兎来栄寿
兎来栄寿
11ヶ月前
『ホーリーランド』『自殺島』『創世のタイガ』の森恒二さんが送る最新作。 世の中、法律では裁けない悪人というのがいます。人間の作るルールは完璧ではありませんし、それを遵守させることもまた難しい。従ってどうしてもその網目から抜け出す者はいます。ルールに従い、真面目に生活している大多数の人間にとってはたまったものではないのですが。 そうした理不尽が現実に存在するからこそ、フィクションの世界では社会のシステムだけでは裁けない悪を懲らしめるヒーローを描いた作品が古から人気を博してきています。 本作は、大学で法律を学ぶ青年・カグラが、他人の夢に入ってゆける能力を使って悪人たちを懲らしめていく物語です。 家事で家族を亡くしてしまったが故に炎を憎みながら、なぜか炎を愛おしく思うカグラ。彼がなぜそんな能力を身につけるに至ったのか、その理由も興味深いです。一見すると普通の好青年に見えるカグラの底にある危うい部分が物語を引き締めるスパイスになっており、森恒二さんらしい味わいも生み出しています。 夢の世界での出来事が現実にも影響していくことを利用して、カグラは夢の中でさまざまな犯罪者とやり合っていきます。犯罪者たちの思考や行動など、非人間的なディティールも流石です。 そして、他人の夢に潜るというファンタジー設定がありながらも、やり合う方法が物理的な格闘というのもまた森恒二さんらしいです。カグラが空手の経験者であるのも、どこか安心します。 『ホーリーランド』を読みながら回し蹴りなどの練習をした私は、本作も応援しています。
兎来栄寿
兎来栄寿
11ヶ月前
薬師寺家と毒山家。幼い子が生まれて間もないふたつの家族の話が、同時並行的に描かれていく物語です。 一流企業に勤めるエリートでイケメンの旦那・シュウがいる薬師寺家に対して、ギャンブルに明け暮れろくに仕事もしてないスジモノのような外見の旦那・ゴンがいる毒山家。 そんな対照的な両家ですが、妻の薬師寺ユイと毒山海(マリン)はお互いにこれまでいなかった初めてのママ友となり交流を深めていきます。 ただ、最初の3ページと8〜9ページを見た時ではかなり両家への印象が変わっていきます。 更に、この物語のキーパーソンとなるのが姑。シュウの母親の聡子はシングルマザーであったこともあり、親子共に絆が強くユイや子供に対しても過干渉してきます。子育て中に事前連絡なしに何度も家に突然来られるのは、妻の立場だときついですよね。 一方で、ゴンの母親である虎乃はスナックを経営しておりざっくばらんな性格で海とも非常に気質が合っています。パチスロで買った現生を直接渡してくるなど生々しさはありますが、豪気で優しく温かい性格を見せます。 一見、完璧な家庭に見える薬師寺家の内部の綻び。逆にメチャクチャに見えながら互いを思い遣る心に溢れている毒山家。幸せとは何か、本当に大事なものは何かということを考えさせられます。 シュウの母親はいわゆる毒姑ではありますが、番外編では彼女もまた酷い夫と姑によって苦しんだ経験があることが仄めかされ、最悪の負の連鎖を感じさせます。自分が受けた痛みを違う形で他人に与えるのではなく、痛みを知っているからこそ労わる心を持って負の連鎖を断ち切り子供たちが笑顔で暮らせる世界にしていきたいところです。 育児、モラハラ、詐欺、不倫などに加えてSNSで縦読みを使ったにおわせ投稿など「今」感のある要素もふんだんに取り入れられており、実写ドラマ化などもされていきそうです。 なお、 「もっと善意の押し付けがユイを追い詰める感じにした方がリアルでいい」 というアドバイスをした横山了一さんの奥様は本作の陰のMVPだと思います。
さいろく
さいろく
11ヶ月前
