兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
名前は知ってるけれど、詳しいことは知らない。そんな世界を描いた作品というのは興味深く読めるものです。 本作が描くのは「トレイルランニング」。舗装されていない山野を駆け抜けるスポーツです。元々中学で陸上を頑張っていたものの最後にしてしまった大失敗により競技から離れてしまった主人公が、高校生になりトレイルランニングに出逢う所から物語は始まります。 私の地元である奈良県の吉野山でも、「弘法大師の道」として空海の歩んだと言われる吉野山〜高野山までの道を駆けるトレランが開催されています。山上からの美しい景色を見るために普段から数時間程度の山歩きは楽しみでしかない私は、多少の興味も持っていました。 作中でも、過酷な競技ではあるものの自然の中で得られる安らぎや綺麗な景色、そしてその環境で走ることで走る自体の楽しさを改めて主人公が見出していくシーンに爽快感があります。体を動かすのが好きな人なら、トレイルランニングをしてみたくなるかもしれません。 また、同じ高校生男子のトレイルランナーとして癖のあるキャラも多数登場。群像劇的な側面でも今後もより楽しみです。
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し
1年以上前
郷田マモラは、稀有な才能である。 彼は、あのしなやかで硬質な、独自としか言いようのない描線で、極めて重いテーマを果敢にフィクションへと昇華する。 遺体の監察医が主人公の『きらきらひかる』、新人刑務官と死刑囚の友情を描く『モリのアサガオ』、さらに、裁判員制度を通して死刑を見つめた『サマヨイザクラ』など、彼の作品は不器用だけれど真率な力に溢れている。 関西の巷のエネルギーに満ちたはるき悦巳と、猥雑さにまみれた青木雄二を、足して二で割り、さらに端正にしたかのような、真にユニークな存在だったのだ。 だが、郷田マモラは、愚か者でもある。 彼が犯した罪について、ここで触れるつもりはない。 しかし明らかに、彼は愚か者だ。 本作『この小さな手』は、郷田が原作を担当し、吉田浩が作画を担当している。 マンバの「あらすじ」の、郷田が寄せたと思しきテキストにある通り、あまりキャリアがあるとは思えない吉田は、郷田が描いたネームを忠実に漫画に起こしたであろうことが、その画面からうかがえる。 本来は、郷田自らがあの筆致で描くべきだっただろう。 この、それほど優れているとは言えないかもしれない漫画には、しかし、確実に漫画家・郷田マモラがいる。 その愚かさが、傲慢さが、不器用さが、真率さが、弱さが、痛いほど脈打っている。 「漫画」という宿痾のひとつの内実が、ここにはある。