リーゼと原子の森

核分裂の発見者 リーゼ・マイトナーの物語

リーゼと原子の森 こうの史代
ひさぴよ
ひさぴよ

「この世界の片隅に」のヒットがまだ記憶に新しい中、核分裂を発見した物理学者リーゼ・マイトナー(1878〜1968年)の人生を描きだした意欲作。 第二次世界大戦が迫る1938年、ユダヤ人であるマイトナーが、ドイツからスウェーデンに亡命するところから物語は始まり、自然豊かな森の中で、マイトナーはいつしか核分裂の原理を発見する…。 史実ベースかと思いきや、序盤から森の中で北欧の妖精「トロル」が唐突に登場したりして、こうの先生ワールド全開です。メルヘンチックな雰囲気のおかげで、暗い時代の雰囲気がやわらぐ。 作中では、核分裂の研究について詳細に描かれており、難解な物理数式がコマの中に並ぶ。ほとんど理解できなかったものの、マイトナーさんがブルーベリーなどの木の実を原子に見立て、トロルにやさしく講義してしてくれるので、私のような門外漢な読者でも、核分裂についてなんとなくわかった(気になれた) 原爆について深く語ることはないけど、一つ一つの言葉の背後に、とてつもない重みを感じる。単なる伝記物とは一線を画した作品だと思う。 そしてトロルは、物語の最後まで「いい。」働きをしていた気がする。 トロルには「馬鹿」というイメージがある一方で、気に入った人間には富と幸運をもたらし、気に入らない相手には不運と破壊をもたらす妖精でもある。 科学と人の関係を象徴しているのかもしれないし、いろいろな解釈を加えて考えだすとまた想像が広がる。

リビドーズ

ヤンジャンの新連載でいま一番楽しみ

リビドーズ 笠原真樹
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

絵に見覚えあると思ったら「群青戦記」の人か! この新連載は、ちょっと面白そうな設定。 「その病気」に感染した状態で男の性器が興奮状態になってしまったら発症・変異してしまい、全身が勃起時のように血管が浮き出て膨張し近くにいる異性に襲い掛かるというおそろしい症状だ。 その病気は少しずつ社会に蔓延しつつある。 バイト先のコンビニに店長、常連客の風俗嬢、クラスメイト・・。 そして、主人公。 主人公は奇跡的に感染をコントロールできるのか、どうか。 今後の展開としてはゾンビ的なパンデミックパニックものの方向へ進むとは思うんだけど、主人公はある事情から性的なことに嫌悪感も抱いている。 もしかしたら、そこが鍵になってくるのかもしれない。 主人公は病気の力を利用し好きなあの子の救世主になることができるのか・・! この病気を抱えたまま、ヒロインとイイ感じになってもセックスはもちろん、キスすらできないジレンマと戦うことになるだろう。 感染が拡大し社会が崩壊したあと、グループに分かれ生活し始めた時に主人公は感染しながらも自我を保つ異質な存在として迫害されるのか、英雄視されるのか。 感染したと誰にも言えないときに、きっとあの親友が助けになるんだろう。 陸上をやっていた経験も生きるかもしれない。 どういう方向に展開していくのか楽しみでならない! 誰しもが内に抱えている性という怪物を本当に怪物として描くこの作品。 序盤で、日常の理不尽さ、どうしようもなさを丁寧に、リアルに描写することで巻き起こる異常事態がより際立って見えてくる。 ここ最近のヤングジャンプの新連載攻勢の中では一番期待している。