白泉社マンガの感想・レビュー762件<<1617181920>>どれを読んでもよしながふみ先生らしい作品だったソルフェージュ よしながふみ名無し表題作の「ソルフェージュ」は小学校の音楽教師の男と声楽家になりたい男子中学生の話なのですが、二人の関係のことで教師が悩んでいるたびに、そのことに気づいてくれる教え子の小学生の女の子の存在が印象に残りました。 他にも4本の読み切り(「本当に、やさしい。」「パンドラ」「昨日よりいつも違う日」「すこしだけ意地悪な告白」)が収録されていますが、ふと思い出すとしたら表題作よりもこちらの読み切りかもしれません。私は「すこしだけ意地悪な告白」が一番好きです。山田南平先生のBLを読める日が来るとはねイケメン騎士を拾ったんだがどうしたらいい? ~恋するMOON DOGスピンオフ~[1話売り] 山田南平nyae※ネタバレを含むクチコミです。双子ってやっぱり神秘かもそこに山があったとしても 桑田乃梨子nyaeなにか起きているようで、なにも起きてないといえばそうかも知れない、という感じの、双子の男子高校生兄弟を主人公とした淡々とした青春ストーリー。 「双子」というものは世の中に当たり前に存在しているけど、やはり年の違う兄弟姉妹とは何かが違うんじゃないかと思わされる。神秘を感じる。 双子は、自分じゃない方を"片割れ"だと思ってるんだろうか。一心同体なんだろうか。相手の痛みや感情の変化に共鳴するんだろうか。 同じ顔だけど、親しくなれば見分けがつくようになるんだろうか。 双子と密に接したことがない人間の想像力はこんなもんです。内田百閒ってこういう人だったのねヒャッケンマワリ 竹田昼名無し元々、自分の好きな作家さんに百閒ファンが多いので何となくの知識はあったのですが、思ってたよりも変な人で面白かったです。 東京駅の一日駅長に就任したら発車合図を任された特急にそのまま乗り込んで熱海に行っちゃうし、教え子が亡くなったのがよほど悲しかったのか追悼文の最後に「しかしなぜ死んだ。馬鹿。」と書いたり、風呂上がりで全裸のままの夏目漱石に借金のお願いをしたり、とても人間らしくて愛すべき人だなと思いました。 一応、この「ヒャケンマワリ」は内田百閒を考察したエッセイらしいです。ひょうひょうとしながらも文学としての味わいもあるので百閒ファンが読んでも気に入るのではないでしょうか。 「ぼくの地球を守って」のシリーズ第3章ぼくは地球と歌う 「ぼく地球」次世代編II 日渡早紀かしこ『ぼくの地球を守って』『ボクを包む月の光-ぼく地球(タマ)次世代編-』の続編になります。現在も雑誌MELODYで連載中です。『ボクを包む月の光』よりも『ぼく地球』の世界観が戻ってきたような気がしました。前世の記憶を持つ7人も活躍しますし、絵柄にもあの頃に近い雰囲気を感じる時があります。 単行本ではまだ6巻しか発売されていませんが、謎の少女が現れて「大母星が消滅したのはキチェスのせいだ」と言い始め月基地を欲しがり、輪たちが東京タワーの秘密装置にキィ・ワードを入力しようとする展開にワクワクしています。同時進行で蓮くんと妹の地球子(ちまこ)ちゃんにも前世があり、それがある重要人物だったことも判明しました。これまでの『ぼく地球』の登場人物が全員集合する壮大なストーリーになりそうですが、今回の主役は間違いなく蓮くんですね。「ぼくの地球を守って」から16年後の物語ボクを包む月の光-ぼく地球(タマ)次世代編- 日渡早紀かしこ元々は『ぼくの地球を守って』を長年愛読してくださってるファンの方々へのお礼として読み切りのつもりで描かれたそうです。完結から約10年を経ての続編になるので絵柄はだいぶ違います。かなり現代風です。