登山家のアカデミー賞と言われるピオレドール賞の、ピオレドール生涯功労賞をアジア人として初めて受賞した登山家・山野井泰史さんの登山人生を描いた作品です。 登山マンガにハズレ無し。 近く、劇場版が放映される『神々の山嶺』を始め、『岳』や『孤高の人』など圧倒的な名作も枚挙に暇がありません。 同じ人間でありながら、極限の環境である山に挑む者たちのドラマにはいつも心が奮え、血が滾ります。 この作品がすごいのは、上記の作品のようなドラマが描かれるのですが、それが山野井さんが実際に経験したものであること。 中学生にして34箇所の打撲と裂傷を負い、親に命の危険があるからと反対されても「自分から登山を取ったら心が死ぬ」として頑として譲らず、「大人の登山クラブで基礎から学ぶ」ということを条件に、日本登攀クラブに入会してそのキャリアを始めていくという出だしです。 登山に命を賭ける人を見て、「なぜそんな危険に進んで身を晒すのか?」と理解できない人も一定数いると思います。しかし、本当に命を賭けても良いほど好きなものがある人にとっては、この気持も理解しやすいのではないでしょうか。 特に、登頂を完了した時に見える至高の景色と共に訪れる達成感は、その気持ちへの共感を掻き立ててくれます。常人の身体能力では無理なことは解っていますが、読むと自分でも指懸垂などで体を鍛えて岩壁に挑んでみたい、こんな景色を見てみたいという気持ちにさせられるくらい、読んでいて熱く掻き立ててくれる作品です。
『ひとりの夜にあなたと話したい10のこと』から2年。久々のカシワイさんの新刊です。 ………………沁みます。 美しい絵を眺めているだけでも、ここではないどこかへと旅立つことができて幸福を得られます。ただ、カシワイさんの作品は選ばれる言の葉もまた素敵なのが大きな魅力です。 「こんなにさ 美しいものが世界に既にあるのに描く意味って何だろうな しかも時間が流れればほとんど忘れ去られる」 といった問い掛けに対する描き方。 「雨音は 雨粒が地上で何かと出会ったときたてる音だ 雨音に耳を澄ませるとここにいる手触りがするんだ」 といった、世界の切り取り方。 凪のように静かに、極めて静かに紡がれる物語ですが、普段刺激されない心の奥底の部分にまで沁みてきて感情を揺り動かされます。 読んだ後には、読む前より今自分がいる世界が素敵でかけがえのないものであるとすら思わせてくれる、意義深い一冊です。大好きです。
好きな人がいて、月曜日に学校に行くのが待ち遠しい……早く月曜日担って欲しい…… そんな感情を抱いたことは皆さんありますか? それとも、月曜日なんて永遠に来ないでくれと願う大人になってますか? 世俗の汚泥に塗れ、穢れ切ってしまった大人にとっては、『天空の城ラピュタ』でポムじいさんが飛行石を見て「すまんが……その石をしまってくれんか。わしには強すぎる……」と言った時と同じような反応を取りたくなるくらい、瑞々しさ・若々しさ・ピュアさに満ち満ちた、旗谷澄生さんの初単行本となる短編集です。 「中庭には猫がいて」 「恋は四角く切り取って」 「永久不変のきらきら星」 「きみだけに春が来る」 の4編が収録されていますが、どれを取っても「そう、こういうの!」と膝を秒間16連打したくなるような学園恋愛物語です。 ヒロインと、その相手役の関係性はどれも異なりますが、それぞれの良さみが非常に深い。 短編集ではありますが、9月にはシリーズ連載として描かれた4編が収録予定の2巻も発売予定ということで①がついています。 旗谷澄生さん、短編も良いですがきっと長編でも悶えるような恋のお話を描いてくださると思うので、今後のご活躍も楽しみです。
