うちはうち、よそはよそ
壁の向こうでどのような生活をしているか、誰もわからない。 当たり前のことなんだけど、そうだよなあと気付かされた。 さらに、ちゃんと生活はできているけど足りていない状態は、なかなか外部には分かりづらい。 主人公は衣食住足りていたけど、愛情が足りていなかった。 かけ違いになってしまったボタンは戻されることなく、途中からやり直した形になるんだろう。 この漫画がフィクション混じりのノンフィクションなのか、ノンフィクション混じりのフィクションなのか、どちらかはわからない。 ただ、老い先短いという年齢にはまだ遠そうな祖母が救われていない気がして、やるせない。
いかなる理由があったとしても、自立できない子供に「自分はいらない子だ」「死んだほうがまし」と思わせることは罪深い。
自分に無関心な父親と、自分に異様に厳しい祖母と3人ぐらしの主人公、ゆきはなぜ自分に母親がいないか知らない。しかしある時に実は自分は「捨てられた」という事実を知ることで、今まで押し殺してきたものが一気に爆発してしまう。
それをきっかけに、ゆきが今まで父親と祖母から受けた仕打ちをちゃんと怨み、怒り、この人達から離れようと強く思えたことは読み手としては非常に救われた。強いものに押さえつけられながらそれがおかしいことだと気づかない子供を見るのはつらいので。。
そして更に興味深いのは、父親目線と祖母目線の話も描かれていること。一方向だけから語られる話は、受け取り方に偏りが出てしまうこともあるので。とくに父親がどうして娘に無関心に仕事に没頭していたのか知ると、彼は決して娘が憎かったわけではないんだと知ることができた。ただやり方が極端だっただけ(しかし責任は重い)。
老人ホームに入居してから祖母には会ってないということだけど、どうやって祖母目線の話を描けたかというのが気になった。父親づてに聞いたか、想像かはわかりません。いずれにしても、それぞれの事情を考えると他人事ではない身近にわりと起こっていそうな話。
この話でよかったのは、主人公のゆきが自分で考えて行動できる強さと賢さを持っていたこと。実際はもっと大人になるまで自分が置かれている状況がおかしいと気づけない人のほうが多いのではないかと思います。
ただいちばん恨むべき母親が、顔も知らなければ連絡先も今生きてるかどうかも知らないという状況はしんどいなと。