最初は亜梨子と輪の息子である蓮くんの成長物語なのですが、最終的には〈亜梨子と木蓮〉〈輪と紫苑〉の関係がある形でようやく決着を迎えることになるので、この続編でも主役はやっぱり亜梨子と輪だったなと思いました。しかし両親の力を受け継いだ蓮くんの存在が大きな意味のあるクライマックスをもたらしていて感動しました。『ぼく地球』のもう一つのラストとしてぜひ読んでほしいです…と言い切りたいところですが、物語はさらに続編の『ぼくは地球と歌う 「ぼく地球」次世代編II』へと繋がっていきます。不良の女の子がなぜか「風紀部」になる話俺様ティーチャー 椿いづみ名無し東校の不良番長の真冬が警察に捕まって退学になり、新しい学校に転校。するとそこには幼なじみの鷹臣くんがいて、なぜか「風紀部」として平穏な学校を取り戻すために頑張る!というはなし。絵が好きだったのとあらすじが面白そうだと思ったので読んでみました。主人公の女の子・真冬が、可愛んだけど喧嘩も強いというところが単純にかっこいいので大好きです。 愛され末っ子狐の劣等感 #1巻応援ゆらゆらQ 雨隠ギドあうしぃ@カワイイマンガ狐と神主の間に生まれた九人きょうだいの末っ子は、他の優秀で美しい兄姉と比べると、イマイチ。それでも兄姉と幼馴染男子に愛され、明るく過ごしていたが、ある時他人の言葉に傷つき……気がつくと「魅力(チャーム)の力」発動!周りメロメロ! ☆☆☆☆☆ とは書きましたが、「魅力の力」を使わない時の末っ子・久子(きゅーこ)も、ものっそい愛らしいです。のほほん明るい雰囲気に癒されるぅ〜。そして何より良いのは、人を否定する事が全く無いところ。愛されキャラ・久子は「愛する」キャラなのです! その事は兄姉も超カッコいい幼馴染・春人も分かっていて、そのままでいいと言ってくれる。なのに久子は納得しない。そして自分の魅力って何だろう……と悩み、模索するお話が始まります。 困ったことが起こると使ってしまう「魅力の力」で混乱を起こしつつ、春人と恋愛以前のイチャコラして、優しく楽しく愛らしい日々のお話、緩やか〜に進行中!香川男子×長野女子の同棲、割と幸せ進行トナリはなにを食う人ぞ ほろよい ふじつか雪あうしぃ@カワイイマンガ前作『トナリはなにを食う人ぞ』で、見事恋を成就した元ズボラ女子・稲葉さん。社会人になり、料理男子の瀬戸君と同棲を始める本作、なかなか甘々です。 前作と比べ、お酒をがっつり飲んだり、エッチな攻防が繰り広げられたりと、オトナな内容多め。レシピも酒のつまみが増えつつ、作り置き・弁当・副菜等豊か。 何がいいって、稲葉さん一人頑張るわけじゃないところ。瀬戸君も自分の細かい性格を自覚して直し、お互いに生活をすり合わせ、感謝しあったりして、共に楽しく生活する。そんな二人を、素直に見習いたくなります。 一番盛り上がるイベントは、お互いの実家への帰省。食を含め互いの基盤を知ったり、親に認めてもらおうと頑張ったり。特に瀬戸君の実家・香川回は、地域の食、実家の家業や家族構成など、瀬戸君の背景が見えて人物像に深みが。私も長男だから、分かるよ〜。 安定している二人だけれど、実は物凄い偶然のご縁だと知っているから、こちらがこの二人にどえらく感情移入してしまう。おはようからおやすみまで生活を覗きながら、二人の奇跡の続きをいつまでも眺めていたい、そんな作品です。良質な言葉遊びと上品な絵柄とすべてを台無しにするすてきななにもかも4ジゲン にざかな野愛B.B.Jokerが面白いのは国民の総意ですが、より大人の楽しみ方をしたいなら4ジゲンを読むべきです。 なんでかっていうと面白いから。4ジゲンまじで面白いです。B.B.Jokerの方が有名だろと思ってるけどその認識があってるかもわからない。