青春時代!
『ごきげんよう』という挨拶が日常化されている丘の上の女子校の話。 毎年創立祭でチェーホフの“桜の園”を上演するのが伝統。 桜が満開の季節に巣立っていく少女たち。 少女と大人女性の間の微妙な女心が繊細に描き出されている。 小さい頃に何気なく言われた一言で、相手に悪気がなくても自分の心の襞に刺さって抜けないことある。 体と心が一致しない年代でもある。 甘酸っぱいだけではない素敵な作品。 表紙の桜も魅力的。
桜が覆う丘の上の女子高では、桜舞う頃、演劇部がチェーホフの『櫻の園』を上演するのが習わし。部員達は練習に励みながら、それぞれの恋の季節を過ごす。そんな青春模様を描いた四編のオムニバス。
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女子校に通う彼女達だが、お付き合いするのは周囲の高校の男子。描かれる恋は多様だ。
彼氏と体を重ねる事を躊躇う子も、彼氏を放って悪い遊び方をする子も、大切な人に何かを教わり、友達と会話を重ねながら、自分の心と体を大切にする事を覚えていく。心の解放に向かう様子に安堵する。
百合読者としては、後半の二編が気になるところ。自分の中の〈女性〉と折り合いをつけられない二人の女子は、片や男性らしさを身に纏いながら男性に恋し、片や男性を嫌悪しつつその女子に恋する。
二人は最後、互いの気持ちを知りながら、ただ分かり合い、慰め合う。そんな様子を見ていると、女性同士というのは恋をする以前に「分り合う」関係性なのだ、と思い知らされる。そういう意味では、実はこの作品は最初から最後まで〈百合〉的だ。
桜の精って男なんだって……という台詞(p113)とその前後の「男の気持ち悪さ」の遣り取りを読むと、どんなに愛し合い番ったとしても、男は女を解れないのだから、せめて彼女達の冠として咲いてろよ、という気持ちになる、男の私でさえ。
丘の上の女子高校、桜華学園。春の創立祭で、チェーホフの“櫻の園”を演じる演劇部員たち。思春期の乙女たちのほのかな心情をセンシティブに綴る必読の連作短編集!