『ANGEL VOICE』や『GO ANd GO』など、30年以上ずっと少年マンガのフィールドで描いてきた古谷野孝雄さんが描く初の青年マンガの舞台はゲーム業界。 本作で描かれるゲーム開発会社ジオ・ギアは、かつてはオリジナルゲームも作ったことがあるものの惨敗し、今や下請けの作業がメインの零細企業(この辺りは『東京トイボックス』のG3スタジオと似ている状況ですね)。そんな社員数20名にも満たない小さな会社が、新たな人材獲得を切っ掛けに社運を賭けて再びオリジナルの大作に挑戦していく物語です。 本作の主人公はプロデューサーでもディレクターでもない、大学生4年生の新人アルバイトである青年・有馬祐介。 元々は別の業種を目指していたものの、留年を切っ掛けに子供の頃から好きだったゲーム業界に入ろうとしたという経緯ですが、根本的に真面目で熱い人間であり、その熱が周囲にも伝播していきます。 祐介と同じくバイトで入ったにも関わらず、初日から連日遅刻を繰り返す問題児の美女・折原彩都(あやと)のとある秘密も、物語を盛り上げていきます。 面白いなと思ったのが、祐介に最初に課せられたミッション。 「15世紀後半に使われていた西洋の壺はなぜか同じような所に剥がれ痕があるが、それは何故なのか」を調べろというものです。 その謎を追う実作業の様子自体も面白いですし、ゲーム中のリアリティを生み出すためにそんな所まで本気になるこの会社は本質的に面白いものを作れるポテンシャルを秘めていると感じるエピソードでした。 挑戦に賛同するもの、家庭を守るために安定の道を進みたい者など社内の思惑もそれぞれですが、このチームが今後どんな困難を乗り越えてどんな作品を生み出すのか、とても楽しみです。 余談ですが、PS1の『バイオハザード』を見て「ほぼ映画じゃん!」と思ったという幕間のお話にも親近感が湧きました。
様々な国の、10歳の少女達に降りかかる抑圧を描いた本作では、必ず最後に思いを胸に、押し黙る少女達が印象的だ。 サウジアラビア、モロッコ、インド、日本、アフガニスタン。各国の少女達は、女性に対する差別への苦しい思いを抱く。 差別は男性からも、そして女性からも押しつけられる「ように見える」。それは社会構造が差別的であるためだし、人の内面にこびりついて剥がれないものもある。差別を内面化するしかなかった女性も描かれる。 どこまでも苦しい現実。しかし、少女達は押し黙りながら、未来をぼんやり考える。 昨日まで幼かった、しかしあと数年で結婚も視野に入る、10歳という年齢。溌剌さと、挫折を知る前の純粋さで、これから世界と対峙してゆく少女達の、真剣な眼差しは強い。 辛い気持ちも、割り切れなさも、闘う気持ちも、彼女達と共有して、せめて共闘したいと願う。
絵を見ているだけで、体が疼く。皮膚感覚が、視覚が聴覚が嗅覚が味覚が鋭敏になる。この短編集から得られるのは、そういう体験だ。 いつもの心地よいイラスト体験……白く弾む肌、サラサラした触感、大きな目の愛情表現からは遠い。時に辛い。しかし目を惹く。見るのを止められない。 丁寧に生々しさと向き合った者しか得られない感覚が、心の奥底に残る。 物語もリアリズムに貫かれる。誰かの価値判断を挟まない、どうしようもない物語。絵でも物語でも、美しいものを求める心を拒絶して、そうして絶対的な生の実感を与える。 生半可な審美眼では得られない、恐ろしい強度がここにはあった。 ●裸のマオ…貧しい中学生を美術教師がモデルに誘う。ひどく痩せたマオの体、古い家の質感。まともではない話なのに誰をも責めたくない不思議。百合度★★★★★ ●きしむ家…ボロアパートの大家は、住人の母娘の男性事情をただ見てるだけ。ボロさが音で切実に伝わる。百合度★(男注意) ●あつい皮膚…重度のアトピーの女子は、図書委員の女子の家に呼ばれる。ボロボロの肌の質感はこちらにも痒さを充分に伝える。ラストが重すぎて…百合度★★★ ●推しの肌が荒れた…推しのアイドルのイラストがバズった女子。推しへの想いが増すほど推しの肌荒れを描いてしまい…実は描く方もアトピー。様々な点を踏まえて丁寧に読みたい作品。百合度★★★
Comic MeDu(めづ)から。 まずは1巻発刊、めでたい。 そしてコレはまた幼く尊い想いを引き裂くであろうツラそうな流れが手にとってわかってしまう物語… なんでこう「わかる」ようになってるんだ… きっと「兎が二匹」のときにも感じた何かを期待しているからそういう目で見ちゃうのだ。だが期待もしてしまう、きっと胸をえぐられるような気持ちになる。でも怖いもの見たさと少し違う「刹那見たさ」みたいな衝動で読んでしまう。続きを待ちます。