まあどっちも面白いからどっちも読んだほうがいいのは間違いないです。 4ジゲンの舞台となる定時制高校には17〜8歳の子から老人(とその医者や看護師)まで通っています。なので自分と同年代のキャラクターに感情移入しやすいはずです。嘘です。感情移入はたぶんしません。 とは言え、大人のキャラクターも多いのでギャグも大人っぽく言葉遊びが中心です。言語で笑いをとるのってすごく大人っぽいじゃないですか。知的じゃないですか。それに面白いじゃないですか。 というくらいの心持ちで楽しんでほしい漫画です。これは偏見だけどラーメンズ好きなひとは絶対好きだと思う。もっと遡ってボキャブラ世代のひとも好きだと思う。おもしろフラッシュ世代も好きだと思う。なんとなく。 読まなきゃ損する超ハイテンション狸婚活コメディ!!ラブ・ミー・ぽんぽこ! 赤瓦もどむ天沢聖司初めてこの作品に出会ったときから、表紙の上手さを見て「あーこれ絶対面白いだろうな」と思っていたけど、読んでみたら想像を軽々超える面白さだった!読むと無茶苦茶元気が出る…!! https://youtu.be/U9Io0ExsVj8 主人公は一族の生き残りをかけて、人間の男と結婚するため学園に通うメスタヌキのぽんこ。人間の女の子に化けた姿はなかなか可愛いけど、いかんせん本性がタヌキなのでオツムはかなりアホ…だがそこがいい…!! この動物らしい単純な思考にキュンキュンしてしまう。自分は哺乳類飼ったことないのですが、おそらく犬を飼っている人はこういうキュンを毎日味わっているんだろうな〜と、読んでいてホッコリします。 この動物っぽいアホっぽさがいい味を出しているという点で、千年狐にかなり近いものがありますが、根底がシリアスな向こうの話と比べるとこちらはバリバリの学園コメディなので心の底から安心して笑って楽しめます。動画工房にアニメ化して欲しさ2000%。 さらにコメディとして最高だなと思うのが、この作品のイケメンヒーローである二ノ宮兄弟もガッツリボケてギャグに参加して畳み掛けてくれるところ! ただクール気取ってないところが好感度高いし、イケメン2人による勢いのあるボケと鋭いツッコミが面白さを加速させててたまりません。 https://twitter.com/modomutu/status/1184788511276158976?s=20 もうホントにとにかく絵が上手くて…マジで眼福です…かわいい…ニチアサになってほしい…かわいい…🥺 人間の姿も可愛いんですけど、タヌキ姿のときもまるで人間のようなポーズをとったりして全身表情豊かで超可愛いんですよ…! これは絵がうまくなきゃ描けないよなぁと、毎回しみじみ思います。 ぽんこと二ノ宮兄弟の、ラブに発展する気配の全くない飼い主とおバカなペットのようなほのぼのしたプラトニック関係が最高な一方で、動物園のペンギンのぎん(♂)と飼育員のぎんじろー(男性)の2人の“““愛”””に満ちた関係にはトキメキで胸がねじ切れそうになります。 現実でもたまにいて話題になりますよね、飼育員さんに求愛するペンギンって。こうやってマンガで描かれちゃうと、ものすごい健気さで見てるこっちがおかしくなりそう。破壊力すごい。 ペンギン姿でも充分すぎるくらいキュンキュンしてたのに、ぽんこの力で人間に化けるとかも〜〜〜ね。動物マジやば…最高…。 4巻では男装のボクっ娘(イタチ)まで登場してもう全方位敵なしだな…という感想。この優しくておかしい世界をいつまでも見ていたい。 未読の方はいま1巻無料なので読んで笑顔になってください!!成長する芥を見守ろう!そのへんのアクタ 稲井カオルstarstarstarstarstar干し芋所々に出てくるギャク(?)がジワジワきます。 芥くんの酔っ払った時のお礼上戸がツボです。 “週末の英雄”→“その辺のアガタ”に少しづつ変化していく様子をあたたかく、ゆるく見守っていきたい。 鳥取の人たち本当に優しいなぁ。余裕があるのか、大きな愛に溢れてる。 心が緩んでいく感じがいい。 古賀さんの雰囲気好き!!言葉と部活と恋愛とことのは 麻生みことナベテツ男子高で3年間を過ごした田舎者にとって、恋愛のある高校生活というのは手に入れられなかったファンタシーなのですが、この作品はキラキラと眩しく美しく輝いています。 言葉に関する部活と恋愛という縛りのもとで紡がれた短編集ですが、書道部と演劇部のお話は特に好きです(高校の書道部というととめはね、マイナーな作品だとラブレターなんかも思い出されます)。 1話完結のオムニバスで、1冊だけの単行本ですが、紡がれる言葉の美しさと、過ぎ去ってしまった「青春」と呼ばれる日々を思い出させてくれます(自分の青春は決して美しいものではありませんでしたが)。 ビットコインを題材にしたサスペンス漫画ジェネシスコード えりちん 鷹野浪流かしこビットコインを作った人の正体は今も明かされてないって知ってました?それこそ漫画みたいな話ですが、この実話をベースにしている漫画です。ホワイトハッカーの主人公がネットアイドルと一緒に謎の「人質ゲーム」に巻き込まれるという話で、本格ITサスペンスと謳われてますが仮想通貨?なにそれ?みたいな私でも楽しめるエンタメな内容になってます。えりちん先生の描く女の子はやっぱり可愛いですね。ファンなので連載もってくれて嬉しいです。デビュー作を含む川原泉の初期短編集フロイト1/2 川原泉ぺそ※ネタバレを含むクチコミです。清く正しく美しく、それ以上に強くあれかげきしょうじょ!! 斉木久美子野愛現実もこうであってほしい。読み返すたびに強く思います。 ライバルを蹴落とすためにトゥシューズに画鋲を入れるような世界ではなく、仲間達と切磋琢磨して高め合う世界が真実であってほしい。 ちょっと意地悪だったり厳しい先輩は出てくるけれど、かげきしょうじょ!!の世界はみんなキラキラしていて清く正しく美しくあろうとする姿がとにかく眩しい。 蹴落とすとか出し抜くのではなく、誰よりも強く輝けばよいのだという「強者の理論」が気持ちいい。 歌もダンスもビジュアルも秀でた完璧な人間が、同じようにもしくはそれ以上に完璧な人間の中に放り込まれて、容姿や技術さらに心の中までも美しくなっていく という現象が本当に好きなので(宝塚はわからないけど老舗王道アイドルを見ていて思う)そこを描いているかげきしょうじょ!!は本当に素晴らしい!! これがショービジネスを志す若者の真実だと信じて、さらさと愛ちゃんがスターになる日を信じて追いかけたいと思います。 スパルタ料理指南から恋は生まれるかトナリはなにを食う人ぞ ふじつか雪あうしぃ@カワイイマンガ晴れて都会の大学デビューの稲葉すずな。一人暮らしを始めるも、彼女は全く料理が出来ない!テキトーな生活で大変な事になりそうな所を、隣の部屋の瀬戸晴海に救われる。飯ウマ男子の瀬戸君に、稲葉さんは料理を教わり始めるが、彼はめっちゃスパルタで……。 ○○○○○ この作品、私はマンガParkのアプリで知りましたが、掲載誌は白泉社の『AneLaLa』。『LaLa』の増刊とのことで、大学生や社会人、そこを見据える高校生が対象なのかな? 家を出て一人暮らしって、切実ですよねぇ。高校出るまで料理なんてした事ないっていう、稲葉さんみたいな人いっぱいいると思う。そういう人にはこの作品、切実に刺さるはず。その上、私のようにいい歳まで自活を回避してきた人にも、恐々読ませてしまうものがある。 「この漫画読んで、わたし最近、料理始めました!」