わたしは真悟

壮絶なまでの、愛と真実の物語

わたしは真悟 楳図かずお
影絵が趣味
影絵が趣味

奇跡は 誰にでも 一度おきる だが おきたことには 誰も気がつかない 各巻の冒頭に冠せられる一句です。 このことを産まれてくることのメタファーと捉えるかどうかは、ひとまず端に避けておきたいと思います。 それはともかくとして、皆さんにも憶えがあるでしょうか。子どもの頃に、どうやったら子どもができるんだろう、と悩んだことが。 小学三年生の夏休みでした。私は急性の髄膜炎に罹り、救急車に運ばれました。運ばれた先の入院病棟で、私はAちゃんと知り合ったのでした。 私たちはすぐお互いを好き同士になりました。 それぞれの学校で、日記の宿題がでていたのですが、外へ出られない入院患者の私たちには書くネタがほとんどありません。そこで、ふたりで協力をして、空想の日記をしたためることにしたのです。 この悪巧みは、部屋の消灯時間がきてから秘密裏に行われました。灯りが落とされると、どちらかがカーテンに閉ざされたベッドのなかに忍び込みます。そして布団をあたままで被ってライトのひかりを漏らさないようにしながら日記を綴りました。 ある日の夜、空想の日記を書く延長で筆談をしていたときでした。どうしたら子どもができるのか、という話になったのです。当時の私にとって、その謎はあまりにも大きなものでした。それはAちゃんにとっても同様だったようです。私たちは日頃の空想癖にさらに拍車をかけて、どうしたら子どもができるのかについて筆談しつづけました。しかも、その謎はあまりに大きなものでありながら、あらゆるところで人知れず行われている、もっとも身近で、もっとも不可思議なことなのでした。 Aちゃんはまだ憶えているでしょうか、あの日の夜のことを。私は『わたしは真悟』を読み返して、また、ふと思い出しました。きっと、この本を読み返すたびに思い出すのだと思います。

ハクバノ王子サマ

つめこまれた悩めるアラサー女性の姿

ハクバノ王子サマ 朔ユキ蔵
六文銭
六文銭

アラサー女性教師が新しく赴任してきた年下の男性教師と恋愛する話。 有り体に言うとそうなのだけど、その女性教師は既婚男性と不倫していたり、男性教師には婚約者(海外留学中)がいたり、というちょっとした複雑さもある。 それが大人のラブストーリーとして物語をすすめてくれます。 随分前の作品なのですが、定期的に読みたくなる作品の一つ。 女性教師 原多香子(通称タカコ様)は、自分にある種のツンデレの概念を植え付けてくれたからでしょうか。 普段は毅然とした態度でいるのに、恋愛のことになるとモジモジと奥手だったり、ちょっとしたことで「あーあ。」と後悔したり、だけど、意地張って虚勢をはったり…。 なんだかとっても可愛らしいのです。 年上女性の可愛らしさをこれでもかと詰め込んでおります。 ビールをグイグイ飲む姿とか、どツボですよ。 また、作中にでてくる言葉のチョイスもいいのです。 「誰にも選ばれなかったから一人」 「明日の自分は想像できる、一週間後、一ヶ月後の自分も想像できる・・・でも10年後の自分は怖くて想像できない」 「女の旬」 などなど。 なんとも、妙齢女子特有の叫びがリアルで胸が締め付けられます。 最後二人がどうなるのか、最終巻までじりじりさせますが、きっと後悔はしない終わり方です。 リアルな大人な恋愛を楽しみたい方はぜひ。

ギブ子ちゃん

こういう読切は応援したい

ギブ子ちゃん 鈴木夏菜
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

絵も話も素晴らしいラブコメ読切! 有名私大を出たが教師という仕事に情熱はなくどうにもぼんやりしてしまってミスを多発する男性教師が、職員会議へ急ぐ途中女子生徒と衝突! 翌日、そのときの女生徒が右腕にギブスをはめて先生へ迫る。 生徒をケガさせたと教頭にバラサレたくなかったら責任を取れ、と。 そして、片手が使えないからとご飯を食べさせられたり靴紐結ばされたり・・。 一体どうなってしまうのか! というお話。 先生側の、これ以上ミスが発覚してもめんどくさいし言うこと聞いてどうにかやりきろうというという微妙にセコくて浅ましい気持ちと、この機会に好きないろいろ甘えちゃえーな女子生徒の気持ちがいい具合に合わさっていて見てて楽しい。 それが少しクセになったところに味変が入るあたりの演出もにくい。 気合いと熱が入った大ゴマもとても躍動感があっていいし、包帯とギブスってかっこいい! 少し逸れるけど幽遊白書の飛影だったり、エヴァンゲリオンの綾波だったり、包帯ってやっぱりかっこいいよねー。 そりゃみんな中二病の子は包帯しちゃうわけだ。 全体的にキャラ絵のデフォルメの場面とそうでない場面の使い分けもとてもよくて読みやすかった。 そしてラストの大ゴマもグッと来る。 前の読切も読めるようになってた。 比べて読んでみると前作より明らかにレベル高くなっててすごい。 『NYLON TWILL』 https://yawaspi.com/nylontwill/index.html

映像研には手を出すな!

