新書館マンガの感想・レビュー155件<<34567>>続きは…続きはまだか!八百夜 那州雪絵さいろく2巻が出てから早1年。 まだ2巻なんだぞ!この物語はきっと長く、深いものになると思う。 不老不死の主人公がふらりと訪れたトオワの国は一体どうなるのか、本当に気になる。 久しぶりに良作を探し当てた気分。 マンバの「フォロー」や「また読みたい」ボタンはこういうときにこそ押すものなんだきっと。仕事とは苦労を笑うもの?ネタも休み休み言え! ~闘うグラフィックデザインの現場~ くつきかずや名無し漫画家でありグラフィックデザイナーでもある作者の くつきかずや先生が、雑誌や広告のグラフィック仕事での 実体験をもとにして描いた、 グラフィックデザイン・エッセイ漫画。 判っているようで実はよく判らない仕事というのが 世の中にはけっこう幾つもあるわけですが、 グラフィックデザインってのもその一つかと。 大まかにいえば編集とか構成とかの仕事なんだろうなあとは 判っていましたが、この漫画をよんで、 かなり大変な仕事なんだな、と判りました。 創作能力、デザインセンスを問われるのはもちろん、 作家やイラストレーターなどの仕事の遅れのしわ寄せを モロに押し付けられる大変な仕事なんだな、と。 そして努力が必ず報われるわけでもないし その逆も、あったりする仕事なんだなあ、と。 一般的なセオリーや王道的な仕事のこなし方はあるけれども、 必ずしもそれが絶対でもなく、結果や評価を出すのが難しい仕事。 そこを自ら漫画家でもある作者が自虐的なストーリーや ゆるい系の作画でグラフィックして(笑) 楽しく読める漫画になっていました。 一周まわったうえで「みんな仕事をがんばろうね!」と 思ってしまう漫画です。 タンスの引き出しがトラウマになるホラーヒキ 南国ばなな名無し※ネタバレを含むクチコミです。人は生きながらロジックツリーを広げてゆく #完結応援ロジックツリー 雁須磨子nyaeテレビでよくやる「大家族モノ」が大の苦手で、ああいう中でどうやって自分を保ちながら生きていけばいいんだと思ってしまうんですが、この漫画の主人公・螢ちゃんという高校生は8人兄弟のど真ん中にいる女の子。雁須磨子さんが描く8人兄弟ですから、個性の強さはもちろんのこともれなく美男美女です。こういう家庭だったらいいかもなとか思ってしまうくらいに。 ただ物語としては大家族ものというよりは、螢ちゃんの成長記といったほうが近いと思います。 大家族という大きな海から一歩外に出てみたら、いろんな人に出会って、いろんな感情を知って、いろんな自分を知ってゆく。最初は「それってどういうこと?」「なんでこうなの?」を繰り返していた螢ちゃんが時間が進むにつれ自分なりの生きるロジックを作り上げてゆく。読んでいてワクワクします。 頭のいい大人達が、壁にぶつかり悩み迷う子どもに、どうせ子どもだしと見捨てるのではなく、ていねいに教え、時には何も言わず見守る様子がよい。そういう意味で嫌な大人が出てこないので安心して読んでほしい。 群像劇っぽさもあるので、決して視点は螢ちゃんだけではなく悩み迷う大人たちも描かれます。柚木くん、お幸せにな…!! いやーでもあれですね、雁須磨子さんが描くちょっと陰気なこじらせ男子がほんとに私は好きですね。読んで一番言いたいことは結局それかもしれない笑 あとこの作品、2015年から連載してていまやっと単行本化されたと知りびっくりして腰抜けた お前のような総理大臣が居るか!世紀末プライムミニスター 影木栄貴ANAGUMADAIGOといえばおじいちゃんが総理大臣で有名ですね。つまりDAIGOのお姉さんである影木栄貴先生もおじいちゃんが総理大臣ということです。 そしてこの『世紀末プライムミニスター』は女子高生が弱冠25歳の総理大臣に街中で一方的に婚約者にされてしまうという漫画。この前情報だけで読みたくなってきませんか? 随所で「お前のような総理大臣が居るか!」と突っ込みたくなってしまいますが、どうも裏話としては影木先生のバックグラウンドが記事になってしまい政治ネタが書きづらくなったという向きもあるようです。そんなわけであくまでファンタジーとして読むのが正しいのでしょう。