昭和という世界観
現在の大友の絵的な主題は、緻密な世界観を一度構築して、崩壊する様を描くことにある。AKIRAがそうであり、同タイトルの映画ショートピースで江戸という世界観が燃え上がる、スチームボーイでも蒸気機関の世界が崩壊していく。しかしそれはAKIRA以後の話で、それ以前の大友の絵的な主題は昭和を描くことにあった。如何に昭和をリアルに描くか、さらにはそこに生きる末端の人間を描くかが初期の大友克洋である。ページをめくるたびに、昭和に生きていない筈の私が何故か懐かしさを感じてしまう。色気のある線で描かれた風景が昭和の空気や匂いまでも思い起こさせる
大友克洋は、ダメでダラダラした若者を描く漫画家だったのだ。
それこそが、大友克洋だったのだ。
馬鹿話をしながら延々と麻雀を打ったり、暇で暇でしようがなくて山の中に大麻草を捜しに行ったり、シンナー売ろうとしてヤクザにボコられたり、なんとなく人を殺しちゃったり女を犯そうとしちゃったり、とにかく、ダメでダラダラしたクソみたいに不細工な若者たちを、これでもかと丁寧にヒリヒリと描き出す漫画家だったのだ。
小生意気なガキと、皺くちゃな年寄りを、やけにリアルに描く漫画家でもあった。
そして、「現在の漫画」のすべては「ここ」から始まり、やがて世界を変えてしまったのだ。
奇想天外社版のこの本を読んで自分は、マイルス・デイビスのLP『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』を買った。それが初めて聴いたジャズのアルバムだった。
もう一度言う。
すべては、ここから始まったんだ。