作者は漫画界のウォルト・ディズニーだ

映像研には手を出すな! 大童澄瞳
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

女子高生3人が高校入学後に出会い、自分たちが思い描く「最強の世界」をアニメーションで実現すべく映像研を作って猛進する! この漫画は、プロの仕業だな感とどこか素敵な隙のある素人感を合わせもっているのがとてもいい。 というのは、この漫画は細部まで設定が凝られてるから読み応えがあって素直に言って最高なんだけど、実は漫画単体では完成していなくて、読者がいてそれを受け止められて初めて立体的にこの世界の存在が立ち上がってくる感じを体感できる。 この漫画を読んでいると、読んでいる自分も映像研の活動に参加している気分になってくるし、その気分になれて初めて合格をいただけてるような気持ちになる。 この世界では僕たちはただの傍観者にはなれない。 どれだけ読者自身を作品に巻き込んでくれるか、という点において突き抜けているものがある。 特に、彼女らの妄想が、イメージが、恐ろしいほどスムーズにシームレスに現実を侵食してくるその快感たるや! その自由な想像力こそが彼女らの遊び場であり友達だったのだと伝わってくる。 誰だって計画段階、準備段階が一番楽しくて本番や完成品になるとあれ?こんなんだっけ?のやつは経験したことがあると思う。 それはイメージと完成品に誤差があるからだ。 作っていくうちに様々な要因で思い描いていたものからいたものから離れていってしまうことはよくある。 この映像研では、それが妄想・イメージした瞬間に即その場に疑似的に出現しイメージを全員で五感で共有できてその世界にどっぷり浸っている、もしくは少なくともそう見えるほどには深い部分で全員が共有できているのだ。 こんなに幸せなことはない。 読者はその幸せをおすそ分けされている。 嬉しいのは、その世界を強化してくれるポイントが作者のこだわりによっていくつもあることだ。 例えば吹き出し一つとっても、セリフの文字に角度、パースがついていることで空間の立体感、キャラの実在感が目に見えてくるし、そのセリフの吹き出しのレイヤー上に人物が重なってセリフを見えなくすることで実際にセリフの音を妨げている感が視覚的に分かるような演出が素晴らしい。 デジタルで描かれているいい点として奥行の演出のための背景のぼかしがあったりする。 とにかく作者はこの世界の独裁者として細部に至るまで思う存分こだわりという名の権力を振るっているので、完璧に作り上げらえた世界であるディズニーランドと根本的に変わりはないのだ。 あとはそのディズニーランドに僕たち読者が遊びに行って参加し楽しむことで初めて完成される。 客がいないディズニーランドはディズニーランドではない、ただの土地だ。 3巻を読み終わって、次はこの世界にまたいつ遊びにいこうかなという気分でワクワクしている。 十年後、二十年後にこの作者が描く漫画がどこまで進化しているのか、どこまで成熟しているのか楽しみでならない。

WeTuber おっさんと男子高校生で動画の頂点狙ってみた

動画配信というビジネスの真髄

WeTuber おっさんと男子高校生で動画の頂点狙ってみた 稲井雄人 原田まりる 飲茶
兎来栄寿
兎来栄寿

ソニー生命が行った調査によると、中学生男子が就きたい職業ベスト3は3位がゲームクリエイター、2位がプロe-Sports選手、そして1位がYouTuberなどの動画配信者だそうです。 実際に子供たちと触れ合う時に感じるのが驚くほど皆動画を見ているなということ。大人に怒られてもスマホを離さず動画に齧り付く姿は、私自身が子供の頃にマンガやゲームに対していた姿を思い起こさせます。学校で流行っている人気の配信者などを教えて貰い勉強する日々です。 そんな、ある程度以上の年齢の人には実態のよく解らないであろう動画配信者という存在を、リアルかつ解り易く描いた作品がこちらです。 この作品が上手いのは、動画のことなど全く知らないものの昔放送作家に憧れていて企画力に長けた大企業のおっさんと、今時の動画で成り上がろうとする若者の二人が軸になり動画に詳しい人も詳しくない人もそれぞれの目線で読み進められる所です。 また、実在するYouTuberや、モデルがいるであろう有名配信者も多数登場。夢に溢れた部分、表には見えない大変な部分、モラルを問われるエピソードなど動画配信周りのかなり深い所まで描かれていきます。 YouTuberが好きな人も、知らないけれど勉強してみたいという人も、一度読んでみてはいかがでしょうか。

新九郎、奔る!

走る、じゃなくて、奔る!

新九郎、奔る! ゆうきまさみ
名無し

奔走ってのは、物事がうまくいくようにと 駆け回って努力することだそうで。 「ゆうきまさみ先生の作品にハズレなし」 と思っているので期待していましたが、 この題名や、第一話の最初の数ページで、 やはり、ゆうきまさみ先生は面白い、と思いました。 もうね、最初の見開きでの 名告りを上げる新九朗と、従者のツッコミ?や、 それから数ページ先に11歳の新九朗が登場するという 流れだけで、もう色々と話の筋を想像してしまいます。 27年間も雌伏のときを過ごす物語なのかな、とか、 題名からしても翻弄されて奔走する物語なんだろうな、とか。 新九朗という名前って実名らしいけれど、 心苦とか苦労とかを引っ掛けて題名にしたのかな、とか。 ただ第一話の数ページ後からは、延々と、 馴染みのない時代の話が続きます。 制度や世相や、官職名や名前すらわかりにくく覚えにくくて 読み進めるのに少々時間がかかる。 けれどもこれはむしろ、ゆうきまさみ先生の作品だから、 まだわかりやく展開されている、と思います。 他の作品に比べると、強烈なギャグとか少ないので 少し退屈な展開にも見えてしまうけれど。 いや、随所にゆうきまさみ先生らしい 愛嬌のあるシーンが出てきて面白いですけれどね。 おそらく話の展開としては、数巻分の話を経た上で 最初の名告りをあげるシーンに回帰して、 さあいよいよ新九朗が思うがままに暴れだすぞ、 という展開になるのでは、と思います。 そうなったら、それまで溜めた分だけの 爆発力は凄いだろうと期待しています。