『いつも月夜に米の飯』の小森江莉さんによる新作は、かなり重いテーマに取り組んでいます。 主人公の天根清子(あまねきよこ)は、他人の考えていることや空気を読むことが極端にできない、神経質で短気で正義感は人一倍強い心理学者。対人スキルが絶望的であるが故に孤独を愛し、 「私だけの小さな世界を守れればそれでいいと思っていた」 というモノローグから物語は始まります。 しかし、そんな他人との関わり方が極端に下手な彼女が、ある日突然自殺した友人の遺志により遺児である14歳の息子・悠斗(はると)と4歳の娘・凛音(りおん)を引き取り共同生活を営んでいくことになります。 本来は独りで生きていくべき人間であり、今後もそうしようと思っていた 彼女の小さなハコニワ。そこにやってきた少年少女。近年多い疑似家族ものの中でも、最初から用意されているハードルが多く高い作品だな、というのが第一印象でした。 まず、母親を喪ってしまった少年少女の哀しみが丁寧に描かれます。 「僕は何で母さんの生きる理由になれなかったんですか」 という問は14歳が背負うには重すぎますが、ましてや4歳の妹の方はまだ永遠の死という概念すら理解が覚束ない状況。亡くなった直後だけではなく、その後に尾を引くように波打つ感情が連綿と描かれます。悠斗はかなり上手にそれをコントロールしようと取り繕おうと努力しますが、その営為がまた哀しさを呼び起こします。周囲との差異などから不意に呼び起こされてしまう理不尽さを抱えて生きていく困難は終わることがないものでしょう。天根は、心理学者としての知見はありながら親を亡くした子供相手にはそれが通じないことを痛感する場面もあり、そこにどうやって向き合っていくのか。 そして、肝心の新たな共同生活については、案の定天根の性格に起因する問題が多発していきます。最初に問答無用で引き取る決意をした天根はシンプルに格好良かったのですが、その後は人としてどうかという言動もその性格から取って行ってしまいます。感情移入しきることはできない、しかしだからこそ目が離せない部分も大きいです。子供たちとの生活という天根の人生にこれまで全く存在しなかった体験を通して彼女自身どのように変わっていくのか。 本作は表紙が美しく店頭で目を引きますが、小森江莉さんの絵が前作からますます綺麗でスタイリッシュになっており、天根さんの凛とした表情などとても魅力的です。 14歳と4歳、今後さまざまなライフイベントもある中でこの家族がどのように立ち行くのか。どうか、ハコニワのような作り物の家族であったとしても、彼らに幸せな時間が訪れますようにと祈るような気持ちで見守っていきます。
兎来栄寿
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