hysysk2020/06/15死を身近に考える特殊清掃という仕事は、当然存在して然るべき仕事なのだけど、これまた当然のように隠されている仕事でもある。実写だと生々し過ぎるし、文字だと想像がつかないので、漫画は最適な形式かも知れない。 自分がどのように死ぬのかは分からないが、死に様にその人の人生が垣間見えることは確かなようだ。コミカルな筆致が人間って所詮こんなもの、という悲哀と不思議なポジティブさを与えてくれる。不浄を拭うひと沖田×華1わかる
hysysk2020/05/17まずはやってみて、それから考える「インドになさそうなものを売ればお金持ちになれる」これは日本のベンチャー企業がアメリカの流行を日本に持ち込む「タイムマシン経営」と原理的には同じだし、ビジネスや経済の基本と言ってもいい。 違うのは計画がないこと。言葉も喋れないし、伝手もない。 我々はしばしば色々と計画を立てるが、結局やらずに終わることが多い。ほとんどの人がそうかも知れない。リスクが大きいとか、今じゃないとか、もうちょっと準備してからとか。 そういった発想をぶち壊して、とにかく何かを始めてみること、失敗にいちいちへこたれないことの大切さが描かれている。ポジティブ思考とも違う、生き物として強さ、しぶとさ。それを発揮せずに一生を終えるつもりか?と突きつけられるものがある。 漫画家だから漫画を売るのは分かるが、「次はうどんと漫才だ!」となるのもすご過ぎる。すごいんだけど、ある意味で「これでいいんだ」とも思えるので、閉塞感を打破したい人、勢いをつけたい人におすすめしたい(とはいえ若干のクズ耐性がないと読むのはきついかも)。インドへ馬鹿がやって来た山松ゆうきち
hysysk2020/05/16ネタバレコロナ禍の状況と重なる📷2019年にも大雨があって大変だったが、やはり新型コロナウイルスの流行は2020年という年を忘れられないものにするだろう。 歯磨き粉のキャンペーンとして考えられた「方舟で世界一周」というギャグみたいな企画が、いつまでも止まない雨の恐怖と被害によって生き残るための方舟になり、分断が生まれる。 不安になる女性、強がる男性、リーダーシップを取らない政府、希望を見出す人、それをバカかと怒る人、アルバムを見返す人、タメ息を数える人…自分ならどうするか(引用したコマの男と同じようにネットとかで色々調べるけどよく分からないな、と思いながら手遅れになってそう)。個人的にはこの「ぜんぜんダメじゃん」という終末が逆に元気が出た。 描かれたのは20年前。しばらくこんな物語が世に出ることはないような気がしている。方舟しりあがり寿2わかる
hysysk2020/04/28これは一体何を読んでいるのか売れない若い漫画家が自分のやりたい表現と世間(の媒介者である編集者)が求めるものとの間で思い悩む話、というのが始まりなのだが、いつしか奈良の寺周辺の群像劇になって、気付いたら異世界ファンタジーになっている。 登場人物の台詞や仕草が妙に細かく人間臭さを持っていて愛おしい。作者の日記やnoteを読んでいるとやはりそういう映画なり物語が好きなようだ。ずっとこんな作品が読みたかった。 https://www.instagram.com/p/ByAmAgWlh7s/奈良へ大山海3わかる
hysysk2020/04/18突きつけられる今後の日本の形日本の中山間地域における問題の根深さや、それでもそこで生きることの大切さを描いた素晴らしい作品。 舞台は1970年代の秋田とのことだが、2020年のオリンピックやその少し前の地方創生など、色々と現在と重なる部分がある。出稼ぎによる若者の流出、ディスカバージャパンなどで理想化された田舎…主に世代間の価値観の違いによる衝突はそこここに現れるが、どれが正しいとは言い切らないところが良い。自分の置かれている状況や読むタイミングによって、共感するキャラクターも違ってくると思う。 ウイルスの脅威で外出制限を要請されている都会での生活を送りながら、自分が選ばなかった生き方について考えるきっかけになった。おらが村矢口高雄1わかる
hysysk2020/03/26東京ラブストーリーの続編スマートフォンとかドローンが出てくるあたりが現代的なのと、バリキャリで海外に飛び出して行ったリカが帰国して田舎で農業というのも絶妙にバブルから目覚めた日本という感じ。さすがに1巻ではそこまで掘り下げた話にもならず、爽やかな黄昏流星群みたいな感じだった。東京ラブストーリーAfter25years柴門ふみ
