あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
『陳守娘(タン・シュウリョン)』の伝説を題材にした物語は、墨っぽい美麗な作画で幻惑と苦悩の物語へと私を誘う。 舞台は清代の台南。不思議な祈祷師・守娘と出会うのは、名家のお転婆お嬢様。彼女は謎の水死体を皮切りに、様々な女性の苦しみの声を聞き、寄り添い、行動し……そうしてある巨悪の構造に巻き込まれてゆく。 彼女は当時の女性達がする、纏足をしていない。その分自由に走れる彼女は「女性のために」走る存在。一方で守娘は主人公を導くが、彼女自身も元は苦しむ女性であり、意外と無力な存在でもある。 描かれるのは、女性にあまりにも厳しい家父長制社会。そこで女性達は神や霊に縋り、まじないに頼り……その社会構造を恨むのではなく、その社会構造をなんとか生きのびようとする。その理不尽に、男である私は言葉を失う。 さらに描かれるのは、人間社会の恐ろしさに対する霊的存在の無力さ。膨大な怨念が、せいぜい足に痣を付けて何かを知らせることしかできない。でも、それをきっかけに何かが変わる時……そしてやはり無力な守娘がお嬢様に「諦めない事」を伝える時、そこに残る僅かな希望に安堵する。 しかしその希望を前にして「この時代に生まれなくて良かった」と男の私は言いたくない。この怨念と希望は、何千年も受け継がれ、そしてこのままでは、これからも受け継がれる物だから。 この物語にある「女性の抑圧」は、恐らくあらゆる時代の女性に接続する。『アンナ・コムネナ』は千年前の皇宮でも女性は不自由だった事を描き出す。そして『女の子がいる場所は』は現代の世界中・そして日本の少女への抑圧を描く。 今を生きる男の私は「抑圧はなくなった」「差別は解消しつつある」と簡単に言ってしまいそうになる。しかし現在も抑圧される女性は存在し、その言葉は彼女たちにも届くかもしれない。彼女たちははどう思うだろうか。 この事はあらゆる差別・抑圧に通じる。苦しみは私に見えない所で生まれ続けるだろう事を、忘れずに言葉を紡ぎたい。
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
本作を読み終えて数日が経った。その印象はあまりにも鮮烈で、私は日々の隙間を見つけては主人公と、彼女の大切な人について考える。美しい友愛と、その喪失を。 主人公を暗闇から助け出してくれたあの子。二人の日々は眩しくて、私は自身の幼い恋や友情を思い出す。 ナイショがあってもいい、寄り添うことが相手への想い。そんな二人だけの独特な関係に、心温まりつつ強く魅了される……それだけに、後半の展開は辛い。 主人公は単純に悲しむだけではない。その言動はキューブラー・ロスの「死の受容5段階」がモデルにあるのだろうか。喪失を否定するように怒ったり、取り戻そうとしたり。 「彼女を留めておきたい、忘れたくない」という強い想いはしかし、足掻けば足掻くほど苦悩の深みに嵌まっていく……絶望感を共有する。 しかし生き残った人には、明日が来る。 恐らく友情も恋も、人生の目的ではない。それは人生を支えるもの。大切な物を沢山くれた、特別なあの子を特別なままに相対化する主人公の、漆黒の海に夜明けは来る……その静かで晴れやかな終局は、今もさざなみのように心に打ち寄せる。
たか
たか
1年以上前
『ゴールデンカムイ』の前にヤンジャンで連載されていた、野田サトル先生の初連載作で高校アイスホッケー部を描いた『スピナマラダ!』。惜しくも気になるところで連載終了となってしまったものの、野田先生ファン・アイスホッケーファンから高い支持を受けていました(私調べ)。 私自身、元々フィギュアスケートファンだったのですが、『スピナマラダ!』を読んで女子アイスホッケーの国際親善試合を見に行くくらいアイスホッケーにハマりました。 そしてなんと、昨年2022年の『ゴールデンカムイ』の連載終了後、野田先生御本人の手による再創生が発表され、本日ついに『ドッグスレッド』として再始動を迎えました!!やったーー!! https://tonarinoyj.jp/episode/4856001361539329011 再始動した1話を読んでみての感想は、金カムを経てギャグのキレと画力がが更に増したな〜!でした。 また『スピナ』の1話との一番の違いは、前回から10年以上経ってからの再連載で、今に合わせてストーリーが練り直されているということです。新キャラらしきアイスホッケーファンの配信者には驚きました!(けど作中の時間は2010年なんですよね…その当時だとまだニコ生主とかなんでしょうか。) そのほかの違いで言うと ・またロウのキスクラでの暴れっぷりがより念入りになってたこと(あとロウ推しのファンの描写が増えててゲロまで吐いてたの笑いました) - 『スピナ』の冒頭ではあった「アクセルを飛んだと思ったらアイスホッケーのリンクにいる」という場面転換がなくなっていたこと - フィギュアのジュニアでのライバル選手のビジュアルが変わったこと - 源間弟がより過激になり「お前の血でゴールライン引いてやる」という名台詞が生まれていること でしょうか。あの気色悪い七三分けの猫は相変わらずいます!安心してください。 続きが楽しみすぎて『スピナマラダ!』読み返したくなってきました。読み返すか…。 本当にロウとか鯉登少尉みたいな、「キザで実力があってそれに見合った高いプライドを持ちつつ、情けない姿も恥ずかしがらず堂々と見せる揺るぎない自己肯定感の持ち主」大好きなんですよね。光属性いい。 もう来週が待ちきれないので週末に『スピナマラダ!』読み返そうと思います! ▼『スピナマラダ!』に書いた感想 https://manba.co.jp/topics/15665
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『嫌がってるキミが好き』の鬼山瑞樹さん最新作。 前作の最初から絵が良かった鬼山さんですが、最近ますます魅力的になっています。 正直、物語として見ると荒唐無稽なところがいくつもあり破綻しているようにも感じられます。が、「細かいことはどうでもいい」と言わんばかりに画力で殴られる感じがむしろ気持ち良いです。 何しろ、ミモザの目が良い。 引き込まれそうな虚無の瞳。 読んでいるといくつもゾクゾクするような良い表情のコマが出てきます。 「マンガはキャラクター」というひとつの真理に立ち返れば、この作品はミモザがいるだけで「勝ち」です。 そんなミモザと、主人公の少年・宗人が擬似家族を営もうとする素朴な願い。それだけで十分だと感じます。ミモザは現実に喘ぐ思春期の少年の、ある種の夢の具現化のような存在でもあると感じます。 殺し屋としては脆さであり危ういのですが、絶妙に人間味がブレンドされる瞬間も堪りません。 多分、殺し屋なら臭いがつかないように煙草も吸わない方が良いんですが、絵面がカッコいいのでそんなことはどうでも良いんです。煙を燻らせているときの表情、堪りません。 細かいところではミモザの愛好しているマスコットキャラのCHIKUWABU、好きです。