底辺の生活を送りながら音楽に救いを求める人々
※ネタバレを含むクチコミです。
豪華著名人絶賛。貧困と友情の人間叙情詩。主人公・大路雪人。17歳、売人。「やらんかなぁ俺は、ラップ。」 「歌いたいことなんか、ないもん。……伝えたいことも…」 幼い頃に、覚醒剤中毒の母親と最愛の姉を亡くし、天涯孤独となった彼だが、唯一信じてくれる親友がいて…… 職場の上司に殴られ、流血しながら売人を続けてゆく中で、彼の心に宿るものとは? 千原ジュニア氏、真造圭伍氏、藤井健太郎氏、渡辺志保氏、の錚々たるメンバーが大絶賛の超話題作!!!! 音楽に救いを求める人々を描く、極限の人間ドラマ。
10月発売の中でも最注目作品のひとつでしょう。
スピードワゴンは
「環境で悪人になっただと?
ちがうねッ!!
こいつは生まれついての悪だッ! 」
と、かの名台詞で説いていましたが、この社会には間違いなく環境が生み出してしまう悪があります。
本作の主人公たちは、まさにそういった類の人種。凄絶な家庭で生まれ育ち、若くして天涯孤独の身となって薬の売人をして口に糊している雪人。彼の親友であるメイジ。世界が彼らに生ませたグチャグチャな感情を、音楽として世の中に吐き出すことで昇華していく物語です。
助けてくれる大人もいない世界で、身も心もボロクズになりながら生きてきた日々。どうにもならない絶望の泥濘の中で溺れながら辛うじて息をしている雪人の仮面のような笑顔からは、熱さのような痛みが、飛沫となった血潮が溢れ出しています。
それでも、確かに雪人は亡くなってしまった母や姉に愛されていた。だからこそ、失わずに済んだものがある。それ故に、曲げられない生き方とそこから紡ぎ出せる雪人だけのリリックが存在する。それを最大熱量で、親友と共に解き放つ。そんなエモい話があるでしょうか。
生き方も言葉も真っ直ぐにぶつけてくるリリーとの出逢いを始め、違うけれど同じように苦しんでいる同じ時と場所に生きている人物たちと交差しながら、クソみたいな人生が少しだけマシになっていく。
雪人ほど酷くはありませんが、碌でもない家庭で育ったもの同士だからこそ解り合えることというのはあるので、メイジとの絆が芽生えたときのエピソードなどは強く共感します。
単体で見ればかわいらしさもありながら、それ以上に斬り刻むようなリアルさを迫力として体現する薄場圭さんの絵も作品にガッチリとハマっています。
荒々しく、血を流してマンガを描いている。鋭利に突きつけてくる、愛しい作品です。