ハネチンとブッキーのお子さま診療録

家族の絆も診る小児科マンガ

ハネチンとブッキーのお子さま診療録 佐原ミズ
六文銭
六文銭

小児科を題材としたマンガは数あれど、大抵、障害の有無だったり虐待だったりが多く、読んでいてキツくなるんですが、テーマとしてドラマチックな展開ができるので(その表現が正しいか疑問ではあるが)、マンガとしてそうなる展開も是非に及ばずと思いながら読んでました。 が、本作は、なんの変哲もない家事や育児に追われた人たちが、ブッキーというデスメタルよろしくの文字通り一風変わった容姿の小児科医によって救われていくストーリー。 なんのドラマチックな展開もないのですが、淡々とした日常に潜むちょっとした苦労の数々に、子持ちの人なら共感必至だと思います。 ありていにいうとすごくいいです。 主人公のハネチンこと羽根田は、奥さんを亡くされて、幼い子ども2人の育児をしながら、仕事も人並み以上にこなそうとしてままならず、焦りから子供に当たってしまい、後悔する・・・ 後悔するくらいならやらなければいい なんて言えるのは、その感情に至ったことがない人間のセリフで、100%悪いとわかっていても、止められないことだってある。 特に子育ての場合は、理屈ではどうにも割り切れないことが多々ある。 それを的確に描いているのが、なんとも新鮮でした。 ブッキーの、患者とのつかずはなれずな程よい距離感もいい。 病気だけでなく、その病気に至る経緯から家族の関係性も診る小児科マンガで、今後も期待大な作品です。

ナックルガール

復讐×ストリートファイト×JK #1巻応援

ナックルガール Daywalker JGstreet
兎来栄寿
兎来栄寿

最近、Amazonプライムを開くと大々的に宣伝が出てくる『ナックルガール』。三吉彩花さん主演の映画が公開され、それと同時に元々webtoon形式だった本作を、見開きマンガ化した書籍版が発売されました。 本作は、ボクシングガールだった主人公・蘭が、妹を酷い目に遭わせた犯人の正体を探して復讐を果たそうとする物語です。 韓国作品では、このように家族に何かが起こり主人公が奮起する復讐譚の建て付けの物語はかなり多く、人気を博しやすい印象です(『梨泰院クラス』しかり、『外見至上主義』しかり)。家族というのは国を越えて普遍的ですし、感情移入がし易くなるからでしょう。 本作が優れているのは、まず作画。キャラクターがスタイリッシュでありながら、激しいバトルアクションもカラーで繰り広げられていきます。 そして、物語内容としては『ホーリーランド』を思わせるような路上格闘×下剋上的要素。蘭はボクシングではかなりの腕前を持っていますが、とはいえ体重50kgの女性。彼女の前には、体重90kgの柔道使いや剣道の有段者などが続々と立ち塞がります。ストリートファイトにおいて絶対的である体格差やリーチの差をどのように克服して、攻略していくのか。そこに大きな楽しみがあります。 更に、妹を酷い目に遭わせたのは一体誰なのかという謎を巡る物語も見どころのひとつ。1,2巻の範囲でも、話は2転3転していきます。果たして、蘭は本懐を遂げることができるのか。 スタイリッシュな絵柄で、サスペンスフルなストーリーと手に汗握るストリートファイトを楽しめる作品です。webtoonから見開きマンガ化された作品としてはコマ割りの違和感も小さく、一般的なマンガと変わらない感覚で読めるでしょう。 屈強な男たち相手にバチボコに闘う女の子が見たい方にお薦めです。

スイリ先生、はしたないっ!

物騒じゃない学園ミステリ #1巻応援

スイリ先生、はしたないっ! 井上とさず
兎来栄寿
兎来栄寿

探偵も助手もかわいい女の子の推理モノないかな〜、あんまり人が死なないグロくないミステリが読みたいな〜、と思っているそこのあなたに推薦したい作品がこちらです。 鋭い観察眼と考察力を持ちながらも 「推理なんてはしたない」 という論理をお持ちのスイリ先生こと化学教師の御神琴翠璃(おみごとすいり)が、名探偵の助手になりたいという願望を抱く生徒・家達和音(やだちわと)と共に、学校で起こるさまざまな謎を解き明かしていく学園ミステリです。 ・シュークリーム消失事件 ・図書室の本バラバラ事件 ・セーラー夏服大量消失事件 などなど、日常で起こり得る範囲の人が死なない事件が発生して、それを解決していきます。 メインキャラはもちろんのこと脇役の生徒ひとりひとりにも味があって、幕間のおまけでは更にそこが補強されていて良いです。学園ミステリといえばつきものなのが青春成分ですが、そこもバッチリです。読んでいて思わずニコニコしてしまうシーンも。井上とさずさんの描く子がシンプルにかわいいのも相まって良い風味を醸し出しています。 推理をはしたないと思いながらも、毎回「生徒のため」というお題目を掲げられたスイリ先生が恵体を披露しながら健康的に推理を行っていく解決シーンも見どころのひとつ。学園の風紀が乱れる! 殺人事件のように解りやすい見せ場を作れないので話作りが毎回大変とのことですが、こういったタイプのミステリももっと増えて欲しいなと思っていた身としては嬉しいですし続けていって欲しいです。 『氷菓』のような作品がお好きな方はぜひ。

スーパースターを唄って。

血を流しているマンガが、ここにある #1巻応援

スーパースターを唄って。 薄場圭
兎来栄寿
兎来栄寿

10月発売の中でも最注目作品のひとつでしょう。 スピードワゴンは 「環境で悪人になっただと?  ちがうねッ!!  こいつは生まれついての悪だッ! 」 と、かの名台詞で説いていましたが、この社会には間違いなく環境が生み出してしまう悪があります。 本作の主人公たちは、まさにそういった類の人種。凄絶な家庭で生まれ育ち、若くして天涯孤独の身となって薬の売人をして口に糊している雪人。彼の親友であるメイジ。世界が彼らに生ませたグチャグチャな感情を、音楽として世の中に吐き出すことで昇華していく物語です。 助けてくれる大人もいない世界で、身も心もボロクズになりながら生きてきた日々。どうにもならない絶望の泥濘の中で溺れながら辛うじて息をしている雪人の仮面のような笑顔からは、熱さのような痛みが、飛沫となった血潮が溢れ出しています。 それでも、確かに雪人は亡くなってしまった母や姉に愛されていた。だからこそ、失わずに済んだものがある。それ故に、曲げられない生き方とそこから紡ぎ出せる雪人だけのリリックが存在する。それを最大熱量で、親友と共に解き放つ。そんなエモい話があるでしょうか。 生き方も言葉も真っ直ぐにぶつけてくるリリーとの出逢いを始め、違うけれど同じように苦しんでいる同じ時と場所に生きている人物たちと交差しながら、クソみたいな人生が少しだけマシになっていく。 雪人ほど酷くはありませんが、碌でもない家庭で育ったもの同士だからこそ解り合えることというのはあるので、メイジとの絆が芽生えたときのエピソードなどは強く共感します。 単体で見ればかわいらしさもありながら、それ以上に斬り刻むようなリアルさを迫力として体現する薄場圭さんの絵も作品にガッチリとハマっています。 荒々しく、血を流してマンガを描いている。鋭利に突きつけてくる、愛しい作品です。