総理番の記者も官邸付きのSPも全員総理の幼なじみなところとか好きです。 一方でところどころの政治家ネタがその世界の関係者でないと出てこないようなリアリティを持っているのも面白い。イロモノだと思って読み始めたら真面目に日本の未来を憂いていたりして…という具合に終始情報量多めで圧倒されながら読んでしまいました。これが『世紀末プライムミニスター』…。謎の多い和風な世界八百夜 那州雪絵名無し2年位積ん読してたものを読んでみた。ファンタジーで和風な世界で800年生きている不老不死の男・ヤオが主人公。国同士の情勢やなぜ先王が女を皆殺しにしたのかなどとにかく謎が多くてすごく気になる。アケトには幸せになってほしい…。百合は不可解、こんなにも。女の子の設計図 紺野キタあうしぃ@カワイイマンガ紺野キタ先生の百合短編集。四つの物語は新書館の『ひらり、』『ウィングス』と一迅社の『百合姫』より。描かれる感情はいずれも、よく分からない所からやって来る不可解なものだ。 ①『女の子の設計図』…久しぶりに共に暮らす、年子で同学年の姉妹は容姿も性格も全然似ていないが、惹かれていく。恋が生まれ、育まれる様は美しい。なのに恋が生まれる理由は、まるっと欠落していて、それでいて自然。それが二人の、生まれ持ったprogramとでも言う様に。 ②『少年』…上級生から告げられるのは「私の中の少年が、貴女に恋した」という言葉。 当人にもよく分からない恋心と向き合い始める下級生もまた、上級生によく分からない感情を抱く。名も知らぬ感情への怖れと切なさに共感。 ③『wicca』…虐めていた女子と虐められていた女子が、一つ空間に繰り返し閉じ込められる。物語も放棄され、原因の分からない「憎しみ」は何処までも増幅されてから、鎮められる。憎しみの無人島百合は静かな恐怖。 ④『おんなのからだ』…義姉は兄貴と離婚する。恋を確かめ体を重ねる元・義姉妹。あんな兄貴を好きだった義姉、あんな兄貴と同じ好みの妹。どこに惹かれるとかではなく、ただ順番に巡り合った「何となく百合」はそれでも、やっと繋がった幸福がただ尊い。 僕が在るべきは、彼岸の国?カナシカナシカ 紺野キタあうしぃ@カワイイマンガこの作品を読み始めて、最初に感じるのは、主人公の少年の「モブ」感。紺野キタ先生のいつもの美少年とは明らかに違う、意志の弱そうな、精気の無い目。主役感に欠けるのだ。 それは読み進めていくと納得いく。確かに少年は、この世に生きる自信に欠けていた。 ★★★★★★ 自分にだけ見える入口、話しかける動物、感じる気配……己がここにいる事に不信を覚えた時、少年は彼らに導かれ、異界に足を踏み入れる。そこにはいつも側に感じていた、分身の少女がいた。 彼女の存在に納得する少年。本当は自分が彼女の影なのだ、という諦めが悲しい。 あちらの世界は和洋折衷でヘンテコだが、なかなか美しい。不思議な異界の〈女王〉になるよう誘われる少年が、異界から出られない少女と対話し、自分の意思を示す物語は、最後まで切ない。己の居場所を知るための、ごく短い「神隠し」の時間を、惜しみ懐かしがりながら眺めていたい。潔癖とドSのBLテンカウント 宝井理人名無し潔癖症の城谷が克服するために、黒瀬が城谷にいろんなことをします。もともとBLが好きで、ウロウロしてたら見つけました。 城谷くんがなぜ潔癖症になったかの理由が神!そして、黒瀬はドSで愛が深いところも神!!恋する瞬間、泣いちゃうんだ。終電にはかえします 雨隠ギドあうしぃ@カワイイマンガ何で人を好きになると、泣きたくなるんですかね?……いや分かる、何となく分かるんだけど、その理屈はやっぱり、分からない。 雨隠ギド先生の代表作『甘々と稲妻』では、幼子のつむぎちゃんの、大粒でぼろんちょと溢れる涙が強かった。ゴチャゴチャ思惑が入り混じり澱んだ挙句、感極まって流す涙には、一切不純物がないのです。 『終電にはかえします』は、女性同士の恋愛感情の短編集。こんがらがったお姉さん達が、恋心に気づいたり、感情が止められなかったり、拒絶されても受け入れられても、思わず感情と共に溢れる涙が印象的。 どんな面倒な背景や昏い感情があっても、恋に踏み込む瞬間、流す涙はやっぱり純粋で、それ故に心を持っていかれる。