エステル あふれてくねるもの

エステル あふれてくねるもの

本書は宮西の代表作である。収録作品は全て80年代に描かれたもので、刊行時は宮西の最も新しい作品群として話題になった。宮西が20歳~30歳に掛けた十年間に描かれている。タイトル-Esther-の元になったと思われる『エステルの化粧』を中心にペン画、鉛筆画のイラストを配している。作品はどれもイラストの範疇を遥かに超えた芸術作品と言えるものばかりだ。二色カラーページが32枚というのも嬉しい! 特に興味深いのは、英訳作品『MIDSUMMER NIGHT’S DREAM』である。80年中期にはアメコミに対抗して日本のマンガをアメリカに輸出しようという流れが出て来た。そこで大友克洋、 平田弘士といった面々を集めて-オムニバス・アンソロジィ-を一冊アメリカ発売した訳である。そこに宮西も含まれていたというところに往時のマンガ界に於ける彼の立ち位置を窺い知る事ができる。蛇足ではあるが、今でこそマンガは日本のお家芸のように言われいるが、しかし80年代ではまだまだアメリカがコミックのうえでも名実共にNo.1だったというのがなんとも皮肉で面白い。 収録作品:うつくしきかしら/レボリューション/バラティユリ/.....IF I DIE, I DIE/因果/Platonics/エステルの化粧 1/エステルの化粧 2/エステルの化粧 3/MIDSUMMER NIGHT’S DREAM/台風小僧/菓子屋のたくらみ 1/菓子屋もたくらみ 2/LITTLE YELLOW サンボ/月光和音

マイラ 蒼い蝙蝠の顛末記

マイラ 蒼い蝙蝠の顛末記

最大の問題作! 商業誌仕事の傍らコツコツ描き続け完成まで十年を費やしと言う。たかだか32枚の作品であるがその描き込みは凄まじい! 技術も更にアップしている。点描はエロチックな夢の世界を脱却して在らぬ世界の生き物として“存在”している。副題《蒼い蝙蝠の顛末記》とあるように化け物は恐れられる。ダヴィンチ描くところのマドンナをモデルにした人物が素晴らしい。彼は男でもなければ女でもない存在として獣欲的、快楽的、神秘的異教徒とさえ見える。山の岩よりも年を経た存在で吸血鬼のように何度も墓に眠っては又、蒼い月の下に現れる蝙蝠なのである。無~有~無、人は変遷を繰り返す。故にどちらでも無いものは夢幻と成って彷徨う。形は無いが存在し、現象として消え失せる…ここに浮かび上がるのが音楽である。本書はCDブックとして出版され裏表紙は「Onna」(オンナ)となっている。Onnaとは宮西のバンド名である。Onnaは83年にEPをリリースし二年足らずで活動停止する。CDにはEPの二曲に未発表を加えた三曲が収録されている(電子書籍には音源未収録)。テクニックの頂点を極めたかにみえた作者が次に送り出したのがこの『マイラ』だ。恐るべき点と線は、命有るもののように増殖進化している。ここに“美し過ぎる化物”は誕生した!

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