9歳から30年
平和の国の島崎へ 瀬下猛 濱田轟天
おもしろいんだけど、読んでいて、つらくなってくる。
平和なシーンでも子供の頃に連れ去られていろいろあったことが蘇ってくるし、力を使うシーンもそれはそれでいろいろあったことが思い知らされる。
現実の少年兵として使われた子どもたちは、戦場を生き延びても、クスリやらなんやら、退廃した生活しか送れず早死にしやすいと、何かで読んだことがある。
40歳手前とはいえ、なんとか日本へ帰ってこれたのは、幸せなことだったのかもしれない。
そして、漢字が苦手というけれど、30年間離れていたのにひらがな・カタカナ、一部漢字が読めるのはすごいと思う。
過去は血肉となっているから、せめて平穏に暮らしてほしいのに、カウントダウンされる戦場へ戻るまでの日数。
平和に暮らせるようになってほしいから、読むのがつらいんだけど、おもしろいから読んでしまう。
う
主人公・藤岡椒太郎は東京の呉服屋の若旦那。
呉服屋の仕事もけして気楽に適当にすませられる
わけでもないし、婚約者との結婚式に向けて
決めなければならないことも山ほどある。
それでも無類の鰻好きの椒太郎は
なんだかんだと鰻を食べる。
理由をつくって大阪、九州まで食べ歩く。
それでも食べても食べても鰻の魅力、
美味しい食べ方に次から次へと出会ってしまう。
なんと奥深い鰻の世界。
椒太郎が呉服屋の若旦那という設定は、
鰻をそこそこ食べ続けられる金と時間を
持っている人ってことでの設定だろうけれど、
キャラ設定の一番大きな要件は
主人公に和服を着せたかったことではないだろうか?
いまどき街中を着物で歩いている椒太郎の姿は
やはり少々、日常的な風景とは違う。
その違和感も「う」という漫画の味ではあるが、
なによりやはり和風の家屋の鰻屋で鰻重を食す姿は
和服姿のほうが絵になる。
そのへんに作者のラズウェル先生は
拘ったのではないかと思う。