目立つタイプの女子鈴木と物静かでメガネの谷くんの可愛い恋模様。 自分の意見をしっかり持つ谷くんに憧れるも、周りの目を気にして上手く話しかけられない鈴木。 めっちゃ分かるんだよな…。周りの目ってどうしても気になってしまう。 でもそんな鈴木が可愛くて応援したくなる。 一方通行かと思いきや、谷くんもめっちゃ鈴木好きで可愛い。 二人が仲良くしているのをずっと見てたい。
とてつもなく大きな買い物であることには違いないけど、自分の身の丈に合った条件が揃ったところが見つかれば、お金持ちじゃなくても家って買えるんだということがわかります。前にプリンセスメゾンを読んで似たようなことを思ったけど、この漫画はエッセイなだけあってリアルさが段違い。しかもまだ小さい娘がいる収入の安定しない漫画家シングルマザーのはなし。 でもこの作者の方のまわりには、物件探しが趣味だったり不動産知識がある作者にとても協力的な方々がいます。正直そういう人が身近にいるかいないかでちゃんとした買い物ができるかどうかも変わってくるとは思いました。 なのでそういう人が身近にいない人こそ、この漫画を読んで家を買う覚悟や準備をするのが良いのかも。大事なのはとにかく慎重に冷静になること。でも、ピンときた物件があったら即決する勢いも必要(悩んでるうちに誰かに先を越されたときの喪失感たら…)。 登場人物のキャラクターがどこまでリアルかはわかりませんが、この親子ふたりもとても魅力的で、今までのエッセイも読んでみたくなりました。
『ワニ男爵』『愛しのアニマリア』などゆるいながらも独特の笑いを提供してくれる作者の新作。 しかも、また動物モノ。 そして、 紳士なワニ 純粋乙女なオラウータン と続き、今回は 意識高いナマケモノ もうチョイスが素敵すぎる! タイトルの『ナマケものがナマケない』とありますが、 主人公のナマケものさんが生活の中で色々工夫をしたり、さりげなくマルチタスクで色んなことをやっていたり、そう怠けてないのです! 怠けている風にみせて、実は裏でめっちゃ作業している感じ。 ただ時々、動きが遅いので失敗したりもする。これがまた隙があっていい感じに好感触。 相棒?のキーウィくんと日常の日々を切り取った作品で、 相変わらずゆるくも独特なセンスで笑わせてくれる感じがたまらないです。 動物モノ、ゆるいギャグが好きな方にはおすすめしたいです。
母。私の半分を構成するもの。 母。私の半分が愛したもの。 いつからか母親に恋している女子高生。彼女はずっと「半分」に引き裂かれて苦しんでいる。 肉親への親愛と、どうしようもない恋情。甘えたさと性欲。肉親への恋は私には経験が無いが、彼女の苦しみには、理解できる部分がある。それは、自分の愛が相手を苦しめる事への葛藤。 娘の恋心に、母が応えることは出来ない"はず"だから。 好きでいてはいけない人を、好きでいる事の苦しみは、破局と隣り合わせの切なさ。目の前の人が、振り向いてくれる可能性はほぼゼロ。恋を口に出せば、その時が終わりかもしれない。 しかし、私にかろうじて期待を持たせるのは、母親と娘のモノローグが重なる所。 娘を想う気持ちは強い母。娘離れはできていない様子。そして過去に「女性と」何かあった事が示唆されると、母親の百合物語としても、娘の感情の根拠としても(娘曰く「私の母は毎朝性的」らしいので)何が提示されるのだろうと、先にかすかな希望が見える気がする。
消えてしまいたい……という恥ずかしさの表現、年を経ても未だにしてしまう。それが身体消失として出てしまう、というのは不思議な設定だが、膝を打つような妙な納得感がある。 告白して来る男子も自分も消滅してしまう美少女は、友人や同じ〈消えかけ〉少女達とアイドル部を結成する、というロマンシス物。 目指すは消滅男子の招魂復活! ……ハードルが高すぎる! 〈消えてしまいたい〉思いも色々描かれる。不安感が人一倍強くて、自分から不安の種を探してしまう後輩の姿は、自分事のように感じてしまった。 そしてなまじ容姿が良いばかりに、制御できない状況が降りかかる主人公のプレッシャーは強すぎる(モテる人って実際、こんな状況なのかもしれない)。ネガティブなときの表情や言動は時に酷いもの。しかしアイドルになると強力なポジティブオーラを放ち、ついときめいてしまう。 物語はまだまだ不穏。自分の体のほかに、消えてしまった男子達の命まで背負った主人公には、本当に男って勝手でごめんねと詫びながら声援を送りたい。