(あうしぃさん・40代男性) 瀬戸君はスパルタなのですが、真剣で生活を大切にする人。稲葉さんは彼を尊敬し、厳しい教えについて行くうち、少しずつ、料理は上達していきます。 稲葉さんも真剣で、今まで切り捨ててきた「生活」を、丁寧にしようという努力には好感が持てます。さらに結構食いしん坊の稲葉さん。意外と料理、上手くなるかも……?彼女の着実な成長に、ちょくちょく感動させられます。果たして瀬戸君が、彼女を認める時は来るのか? そして実は最初に「タイプじゃないから」と瀬戸君に言い渡されてしまった稲葉さん。このまま何もない、ただの隣人として……?さあ、どうでしょう?夢ならば醒めないでまかない君 西川魯介野愛ほのぼの絵柄と美味しそうなご飯と永遠に続いてほしくなる日常感をまといながら、ハチャメチャに美化された初恋みたいな甘酸っぱいエロスを放り込んでくるとんでもない飯漫画です。 トキメキと劣情のちょうどど真ん中を刺してくるような漫画です。 なんて言うと誤解を招いてしまうでしょうが、従姉妹3人と同居っていうのがファンタジーでドリーミングなシチュエーション。 翻弄されつつも楽しい日常をおくり、いちばん歳の近い弥生ちゃんと何かが芽生えちゃいそうになる感じももう夢でしかない。カジュアルファッションででっかい眼鏡で地味そうなのに無邪気で時折セクシーさも感じさせるという弥生ちゃんもどう考えても夢です。 ピンク髪の姫騎士と同等の夢具合です。 なのに浩平ときたら、弥生ちゃんをはじめ従姉妹たちにドギマギしながらも慈愛に満ちた目で美味しそうな料理を作り続けるもんだから…浩平こそ夢じゃん!!という感情でいっぱいです。 気づいたらハーレム的な鈍感主人公じゃないのがよい。わたしも浩平の従姉妹になりたい。 100%日常にひそませた非日常と、ほのぼのに隠したほんのちょっとの色がどうにもこうにも心を捉えて離さないのです。まかない君おそるべし。 芋煮とおにぎりの組み合わせ最高です。家で食べる手作りおにぎりって特別感があってよいですよね。日本昔話=「異常犯罪」!?てっぺんぐらりん~日本昔ばなし犯罪捜査~ キリエnyae※ネタバレを含むクチコミです。 なんという逆体格差ァあの娘がボクの彼氏です 甘詰留太名無し※ネタバレを含むクチコミです。ぽんこつと言いつつちゃんと部活してる手芸部の日常ぽんこつ手芸部 宇仁田ゆみ名無しあまり見かけない手芸部の漫画です。部長のワタコちゃんが手芸よりスポーツが得意という設定なので、手芸が苦手な人が読んでも共感できる話になってます。完成品の出来はとやかく何かを作るって楽しいですよね。私も不器用なのですが読んでいたら縫い物をしたくなってきました。ミシンは登場せず手縫いオンリーです。でも編み物に関しては得意な方が読んだらより楽しいと思います。宇仁田ゆみ先生は手芸がお好きなんだなぁと思ってたら服飾系の学校を卒業されていたんですね。先生の作品を見てみたいです。予想外の結末大正ロマンポルノ 麻生みこと名無し第1話は盲目の遊女と小説家志望の青年の恋物語。第2話と第3話はその物語を演じる劇団員の演出家と主演女優が主役の話になります。表紙もこの「大正ロマンポルノ」がメインなんですが、もう一つの収録作「徒花(あだばな)」の方が自分は好きでした。新進気鋭の陶芸家の青年が美術商の娘に一目惚れする話です。娘が褒める作品は必ず売れる程の目利きでもあり、お互いの才能に惹かれあって結婚をしようとするのですが、娘には父親から離れられない理由があり、結局は青年を捨てて父親の元に戻ってしまいます。こっちの方がアブノーマル度が高いと思いました。 自分のトラウマをどうやって乗り越えるのか西洋骨董洋菓子店 よしながふみ名無し※ネタバレを含むクチコミです。攻撃のない野球 ~その涙のゆくえ~甲子園の空に笑え! 