真夏のJKリフレ

独特な女子の完全主観で面白い

真夏のJKリフレ 福本眞久
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

良い読切! 頭がハッピーで独特な感性の女の子の視点と語りで話は日記のように淡々と進むので、事件も軽く流してたりしていて彼女の目から見る世界は新鮮で楽しい。 日常で起きたちょっと嫌なことも事件も彼女の中ではたぶん同じレベルなのだ。 だが、最後まで読んでから見返すとあの場面、そうか、あれそうだったのね、と納得する部分もあって楽しい。 気を抜くと必然性もへったくれもない並べられた出来事に捕らわれていて、そもそも何の話だったっけと忘れてしまいかねないように誘導しているのがすごく上手いなーと思ったけど、これを記録だと思えばそういうものなのかもしれない。 最後までマクロな視点は入り込まず、圧倒的かつ完全な主観なので本来大きく描かれるべきポイント(彼氏の変わり様)はさほど触れず、妙な場面でドラマティックに盛り上がっている構図が面白かった。そこじゃないぞ、と。 一貫して客観的な解説も視点も一切持ち寄らせない良さがあった。 また読みたい。 過去の読切も独特の感性で面白い。 『女子大生と1円玉の神様 (第71回ちばてつや賞佳作)』ふくもとまさひさ http://www.moae.jp/comic/chibasho_joshidaiseito1yendamanokamisama

天のテラス

柄の大きな偉才

天のテラス 小椋冬美
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

かつて文庫で刊行され、数年前に復刊ドットコムで再刊された『わたしたちができるまで』という本がある。 岩館真理子、大島弓子、小椋冬美という3人の女性漫画家へのインタビューをメインに構成された好著だ。ちなみに、それぞれのインタビュアーが実に豪華なのですが、それは実際に買ったかたのお楽しみとしておきましょう。 要するに、小椋冬美は、かつてそういう存在だった。 大島や岩館と並ぶ、極めて大きな漫画家だったのだ。 今、この人の作品が語られることが少ないのは、あまりに惜しいと思うのです。 優れた女性漫画家は、詩的な言葉の操り手であることが多い。だが小椋冬美は、無言や間を描くことに長けていた。世界観が神経質ではなく、ゆったりと大きい。 これも少女マンガには珍しい独特のふくよかな描線と合わせ、今に至るまでなかなか比べる者のない、とても稀有な才能であると思う。 本書『天のテラス』は、女性誌メインで活躍してきた著者が男性誌のモーニングで発表した連作集である。そのため、男性が主人公の作品が多く、小椋冬美の「間」の豊かさを少女マンガの読者以外も味わいやすい逸品だと、自信を持ってお薦めいたします。 こういう優れた作家の漫画を読むと、本当に、80年代というのは「漫画の黄金時代」だったのだなあ…と嘆息してしまいます。 (『天テラ』自体は90年代初頭の作品です。念為)

ワンダンス

スタイリッシュでエネルギッシュ、カッコよくてかわいい。

ワンダンス 珈琲
兎来栄寿
兎来栄寿

今、毎回とても楽しみにしている作品です。『のぼる小寺さん』や『しったかブリリア』はそれはそれで面白く読んでいたのですが、珈琲さんの最新作がまさかこんな胸を熱くさせてくれるダンスマンガになるとは! 元々、女の子が非常にかわいい珈琲さんの絵ですが、とりわけこの『ワンダンス』のヒロインである湾田さんのかわいカッコよさと来たらもう。部長の恩ちゃんもまた推せる逸材です。 マンガはアニメと比べると絵が動かないメディアではあります。ややもすれば動きのあるスポーツ、とりわけ本作のテーマであるダンスのようなものを描くのであればアニメの方が向いているというのが普通の考え方かもしれません。しかし、逆に言えばマンガは連続して存在する世界の中の最高の瞬間を最高の切り取り方で留め置くことができるものでもあります。美しい一コマに出逢った時に、停止ボタンを押す必要もなくずっと止まって眺めていることもできるのがマンガというメディアです。 そういう意味でこのワンダンスの決めゴマはまさにマンガ表現の特性も十全に生かした素晴らしいものであり、大いなる美しさを感じました。決して動きがないと言いたい訳ではなく、むしろ読んでいるとダンス未経験の私でも自然と体を揺らしたくなってしまうくらいの躍動感もあります。 女の子への憧れと、未経験の競技への挑戦、努力と成長という王道的な要素でしっかりと熱くなれつつ、スタイリッシュな表現があいまって上質な時間を満喫できる一作です。

シュート!

久保建英や大谷翔平、井上尚弥の出現により、スポーツ漫画に求められる変革とは

シュート! 大島司
mampuku
mampuku

若干18歳にしてA代表に選出され、ビッグクラブへの移籍も確実視されている日本サッカーの至宝・久保建英。いま連載されている主要なサッカー漫画に、彼と同等以上の活躍をしている高校生はいません(まぁ現実にもいないんですけど)。アオアシの栗林もBeBluesの久世も、主人公の遙か先をいく圧倒的存在として描かれていますが、久保建英はそのさらに遥か先を行っています。 かつての名作には名門バルセロナで活躍する大空翼、メジャーリーグで投打に燃えた茂野吾郎などがいました。漫画だからこそ自由に描けた夢に、現実が追いついてしまいました。それによりスポーツ漫画に求められる役割が少しずつ変わってきたような気もしています。 読者が憧れるヒーローや漫画ならではのスペクタクルといったものから、競技そのものの面白さ・奥深さ、競技を取り巻く人々のドラマなどにスポットライトが移ったような印象です。 代表的なのがサッカーなら「フットボールネーション」「アオアシ」「サポルト」「ティエンポ」、野球なら「バトルスタディーズ」「グラゼニ」「ラストイニング」など。 本カキコミのタイトルに井上尚弥の名を上げておきながら不覚にも次世代的なボクシング漫画の例が思いつきませんでした……。ティエンポみたいなボクシング漫画、読んでみたい!