アフタヌーン6月号でスタートした、『蟲師漆原友紀の最新作
人の思念かあるいは自然発生か、街に発生した”バグ”にお役所仕事で対処する、不思議な日常の漫画です。

 誰かの念で街が改変されちゃったりするあたり最近だと化物語とかふらいんぐうぃっちとかで似たような話を目にしましたが、『猫が西向きゃ』の独特なところは対処のユルさですかね(挙げた二つも十分緩いんですけどw)
 「気の持ちよう」とか「考え方ひとつ」みたいなスタンスとても今っぽくて好きです。

読みたい
猫が西向きゃ

もう一つの世界があったら別の自分に会ってみたい!

猫が西向きゃ 漆原友紀
干し芋
干し芋

すべての物質は、絶えずゆらゆらとごく細かにゆれていて安定せずにあるものでそれは時にバランスを崩して形を変える。不完全であいまいな世界。これが、フローを呼ばれる現象が起こる世界。 と、現在私たちが住んでいる、世界。 この二つの世界にそれぞれ同じ人が同時代に住んでいる。 もちろん、職業も違うし、生活環境ちょっとづつ違う。 フロー現象は、人のこうだったらいいなぁとという思いで出てきてしまう、人起因と場所起因のものがある。 例えば、神経質な彼と付き合っていた片付け下手な彼女が、机の角にピッタリとリモコンを置く彼を見て自分のゴミ屋敷を見られては嫌だという思いから、町中から角が無くなり、すべての角が丸くなったり、お隣同士の同じ苗字の田中さん。表面上は、とても上手くいっているが、若い田中さんは、心の中で年配の田中さんを下に見ていた。そこで、現れたフローは、その格差分隣同士の高低が付き階段の多い街に変わってしまったり。 人の心のもやもやによって霧が発生し、フロー現象が起き、その心のもやもやが収まると元の状態に戻る。 この現象がいつ頃戻るのか?何が原因なのか?を現地に駆け付け解決していくのが、主人公のフロー処理業者のヒロタ。 そして、そこで、アルバイトをしているのが、フロー現象で35歳から12歳になってしまったコナンのような女子、ちまちゃん。 さらにフロー現象を感じ取ることのできるしゃちょうと言う名の猫。 テンポよくお話が進んでいくし、画もとても素敵なので面白く読めます。 爽やかな読後感で、私は、大好きな作品になりました。

MA・MA・Match

映画『怪物』みたいな構成の話だった

MA・MA・Match
mampuku
mampuku

いい意味で誤解や異説の飛び交いそうな、多層構造のストーリーだったように思う。 主人公の一人である芦原(母)は、生意気な息子とモラハラ夫を見返すべく、息子の得意なサッカーで勝負を挑む。 前半は、ママさんたちが友情や努力によって青春を取り戻しながら、悪役(息子と夫)に挑むという物語で、この悪役というのがちょっとやり過ぎなくらいのヘイトタンクっぷりなのだ。その場限りのヘイトを買うキャラクターは、ヒーロー役の株を上げるための装置として少女漫画では常套手段だ。だが『マ・マ・マッチ』はそういう物語ではないため、話はここで終わらない。 後半は時を遡り、息子と夫の目線で描かれ直す。母目線ではイヤ〜な輩にしか映らなかった彼らにも彼らの言い分や考えがあったのだと明かされる。 真っ先に私が思い出したのが、是枝監督の映画『怪物』の主人公の一人、安藤サクラさん演じるシングルマザーの早織である。 息子が教師に暴力を振るわれたことに抗議するため学校に乗り込むも学校側からぞんざいな対応をされ不信感を募らせる早織。その後教師や子供など、さまざまな視点が映し出されることでやがて全体観が像を結ぶ。 『マ・マ・マッチ』でも、後半部分を読んだあとに最初から読み返すと些か感想が変わる。息子や夫がイヤな奴らとして描かれているのは確かだが、先入観によって印象が悪化していたのも事実だ。なにより、序盤に出てくる夫のコマは母を嘲弄するような不快なものだったが、そもそもこれは芦原母の回想であり主観だ。その後実際に登場する夫は彼女と衝突こそすれ至って真面目だ。 つまり、それぞれの立場から不満を抱いたり譲れない部分でぶつかり合いながら、逐一仲直りしたり折り合いをつけているのだ、という話に畢竟見えなくもない。悪者退治という少女漫画にありがちなフォーマットで導入を描いて入り込みやすくしておいて、後半の考えさせる話でモヤモヤさせる。末次由紀先生、さすがの巨匠っぷりを見せつけた怪作だ。

テセウスの船

どちらかというと『テセウスの船』というより『動的平衡』じゃない?