川原泉影絵が趣味2018年の夏の甲子園といえば、金農旋風が世を席巻しましたが、農業高校が9人の固定メンバーで県予選から甲子園の決勝まで勝ち進んだことが、川原泉の『甲子園の空に笑え!』とまったく同じだと密かに話題になっていました。偶然って、本当におそろしいですね。まさか、川原泉も自分の描いた嘘でたらめのようなマンガの物語が現実に起ころうとは夢にも思わなかったことでしょう。決勝戦で春も制した優勝候補の大本命に負けてしまうところまで同じですからね。 さて、この季節になると、もともとが涙もろい性格なのに、それにさらに拍車がかかります。今年は春夏ともに甲子園はありませんでしたけど、それでも、地方大会や交流試合の中継をみて涙をこぼしてしまう。それだけでは済まなくて、ネットのニュース記事を読んだだけで泣けてきてしまうから困ったものです。それで、まあ、『甲子園の空に笑え!』を読んだら、これまたボロボロに泣いてしまい、今に至るというわけです。こんなに泣けてしまって、自分ってもしかして何かの病気なのかなって思い立ち、色々と調べはじめるぐらいですからね。悲しくて泣いたことっていうのは、たぶん人生で一度もなくて、何かを美しいと思ったときとか、人の懸命な頑張りの軌跡みたいなものを感じとったときにとにかく弱い。つまり、受け身で泣くということはなくて、自分がそこに何かを見出したときに涙が出るみたいなんです。じゃあ、そこに何を見出したのかといって、球児たちの美しさを見出しましたなんていまさら言えるはずもなく、仕方がないので人が泣くことについて調べてみる。 ふむふむ、近年の心理学的見地では「無力感の認知」と泣くことの関連性が言われているらしい。例えば、人が予期せぬ朗報を受け取った時に泣くのは、表向きには、起こっている事態に対して無力である、影響を与えることができないと感じるためである、と。 閑話休題。 野球というスポーツの特異点は、まず何と言っても攻撃と守備の時間が明確に分かれている点にあると思います。攻撃と守備がまったく無関係に独立している、とまでは言いませんが、ルールの上では無関係に徹している。表と裏と言いますけども、表裏一体なんて言葉もありますけども、野球にかぎっては表裏がたがいに独立している。もっといえば、表と裏をひとつの単位にした回というものも、1回から9回までそれぞれに独立しています。三者凡退の回もあれば、ビッグイニングの回もある。さらにもっといえば、各バッターの打席ごとに独立していますし、ピッチャーの投げる一球ごとに独立しています。こうしたひとつびとつのプレイには全て判定があり、名前が付けられています。ストライク/ボール、アウト/セーフ、三振/四球/死球、犠打/単打/長打/本塁打、盗塁/盗塁刺、刺殺/併殺/失策/捕逸、挙げていけばきりがないですね。もちろん記録に残らないプレイというのもあるにはあるんですけども、基本的には全てのプレイに名前があり、記録として残されます。こうしたプレイのひとつびとつが一回一回を進め、野球という時間をつくっていきます。ここらへんがサッカーやバスケといったスポーツと大きく異なる点で、野球は時間のなかで行われるのではなく、ひとつびとつのプレイが野球という時間をつくってゆく。プロ野球のナイターでは、18時に始まって、24時過ぎに終わった試合まであるそうですからね、なんと6時間! ちなみに最短は55分だそうです、短! ちょっと話が逸れましたが、野球というスポーツは、ひとつびとつのプレイ、ひとつびとつに名前があって、それぞれに独立しているプレイのひとつびとつが時間をつくってゆく、尚且つ、それらは記録として残される。