hysysk2020/03/26バブル後期の日本の恋愛観や仕事観そして人生観ドラマが1991年だから自分は当時小学校4年生くらいか。当然原作を読んでる訳はなく、ドラマを観る習慣もなかったのだけど、あの当時としては衝撃的なセリフ「セックスしよ!」をクラスのお調子者がふざけて真似していたり、物真似やパロディや懐かしのドラマを振り返る的な番組で見かけたりして、断片的な知識だけはあった。 するとなんとこの4月から現代版としてリメイクしたドラマが始まるとのこと!これって今の10代からしたらおじいちゃんとかおばあちゃんの世代(30年前の20代)の話でもおかしくない訳だよね? https://www.fujitv.co.jp/tokyolovestory/ 柴門ふみが「スタバもユニクロも無かった時代」って言ってるのがうけた(ださくて質が低いとされてたけどユニクロはあったよ!)。 ぜひリメイクドラマと91年版ドラマと原作を比較して楽しみたいのだけど、始まる前の期待としては、赤名リカは今の時代にすごく合ったキャラクターとして描き直せるんじゃないかな、ということ。あとがきによれば「作品の成功はリカが受け入れられるかどうかにかかっていた」とのことで、当時としては賭けだったようだけど、今ならむしろ普通の感覚として受け入れられるような気がしている。帰国子女の外資系バリキャリみたいな人も増えたはずだし。 くっついたり離れたりすれ違ったりまた戻ったり辛気くせえ〜と思うのと、ところどころ現代(2020年)の感覚と合わずに「うわっ」となるところはある。けれどもあの時代にしては新しい(自分の親はほぼ柴門ふみと同世代だけどこんなにリベラルじゃない)考え方や生き方を肯定しているし、新旧の価値観のぶつかり合いに、まさに今リアリティを持って考えたい問題が見えてくる。この作品が生まれた時代(恋愛至上主義的な価値観)含めて乗り越えられるべき名作だと思う。東京ラブストーリー柴門ふみ1わかる
hysysk2020/03/1280年代が詰まったラブコメ扉絵の下に書かれたポエムみたいなやつが時代を感じられて非常に良い。「ロハ」とか本当に使ってたんだな。。 いまジャンプ本誌で連載している『ぼくたちは勉強ができない』(マルチエンドだってね)とかと比べると、当たり前だけど40年近い月日の経過を感じるし、2020年の感覚的には素直に笑えない部分もある。復刻されたマンガの単行本にはよく人種差別についての言及があったりするが、性差別に関しても書かれて然るべきだと思う。 そういった点を差し引いても、ある時代の雰囲気を詰め込んだパッケージとして楽しめる作品だし、色んな意味での大らかさがある。現代の(雑誌で連載されてるような)マンガはちょっと複雑過ぎるかも知れない。きまぐれオレンジ☆ロードまつもと泉2わかる
hysysk2020/03/02今ならもっと評価される気がする1ページギャグこの形式めちゃくちゃTwitterとかと親和性高いし再評価されて欲しい。サラリーマン山崎シゲルって何かみたことあるよな〜と思ってたけど完全にこれだった。調べたら似てるって言ってる人多いね。王様はロバなにわ小吉1わかる
hysysk2020/01/21華やかな世界を支える人間臭さ基本的に駄目な選手、地味な選手が一瞬の輝きを見せる話が多いのだが、あらすじにもある通り「勝つこと」以外にプロのスポーツを観ることの深みや味わいが描かれている。華やかに見える世界でも、選手には生活があり、人間関係に悩んだり能力の限界に苦しんだりしている。 主人公である記者が元野球選手というのが効いていて、仕事における引き際や自分なりの役割を考えさせられた。無頼記者やまさき十三 園田光慶
hysysk2020/01/17デザイナーは必見の読むと胃が痛くなるマンガ私は主にWebのデザインをしているので、紙に印刷するようなデザインの経験は数えるほどしかないのですが、まさにそんな自分みたいな人間がやらかすミスが出てきたりして、冷や汗が出ます。 DTPが普及して、誰でも簡単にデザイン的なことはできるようになりました。デザイナーがコントロールできる範囲も広がりました。けれども本当に質の高いものを作るには、やはりこういった細部にまで気を配らないといけないし、任せるところは任せるべき。そんな想いが強まります。 これを一通り読めば印刷業務の流れは把握できると思うので、楽しみながら仕事に役立ってしまいます。印刷ボーイズ奈良裕己3わかる