この作品の主人公はある時前世の記憶を思い出したエレナ・カウロフという女性。 前世では農業に魅力を感じながらも幼くして亡くなってしまい、その記憶を思い出してから彼女は農業に従事したいという思いを抱き始めたのですが、彼女は隣国の名門貴族の第四夫人になることが決まっており、「貴族は畑仕事をしてはいけない」と束縛を受けることになってしまいます。 そんな彼女が屋敷の外で迷子になってしまったときに出会ったのが、ルイスという男性。 同じ貴族でありながら自ら積極的に農業に携わろうとする彼と出会ったことで、エレナは農業への思いをより強くしていきます。 そこからエレナは前世で勉強していた知識を糧に農業に携わるようになり、やがてエレナの行動が彼女自身の結婚や隣国との関係、そして国全体の産業としての農業にも影響を与えてゆく、異世界転生と農業、そしてラブロマンスが上手く融合した作品です。 1巻まで読了
クラスでも目立たない女の子・淋代 遥風(さびしろ はるか)には、人には言えない趣味がありました。 それは「BLマンガを描くこと」。 ところが、そのマンガを描いたノートを、校内でも一二を争う人気者の男の子・聖川 詞(ひじかわ ことば)に見られてしまいます。 書いたマンガをバカにされた経験があった遥風は愕然としてしまいますが、詞は遥風のマンガをじっくりと読んだ上で、貶すどころか「素敵」だと言ってくれて、さらに、彼女のマンガを見てしまったお詫びとして彼自身も学校で隠していたある“秘密”を明かしてくれます。 この出会いから「秘密を共有する仲」になった2人ですが、秘密の共有だけでなく、お互いの心にあった負の感情やネガティブな考え方を打ち消しあう、そんな良い影響を与え合う様子が描かれていきます。 そういった2人の様子を見て心が洗われると同時に、今後2人がさらにどのような関係を築いていくのかが楽しみになってくる作品です!
成績二位の女子と一位の風紀委員女子の物語は、風紀委員の「援交(女性相手)」をネタに二位の主人公が強請る、というかなりダーティーな始まりで、最初はあまり気持ちの良いものではない。 しかし読み進めてゆくうちに、次第に二人のバックグラウンドが分かり、二人が少しずつ関わり会話をするうちに、互いを知り、理解し合う。そんな真っ当なやり取りは、次第に心地良いものになってゆく。 二人の言う事は、どちらもある程度正しい。立場の違いが二人を遠ざけ、境遇の違いが理解を阻害し憎しみを掻き立て、挑発し軽蔑をぶつけ合う。しかし関わるうちに、二人とも己の「正しさ」に歪みがある事に少しずつ気付く。歪みを知り素直になる瞬間、目が覚める心地良さがある。 どうやら二人とも、苦しい境遇があるようだ。風紀委員の内実はなかなか見えてこないが、どこか投げやり。彼女の真実に近づいた時……その切実さに触れた主人公は踏み込んでしまう、そんな予感がある。「踏み込む」の中には、きっと身体的接近も含まれるのだろう。
この作品は日本でマンガ家になりたいという夢を持つウクライナの15歳の女性・AkariさんがSNS上で発表していた4コマ漫画を19ページの電子コミックとして単行本化した作品です。 ご存じのとおり、彼女が住むウクライナは今年に入って大きく情勢が変化し、想定外の「非日常」が訪れてしまっていますが、 そんな中でも続いていく彼女の「日常」がとても親しみやすい、可愛らしい絵柄で描かれていて、ウクライナで生きるAkariさんの等身大の姿を感じられる作品です。 Akariさんは現在もTwitterで作品を発表しているので、この作品で知った方もリアルタイムで彼女のことを追っていくことができます また、この作品の著作印税と諸経費を除いた売り上げはウクライナへの支援金としてUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)への寄付をされるとのことなので、電子書籍を買ったことがないという方にも是非おススメしたい作品です!
