あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
この作品で印象深いのは「言葉の通じなさ」だ。 カフェ店員の主人公女性が、お客の着物美女を師匠と仰ぎ着物文化に入ってゆく物語だが、この主人公、徹底的に素人。文化が違う。 師匠が発した言葉が誤変換されて主人公に届くやりとりが面白いのだが、そこにあるのは完全な文化の断絶。懸命に喰らいつく主人公だが、一つの用語を理解するまでがもどかしい。 私は着物文化に憧れて、いくつかの着物マンガ(『恋せよキモノ乙女』『またのお越しを』など)を読むのだが、知識が足りずについてゆけないことがある。詳しく解説がついているにも関わらずだ。 『銀太郎さんお頼み申す』は、主人公のゆっくりな理解速度が素人の私を置き去りにしない。そして彼女に教える師匠や周囲の女性たちが(時々呆れながらも)きちんと教えてくれるのが良い。失敗のフォローも優しい。 主人公はどうして助けてもらえるのか。それは彼女が本気で喰らいついているから……それくらいしか今のところ思い当たらないが、案外そういうことが大事なのかもしれない。 恐らく私が未だに着物物文化を理解できないのは、そこに入ってゆかないから。一方本作の主人公は無知だが、自分の求めるものはこれと決めて飛び込み、上手くいかなくても諦めず、少しずつでも成長を喜ぶ。そんな姿勢が文化を楽しむための、いちばんの「センス」だとしたら……そう思うと、不器用な彼女を羨ましくさえ思った。
まみこ
まみこ
1年以上前
土山しげるのグルメ漫画の中でも、今になってすれば「え?誰が読むの?」とも言える、随一のカルト作、2011~2012年連載作品。 飛ぶ鳥を落とす小規模ラーメンチェーン「天守閣」に入り込んだ主人公が、その頭脳と立ち振舞の物腰柔らかさで、人を操り堕し、時には蹴り落としつつ、実権を握り、のし上がっていくピカレスクロマン(悪漢物語)なのです。 土山しげるのラーメン漫画、と言うか土山しげるの描くグルメ漫画全般には、構造的な問題があります。 それは、「そも、土山しげる、食に執着がない」です。 ここら辺は『味いちもんめ 食べて・描く! 漫画家食紀行』のインタビューでも描かれていますが。…なので、出てくるラーメンが、あの連載時期時点ですらの、工夫が無さすぎて、全然美味しそうに見えない、って言うのは事実です。 ただ、食べる時に、必死に麺を啜ったり、食べたりする勢いの描写は凄くて、これは一つの発明であって、唯一無二だと思います。それが極まったのが『極道めし』なんでしょうね。 そういう前提が分かった今、読み返すと、作中、女子スタッフだけのラーメン店を作る際の最終面接が、「実際にラーメンを食べさせて、美味いと言う仕草や表情をやっていた者を採用する」と言うのは、フフッって感じでした。 主人公、兵頭新介は、この国の最高頭脳が集まる大学で、経営学の権威と言われる教授から薫陶を受けて、総合商社10数社から内定を貰っていたのに、半年の在学期間を残して退学し、そして小規模ラーメンチェーンに入り、壊しつつも再生させていくのです。 主人公の意図は?動機は?と言うのは、作中小出しにされるんですが、その出発点が何か、みたいなのは最終巻まで待たねばなりませんでした。 でも、そこから数話でヤマを作って、最終2話で全てをたたみにかける、ここら辺のヒキの強さって言うんでしょうか?流石は土山しげるの手腕です。 ラストは、令和4年7月8日を連想させる、実に後味悪い終わり方。ピカレスクロマンかくあるべし、と言う感じです。