Final Phase

Final Phaseは2つある

Final Phase 朱戸アオ
たか
たか

こちらの青い表紙はFinal Phaseの『出版社ビーグリー版』です。Final Phaseはこの他に赤黒いダークな表紙の『PHP研究所版』もあるのですが、**作品の内容は全く一緒**です。 ▼ビーグリー版のPHP版との違い ・表紙が違う ・標題紙がない ・絵のコントラストが強い **・扉絵と目次・人物紹介がない** **・「特別収録 羽貫ファイル」がない** 自分は断然PHP版の方が好きですね。 コントラストが丁度いい感じで、色がきれいで見やすいです。ビーグリー版は、妙に色が濃くて主線が浮いている感じがしました。 そしてなんと言っても扉絵(目次)と巻末の特別収録…!! 羽貫が過去に発生した疫病についてまとめた(という体の)資料は、現実で発生した感染症で読み応えがありますし、これを**『本編を読み終わった余韻に浸りながら読むところまで作品の一部』**と言って過言ではないと思います。 そして読後に気づいたのですが、巻頭の扉絵と目次も非常に素晴らしいんです…!**『目次の扉絵から、実は物語は始まっている』という演出がニクい。**巻末の特別収録がないため目次も削除したのでしょうが…だったらせめて扉絵だけでも残してほしかったです。 あえてビーグリー版の良いところを探すとしたら、ページ数が少ない分200円ほど値段が安いところでしょうか…。作品を120%楽しむならPHP版(赤い表紙の方)をオススメします。 ▼PHP版(赤い方)の配信元 ・Kindle ・honto ・BookLive ・BOOKWALKER ・紀伊國屋書店 ・ブックパス ▼ビーグリー版(青い方)の配信元 ・ebookjapan ・まんが王国 ・シーモア (画像はビーグリー版とPHP版の比較画像)

SHOP自分

変わるものと変わらないもの

SHOP自分 柳沢きみお
野愛
野愛

いいところも悪いところも納得できないところも含めてこの漫画がとても好きです。 どの側面も全部大好きな人間なんていないし、何を選んでも苦しみや痛みがなくなることなんてきっとない。 会社が倒産し恋人に振られ全てを失った青年・チョクがとある出会いから古着屋を経営し、出会いやわかれを繰り返し成長していく物語。 このチョクという青年がなかなか憎めないヤツなんですね。 愚直だけど優柔不断、優しすぎるけど妙にドライなところもあるし、流されやすいし小心者。でもいいヤツすぎるくらいにいいヤツなんです。心の隙間を抱えてる人たちが、チョクに集まってくる理由はなんとなくわかる気がします。 そしてこの漫画の1番好きなところは、チョクが古着屋をやりたいわけじゃないというところ!! 「古着屋だったらできるかも」と周囲の人から服を集めたりアドバイスを受けてなんとか店を開き、様々な困難を乗り越えてもなお、チョクは別に服を好きにならないのです。ギターをはじめたり、ビールの美味しさに目覚めたり、魅力的な女性と出会ったりしながら自分のやりたいことを探していくのです。 脱サラしてお店を経営するだなんて、夢でしかない憧れでしかないと思うけれど、そりゃ悩みは尽きないよね…って現実を見せてくれます。 悩んで流されて苦しんで、そんな日々の中で自分を突き詰めていくのが人生なのかもしれません。 最終話はめちゃくちゃ駆け足すぎるし、チョクの仕事や恋愛のその後が知りたくて仕方がないけど…人生死ぬまでどうなるかわかんないもんね、と自分を納得させています。 そして大市民シリーズと同じくブレないギャル批判がすげえ。とんでもねえ。 茶髪ガングロ厚底厚化粧へのヘイトスピーチがとんでもないですけどこれは柳沢きみお先生の一貫した主張なので、もうなんとも思わなくなりました。 そういう個人的な主義主張を抜いたらとても好きな漫画です。そういう主義主張がやばいなと思える世の中になったのはよかったと思います。 時代は変わったなあ と 時代が変わっても変わらないなあ 両方を味わえる作品だと思いました。わたしは好きです。