なんでって、全部面白い。 「鋼の錬金術師」「銀の匙」「アルスラーン」そして「百姓貴族」 ファンタジーも学園ドラマも、エッセイもなんでもいける。 シリーズ続編とかではない純粋な多作で全て面白いってのは、女性作家だったら、確実に高橋留美子と荒川弘の名前上がってくると思う。 まだ物語が始まったばかりの序章みたいなものだが、なぜか読んでいてワクワクするし、面白い!って純粋に思えるのがスゴイ。 というのも、最近のワタクシは、伏線とか設定とか複雑にからみあうと脳死するんです。特に1話目で全部出してくる系の話はキツイっす。 この作品も結構複雑な人間関係や設定がでてくるのだけどスルスル入る。 シリアス、ギャグ、バトルの足し引きといった構成や展開がうまいのか(はたまた、デラさんの説明がうまいのか)ファンタジーにつきものの世界観を理解するハードルが低くて読んでて助かります。 「アサ」と「ユル」兄妹関係、異能の力、ツガイといわる守護神、・・・まだまだ1巻目なので、物語のプロローグといった感じですが、 化けるポテンシャルは十分あると思います。
作品の舞台は沖縄で、南国の雰囲気になんだかリフレッシュできました。主人公の実家のホテルにミステリアスな青年が泊まりに来て以降、身の回りにちょっと不思議でかわいいできごとが起き始めます。ちょっと怖いところもあったり、それでいて終始ほわっとした空気感で癒やされつつ…まさにこれからのシーズンにピッタリの1冊でした。
本作の重要ポイントとして「ポリアモリー」がある事は、明言しておきたい。何故なら、まだあまり知られていないこの恋愛の形について、きちんと知られて欲しいから。 ポリアモリーとは「複数人数の間で結ばれる恋愛関係」の事だが、二股・不倫と違うのは、全ての関与者に関係をオープンにして、全員の合意を得る事を重視する点。 本作はウェディングプランナーの女性が、式場見学に来た新婦と恋に落ちる物語。この新婦が、実はポリアモリー的恋愛指向の持ち主。 既に夫を含めたポリアモリー関係を築いている新婦。彼女は「嫉妬」という感情を知らない。彼女と繋がる人達も、関係には同意しているが、内心はそれぞれのようだ。そして主人公は、彼女に恋する事で、嫉妬心も抱く。 1巻を読み終えて、全身がこわばっている事に気付く。否応無く落ちる恋、複雑な嫉妬心、職業倫理の間で揺れる主人公に、平穏が訪れる感じがしない。その先にあるのは、破壊か創造か……とにかく私の感情などどうでもいいので、続きが、結末が気になる。 ポリアモリーの実践者にとって「嫉妬」のコントロールは重要らしい。既に嫉妬している主人公は、それと折り合いをつけてこの関係に入っていくのか、それとも……いや、これはとても予測がつかない。
笑顔の人に、癒されたい。いつも同じ笑顔で、何を言っても動じず受け止めて慰めてくれる、そんな人に相談事をしたい……勝手な願望だって分かってる。受け止める人にも色々あるから、なかなかそうはいかないですよね? でも、もしその「笑顔」が二人いたら……? 本作の主人公は、作り笑いが崩れない人。努力で培った笑顔で人を安心させるけれど、打ち解けているわけではない。 そこに転勤で現れる、もうひとりの笑顔。彼女の笑顔は自然体。ポジティブで、誰とでもすぐに打ち解ける。 出来る二人は頼れるパートナーとして、総務やお悩み相談などに共に取り組み、社内の信頼を高める。そして二人の間でも色々あって……。 互いのダメな所を受け入れ合い、互いを認め信頼し合い、二人の笑顔は強度を増す。その笑顔は以前と変わらないけれども安定していて、きっと心からの笑顔。そんな安心感と胸の高鳴りに満ちた社会人バディ・ロマンシス、疲れた人に沁みるはず!