涙って、ずるいなぁ……でもそれがいい。 涙も含め、複雑な関係性の中からピュアな感情が生まれる、百合短編集です! 付喪神と空っぽ少女を巡る冒険!まぼろしにふれてよ 雨隠ギドあうしぃ@カワイイマンガ付喪神と言うと、長年使った道具に魂が宿るモノですが、こちらの作品の付喪神は人間の欲望が漂って物に取り憑き、仮初の命を宿すというモノ……これが愛らしい!幼くて無垢だったりヤンチャだったりして、これは愛着持ってしまいそうです。 そんな付喪神に憑いた欲望を集めて回る、女子高生の百地ひとこ。彼女は真っ直ぐで優しい、いい子。なのだけれど、ちょっと不思議なのは、彼女が「薄っぺらい」こと。考え無しで欲望もハッキリせず、ただ「ワクワクしたい!」の一念で狸に貰った力を振るう。 彼女はその「薄っぺらさ」に辛い思いをし、自覚してちゃんと考えようとしても、なかなか思考が働かない。その「薄っぺらさ」を巡る物語は彼女の血筋や過去、背景の大きな物語に繋がり、手には汗、目には涙が止まりません。 そして私達が普段、後ろめたさを持つ「モノを大切にするとは、どういう事か?」について、キチンと回答を出していて、納得させられます。ビニール傘から彗星まで、モノが持つ感情って、本当にこんなかもしれないなぁ、と温かな気持ちになれる、深い物語です。人の悪意が「見える」という事ファンタズム 雨隠ギドあうしぃ@カワイイマンガ母と折り合えず祖父と暮らしていた女子中学生は、祖父の死後、兄の元に引き取られる。彼女は人の「悪意」が見える。その事で苦しい思いをしてきたが、ある時それ迄の悪意と次元の異なる恐ろしいモノと、出会ってしまう。 ■■■■■ 彼女に見える「悪意」の描き方が恐ろしい。人を飲み込む闇や、覆い隠す煤といった表現で、まるでタチの悪い怪異の様な緊張感を演出する。 しかし「悪意」は、怪異の様に固定した存在ではない。怒っている人も優しくされれば悪意は消える。犯罪者でも悪意の無い者もいるし、善良な人が悪意を増減させることもある。揺れ動く「悪意」の描かれ方は、リアルに感じられる。 悪意を食べて回る「恐ろしいモノ」に対抗して、人の悪意を減らそうと働きかける女子中学生。その在り方は、私達が「悪意」とどう付き合っていけばいいのか、「悪意」に飲み込まれない為にはどうすればいいのかを考えさせる。 感情の御し方について、何か掴めそうな気がする、本質的な物語だと感じた。BLかと思ってたら違ったおじさんと野獣 糸井のぞさいろく私はもう心が汚れているようでした。 この「おじさんと野獣」は所謂「美女と野獣」の美女がおじさんになったもの…と思えばいいだろう。 ただちょっと違うのはおじさんには美しい双子の娘達と無口だけどかわいい息子、そして義母に従順で無感情な妻と、美しい事で有名なタレントでもある義母というちゃんとした家族がいて、おじさんは婿養子で色々と情けないという事だ。 だけど、そんなおじさんはとても魅力的だった。 おじさんに感情移入してしまうところも多々あり、おじさんが周囲から受けるアドバイスが心に刺さり、おじさんのようになりたいと思った。 一方野獣は野獣だった。 本当に野獣で、意味がわからない。唐突だ。 なんでやねん、と言いたくなる展開だ。でも良いと思う、なぜなら全3巻を読み終わる頃にはきっと読者は彼のことが好きで、応援してしまうから。 守り神×バトルツインバード 高嶋ひろみyrsk加瀬さんシリーズでお馴染み高嶋ひろみ先生のファンタジー。1巻で完結しています。 頼りにしていた姉を亡くした主人公が、姉のパートナーだったという八東寺と出会い、勢力を広げるため自分達の祠を狙っている敵に立ち向かうストーリーです。 八東寺は力はあるが姉のパートナーだったため、自分と契約してくれる相手を探さなければならず、そのあたりの話も面白いです。 3巻分くらいの内容を凝縮しているのでやや物足りない感はありますが綺麗に終わっています。旬と八東寺のその後が読みたい。好きな百合漫画暫定一位終電にはかえします 雨隠ギドyrsk甘々と稲妻でお馴染み、雨隠ギド先生の百合漫画です。BL作家の描く百合漫画は間違いない説を私のなかで打ち立てた一冊。 