ある男子高校生の少し不思議な成長の記録
ある日、トイレで吐いた吐瀉物はむくむくと好きな人の形へと変化し、それ以来部屋では彼女と、思ったことを思ったように好き放題行っていた。 思春期に、自分勝手で利己的であった自分から、他人との境界線を感じ、思うようにできるものとできないものを理解し、ひとつ殻を破るまでのお話。 人はある時期まで、万能感に包まれなんでも出来る気がするし、他人は自分の望むことは何でもしてくれるものだと思ってしまうフシが誰しもある。 それは、母性由来の影響だと僕は思っていて、子の望むことに対して極力親は叶えてあげたいもので、それが「願い事は基本的に叶う」という万能感につながる。 無理なものは無理で、他人や他人の心を自分の好きなように動かすことなんて基本的にはできないし、無理やり好きなように行動させられたとしてもそこに心はないといつかは悟るはずだ。 そこのややこしいところを、思春期に日常の対人関係の中で一歩踏み込んだ人ととの対話で自然と学んでいく。 それは部活であったり友人であったり恋人であったり。 その通過儀礼を若い時期に果たせなかった人たちがたまにいるヤバイ大人やクレーマーへと化けるのだ。 他人は「お母さん」ではない。 なので、ある意味、この主人公は自分のお母さんとセックスしまくっていたことになる、と考えたらまさに「吐き気」が止まらない。 少し不思議で手痛い授業料だったが、これで一つ大人になった。 主人公がこの体験を客観的に言語化してキチンと自覚できるようになるのはまだ先かもしれないが、感覚で分かっているはずだ。 他人を思う通りにしようなどおこがましい。 好きな人は、モノを扱うように好きにできるものではなく、一人の人格を持った者だ。 "だからこそ"面白いし、恋焦がれる。 甘く切ないひと夏のいい想い出。 この経験を糧に、これから主人公は本当の意味で恋をしていくのだろう。 あー、考え様によっては人生は面白くなっていくように作られているんじゃないだろうか。 最高かよ、人生。
絵も話も圧倒的に上手い!作者はいったい何者…?
「付き合ってみたけど、思ってたのと違う」といって別れるのは思春期あるあるですが、それを暗喩を用いてここまで見事に描いているのがすごい!
・放課後小川さんと行きたかった場所
・よくできてる海のキーホルダーを買った理由
・映画が面白いと思った訳
小川さんと付き合い始めてから、何ひとつ言わなかった主人公・原田が、初めて自分の考えを言ったのはセックスした直後。
「別れよう」
「付き合うって自分のモノになることだと思ってたのに、気遣いばっかりでもううんざりなんだ」
うそでしょ…くそすぎる…!
というのも実は、原田の部屋には「原田のゲロから生まれた小川さん」がいる。
原田とは何でも気が合い、いちいち原田と違う考えを主張し摩擦を起こす本物の小川さんとは違う、まさに「小川さんじゃない小川さん」。
ゲロ小川さんののように何でも「だよねってなれる、摩擦のない会話。摩擦のない関係」こそが、相性がいいことだと思っていた原田は、本物の原田さんと寝たあとすぐに分かれを切り出す。
その後、原田は自分の意見を持たないゲロ小川さんが「原田自身」の姿をとったことで、原田は考えを変える。
「オレは海を掴んだんだ」という自分の意見を黙って飲み飲んでいた原田が、相手に寄り添うことの大切さに気がついた瞬間にキーホルダーを手放す演出が好き。
ネットに作者の情報がなさすぎでは!?
どの媒体でも構わないので、ぜひまた三ト和貴の作品を読みたいです…!
(追記)
「全然情報見つからねえ〜!」と思ったら、ヤンジャンのサイトは「三ト和貴(カタカナのト)」になってて、ご本人のTwitterのお名前は「三卜和貴(占いのうら)」になってるためでした。
https://twitter.com/mitok07