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7篇からなる最初期作品短編集。表題作をは私がイメージする川原泉先生の絵だったのですが、それ以外は全然違くてびっくりしました。かなり荒削りで拙く、目の描き方や顔の比率などはかなり従来の少女漫画の影響を受けているのが印象的でした。
当時最新作のフロイト1/2から始まり、デビュー作のジュリエット白書が一番最後に収録されている構成です。Wikipedeiaに従って各短編を作品の発表順に並べ替えてみました。(文頭の番号が書籍での掲載順です)
⑦ジュリエット白書 (別冊花とゆめ 1983年冬の号)
何の前情報もなしに読んだなかで、このジュリエット白書が王道ラブコメな感じで一番面白かったです。超優秀な兄に虐げられる2人の妹たちは、いがみ合う兄同士とは対照的に大の仲良し。たまには兄貴たちに仕返ししてやろうと、自分達の素性を隠してお互いの兄とデートし合うが…!? オチがすごく良かったです。台詞回しとかモノローグによる絶妙な間のとり方とかがすでに川原泉テイスト…! これがデビュー作とは驚きです。
⑥メロウ・イエロー・バナナムーン (別冊花とゆめ 1983年夏の号)
宇宙のとある星を舞台にした恋愛ドタバタ劇。
主人公・ミズキは新しくやってくる長官の秘書に任命されるが、その名前を聞いて逃走を図る。実はその長官はミズキの夫で、ミズキは1年前に結婚したもののわずか1時間で逃亡、以来逃げ続けているところだった。
正直このお話が一番、話の筋を理解するのにかなり手こずって読みにくかったです。
②たじろぎの因数分解 (花とゆめ 1983年9月大増刊号)
数学が大の苦手の女子高生が、数学教師と義理の兄妹になりお弁当を作ってあげるお話。80年代っぽい小物でいっぱいで主人公の部屋がすごく可愛い…! 「ダメダメな所もあるけどキラリと光る長所もある」というのがやはり川原先生の描かれるキャラの魅力だと思います。
③悪魔を知る者 (別冊花とゆめ 1983年秋の号)
一番絵の癖が強い!!笑 試行錯誤されていた時期だったのでしょうか。和馬様の顔がとにかく長い。
主人公の若菜は父が勤める大企業の御曹司・和馬に子供の頃から絡まれている。なぜなら和馬は外面こそ善良なお坊ちゃんだけど内面は人格破綻者の外道(若菜曰く、「和馬は発狂した宇宙人類の歪み」)で、親すらその本性に気づかず若菜だけが知っているから。
ヤバい男に平凡な女の子が目をつけられるというテーマが読み応えがあって面白かったです。
④真実のツベルクリン反応 (花とゆめ 1983年22号)
家の隣の病院に越してきた若いお医者さんと仲良くなるお話。
お医者さんも主人公も、家にいて縁側でお茶を飲んだり盆栽の手入れをするのが好きなタイプ。私としては「インドア趣味全然ありじゃんむしろ素敵」と思ったのですが、描かれたのがバブルへ突き進む時期なだけに、2人は家族から呆れた目で見られていたのに時代を感じました。
⑤花にうずもれて (花とゆめ 1983年11月大増刊号)
笑うと体から花が出てしまう女の子のお話。
家庭教師の先生の前で笑わないように頑張っていたのにバレてしまったうえ、昔自分のことを不気味だといじめてきた女の子に再会して…というお話。可愛らしいメルヘンな設定に反して、主人公が嫌な思いするシーンが多い。終わり方もちょっとビターで、辛いことがあったけどでも花のおかげで…という切ない余韻が印象的でした。
①フロイト1/2(花とゆめ 1989年4、8号)
ホント面白くてこれぞ川原泉という感じ。
主人公の梨生は、8歳のときに小田原城で大学生の弓彦くんと出会う。2人は「風呂糸屋」という謎の外国人がやっている提灯屋で、2個1組10円の提灯を5円ずつ出し合って購入すると、なんと2人の夢がつながってしまう。山で遭難し夢うつつの弓彦を梨生が夢で助けて以来、2人の夢は繋がらなくなってしまう。
そして10年後、短大合格が決まり暇になった梨生がバイトすることになったファミコンソフトの会社は、なんと弓彦のもので…!?
梨生の一生懸命なのんびり屋さんぶりがかわいい…!
夢の中では2人とも10年前の姿のままで和気あいあいとしており、普段キリキリしている弓彦も本来の素直さを出しているとこがキュンときた。
7篇読んでみて、アカデミックな小難しさと、主人公のお気楽さの絶妙なハーモニーがやはり川原泉先生最大の魅力だなと感じました。
2つで1組の提灯(ちょうちん)を分けたら、夢の出来事が現実に…。精神分析学の創始者フロイトの魂が、日本の小田原に甦った!?川原教授の哲学ワンダーランド!