短編集なので誰しもお気に入りの一話が見つかることでしょう。個人的には表題作「終電にはかえします」が大好きです。ミスコンに自ら出るような女の子(これで思考や性格がある程度つかめるキャラ設定の天才)あさきが、ヤンキーのような見た目で無愛想な後輩、ツネの可愛さに気づくシーンは今まで数多読んだ百合漫画のどれも超えられていません。女の子が女の子に恋をする瞬間、最高なので読んでください。健康になりました恋する僕らは胃腸が弱い 奥田枠yrsk※ネタバレを含むクチコミです。 安心感のある作風上條先生のお嫁さん 鈴木有布子ナベテツ鈴木有布子先生の作品を読むようになってそこそこの時間が経ちますが、どの作品も安心して読める、信頼感の置ける漫画家さんだと勝手に思っています。 本作はあらすじにもある通り、作家と年の離れた奥さんとの北海道での生活を綴った1巻完結の物語ですが、あとがきで鈴木先生が描いている通り、主人公の上條先生のネガティブさが物語をコミカルにしてくれています(最早卑屈と言っても良いくらい)。 日常の中での些事に疲れた時に、ふっと息を休めることが出来る。そんな柔らかさと優しさを持った作品です。恐ろしいのに惹き付けられる「魔法使い」魔法のつかいかた 草間さかえぺそ※ネタバレを含むクチコミです。マトリョミン...カラスヤサトシの日本びっくりカレー カラスヤサトシstarstarstarstarstar_bordernyae正直なところ、カレー美味しそう!食べたい!!っていう漫画ではなかったです。 「美味しいカレーを食す」漫画ではなく「カレー好きが色んなカレーを食べたりまつわるあれやこれやを体験し、思ったことや感じたことをそのまま描いた」という感じです。しかしこれが女性マンガ誌で連載していたというのはにわかに信じがたい。 主に東京と関西地方の店がたくさん出てくるんですが、調べるといまは閉店してしまっているところも少なくない。そしてこの作者はとにかく「激辛カレー」が好きで、自分はあまり辛いものが得意ではないことから、グルメガイド的には参考にならない部分が多いです。なんですけど、なんとなくダラダラ読んでしまう、クセになる漫画でした。 カレーって、知ろうとすればするほど好きになる料理だな、と知りました。好きになる、というか沼にハマって戻れなくなるイメージでしょうか。 この漫画を読んで、カレーと全く関係ないところで得たものは「マトリョミン」という楽器の存在を知ったこと。マトリョミン演りたい。演りたい演りたいめちゃくちゃ演りたい!!!気になったらYouTubeとかで見てみてください。 大変なはずのお仕事を楽しく知ることができるエッセイ暴れん坊本屋さん 久世番子名無し本が大好きな人って、書店員に憧れたことがある人も多いと思うんですよ。 意外に大変なお仕事なんだってことはなんとなく耳にしていたけど、その苦労がすごくよく伝わってくる。けれど、実際に書店員をしている作者さんだからこそのリアリティがあるのに、その大変な部分に悲壮感を漂わせず、ユーモアを交えつつ面白可笑しく語れちゃうのがすごい。このあたりのセンスの良さもあって、お仕事に疲れている時なんかにポジティブになりたくて読み返したくなっちゃいます。 本屋さんじゃなくても、接客経験のある人なら共感できる部分も多いのではないでしょうか。大人になるって・・・。人魚王子 尾崎かおり名無し女性目線で描かれた短編三作品。 夢の世界を見ているような作品たち。 『アメツギガハラ』・・・独自の目線を持っている少女は、将来自分の表現方法を見いだせてよかった。 『ゆきの日』・・・あの子は、今どうしているのだろう。 『人魚王子』・・・ひと夏の思い出深い経験。その日を堺に急に大人になるのは、誰しも思い当たる事があるはず。 何者にもなれない全ての人に捧ぐ物語ぼくのワンピース 山田睦月 菅野彰sogor25私は"LGBT"という呼称が好きではない。L/G/B/T(もしくは"Q"に分類される定義も含め)それぞれが全く違う性質を有しているのに、"LGBT"という名前を獲得した結果、あたかも同一の性質をもった1つの集団のように見える感覚、それがどうも受け入れがたいのである。 