春の夢

土田世紀は熱心な宮本輝ファンだったそう

春の夢 土田世紀 宮本輝
かしこ
かしこ

文藝春秋が発行していた「コミックビンゴ」という雑誌で連載されていたらしいです。原作は宮本輝の同名小説。土田世紀は熱心な宮本ファンだったそう。 【あらすじ】普通の大学生だった主人公は父親が急死したことで、いきなり借金取りに追われる生活を送ることになる。まだ電気も通っていない夜逃げ先のアパートで帽子をかけようと柱に釘を打ったところ、偶然にもトカゲを刺してしまう。しかしトカゲは生きていた。こうして釘が刺さったままのトカゲを飼育しながら、借金取りに追われ八方塞がりになっている自分を重ねて生活していく…。 宮本輝の小説は「錦繍」を読んだことがあるんですが、どんな内容だったか忘れてしまいました。映画監督の是枝裕和のデビュー作も宮本輝原作の「幻の光」で、これも観たんですが忘れちゃいましたね(主演の江角マキコがよかったことだけは覚えてます)…。久々に宮本輝作品に触れて「そういえばこういう作風だったなぁ」と何となく思い出しました。普通のコミック雑誌だったら物足りない連載になっていたかもしれないけど、文藝春秋の雑誌だし、土田世紀との相性はとてもいいです。 「生き方は死に方なんやと…」と言いながら借金を残した父親がものすごい形相で死んでいくんですが、もっとすごい死顔の人も出てくるのでギョッとしてしまいました。ちょっと笑えるくらいすごかったです。

あんきらこんきら

短編集『心臓』の集大成みたいな読切作品 #読切応援

あんきらこんきら 奥田亜紀子
かしこ
かしこ

久しぶりに帰省した主人公は東京で女芸人をしている。父と母は兄の子供である孫に夢中で、90歳を過ぎた祖母はボケてきていた。今現在の時間の流れを主人公の視点で語りつつ、そこにボケて子供に返った祖母の記憶と意識が混ざる構成。 祖母が子供だった頃の村では凶作で食うに困った人達が芸を見せて金をもらい歩いていて、同情した父親が彼らを家に泊めたが、翌朝に物が盗まれていたことがあった。主人公はパソコンの画面越しにネタ合わせしていた相方に「どうして里帰りしたの?」と聞かれ「自分は子供に返りたかったのだ」と気づく。子供に返ってしまった祖母と子供に返りたい孫。二人ともそれぞれの過去と現在のしがらみに苦しんでいる。 物語の最後で東京に帰ろうとする主人公を玄関先で呼び止めて「私からもらったと言うな」と祖母がお菓子を握らせる。おそらく祖母のボケた思考回路の中では、子供心に印象的だった貧しさから盗みをしてしまった人物達と、同じく芸をしている孫を混同しているが、この行為は祖母からの泥棒をしたあなた方を恨んでないというメッセージだと思う。主人公は自分が買ってきたお土産を渡してくる程ボケても子供のように可愛がってくれる優しい祖母だと感じている。 ある意味ここで意思のすれ違いが起きているけれど、同時に祖母も孫も救われている。そこに気づけるのは読者だけ、というのも面白い。 短編集『心臓』に収録されていた作品それぞれに登場したモチーフが数多く見つけられた。高野文子のオマージュのような表現もそう。今回の「あんきらこんきら」で一つの完成形に達したような感じがする。けれども奥田亜紀子の進化はまだまだ続くと確信を持てる傑作でもありました。

全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの

コミュ力お化けの街歩き

全っっっっっ然知らない街を歩いてみたものの 清野とおる
たか
たか

ドラマ化するということで読んでみました。清野作品は「おこだわり」しか読んだことがなかったのですが…凄まじい勢いでその辺の知らない人に話しかけて、道や街の良い所を聞きまくるのでビビりました。とんでもないコミュ強…! 普段使ってる路線で1回も降りたことがない地味〜〜な街だとか、単に駅の名前が面白い(おもちゃのまち駅)とか、最高にくだらない理由で行き先を選んで生活感に溢れまくってる街を歩くという最高に楽しい漫画。 地元の人しかいないスナックに入ったら、そのあと自分より若い新規客がきてあっという間に場に溶け込み「こいつ…できる!」ってなったやつ好きです。 個人的、北海道の人は雪のとき傘を差さないという話で自分の長年のモヤモヤがスッキリしたので本当によかったです。自分は東北の出身ですが、上京して初めて雪が降ったとき街で自分だけ傘差してなくてメチャクチャ混乱したんですよね。やっぱ差さないよな!? よかった…! 28日からムロツヨシ主演で始まるドラマ…この奇想天外な街ぶらエッセイ漫画を一体どうやって映像化するのか楽しみです! (↓老婆の独り言にカットインして流れるように情報聞き出す技術よ…!)

徘徊女子

観光は観光客にまかせて歩きましょう

徘徊女子 やんむら
野愛
野愛

先週のおすすめランキングを見て気になったので読んでみました。 こういう「ただ〇〇するだけ」の漫画は大体面白いと相場が決まっているので(当社比)。 やっぱり、面白かったです。 まず主人公の人間性が好きです。 タイトスカートを着こなすそれなりに美人なお姉さん。 「それなりに」って言われてイラっとしちゃうのに当たり障りなく対応するのがとてもいい。人と関わるのがめんどいから善人として生きてる人だ、というのが1ページで読みとれます。言い訳みたいに薄っすら恋をしてるのも解像度が高いです。 そして日々のストレスを癒やすべくひたすら徘徊します。 グルメスポットやら大自然やら目的があるわけではなく、石像や古い家を見ながら思考を巡らしひたすら歩きます。 「軽い城下町」とか「スパッとハウス」なんてキラーワードも次々生まれます。 何も考えずゆるゆる〜ではなく、目についたものを考察し分析し頭を回転させながらの徘徊、めちゃくちゃ楽しそうです。 「癒される」ではなく「癒える」なのも能動的な感じがしてよいですね。 癒されるのを待ってるだけじゃつまらない、自分から癒えに行きましょう。歩きましょう。