九段坂下クロニクル

日本沈没チームによるオムニバス短編

九段坂下クロニクル 一色登希彦 元町夏央 大瑛ユキオ 朱戸アオ
ひさぴよ
ひさぴよ

2011年をきっかけに取り壊された神保町にかつて存在した九段下ビル。築80年の歴史ある建築物を舞台に、4人の作家が、それぞれの時代の人間ドラマを描いていく作品です。ビルの場所は神保町ということもあり、漫画家とも少なからず縁のあったビルだったことが伺えます。 執筆している4名の作家さんですが、一色登希彦さんがスピリッツで「日本沈没」を連載していた時のスタッフが、元町夏央さん(元夫婦)、大瑛ユキオさん、朱戸アオさん、という繋がりがあります。(私は勝手に日本沈没チームと呼んでますが) 収録作 『スクリュードライブ らせんですすむ』一色登希彦 『ごはんの匂い、帰り道』元町夏央 『此処へ』朱戸アオ 『ガール・ミーツ・ボーイズ』大瑛ユキオ いずれの作品もそれぞれの作家さんの持ち味が感じられる短編です。なんだかんだ一色節が好きなんですけど、やはり今オススメするとすれば朱戸アオ先生でしょうか。朱戸アオさん目当てで、この本を手に取る人も少なくないと思いますが、インハンドやFinal Phaseより以前の作品も読みたい、という方は読んで損はありません。この本の中で最も大きなドラマを描いてましたし、ひときわ記憶に残る作品でした。

サイファー

当時の子どもたちは耐えられたのか…!?

サイファー かとうひろし
みど丸
みど丸

自分はリアルタイムの世代ではないのですが、人から「恐ろしい漫画がある」と言われて読みました。何が恐ろしいかと言うと本作はコロコロコミックで連載されていたということ! 超能力者サイファーとして目覚めた少年イッキが立ち向かうのは人間の脅威であるモンスター、ガイ魔。 このガイ魔が毎回かなり怖い。身近な人物に擬態したり無関係の人間を操ったりと、メンタルをゴリゴリに削る戦法を取ってきます。イッキのガイ魔との初戦は壮絶以外の何物でもない…。 怖いだけでなくグロさもバッチリ兼ね備えています。人間が真っ二つになったり首が飛んだりドロっと溶けたり…残酷描写はかなり気合が入っていて、当時のコロコロこれがOKだったのかという驚きがありました。 ちょっとネタバレになってしまいますがクライマックスもガイ魔のボスを倒してめでたしめでたし…とはいかないのが恐ろしい。最終ページがこれほどビターなコロコロのマンガ、自分は他に知りません。 あらゆる面から幼少期に読んでいたら自分はトラウマ間違いなしでした。大人になった今読んでも怖い。 マンガ図書館Zなどで全話公開されていますので、未読の方はぜひ震えてほしいです。 https://www.mangaz.com/book/detail/44531

宜保愛子の学校のこわい話

宜保愛子の自伝的マンガ

宜保愛子の学校のこわい話 東堂洸子 宜保愛子
ひさぴよ
ひさぴよ

> 「みなさんこんにちは。私の名前はぎぼあいこ。小学五年生。」 このあらすじを見た瞬間、ゾッと寒気がしました。 霊感ではありません。 実に興味深い漫画だ…という第六感を感じたのです。   宜保愛子(1932 - 2003)さん、ご存じの方も多いと思いますが、かつて一世を風靡した心霊番組に出演していた霊能力者です。 その人生は波瀾万丈なもので、幼少期の事故によって左目をほぼ失明してしまい、それがきっかけで霊能力に目覚め、人には見えない霊や魂が見えるようになるという漫画の主人公みたいな人物です。そんな宜保さんを主人公にして学校の心霊現象を解決するストーリーだなんて、絶対面白そうだと思いませんか…。 ひとまず読んでみての感想ですが、いずれも1話完結型なので読みやすいです。主に学校で怪現象が次々と発生し、それを宜保さんが霊を説得するなどして解決します。 かなり怖い話もあり、ちょっとハートフルな話もあり、心霊学園漫画としてなかなかの面白さです。中には「これはさすがに漫画向けのエピソードだろうな〜」と思ってしまう部分があるのは否めません。宜保さんが美少女すぎるし、時代背景も明らかにおかしいです。 宜保さんは1932年生まれですから、当時の学校生活はバリバリの軍国教育の時代だったはずです。なのに学校は昭和の雰囲気で、水洗トイレが登場したり、服装や設備が現代的すぎます。演出として仕方ないとはいえ、さすがにストーリーとの違和感はありました。 ところが3巻の3話目「鉄矢ちゃんの悲しみ」の回以降で、この漫画はまるっきり別の漫画へと変わります。 > 「ここからのお話は私が生きてきた戦争の時代のお話をしたいと思います」 というモノローグが突如現れ 「えっ・・? じゃあ今までの話はなんだったんだ・・・」 という気持ちは置き去りに、物語は戦時中の体験を描いたエピソードへ変わっていきます。 服装もモンペ服に変わり、厳しい軍国教育と食糧不足に悩まされる日々。最大の理解者だった兄を戦争で亡くし、弟も交通事故で亡くしているんですよね…宜保さん。 そして、空襲で地獄のような体験をします。生きてる人と、霊の区別がつかなくなるほど悲惨な状況に、宜保さんは遭遇してしまうのです。 後半はとても重い話が続きますが、それだけ宜保さんにとって戦争のことは忘れずにはいられない記憶として残っているという事が伝わる内容でした。 ===補足=== 他にも宜保愛子さんの過去が語られている漫画として、『MMRマガジンミステリー調査班』があります。 第2巻のノストラダムス大予言1999「人類は滅亡する!?(前編)」に宜保さんがゲストとして登場。キバヤシ達に、霊界の話や自身の幼少期の体験を語っています。興味があれば併せて読むと良いでしょう。