この作品の主人公・神鳥谷等(ひととのや ひとし)も、子供の頃から自分で自分を"普通"ではないと認識しながら、どうにも名前をつけること、定義づけをすることができないある"性質"を持っていた。 神鳥谷のその"性質"はジェンダーなのか、好みの問題なのか、それとも何かの病気なのか。そして果たして自分は何者なのか。これはそんな悩みを持つ神鳥谷と、彼とは逆に自分自身に対して不満も疑問も全く持たない大学の同級生・佐原真人、そしてその周囲の人々との物語。 神鳥谷の疑問に対して作品の中から無理やり答えを捻り出すとするなら、「自分は自分でしかない」という陳腐な言葉になるかもしれない。しかし、それを神鳥谷と佐原の、そして周囲の人々との交流を通して作品全体で表現している。物語としても、雑誌連載の作品を単行本化する際に話と話のつなぎ目をなくして1本の大長編のような構成にすることで、神鳥谷と佐原がともに歩んだ人生をまるごと描いたような、そんな壮大な雰囲気の作品になっている。 読む人によって、誰の視点を強く意識するか、そしてこの作品がどういう物語なのかという定義が変わってきそうな、いろんな表情がある作品。タイトルだけを見るとジェンダーがテーマのようにも見えるけど、実際はもっと受け入れる裾野の広い、"何者にもなれない"全ての人を肯定してくれる物語。 上下巻読了 仄暗い桃源郷とそこに射す薄明かり。注目のデビュー短編集桃源郷で待ち合わせ 秋60兎来栄寿主に小説Wingsに掲載されていた作品を収録した、秋60さんのデビュー単行本。 表題作の「桃源郷で待ち合わせ」から引き込まれました。 「パンくわえて登場すんな美少女か!」 とツッコまれる冒頭からは想像もできなかった展開が待っています。社会のルールでは押し込めようもない人間個人の感情に向き合って描いてこそ文学であり、芸術。そういう意味で、非常に文学的な作品です。 そしてそれは同時に収録されている他の二篇も同様です。 「最終上映」は山の上の旅館を舞台にした作品で、個人的に親近感を覚えました。旅館業は無限のタスクが秒単位で生じ続けるので、表出しないストレスもあっただろうな、と。ヒロインの自覚ある未熟さ、兄妹が奥底に秘めた願い、いずれも愛しいものでした。 「戀」は作者曰く「明るいお話」ですが、十分に悲しみが湛えられているお話。「戀は盲目」という言葉を想起せずにはいられない内容でした。お互いがお互いのために存在していて良かった、と思える関係性。 全体的に綴られているのは、悲しみ。ただ、希望と呼ぶにはあまりに儚いものの、悲しさだけで終わらない仄かな光もまた存在します。余白の美を感じる構成で、構成力に妙のある方だと思いました。単行本で三篇が並べられた時にすべてがうっすらと繋がっている部分があると感じられるのは偶然でしょうか。 尚、百合が好きな方にはとりわけお薦めできます。 2020年注目の新鋭として、今後の作品も楽しみにしたいです。ビバ!農業!!百姓貴族 荒川弘マウナケア大学は農学部、田舎育ちで母方の実家は牛を飼っていたり、近所には東京農大もある…と、私にとって懐かしくなじみ深い話題がたっぷり。この漫画、ネタっぽく受け取られるかもしれません。ですがこれ本当(たぶん)。ウチのほうじゃ、鳥のつついたみかんは甘いってんで農作業の合間に食っていましたし、冷凍庫開けたらつぶした子豚がこっち向いて入ってたこともありました。豚の去勢シーンも、やったことあるからこそ自主規制に納得。私はすでに農業と離れているのでクスッと笑えるという感覚でしたが、身近に農業を感じている人は、半端なく共感してしまうはずです。そして農業に縁のない人には、農家がいかに大切かがわかり…って話ではないのですが、小豆がなくなると郷土銘菓・赤福が食べられなくなると知り、無条件で農業を応援したくなりました。ビバ農業と言っておこう。<<34567>>
2巻が出てから早1年。 まだ2巻なんだぞ!この物語はきっと長く、深いものになると思う。 不老不死の主人公がふらりと訪れたトオワの国は一体どうなるのか、本当に気になる。 久しぶりに良作を探し当てた気分。 マンバの「フォロー」や「また読みたい」ボタンはこういうときにこそ押すものなんだきっと。