五百羅漢
2006年5月に「五百羅漢」のタイトルで発表されていた小山田いく短編集を今回は3冊に分けて配信。最終巻となる本作は短編5作品を収録しました。 第1話 「滅びの日記」…近所に住む正太郎(しょうたろう)に誘われ大仁(だいに)、美可子(みかこ)と共に老人の殺人事件が起きた家に忍び込んだ小実乃(こみの)。彼女はそこで一冊の日記を見つけた。そこに書かれていたのは人の心が荒び人類の滅びに続いてゆく未来の出来事。小実乃たちはその内容におびえ、学校の授業にも身が入らない。正太郎はそんな小実乃たちをけしかけ、再びその家に忍び込むが、そこに現れたのは意外な人物だった…! 第2話 「怨霊峠」…両親を事故で亡くし兄と暮らしてきた宮下梓(みやした あずさ)は兄、哲雄(てつお)に恋人ができたことを喜んでいた。だが、ある日恋人の小柴美絵(こしば みえ)とドライブに出た哲雄は事故で帰らぬ人となってしまう。恋人の美絵は重傷を負いながらも生き残ったが、梓は彼女の態度に違和感を感じた。そんな梓の前に矢車署の刑事、斗賀が現れ、やがて事件は誰もが想像もしない方向へ向かって行き…! 第3話 「廃校の一夜」…気が付くと春宮文女(はるみやあやめ)はかつて彼女が通った小学校の分校の前に立っていた。何故そこにいるのか、事情がのみ込めない文女の前に同級生の加倉七弥(かくら ななや)が現れる。七弥は同じ学校に通う同級生の早希(さき)、美帆子(みほこ)に声をかけ、その廃校で闇鍋パーティーを始めるが、鍋をつつきながら思い出を語り合ううちに七弥たちの態度に異変が現れる…! 第4話 「白い異界」…ある雪の日、自宅で一人留守番をしていた紀予(きよ)。雪が全ての音を消してしまったかのような不思議な静けさの中、いつの間にか眠りに落ちた彼女はそこで恐ろしい夢を見た。それは恐ろしい森の化物の夢。そしてやがて目を覚ました彼女の前におぞましい光景が広がり…! 第5話 「えるふ」…人はその最期の時、その一生を走馬灯のように思い出すといわれるが、その時を迎えた村瀬貢生(むらせ つぐお)の脳裏に甦って来たのは1人の少女の思い出だった。幼い頃、両親と共に新居に引っ越した貢生の前に「えるふ」と名乗る不思議な少女が現れた。時を同じくして貢生たち一家はその家で起こる不可解な現象に巻き込まれて行く。問いかける貢生に何も答えない、えるふ。だが相次ぐ不可解な現象の末貢生が絶望の縁に追いやられた時、えるふは貢生にその真実を話し始めて…! 巻末には小山田いくの代表作「すくらっぷ・ブック」の登場人物、小宮山雅一郎のモデルになった小宮山さんのインタビューの他、小山田いく作品に寄せるファンたちの熱いメッセージを掲載!
風の宿
東京の動物病院で働く獣医師、鹿間一成(しかま かずなり)は院長を殴打する事件を起こしてしまい勤務先の病院を追われ、更には妻も家を出てしまう。一成は妻の連れ子で10歳になる諷子(ふうこ)と共に、両親を亡くした彼を育ててくれた信州の伯父夫婦の家を訪ね、そで動物診療所をはじめることになるが…。うそ・・・つくよ・・・ある日の授業中、クラスメイトが教科書の動物はうそをつかないから好きだ、という文章を読んでいた時に諷子がポツリと、そうつぶやいた。授業の後、諷子の言葉を不思議に思って話しかけた担任の小絵(さえ)に彼女は動物だってうそをつく! と強く訴えかける。小絵はその諷子の様子にただならない何かを感じ取っていた。そしてその日の帰り道、小絵は見慣れない女性と話をする諷子を見かける。動物だってうそをつく…諷子がその言葉に込めた真意は? そして諷子が会っていた相手とは? その他、冬のある日、傷の癒えた小鳥を山に放すため一成と一緒に山の中を歩いていた諷子は、川沿いの氷の中にまるで夏のような風景があるのを見つける。それはクラスメイトの亘(とおる)が作ったものだった。ある日、亘と一緒に再びその場所に行った諷子はそこに予期しない物を見つけ…「氷の中の夏」。諷子が下校途中に出会ったバードウォッチングの男性。山を案内した諷子に男性はお礼として双眼鏡と撮影したフィルムを渡して別れるが、諷子の話を聞いた一成はそこにただならない雰囲気を感じとる…「みんないっしょに」。ある日、一成の元に泥だらけのボトルが送られてくる。それは東京にいた頃、一人の男が可愛がっていたペットの亡骸と共に土に埋めたものだった…「ウイスキーを飲める時」。ある雪の日、戻ってきた母親に連れ出された諷子は母親の車を飛び出し、山の中に逃げ込む。同時に往診帰りの一成も山中で事故を起こしていた。日が落ち、雪が降り続く中、伯父の袈裟次郎たちはなすすべをしらず・・・「心」など。田舎の暮らしと自然との関わり、そして昨今話題に上がる親子の絆…小山田いくが淡々と描く名作最終巻。 小山田いく先生の当時の単行本コメント『ゆっくりと、七十二回の話を描いてきました。何だか「風の宿」は、ゆっくり、ゆっくり、描いてきた気がしています。そういう気持ちでいなければ、描けない物語でした。そんな気分が、読者のみなさんにも伝われば…と、願っています。』