友達が拾った友達の財布

因果応報といえば簡単だけれど #読切応援

友達が拾った友達の財布 高橋龍二
名無し

この著者の漫画は「ひまわり」から読んでいます。新作を読むたびに(言い方が上から目線だけど)成長を感じるというか、単純にどんどん絵が上手くなってますし、漫画としての読み応えもいつも前作を上回っている気もします。 「ひまわり」はある意味で自分の中に強い印象を残した作品なので、この人はこの先一体どんな漫画を描くのだろうと思っていました。想像していたよりも多彩な作風なんだなと感じつつも、一貫している部分はあり、毎回おもしろいなあと思って読んでいます。 最新作の「友達が拾った友達の財布」は、ある日人の財布を拾った友人と、そのお金で焼き肉を食べてしまった主人公にふりかかる不幸を描いています。 そんな犯罪じみたことしたんだから当然の報い、といってしまえばそれまでですが、主人公の彼をどうしても嫌いになれない。実際、一番悪いのは財布を拾ったクセに悪びれもしない友人なのに、主人公は友人を悪者として責めるでもなく、自分が犯した罪は自分の力で償おうという行動力もある。いい子なんだろうな…と思わずにいられません。 今彼に声をかけるとすれば、ありきたりなことしか言えないけど「きっと、そのうち、良いことあるよ。…多分。」

窓辺の春

小さな物語で描くもの

窓辺の春 鯖ななこ
pennzou
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「窓辺の春」は月刊フラワーズ2019年4月号に掲載された鯖ななこ先生による短編読切作品だ。 鯖先生は現状自著の発行がなく、また作品も月刊ないしは増刊フラワーズにしか掲載されていない。そのため、鯖先生を存じない方が多いと判断し、まず鯖先生の経歴を記す。(間違いがあればご指摘頂けると嬉しいです!) 鯖ななこ先生は月刊フラワーズ2017年8月号にて発表された第90回フラワーズコミックオーディションにて金の花賞(賞の位としては第2位にあたるが、金の花賞以上が出ることはそうそうない)を受賞、受賞作「最適な異性となる要因の主観的考察」が増刊フラワーズの同月号に掲載されデビューした。以降より増刊フラワーズでは短編読切を、月刊フラワーズでは定期購読の販促4コマを執筆されていた。初の連載作品は月刊フラワーズ2018年5月号より開始された「きょうのヤギさん」で、現在も続いている。「きょうのヤギさん」は先述の販促4コマの設定を汲んだ4コマショートで、物語形式の作品が月刊フラワーズ本誌に掲載されたのは2018年10月号の短編読切「おとぎの杜」が初めて。以降、いくつかの短編読切と短期連載作品「Hide&Seek」が発表されている。 この経歴は、例えばデビュー当時の岩本ナオ先生も同様に販促4コマ(「町でうわさの天狗の子」の巻末に収録)や短編読切・短期連載(「スケルトン イン ザ クローゼット」に収録)を執筆しているように、フラワーズ生え抜き作家の定番ルートといえる。ただし、4コマショートとはいえかなり早い時期から連載を任されているパターンは珍しく、ここから編集部から特に期待されている(悪い言い方だと囲い込まれてる)のでは?と察することも出来る。 「窓辺の春」に話を戻す。本作は月刊フラワーズで発表された作品としては2作目となる。自分は前作の「おとぎの杜」で鯖先生の読切をはじめて読み、もしかしてこの人のマンガはすごいのでは……?と思いはじめ、本作でそれが間違いでなかったことを確信した。 鯖先生作品では「主人公が失ったものや隠れていたものに気がつき、見方を変える」ということが多く行われる。その変化がもたらす心地よさが魅力だと思う。本作ではその上で主人公の行動が他のキャラクターに伝播していく様子が描かれており、より風通しのよい作品になっている。 個人的にビビっときたのは、(ややネタバレになるが)おじさんが清潔な身なりで出掛けるシーンがあるのだが、なぜおじさんがその格好をしたのかを、後のたった1コマで表していた点だ。そのほんの小さな、しかしあざやかな手腕に惚れ惚れした。 本作は決してスケールの大きい物語ではない。小さな物語だ。しかしながら、岩本先生などフラワーズの先達が描いてきたように、小さな物語によって表せるものはあり、それがフラワーズらしさを形作る要素のひとつだと考えている。その潮流に鯖先生は乗っていると思う。 絵柄については丸みを帯びた親しみやすい画風であるが、大胆なトーンワークなどグラフィカルな要素も多く含まれており、それが鯖先生らしい画面にしている。 先述の通り、鯖先生単独名義の自著は未だに発行されていない状況である。しかし現在も断続的に短編は掲載されており、直近だと月刊フラワーズ2020年7月号に短編「おしゃべりな人魚」を掲載予定だ。これを除いても、単行本一冊分のストックは十分にある。 ただし、フラワーズ新人の初単行本は、めちゃくちゃハードルが高いのか、それはもう全然出ないのだ。最後に出たのは2017年12月の笠原千鶴先生「ボクんちの幽霊」が最後だったはずで、つまりここ2年以上出ていません。 それでも、初の自著が出版されるのを自分は心より待っています……

東京ラブストーリー

バブル後期の日本の恋愛観や仕事観そして人生観

東京ラブストーリー 柴門ふみ
hysysk
hysysk

ドラマが1991年だから自分は当時小学校4年生くらいか。当然原作を読んでる訳はなく、ドラマを観る習慣もなかったのだけど、あの当時としては衝撃的なセリフ「セックスしよ!」をクラスのお調子者がふざけて真似していたり、物真似やパロディや懐かしのドラマを振り返る的な番組で見かけたりして、断片的な知識だけはあった。 するとなんとこの4月から現代版としてリメイクしたドラマが始まるとのこと!これって今の10代からしたらおじいちゃんとかおばあちゃんの世代(30年前の20代)の話でもおかしくない訳だよね? https://www.fujitv.co.jp/tokyolovestory/ 柴門ふみが「スタバもユニクロも無かった時代」って言ってるのがうけた(ださくて質が低いとされてたけどユニクロはあったよ!)。 ぜひリメイクドラマと91年版ドラマと原作を比較して楽しみたいのだけど、始まる前の期待としては、赤名リカは今の時代にすごく合ったキャラクターとして描き直せるんじゃないかな、ということ。あとがきによれば「作品の成功はリカが受け入れられるかどうかにかかっていた」とのことで、当時としては賭けだったようだけど、今ならむしろ普通の感覚として受け入れられるような気がしている。帰国子女の外資系バリキャリみたいな人も増えたはずだし。 くっついたり離れたりすれ違ったりまた戻ったり辛気くせえ〜と思うのと、ところどころ現代(2020年)の感覚と合わずに「うわっ」となるところはある。けれどもあの時代にしては新しい(自分の親はほぼ柴門ふみと同世代だけどこんなにリベラルじゃない)考え方や生き方を肯定しているし、新旧の価値観のぶつかり合いに、まさに今リアリティを持って考えたい問題が見えてくる。この作品が生まれた時代(恋愛至上主義的な価値観)含めて乗り越えられるべき名作だと思う。