良い記録も、悪い記録も、勝敗を分ける点数に結びつく記録も、結びつかない記録も、それぞれに独立していて、それら全てに名前があり、記録として残されるのです。 これは野球にかぎった話ではありませんが、よく失敗を挽回するなんてことが言われます。でも、どんなに次の機会に頑張ったとしても、失敗は失敗としてそこにあるわけで、あったことを無かったことにはできません。失敗は失敗としてあり、挽回は挽回としてあり、それらは表裏一体のような体をなしておらず、あくまでも、それぞれに無関係に独立していると思います。こういった考えは残酷と思われるかもしれませんが、あったことを無かったことにできるというのなら、その逆もまた然りというわけで、成功もまた失敗によって無かったことになってしまう。そんなことが許されますか、めっちゃ頑張っていい球を投げられるようになったのに、たった一球の失投をホームランにされて、それまでの好投は無かったことになる、そんなことが許されてたまるもんですか。でも、試合は試合ですし、相手だってこの一球を逃さないための練習を重ねてきていたからのホームランです。 コロナで春のセンバツが中止になったとき、頻りに救済案ということが言われました。結果として春夏ともに甲子園大会は中止になりましたけど、仮になにか救済案があったとして、それでもセンバツを戦えなかった選手たちの無念は残ると思うんです。救済は救済としてあるかもしれない、でも、それは選手たちの無念とは無関係にすれ違ったままだと思うんです。数学ではマイナス1にプラス1をすれば0になりますけど、人の心はそんなふうにはできていなくて、マイナス1も、プラス1も、ともにそこに変わらずにあり続けると思うんです。 ある意味でこのことは、いっぽうからしてみれば、もういっぽうに影響を及ぼすことができない「無力感の認知」ということにもなり得ます。とくに攻撃と守備が相互に独立している野球というスポーツにおいて、この「無力感の認知」はよりいっそう顕在化されると思います。夏の甲子園の球史に深く刻まれた一試合に「日本文理の夏はまだ終わらない」でよく知られる、中京大中京vs日本文理の決勝戦があります。10-4と大差をつけられた日本文理が9回裏二死から怒涛の追い上げで1点差まで詰め寄ったところで、最後の快音が三塁手のグローブに吸い込まれて終わるのですが、負けた日本文理は負けたのに晴れやかな顔をしていて、勝った中京が悲愴な顔をしている。しかも、優勝インタビューを受けた四番でピッチャーの堂林が帽子で顔を隠して泣いているんです、ほんとうに情けなくて悔しいです、と。このことを書きながら自分もまた泣いてしまっているんですけど、この試合で堂林はホームランを含めた三安打で得点のほとんどに絡んでいるのにもかかわらず、9回裏の情けない自分を悔いて泣いているんです。しかも、10点をとられて負けた日本文理のピッチャーの伊藤、9回裏二死が続いて、なんということか偶然にも彼の打席で満塁となり、三遊間を破るヒットで走者を二人還して二点差まで詰め寄ります。このとき、二塁まで到達した伊藤のガッツポーズもまた忘れられない、さらに次の代打のヒットで伊藤はホームベースを踏んでついに一点差まで! また、このことを書きながらボロボロに泣いてしまっているんですけど。 そして、広岡監督の率いる豆の木高校は守備のチームです。というのも、赴任してきた広岡先生はドライでクールな生物の教師として、何故かやりたくもない野球部の監督を押し付けられ、そもそも汗と涙の高校野球なんてキモチワルイとすら思っている。それで、まあ、ストレス発散にノックで生徒たちをいびっていたら、いつのまにかチームの守備力が向上していたという能天気ぶりなんですけど、そんなドライでクールな広岡先生が不純な動機とは無関係にいつのまにか高校野球にのめりこんでいくんですよ。 