hysysk2020/01/11すぐに突っ込まない豊かさ。大橋さんのマンガはどれも面白くて大好きなのだけど、その理由をうまく言語化できなかった。そもそもどこに分類されるマンガなのかも分からない。ギャグマンガとも少し違う気がする。 ギャグマンガは通常、何かしらのボケが発生したあと、ほぼ同時に登場人物やナレーションでツッコミが入り、笑わせる仕組みになっている。それはそれで面白い。しかしすぐに突っ込まず、ボケを重ねていく、あるいは笑いに回収せずにじわじわ溜めていくことで生まれる面白みがある。 「短い時間にどれだけ笑いを取るか」というのが漫才的な笑いだとすれば、「ある一定の時間をかけて笑いに持っていく」コント的な笑いといえるかも知れない。 最初は絵で食わず嫌いしていたが、収録されている坂本慎太郎との対談にもある通り、さらっと描いているように見えて表情が豊かで、微妙な心理をうまく描き分けている。#17の「絵の中の少女」はその設定(病院で見かけた絵に描かれた少女に恋をしてしまう)から細かいネタ(同じような人がいて、その人は絵のTシャツとかを勝手に作ってる)からオチまで本当に無駄がなく、感心してしまった。 シティライツ大橋裕之
hysysk2020/01/08スタイリッシュでサイキックでハードボイルド数学がタイトルに入っていたから気になって読んだ。八居先生が数学教師ってだけで話にはほとんど関係なかった上に、あとがきによれば作者は数学が大嫌いだったとのこと。 人の心を読む能力を持った人間が何人か出てくるが、誰もその力を悪用せず、むしろ悩んでいる。 LIMBO THE KINGみたいな雰囲気もありつつ、ラブコメっぽい要素もあって良く言えばバラエティ豊か、悪く言えばまとまりがない。もうちょっと続きが読みたかった。百万人の数学変格活用内田美奈子
hysysk2020/01/04めちゃくちゃ勉強になる実力ある漫画家たちによる、大人向けの科学解説マンガ。内容も本格的で、必ずしも平易ではないが、さすがに要点がよくまとまっているし、知的好奇心を満足させてくれる。記憶にも残りやすい。 2019年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんが影響を受けた「ロウソクの科学」のファラデーの伝記や、大人だからこそリアリティを持って読める「モテる・モテないのひみつ」「痛風のひみつ」など、生活に密接に関連した話題と漫画家の選定が絶妙。この編集力、企画力は素晴らしい。小口にびっしり書かれた「まめちしき」にも情熱を感じる。大人のひみつシリーズえびはら武司 よこたとくお 新沢基栄 ロビン西 山根あおおに うおりゃー大橋 鈴木伸一 うちやまだいすけ
hysysk2020/01/03数学とミステリーと歴史算術家の米倉律(基本的に1話完結で毎回新たに読む人に向けてなのか自己紹介が入る)が、数学的思考を使って事件を解明したり、詐欺を暴いたりする物語。和算は衰退した分野だと思っていたから今まで興味がなかったけど、考え方や文化など、これはこれで研究する価値があるものだと分かる。問題を読み飛ばさないでじっくり楽しもう。和算に恋した少女中川真 風狸けん
hysysk2019/12/28数学の見方が変わる傑作数学を得意とするキャラクターとしては「はじめアルゴリズム以前・以後」という分け方ができるくらい新鮮に、気持ち良くステレオタイプを裏切ってくれた。でもこれは単なる逆張りじゃなくて、仏教や俳句などにも親しんだ岡潔みたいな人達からのインスピレーションを受けたものだと考えられる。 天才というか独特のセンスを持った主人公が王道の数学を学ぶことで、いかに数学が数や式だけでない広い世界であるかが明らかになってくる。数学って何が面白いの?とか計算が苦手だから嫌い、証明とか訳分かんない、と思ってる人にこそ読んで欲しい。学生時代にこんな風に数学ができたら人生変わったと思う。 最先端の数学は一握りの天才にしかできないと言われるし、実際その通りなのだけど、根源にはこの世界をどのように認識するか、どう生きるかという問題があり、その人にとっての数学がある。だから誰だって安心して数学をすれば良い。失敗してもやり直せるし、天才には天才の苦労があり、凡人には凡人なりの役割がある。内田やミツヤ、大貫の生き方に勇気をもらえる人もいるはずだ。 数式や理論はちゃんと監修されていて、それらが生み出されたきっかけやモチベーションが自然にストーリーに組み込まれている。さらに巻末には現代数学の解説付き。これがデビュー作だなんて凄いなぁと思っていたが、作者は井上雄彦のアシスタントだったそうだ。次作も楽しみにしています。はじめアルゴリズム三原和人2わかる
hysysk2019/12/27思ったより数学してた📷恋愛マンガで数学となると、何事も理屈で考える人間が答えのない恋愛に振り回される話と予想はつきそうなもの。まぁそれで大体合ってるんだけど、意外と出てくる数学のモチーフや小ネタが本格的で面白かった。 「2人は平行線なので交わることはない」は双曲幾何学では否定されるので、数学好きはこれを見た瞬間フラグだなと思うはず。あとはどうやってそれが回収されるかなんだけど、これがめちゃくちゃロマンティックで溶けてしまいそうになる。マルコと数学王子亜南くじら
