意味も、最終話で再度納得した始末。(彼が、違う人になったのかどうかの疑問も含めて示唆してますね。) また、ミステリー要素だけでなく、本作は家族の描き方もいいですね。 こちらもドラマの影響が大きいのですが、家族が思い支え合っている姿に何度も心救われました。 犯人を追い詰めるハラハラする面も、家族の絆を描いたヒューマンドラマでほっこりする面も、両面で十分に楽しめる内容だったなと思います。 メディアミックスで相乗効果を得られた好例の作品ですね。