聴覚障害者と心通わす百合 #1巻応援
女子高生が聴覚障害者のクラスメイトと心を通わせる過程を描くこの作品。ライトなノリの台詞の遣り取りの中に心の揺れを幾重にも描いて、ハッとさせられる事の多い内容となっています。 聴覚障害の描き方がステレオタイプで無く(参考文献の多さからも窺えるのですが)一人の「その人固有の障害という特性を持つ」女性のリアルが見えてくる様です。そしてその特性故に周囲と壁を作り、入学早々孤立する彼女に、懸命に、悩みながらもきちんと意思を確かめながら接する主人公。 彼女固有の障害についてストーリーの流れで分かりやすく描写されていて、孤独を深める理由が心に響く。それ故に真摯に関わってくる主人公に、彼女が少しずつ心を許す描写にも説得力が生まれるのです。 しかしここで、一つの謎が生まれます。 なぜ主人公は、彼女に関わろうとするのか。 正義感や同情ではない。ただ相手を知りたいと強く願う主人公の動機は……私は誰かと仲良くなりたいと思う時、実はその人に理由無く、目を惹かれてはいなかったかと思い返す。 彼女との出会い、習いに行っていたピアノの女性教師の結婚……そう、これは間違いなく、百合の物語なのです。
「及川さんは耳が悪いけど
私は頭が悪いみたい」
濡れ鼠になりながら、照れ笑いというか、気まずさを隠した笑いというか、人の心を惹き付ける表情で咲希が言った、第一話のこのセリフはとても印象的。
もう傷つきたくない二人が出会った。
ボーイ・ミーツ・ガールならぬ、ガール・ミーツ・ガールな物語。
出会ったからには、お互いを癒し、癒やされるんだろう。
奏音が人を遠ざける理由。
咲希がピアノをやめなかった理由。
咲希が、奏音は自分の聖域を侵すと辛そうにした理由。
序盤の数話で、あぁなるほどと腑に落ちる展開になっています。
奏音の耳が聞こえない状況を微に入り細に入り説明されていて、そういう大変さもあるんだなと知ることができたり、何もなくても大変な思春期まっさかりな学校生活やクラスメイトとの関係が描かれていたり。
「高校生になっても、プロになるわけではないのにピアノを続けている」というイレギュラーさを知ってしまったり。
女子高校生ふたりの生活や感情も細やかに描かれていて、それだけでも十分に楽しめます。