連載開始が2001年らしいので、グレイシー柔術という格闘技が日本中を虜にしていた頃。 当時、プロレスが最強だと信じていた日本の格闘技ファン達を地獄に突き落とした高田延彦vsヒクソン・グレイシー戦。 日本のプロレスが何も出来ずにヒクソンに惨敗した事をキッカケに、日本人の格闘技というものの捉え方が大きく変化しました。 今も当時も、メディアというのは残酷で、当然のようにプロレスは偽物であり強くないという極端な空気を生み出してしまっていたのですが、その壁をぶっ壊し威厳を取り戻すために本気のプロレスラー達が総格に名乗りを上げていったものの、そのほとんどは無惨な結果を残して当時のプロレスファン達の心は離れていく一方でした。 そんな中、桜庭和志がプロレスラーとしてグレイシー一族に連勝し続け、プロレスの威厳を取り戻してくれたのですが… 恐らく本作はその前に構想を練られており、プロレスラーの父の背中を追う少年が、父の仇を討つためにプロレスをベースに総格でのし上がっていくというストーリー。 とはいえ、これが先見の明があったと言えるほど現実ではプロレスが総格を圧倒したわけではなく、桜庭を筆頭にほんの一握りのプロレスラーが軽く爪痕を残しただけでした。 ただ、本作はプロレスファンの心の支えにもなっていたはず。 私は最近読んだばかりですが、当時まさにプロレスファンから総格ファンに心変わりをしていた自分の過去と重ね合わせて楽しむことが出来ました。 漫画的なとんでも展開はもちろんあるんですが、根っことしては「本当に強いのはプロレスなんだ」という中邑の言葉を描くような物語。 当時を知らなくても第三次プロレスブームの現在(既に下火な気もしてますが)、改めて読むと面白いです。
連載開始が2001年らしいので、グレイシー柔術という格闘技が日本中を虜にしていた頃。

当...
たか
たか
11ヶ月前
これはすごいww『海の向こうからきた男』や『ニクバミホネギシミ』みたいな純粋なホラー作品かな?と思ったら「怖い」と「笑い」が波状攻撃で襲ってくる新感覚の物語でした。 まず町全体が呪われているという規模のデカさが最高。 信じがたい方法、ありえない場所で何十人もの人々が首を吊り始めた井間町。その界隈では名高いという、町の神社「篠宮神社」で神職を務めるシズさん(ヒロインの祖母)が中心となり悪霊をなんとか退けていくのですが、シズさん曰く相手は129人の魂の集合体で「町の滅亡を臨んでいるから、町が滅べば悪霊は消える」のだとか。 これほどまでに井間町が祟られている理由…それは知れば納得の胸糞が悪くなる過去にあります。 **〜メッチャ好きなところ〜** **・悪霊が強力すぎて警察も医者も「こりゃ悪霊の仕業ですな」と秒で納得する** **・「(呪いの痕に)湿布出しときますね」** **・町全体が呪われてるから住民全員が被害に遭っていて震え上がりもはや神仏に縋るしかない** **・町の宗教団体、神社・寺・カトリック教会が早々に手を組み一枚岩になるスムーズさ** **・被害者は出るんだけど誰も足を引っ張らない** **・主人公のお母さんが古き良きおばちゃんパーマ(70年代が舞台)** **・シズさんが糸目(ゴリゴリの強キャラ)** https://i.imgur.com/ZxbfQ0i.png (原作:夜行列車/漫画:武者辰虎『首くくりの町 ~篠宮神社シリーズ~』第3話 後編より。ンフフwwwここすき)   「こんなの非科学的だ!」とか誰も言い出さないレベルで怨霊がヤバいため、話が早くて最高。 大人になって以来、「神様を信じる」という言葉や態度ににうっすら警戒心を覚えてしまっていたのですが、この漫画のおかげで子供の頃は神社とかその辺のお地蔵さんに素直な気持ちでお祈りしていたなぁ〜と思い出しました。 小学生4年生の主人公・ケイタが悪霊に取り憑かれたことから真剣に神道の修行に取り組み、神様を身近に感じられるまでになるところはまさに「小さい頃は神様がいて」だなと、スッと納得できました。 12月8日の1巻発売前のプロモーションで6話の前編まで無料公開されてます!読むっきゃない!読んでくれ…! https://kuragebunch.com/episode/14079602755514446246