潮が舞い子が舞い

さらりと本気の背景

潮が舞い子が舞い 阿部共実
影絵が趣味
影絵が趣味

阿部共実はツイッターをやっていまして、自身のマンガの宣伝なんかに混じって時々すごく印象的な風景写真をあげている。光と影のコントラストをくっきりと写したショットであったり、小さな細部が無数に集まってひとつの全体を為しているショットが多いように思う。 とてもいい写真だなぁと思うと同時に、やっぱり阿部共実は目がみえるひとなんだなぁとも思う。彼女の出世作となった『ちーちゃんはちょっと足りない』は目がみえないひとの話だったものだから、いっそうそう思うのかもしれない。ナツの目には海がみえなかった、ナツの目にみえるのは錆びれた団地の綻びとかそんなのばかりだった。つづく『月曜日の友達』は明確に目のみえるひとの話だった。水谷の目に海がよくみえた、磯の匂いが感じられた、建物の錆びは単なる綻びではなく雄大な潮風に吹かれたものだった。 そして新作『潮が舞い子が舞い』は、やはり海辺の町の青春群像だというが、2、3頁にいちどは子どもたちの会話を交わすその背景にギョッとさせられる。潮風に揺れる深緑の影をあそこまで見事にトーンで描くことのできるマンガ家は最近ではもうほとんどいないのではないか。あるいは白か黒かのちょっと哲学的な会話をしている直後の頁に教室の窓からの逆光を見事な光と影のコントラストで描いたコマはどうか。 阿部共実は遠い将来、世に溢れる単なる青春マンガ家のひとりではなく、マンガというジャンルを代表するような存在として語られるのではないかという気がしている。

魔法少女・オブ・ジ・エンド

「魔法少女」ものに非ず

魔法少女・オブ・ジ・エンド 佐藤健太郎
mampuku
mampuku

 ポストまどか☆マギカな漫画のクチコミも幾つか書いてきましたが、なんかもう、ここまでくると魔法少女大喜利みたいになっちゃってますよね。侵略する側になっちゃったし、もっと言えば"魔法少女"である必要すらあるのかないのかって感じで、ちょっとGANTZ要素やタイムスリップ要素の入ったパニックホラー、それ以上でも以下でもない感じです。第1話でいきなり変な侵略者にクラス全員殺される──とかどっかでみたことありまくりすぎてネタバレにもならないオープニングですが、読み進めていけばいろいろごった煮で狙いすぎな中に、どれかひとつ自分にとってフックになるものがあるかも、というある意味飽和攻撃みたいな漫画かもしれません。  感心するのは、実にバラエティに富んだ方法で残虐に人間をぶっ殺しまくるところですね。見てて飽きないです。  ちょっと残念なのが、言葉選びが全体的にあんまり上手くないところですね。報道にパニックになった民衆が「日本はどうなっちまったんだ…!」「日本は…」「日本…」ってざわつくんですが、なぜ「世界」でも「この街」でもなく日本という単語を選んだのか、とか、お巡りさんのことを「ポリ公」呼びとか、シリアスな置手紙に手描きで三点リーダーとか……まぁツッコミながら読むのもバニック漫画の醍醐味かもしれませんね、彼岸島然り。。。