テセウスの船
mampuku
mampuku

時間遡行をして人生をやり直したとしたら、それは本当に同一の自分といえるのか?という問いを有名なパラドックス「テセウスの船」になぞらえたタイトルだ。 ストーリーに関しては論理的整合性や感情的整合性においてやや粗い部分も感じられたもののサスペンスとして緊張感もあり、ラストは新海誠監督『君の名は。』のような美しい締め方だったし概ね面白かった。 ただ、タイトル『テセウスの船』がイマイチストーリーにハマっていない感じがした。 どちらかといえば「動的平衡」のほうが比喩としてしっくりくるのではないだろうか。 「動的平衡」とはシェーンハイマーの提唱した概念であり、日本では福岡伸一氏による著書『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』で有名になった言葉である。“生命”とは、取り込まれ代謝されていく物質、生まれ変わり続ける細胞どうしの相互作用によって現れる“現象”である、という考え方だ。 主人公の田村心は生まれる前の過去に遡り、そこで巻き起こる惨劇を阻止することで、その惨劇により自身に降りかかった不幸な運命を変えようと奮闘する。作品では、過去を改変して自らの人生を曲げようとする一連の試みをテセウスの船にたとえているが、やはりピンとこない。作中、田村心は殺人事件を未然に防ぐため凶器となった薬物を隠したり被害者に避難を呼びかけたりするが、その影響で心の知る未来とは異なる人物が命を落としたり、結果的に大量殺人を防げなかったばかりか予想だにしなかった事態を招くことになる。 この予測不可能性こそがまさに動的平衡そのものって感じなのだ。生命体は、船の部品のように壊れた部分を取り替えれば前と変わらず機能する、ということにはならない。ある重要なホルモンの分泌に作用する細胞を、遺伝子操作によってあらかじめ削除してしまったとしても、ほかの細胞がそのポジションを埋めることがある。これは心が殺人事件の阻止に何度も失敗したことに似ている。思わぬ不運や予想しない死者が出てしまったのも、脚のツボを押すと胃腸の働きが改善するなどの神経細胞の複雑さに似ている。 船は組み立てて積み上げれば完成するが、生命は時間という大きな流れの中で分子同士が複雑に相互作用しあうことで初めて現象する。『テセウスの船』での田村心の試みは人生あるいは歴史という動的平衡に翻弄されながらも抗う物語だったのかもしれない。

ねこがにしむきゃ
猫が西向きゃ 1巻
猫が西向きゃ(2)
猫が西向きゃ(3)
本棚に追加
本棚から外す
読みたい
積読
読んでる
読んだ
フォローする
メモを登録
メモ(非公開)
保存する
お気に入り度を登録
また読みたい
蟲師

蟲師

この世はヒト知れぬ生命に溢れている――。動物でも植物でもない、生命の原生体――“蟲”。それらが招く不可思議な現象に触れたとき、ヒトは初めてその幽玄なる存在を知る。蟲とヒトとをつなぐ存在――それが“蟲師”たる者。アフタヌーン・シーズン増刊から生まれ、アフタヌーン本誌の大人気作ともなった作品、待望の単行本第1集。

蟲師 特別篇 日蝕む翳

蟲師 特別篇 日蝕む翳

動物でも植物でもない、生命の原生体──“蟲”。時にそれはヒトに妖しき影響を及ぼし、人智を超えた現象をも呼ぶ。それらを調査し、それぞれがあるべき様を示す“蟲師”ギンコの果て無き旅路。この世はヒト知れぬ生命に溢れている。連作『蟲師』連載終了から5年を経て、待望の現出を果たした特別読み切り前後編が単行本化!

水域

水域

日照り続きで、給水制限中の街。酷暑にあてられて意識を失った川村千波(かわむら・ちなみ)は、豊かな水にあふれる村で、少年と老人に出会う夢を見る。祖母に夢の話を聞かせた千波は、意外な言葉を聞く。「それ……ばあちゃんの昔の家じゃないかねぇ」また行きたい──そう願った千波が目を覚ましたのは、夢だと思っていたあの村。そして再会した少年・スミオから、この村では雨が降り止まないことを知らされる。『蟲師』漆原友紀が描く、人々の想いと忘れえぬ記憶の物語。

蟲師 外譚集

蟲師 外譚集

漆原友紀の『蟲師』をベースに、芦奈野ひとし(『コトノバドライブ』『ヨコハマ買い出し紀行』)、今井哲也(『アリスと蔵六』『ぼくらのよあけ』)、熊倉隆敏(『ネクログ』『もっけ』)、豊田徹也(『珈琲時間』『アンダーカレント』)、吉田基已(『夏の前日』『恋風』)の5名がオリジナル短編を創出、1冊の単行本に! カバーイラストは漆原友紀による描き下ろし!

フィラメント~漆原友紀作品集~

フィラメント~漆原友紀作品集~

「虫師」とは、古来「虫」に関する驚異的知識を持ち、ヒトと虫の間のトラブルを解いて歩く異端の生物学者の集団。その発祥は定かではないが、彼らの虫に注がれる眼差しは古く、学界非公認の存在ながらその情報量は膨大で、徒党を組むのを嫌う──。アフタヌーンで人気を博した『蟲師』の源流『虫師』2編を含む、「志摩冬青」名義時代の絶版となっていた短編に、初収録タイトルを併せた珠玉の書。漆原友紀の結晶かつ原点がここに!

蟲師~連綴~ 二〇〇四〇七〇九-二〇〇六〇八〇八

蟲師~連綴~ 二〇〇四〇七〇九-二〇〇六〇八〇八

著者はアニメ監督。そして原作者が全面協力。究極の“蟲師書”、現出。どこまでも“原作に忠実である事”を目指し、驚異的クオリティで観る者を圧倒したアニメ『蟲師』――その全貌をひも解く全244頁の妖世譚解体書。アニメと原作を分け隔てなく扱いつつ、関係者の発言や証言、そしてビジュアルもふんだんに収録した、長濱氏が著者の視点で制作する一冊。※通信環境によりダウンロードに時間がかかる場合がございます。

ヘンテコ自然現象をどうにかしたりしなかったりする仕事マンガにコメントする
※ご自身のコメントに返信しようとしていますが、よろしいですか?最近、自作自演行為に関する報告が増えておりますため、訂正や補足コメントを除き、そのような行為はお控えいただくようお願いしております。
※コミュニティ運営およびシステム負荷の制限のため、1日の投稿数を制限しております。ご理解とご協力をお願いいたします。また、複数の環境からの制限以上の投稿も禁止しており、確認次第ブロック対応を行いますので、ご了承ください。