Op-オプ-夜明至の色のない日々

ミステリーとしても人間ドラマとしても一級品

Op-オプ-夜明至の色のない日々 ヨネダコウ
sogor25
sogor25

「囀る鳥は羽ばたかない」等、BL方面では知らない人はいないと言っても過言ではないヨネダコウさんの、おそらく一般紙(講談社イブニング)初連載作品。 主人公は保険調査員という、保険金の支払いが発生する事案に対して保険会社から依頼を受けて詳細を調査するという仕事をしている夜明至(よあけいたる)という人物。キャラ自体の魅力もさることながら、保険調査員という特殊な立ち位置ゆえに、警察ほど正義感を振り翳す存在でもなく、かといって探偵ほど自由に動いたり被害者に過度に寄り添ったりしない、あくまで事案の事件性や過失度を中立な立場で判断するというのが、謎解きものとしてこの作品を見たときには新鮮に映る。 そして、夜明さんおよび夜明さんが預かることになる少年・高比良玄(たかひらくろ)の持つ過去や能力の描き方が巧妙で、特に玄が持つある"能力"については、物語の起点としても絵の表現としてももっと前面に出していいはずなのに、あえて作品の重心から少し外れた位置に配置してより人間関係の描写に焦点が当たることを意図してるようにも感じる。夜明さんと玄、2人のバディもの、および周囲の人々も含めた群像劇としても魅力の高い作品。 「囀る鳥は羽ばたかない」等のBL作品でもそうだったけど、恋愛要素を中心に置かずとも人間関係をこれだけ魅力的に描けるというのは流石の一言に尽きる。 1巻まで読了。

金のひつじ

あのときの気持ちを思い出せてくれるいいマンガになりそうな予感!

金のひつじ 尾崎かおり
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

痛ましく切ない少年少女の葛藤を描き出した傑作『神様がうそをつく。』の尾崎かおり先生の最新作第1巻。 小学校の頃に大親友だった男女4人組。 主人公である継(つぐ)ちゃんは大阪へ引っ越し、そしてまた高校で戻ってきた。 3人と久しぶりの再会を果たした継だったが、関係性は当時のままとはいかず…。 かつてあった姿や関係の幻影を追い求め、すがり、幻滅するという話はたまにあるが、そういったとき主に描かれるのは青春の同時代を過ごした同士である友人などの大人になった姿だ。 しかし、『金のひつじ』では、スタートが小学生であり、再会は高校生。 思春期に起こる身体や精神の変化は著しく、必然だ。 僕自身、親の都合で転勤が多く、人間関係には振り回されたクチだ。 広島で小学生3年~5年を過ごし、親友と呼び心底信頼していた友人と、大学生になる前の春休みに久しぶりに連絡を取り東京で会うことになった。 しっかりと当時の面影を残した彼と再会したものの、会話は弾まず、当時の思い出を語るも覚えているのは僕ばかりで、彼は広島で彼の時間を更新し続けていた。 広島にいた3年間に囚われ郷愁の念を抱き続けてきた僕とは対照的に。 そして、お互いにだんだんと口数は減り、洗濯物を取り込まなきゃいけないとかどうでもいい理由をつけて別れを告げ、それ以来会っていない。 そんなものだ。 その帰り道、僕はノスタルジーと、言い表しがたい感情に締めつけられ無性に泣きたくなった。 大学生になる前の夜、諦めのようなものを覚えた瞬間だった。 僕と彼とはなんだったのか。 あの日々はもう二度とは戻らない。 といった感情は誰しもが持っていると思う。 思春期→大人という変化より、小学生→思春期の方が僕はよっぽど共感できる。 そんな感情を思い出させてくれるし、おそらくお話の結末には僕が成しえなかった救いが描かれるんだろう。 いやそう願っている。 どうか、どうか、なにとぞ。

骨の音

誠実な「原石」。

骨の音 岩明均
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

後に長篇の代表作を描く漫画家の、初期作品集が好きだ。 それも、ただその作家さんが(キャリア初期に)描いた短篇を集めた本というのではなく、「自分はなぜ漫画を描くのだろう…」と自問自答しながら足掻いている、そんな苦悶がページから匂ってくるような、不器用で地味な作品集が好きだ。 (「私はこういう世界が好きなんです」といろいろ表明している感じの初期短篇集が多いのですが、そうじゃない無骨なヤツ。もちろん「好きなんです」系の作品集にも優れた本はたくさんあります) 『骨の音』は、とても誠実で、地味で、絶対売れなそうだけど、でも、読んだ時に、こちらの心をギシギシ揺すってくるようなザラついた力に溢れていて、とても心に残ります。 これがあるからこその、『寄生獣』なんですよ!(『風子』もあるけど) 新井英樹『「8月の光」「ひな」その他の短編』とか、豊田徹也『ゴーグル』とか、伊図透『辺境で』とか、五十嵐大介『はなしっぱなし』もそうかな、同じ感じで、好きですねえ。 作者が「これは売れないだろうなあ…でも、今はこれしか考えられないんだよなあ、仕方ないよなあ。クソぉ」と思いながら描いていそうな感じ。(実際どうかは知りませんよ) ものを作ると決めて、見返りはないかもしれないけれど、誠実に漫画に向き合っている。 ダイヤの「原石」というのは、『骨の音』のような本のことを言うのだと思います。