からだのきもち

ココロとカラダがチグハグな成人漫画

からだのきもち ナヲコ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

三味線漫画『なずなのねいろ』1巻刊行に合わせて、ナヲコ先生が成人誌で発表して来た作品を纏めたのが、この短編集。まずは掲載誌を列挙する。 ●漫画ホットミルク ●COMICプチミルク ●COMICアリス倶楽部 ●コミックメガキューブ ●ポプリクラブ ●同人誌 大学生から大人×高校生、高校生同士、子供同士、ロリ×ロリ、ショタと多岐に渡る。ショタ以外は性的描写あり。みんなれっきとした、エロ漫画だ。 しかし、はっきり言うと…… 「これでエロいことは出来ねぇ!」 細やかな感覚、しんどい背景、大き過ぎる感情にいちいちグッと来るので、正直この作品達で、ナニも出来ない。絵のエロさに体は反応するのに、圧倒的な感情に心を持っていかれる結果、ココロとカラダは引き裂かれ、読後には重い余韻と少しの罪悪感が残る。 傷付いた心を癒すように体を重ねたり、身体に刻む記憶としての性交だったり、知らない部分を見つけた喜びだったり……痛くて優しい、温かくて切ない、そんな機微をこれでもかと刻み付けてくる。 こんなの、もう忘れられない。 ♡♡♡♡♡ ●マイガール 身体が繋がれば、心は繋がるの? ●ひとつだけ 好きなものを頬張る貴方が好き。 ●大切な人 渇きを潤す様に、体を重ねる小学生達。 ●駅 兄妹と他人を行ったり来たりの二人の子供は、何度目かの停車場に立つ。 ●おねえさん改造計画 24歳に見えないお姉さんは可愛く変身して、秘密のバイト。 ●デュオメイト カワイイあの子と連弾したい女の子。でも相手が来なくなっちゃった……。 ●八月の夢 教師はあの女子生徒に、聖性と劣情を重ねていた。そのバランスが崩れる時……。 ●Brand Mew Menu 喫茶店の子に出前を頼んだら、相手は僕を知っていた。えっ、地味なアイツが? ●明日 2年前の誕生日のイザコザで、絶交していた二人。その理由とすれ違っていた心は……? ●ナキムシのうた 兄弟のように育った幼馴染みと再会。でも何かつれない……。 ●テンション・ナビゲーション 1・サークルの飲み会で万年幹事のハイテンション女子。笑顔以外の顔を見たい。 2・セックスで何が分かる?という先輩と、本心を知りたい後輩。 3・過去の事件のせいで、彼氏から優しくされる女子。でも本当は……。

なずなのねいろ

三味線弾いていい?存在賭けて鳴らす音

なずなのねいろ ナヲコ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

大切な誰かに教わった物。最早分かち難く身についた行為。大好きなそれを、奪われるとしたら……。 ♫♫♫♫♫ バンド活動に飽きていた高校生・伊賀は、小さな年上の女の子・なずなの津軽三味線の音に触れる。 そのとんでもない音に魅了された伊賀は、なずなに三味線を教わろうとするが、なずなはやると言ったりやらないと言ってみたり……。 伊賀が頑なななずなの心の殻を、少しずつ優しく剥いで行くたびに見えてくる、なずなの心の傷は痛々しい。 全3巻中2巻を費やして、なずなが三味線を「弾きたい」と「弾けない」を行き来する物語は余りに繊細で、苦しい。しかし、なずながそのドラマの重さから解放され、自分らしく三味線を鳴らす時、物凄いカタルシスに満たされる。 ♫♫♫♫♫ 自分の三味線の音は血であり、過去であり、自己であるなずなにとって、三味線を奪われる事は、己の存在を否定される事だった。 例えば同じ津軽三味線漫画『ましろのおと』で、祖父の音を捨てて、自分の音=自分の存在証明を得るべく迷走する主人公の澤村雪と、苦しむポイントは違うが「自分の音=自己を鳴らす」という命題は共通している。 むしろ澤村雪の姿は、なずなの姉を神格化し、なずなの姉の様になりたくても叶わなかった、伊賀と同学年の橘ハルコの方に重なる。 『ましろのおと』に興味のある方は、2008年に同様の命題にチャレンジした『なずなのねいろ』も是非、読んでみていただきたい。