守備だけをひたすら鍛えたチームですから、点なんかとれやしない。広岡監督は選手たちに言います「うちのとりえは守備だけなんだから、たとえこっちが0点でも、相手に一点もやらなけりゃ、少なくとも負けることはないのさ」そして、自分自身にも心の中で言うのです「そーだ、守るんだ、それしか生きる道はない」。となれば、攻撃はもはや神頼みしかない、祈ることしかできないわけです。まさに自分たちの守備に誇りを抱いて、人事を尽くして天命を待つですよ。 ところで、甲子園交流試合の鶴岡東5-3日本航空石川では、5-3の9回裏、追いかける航空石川が2アウト1・2塁と逆転のチャンスをつくって、勝利目前の鶴岡東は最後の打者を打ちとったと思ったんですが、それまで投手のピンチを何度も救ってきた遊撃手がエラーしてしまい、満塁の大ピンチを招いてしまいます。結果としては次のセカンドの好守備に助けられて鶴岡東が逃げ切ったんですけど、自分があの遊撃手なら高校最後のエラーを忘れられないと思うんです。だからといって高校最後の試合を勝利でおさめたことが消えてなくなるわけでもない。どちらとも、ともに、それぞれに無関係に独立にして、そこにあり続けると思うんです。 それはちょうど、恋人にフラれてしまっても、かつて恋人と過ごしたきらきらした日々が消えてなくなることのないように、いつか見た川のせせらぎのきらきらが消えてなくなることのないように、全てのあったことは、ネガティブなことでも、ポジティブなことでも、どちらでもないことでも、あったこととして、そこに変わらずにあり続けると思うんです。自分さえそう信じていれば。 思えば、人生なんてどんな人でも負け戦だと思います。あの清原が見事に体現してくれているように、裕福な家に生まれようが生まれまいが、才能があろうがなかろうが、努力で這い上がろうが這い上がるまいが、多かれ少なかれどんな人生もひとしく負け戦だと思います。攻撃のない野球みたいなものです。誰も彼もボコスカに打たれまくって肩で息をしているピッチャーみたいなものだと思います。攻撃のない野球ですから、どんなに上手く守ってもゼロ、最高のパフォーマンスを発揮してもゼロ、ゼロじゃあ試合には勝てません。たぶん、生きるということは大洪水の川のなかにいるのにひとしくて、流されないように辛抱するのがせいぜいで、進むことなんてできやしない。でも、それでも、と信じさえすれば、守備とは無関係のどこかできっと攻撃が繰り広げられていると思うんです。どんなに清原が落ちぶれようとも、かつて清原が打ったホームランは消えてなくならないように、かつて清原が日本シリーズで流した涙がぜったいに消えてなくならないように。 豆の木高校の豆っ子たちが点をとれなくてもあの手この手で(自分たちの手には負えないやり方で、でも、守備だけは懸命に頑張った!)決勝まで勝ち進んだように、今日もどこかで日本文理の終わらない夏が9回裏の奇跡のような猛攻をどこかで繰り広げていると思うんです、すくなくとも自分がそう信じさえすれば!!!! 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表題作の「ソルフェージュ」は小学校の音楽教師の男と声楽家になりたい男子中学生の話なのですが、二人の関係のことで教師が悩んでいるたびに、そのことに気づいてくれる教え子の小学生の女の子の存在が印象に残りました。 他にも4本の読み切り(「本当に、やさしい。」「パンドラ」「昨日よりいつも違う日」「すこしだけ意地悪な告白」)が収録されていますが、ふと思い出すとしたら表題作よりもこちらの読み切りかもしれません。私は「すこしだけ意地悪な告白」が一番好きです。