19世紀パリのお仕事事情にコメントする
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河畔の街のセリーヌ

華やかなパリで、しずやかに沁みる

河畔の街のセリーヌ 日之下あかめ
兎来栄寿
兎来栄寿

『エーゲ海を渡る花たち』の日之下あかめさんによる待望の新作です。今回もヨーロッパが舞台となっており、19世紀フランスはパリの物語。前作に引き続き背景の描き込み密度が濃く、実際にパリの街を歩いているような気分に浸れます。 フランス北部のルーアンの隣村からパリに出てきた14歳の少女セリーヌが、パリの人々を書く本を書きたいものの体が不自由になってしまった70の老人から自分の代わりの目と脚となって、パリのさまざまな場所で見聞を広めてそれを報告して欲しいというミッションを請け負う物語です。 ミッションのために、お針子や雑役女中、百貨店の販売員など多種多様な職業体験をこなしていきます。職業マンガを読むのが好きな人も多いと思いますが、知らない世界のことを知るのは楽しいものです。そういう意味では、毎回違った職業体験を通して色々な世界を見せてくれるこの作品は一粒で何度も美味しいです。とりわけ、19世紀のパリということで現代とは多少感覚の違った部分もあり、その辺りのギャップも面白いものです。 そして、本作の特徴としては主人公のセリーヌの性格。非常に受動的かつ生真面目で、言われたことを頑なに守ろうとする一方で、表情に乏しく、空気を読むのは苦手で何を考えてるのか解りにくいところがある少女です。しかし、そんな彼女もさまざまな場所でさまざまな人と交流することによって少しずつ変化・成長していきます。 ひとつひとつのエピソードも味わいが深くしっとりと優しく心に沁み入ってくるので、セリーヌの様子をずっと見守っていたい、この物語が終わらず長いこと見続けてさせて欲しい、そんな風に思わせてくれる作品です。

COBRA THE SPACE PIRATE

夢と呼ぶにはあまりに厳しく余りに哀しい影に向かってのオデッセイ

COBRA THE SPACE PIRATE
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)

著者のライフワークなので一言で括れない幅がある作品で、私は 1.手塚治虫的なタッチが残り奇想展開なアイディアの楽しい「少年ジャンプ初期」(「コブラ復活」~「ラグボール」) 2.線がややソリッドになりシニカルな描写の増えた「少年ジャンプ中期」(「二人の軍曹」~「黄金の扉」) 3.ヒロイックな描写の光る「少年ジャンプ後期」(「神の瞳」~「リターンコブラ」) 4.「聖なる騎士伝説」 5.CGフルカラー期 で分けている。どの期間も見るべき所のある漫画であるが、4.の「聖なる騎士伝説」について書きたい。  「聖なる騎士伝説」は青年誌に掲載された長編で他の話より暗く、いつもよりシリアスでアダルトな展開や描写が多い異色のエピソード(何てったって、レディーさえ出てこない) だ。ここでは新世界の興奮は悪鬼に蹂躙され、コブラのいつもの剽軽な態度やヒロイックな勇気は鳴りを潜め、笑みは嘗て見られなかった暗い影を忍ばせている。絵の線もどの辺よりも細く、陰影もまた濃く、混沌とした悪意蔓延る世界をこれでもかと描き出す。筋も宝や冒険ではなく悪鬼の暗殺と言う剣呑な代物で、終盤に明かされる種も周到に張られた伏線もあり陰惨な世界観を補強する。  今までのスペースオペラと比べると余りにもノワールであり、退廃的でもあるが、それだけに強烈であり、私はこのエピソードが一番好きだ。けだし、このノワールが単なる露悪に終わらず、コブラが常に世を儚むようなニヒルな皮肉を呟きながら銃をぶっ放しながらもどこか善や正義を諦めきれていないからではないかと思う。有名なコマでもある様にコブラは終盤、実際には何の利益を齎さなかった教会を批判し「神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ」と呟いてみせたが、これはやはり神や正義についてどこか夢を持っている証拠に他ならないと思う。さもなくばこんなセリフは決して言わないだろう。  コブラの海賊としてのアウトローな性格や享楽主義は上記の理想主義的な思想やストイックさに支えられている。寺沢武一は彼の初期作品を「思弁的」と批評していた記憶があるが、そういった性格が彼の作品から消えた事は一度も無かったことは確かだろう、そしてそれこそがこの漫画をいつまでも輝かせているのだろう。海賊と言う自由とギルドに対抗する高潔な戦士の顔を持つあの男のとこしえの旅に祝福を。

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