hysysk2019/12/19世代間ギャップを埋める漫画としての異世界おじさん忘年会で何のきっかけか子供の頃に流行ったものとか遊びの思い出を話す流れになったのだけど、若い社員が「あ、その辺の知識は『異世界おじさん』で学んでます!」と言われ、衝撃を受けた。私は30代後半の男性ですが、もうとっくに自分の青春時代は「おじさん世代のもの」としてコンテンツになっちゃってるんだね。 個人的には「昔は良かったなぁ」みたいなことは全然なくて、常に今が一番なんだけども、忘れてた記憶を思い出すのにはとても良いし、これを読んでる若者にはリアルな証言として少しは面白がってもらえるかも知れない(自分からは話さない方が良い)。異世界おじさん殆ど死んでいる1わかる
hysysk2019/11/29こ、これだ!!ネットやニュースで見かけていた、何となく雰囲気は分かるけどわざわざ調べる意欲が湧かない株関連の専門用語が自然に覚えられる。知識も金銭感覚も庶民的で、サラリーマンが働きながら投資をするという設定が良い。ギャグマンガとしてもちゃんと面白く、卑怯な相手に法律を持ち出すあたりの大人になり具合が絶妙。サラリーマントレーダーあらしすがやみつる
hysysk2019/11/25鳥山明のエッセンスが詰まってる作者のMAD MAX趣味や(ドラゴンボールでも荒野や砂漠が印象に残っている)、バトルありギャグありちょっといい話ありで、子供の頃のようにこの世界に入り込んで楽しんだ。1冊の本としての完成度が高い。SAND LAND鳥山明1わかる
hysysk2019/11/21こういう話を読みたい時があるシリアスな大人の恋愛でもなく、ちょっとエロいラブコメでもなく、ファンタジックでロマンチックな恋愛。人間が有史以来営んできて、これからも続いていくような…。いい歳こいたおっさんが声を大にしてこれを好きだというのは気恥ずかしさがあるが、表題作の『ロマンス』がとても良くて、心が洗われる。描き下ろしの『ラブ・エレベーター』もめっちゃわかるな〜という感じで、失恋したり歳を重ねたりすることも悪くないと思える小品が詰まっている。 タムくんの作品解説も面白くて、タイのバスのルール(座る人が立ってる人の荷物を持ってあげる)は素敵だなと思った。ロマンス タムくんのラブストーリーウィスット・ポンニミット1わかる
hysysk2019/11/16ディティールがぬるかった。。美術も数学もステレオタイプを補強するものでしかなく、現役の大学院生のリアルな生活の描写というよりは世間の欲望を具現化した感じで私の読みたいものとは違った。 芸術の答えがひとつじゃない、数学の答えがひとつなんてのは大学院レベルでは単純すぎる考え方だし、美術系の人間が使う感覚的な言葉は単なるオノマトペではない。 業界内で使われている言葉そのままだと一般の人には理解不能になるから分かりやすくした、ということなのかも知れないけど、ディティールのぬるさが気になって没入できなかった。学生時代を淡く美化しつつ思い出すにはいい作品だと思う。美術学生イトウの青春 未熟な研究者たちのひたむきな日常イトウハジメ
hysysk2019/10/24ネタバレ前情報ない方が楽しめると思うあらすじの文言はセンセーショナルだけど、内容はひたすら坦々としている。この時間の刻み方、間の取り方はグラフィックノベルならではの表現で、非常に素晴らしい。 誰かが失踪する話というと、解決に向けて登場人物が頑張るのが物語の推進力になりそうなもの。ところが本作は事件そのものというよりは、事件の周りで起きることを細かく描写しており、それによって事件が落とした影を際立たせている。 とんでもないことが起きてもご飯は食べないといけないし、仕事もあるし、人は勝手なことばかり言う。 この制御不能な状態にいつ転げ落ちるか分からない(既に転げ落ちてるかもしれない)恐怖が、読んでいてじわじわと襲ってくる。しかし絶望するだけでなく、大きなアクションを起こすでもなく、恐怖と共に日々を過ごしていく感じが、すごく現代的でリアル。サブリナニック・ドルナソ 藤井光4わかる
hysysk2019/09/27とにかく音楽をやりたくなる「バンドやるならギターとベースとドラムとボーカル集めてコピーから始める」みたいなのは単なる固定観念に過ぎず、音楽はもっと自由なんだということを教えてくれる話。「これなら自分にもできそう」というのは大抵勘違いなんだけど、生きていくうえでそんな勘違いを起こしてくれるようなものを求めているのも確か。 大橋さんの漫画は、普通なら「ださい」とされてるものを「かっこいい」と言ったり、お決まりの流れなら否定するところを逆に肯定したりする。たったそれだけのことでも話は思わぬ方向に転がり出すし、凝り固まった思考をぶち壊してくれる。そこに希望と可能性がある。音楽と漫画大橋裕之5わかる