幼馴染喪失からの克服百合
※ネタバレを含むクチコミです。
「いいもの見せてあげる。誰にも言っちゃだめだよ」少し照れながら彼女が見せてくれたのは『海の声』という描き途中の漫画だった。今となっては誰もその結末は知りえない。なぜならーーー。内気でクラスになじめない筱榕(シャオロン)は、前の席に座る可蔚(カーウェイ)の綺麗な髪に触れたのをきっかけに、彼女と「ともだち」になる。慣れない関係にとまどう筱榕だが、一緒に漫画を描いたり、猫語で話したりして仲を深めていく。可蔚のおかげで見違えるように明るい学校生活を送る筱榕。しかしある出来事をきっかけにそんな日々が崩壊し、筱榕に影を落とす。その出来事とは……!?
本作を読み終えて数日が経った。その印象はあまりにも鮮烈で、私は日々の隙間を見つけては主人公と、彼女の大切な人について考える。美しい友愛と、その喪失を。
主人公を暗闇から助け出してくれたあの子。二人の日々は眩しくて、私は自身の幼い恋や友情を思い出す。
ナイショがあってもいい、寄り添うことが相手への想い。そんな二人だけの独特な関係に、心温まりつつ強く魅了される……それだけに、後半の展開は辛い。
主人公は単純に悲しむだけではない。その言動はキューブラー・ロスの「死の受容5段階」がモデルにあるのだろうか。喪失を否定するように怒ったり、取り戻そうとしたり。
「彼女を留めておきたい、忘れたくない」という強い想いはしかし、足掻けば足掻くほど苦悩の深みに嵌まっていく……絶望感を共有する。
しかし生き残った人には、明日が来る。
恐らく友情も恋も、人生の目的ではない。それは人生を支えるもの。大切な物を沢山くれた、特別なあの子を特別なままに相対化する主人公の、漆黒の海に夜明けは来る……その静かで晴れやかな終局は、今もさざなみのように心に打ち寄せる。