もうただただ美しくて、陰陽・生死の境を描いた物語の世界に夢中になって読みました。全体が明清花鳥画のような淡い色使いで統一されており、日本の漫画家で例えるなら清水玲子先生や今市子先生のような繊細なタッチで超絶耽美。
縦読みなのも相まって絵巻物の世界にいるようでした。
まず何より天才なのが、長袍姿で黒髪ロング&メガネのミステリアスな店長のビジュアル!!
カードキャプターさくらと×××HOLiCで育った女子にドストライクなやつで「クゥ〜!!これこれ!!」と手を叩いて喜んでしまいました。大好物です。
水彩画を活かし、言い伝えの残る山のシーンはウェット・イン・ウェット(にじみ)や渇筆(かすれ)という技法、そして墨と暗緑色という配色によって不気味で恐れを抱かせる画面になっているのが上手い。
また陽(生)の世界が伝統的な淡い色使いで描かれるのに対し、陰(死)の世界がネガポジ反転したようなバッキバキのシアンとレッド(#ff0000)で描かれることで異質さが引き立ち、さらに陰陽関係を暗示しているようで好き(深読みオタク)。
そしてwebtoonらしい技巧として、少女漫画のトキメキシーンで背景に花が咲くように、場面転換のトランジション演出として伝統的な雲模様がサラッと使われているのがお洒落!
私が読んだことのある日本の中華漫画は、特定の王朝を舞台にした歴史漫画(特に三国志)、後宮・宮廷ファンタジー、ネオンと高層ビルだらけの猥雑でクールな都会が舞台がほとんどだったので、こういっや伝統的な神棚や葱油餅などリアルな生活感や信仰が描かれた「ガチ中華(漫画)」が読めるのアツすぎます…!
漫画としてのストーリー展開は王道(主人公が実はすでに死んでいた)で、勘がいい人なら展開が読めてしまいますが、ガチ中華設定と超絶美麗な画力のお陰で唯一無二となっていて、新鮮な面白さがあります。
ただ残念だったのが写植。
あのディズニーですら無神経に酷いフォントを使っていることを考えれば、場面に合わせ非常に丁寧に写植されているのですが、原作が無茶苦茶ハイクオリティなだけに、ところどころ日本語のフォントがクソダサゴシックなのが悔やまれます…。
「本物の悪鬼!」が。シリアスなシーンなのにフォントのせいで海外で見かける謎日本語みたいになっていてつらみが深い。
冒頭の店全体を描いているシーンの看板「棺桶屋」がゴリゴリにゴシック体でせっかく美麗な絵に「うおおおお!!」とアガった気分が台無しになり、なのに次のシーンでは毛筆になっているという……統一してくれ〜〜😭
BL界隈ではかなり前から魔道祖師や天官賜福のおかげで、死霊術師ではない道士という存在が広く認知されているのですが、日本で人気の中華設定といえばもうずっと「三国志・後宮・繁華街」の3強で、最近はそこにキョンシー回顧ブームが来てるのを感じますが、これを機に「道教はキョンシーだけじゃない!」という認識が広まってほしいです。道士はいいぞ!
完全に余談ですが、最近趣味で中国語を勉強しているので途中漢字が分かってメチャクチャ嬉しかったです。转头就跑〜!
第17回 新星杯 金賞&集英社賞受賞作!生と死をたゆたうものに正しき道を示すのは…。新進気鋭の伝奇ストーリー!