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愛物語

短篇漫画の教科書

愛物語 かわぐちかいじ
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

かわぐちかいじは、上手い漫画家である…と、こんな当たり前のことを書くのもどうかと思うのだが、本当に上手いのだから仕方ない。 もちろん現在では、『沈黙の艦隊』や最近の『空母いぶき』のような大柄な世界観設定をもった「戦艦」物で知られているのだろうが、なにせキャリアが長く、売れるまでの「下積み」も長い人である。 『風狂えれじい』やら竹中労と組んだ『黒旗水滸伝』まで遡る必要はないが、出世作『アクター』以降(いや、本当の出世作は麻雀漫画の意味を変えてしまった『プロ』だろうが)、狩撫麻礼とのセッション『ハード&ルーズ』、絶品の青春ヤクザ物『獣のように』他、それぞれの時代で忘れがたい佳品を描き続けてきている。(個人的にはモーニング連載以降なら短命に終わった『アララギ特急』を偏愛しています) そのどれを読んでも、とにかく漫画が上手い。 構成・コマ割り・コマ内のキャラの置き方・ネームの処理、どれをとっても天下一品のなめらかさ。 下積み時代に練り上げ獲得した「漫画を見せる術」については、他の追随を許さないと思う。 この短篇集『愛物語』は、そうした漫画の巧みさをほぼ完璧な形で発揮させた、まさに「教科書」たり得る一冊だ。 例えばアーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』のような、手練れの小説家の短篇集に匹敵する肌触りがある。 良質なエンターテインメントとして、ジャンルは違うが、ヒッチコック劇場みたいだ…と言っても言い過ぎではないのではないか。 正直なところ、ちょっと鼻につくぐらい「上手い」です。 しかし、『力道山がやって来た はるき悦巳短編全集』とか、あだち充の『ショートプログラム』とか、『1 or W 高橋留美子短編集』とか、このあたりの名前のある漫画家は、本当に短篇が上手い。 最近、こういう手堅く風通しが良いのに個性豊かな短篇が、あんまり読めなくなっている気がして、さみしいですね。

COBRA THE SPACE PIRATE

夢と呼ぶにはあまりに厳しく余りに哀しい影に向かってのオデッセイ

COBRA THE SPACE PIRATE
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)
阿房門 王仁太郎(アボカド ワニタロウ)

著者のライフワークなので一言で括れない幅がある作品で、私は 1.手塚治虫的なタッチが残り奇想展開なアイディアの楽しい「少年ジャンプ初期」(「コブラ復活」~「ラグボール」) 2.線がややソリッドになりシニカルな描写の増えた「少年ジャンプ中期」(「二人の軍曹」~「黄金の扉」) 3.ヒロイックな描写の光る「少年ジャンプ後期」(「神の瞳」~「リターンコブラ」) 4.「聖なる騎士伝説」 5.CGフルカラー期 で分けている。どの期間も見るべき所のある漫画であるが、4.の「聖なる騎士伝説」について書きたい。  「聖なる騎士伝説」は青年誌に掲載された長編で他の話より暗く、いつもよりシリアスでアダルトな展開や描写が多い異色のエピソード(何てったって、レディーさえ出てこない) だ。ここでは新世界の興奮は悪鬼に蹂躙され、コブラのいつもの剽軽な態度やヒロイックな勇気は鳴りを潜め、笑みは嘗て見られなかった暗い影を忍ばせている。絵の線もどの辺よりも細く、陰影もまた濃く、混沌とした悪意蔓延る世界をこれでもかと描き出す。筋も宝や冒険ではなく悪鬼の暗殺と言う剣呑な代物で、終盤に明かされる種も周到に張られた伏線もあり陰惨な世界観を補強する。  今までのスペースオペラと比べると余りにもノワールであり、退廃的でもあるが、それだけに強烈であり、私はこのエピソードが一番好きだ。けだし、このノワールが単なる露悪に終わらず、コブラが常に世を儚むようなニヒルな皮肉を呟きながら銃をぶっ放しながらもどこか善や正義を諦めきれていないからではないかと思う。有名なコマでもある様にコブラは終盤、実際には何の利益を齎さなかった教会を批判し「神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ」と呟いてみせたが、これはやはり神や正義についてどこか夢を持っている証拠に他ならないと思う。さもなくばこんなセリフは決して言わないだろう。  コブラの海賊としてのアウトローな性格や享楽主義は上記の理想主義的な思想やストイックさに支えられている。寺沢武一は彼の初期作品を「思弁的」と批評していた記憶があるが、そういった性格が彼の作品から消えた事は一度も無かったことは確かだろう、そしてそれこそがこの漫画をいつまでも輝かせているのだろう。海賊と言う自由とギルドに対抗する高潔な戦士の顔を持つあの男のとこしえの旅に祝福を。

あいものがたり
愛物語
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