落語を題材をしていながらも、ちゃんと「少年ジャンプ」している感じがすごい良いなぁと思う。 「少年ジャンプ」しているというワードが伝わるか不明なのですが、展開や登場人物どれをとってもジャンプ的で、落語といえば笑点しか知らないマンにとってはちょっとトッツキにくい題材でも、すんなり受け入れられました。(笑点が落語かどうか別として) そしてすごくいい。 登場人物、特に主人公のあかねと父親の落語にかける情熱が共感できるんです。 よくわからない世界だと情熱傾ける動機を聞かされても 「ふーん、まぁ好き嫌いは人それぞれだしね(小並感)」 くらいで終わってしまうのですが、本作は 「わかる!頑張れ!」 となるから、ここもジャンプ的だと思います。 ひたむきな主人公に、ひたすら感情移入できる。 内容は、真打ち目指した落語家の父親が、その昇進試験でまさかの破門。父親を尊敬していた主人公あかねは、父親の敵と父親の凄さを証明するため落語の世界に入るという流れ。 難解な落語もわかりやすく、会場の空気感もグッと伝わる描写をしており、ここも魅力です。 落語みたこないけど、そんなにスゴイならみてみたくなります。 とある落語の一門に入門して、表ではみえない芸の世界の厳しさ、それに対しどう立ち向かうかと思うと楽しみな作品です。
タイムループというものが、こんなにも切ないという事に驚かされる。 主人公だけが同じ日を何度も繰り返す。取り残される悲しみは絶望的だ。以前の記憶がある事が意外にも、彼女を孤立させる。とことん孤独な彼女の心の奥にはいつも、凍りついた痛みが見える。 そんな主人公のうんざりする日常に、安定した友人となる女子が現れる。また親戚の一人は主人公を理解して寄り添っている。この二人によって救われている彼女は、二人にどうしても過剰な想いを拗らせてしまう。静かな画面に響く、ときめく彼女の心音を共有する心地よさ。 物語は残酷だ。タイムループは非現実的な事象だが、彼女の孤独には現実的に共感できる。「将来魔女になる」友人がSFとしても百合としても、想像もつかない高次元の極みで主人公を救う時を期待したい。
※ネタバレを含むクチコミです。
大正の女学校を舞台に、心の歪みから生まれる「鬼」を払うバディ百合は派手な表現が楽しい。 美しい女性達の表現、煌めく世界、躍動するバトル……その中でひときわ異様なのは「鬼」の描かれ方。 心の歪みから生まれる鬼は、現代絵画の抽象画のように描かれる。それは伝統的な鬼の表現よりも、狂気を感じさせる。 そして鬼の生まれた理由を思うと、とても切ない。寄宿舎で蔓延する霊障は、いずれも女学生達が何らかの「想い」を募らせて起こる。そこには闇のエスがある。 一方で、学園の支配人として来た洋装の令嬢は、鬼を退治に来た四重人格の少女と、戦いや生活を共にしながら関係をスタートさせる。真っ直ぐな気性の令嬢が、それぞれの人格とどう関係を深めるのか……個性的な四人格それぞれに魅力的で、バディ物としても百合としても、今後が楽しみだ。
登山家のアカデミー賞と言われるピオレドール賞の、ピオレドール生涯功労賞をアジア人として初めて受賞した登山家・山野井泰史さんの登山人生を描いた作品です。 登山マンガにハズレ無し。 近く、劇場版が放映される『神々の山嶺』を始め、『岳』や『孤高の人』など圧倒的な名作も枚挙に暇がありません。 同じ人間でありながら、極限の環境である山に挑む者たちのドラマにはいつも心が奮え、血が滾ります。 この作品がすごいのは、上記の作品のようなドラマが描かれるのですが、それが山野井さんが実際に経験したものであること。 中学生にして34箇所の打撲と裂傷を負い、親に命の危険があるからと反対されても「自分から登山を取ったら心が死ぬ」として頑として譲らず、「大人の登山クラブで基礎から学ぶ」ということを条件に、日本登攀クラブに入会してそのキャリアを始めていくという出だしです。 登山に命を賭ける人を見て、「なぜそんな危険に進んで身を晒すのか?」と理解できない人も一定数いると思います。しかし、本当に命を賭けても良いほど好きなものがある人にとっては、この気持も理解しやすいのではないでしょうか。 特に、登頂を完了した時に見える至高の景色と共に訪れる達成感は、その気持ちへの共感を掻き立ててくれます。常人の身体能力では無理なことは解っていますが、読むと自分でも指懸垂などで体を鍛えて岩壁に挑んでみたい、こんな景色を見てみたいという気持ちにさせられるくらい、読んでいて熱く掻き立ててくれる作品です。