兎来栄寿
兎来栄寿
11ヶ月前
『こまどりは、夜の帳』、『好きの音色は聴かないで』などの露久ふみさん最新作です。 表紙のカラーの″美″もさることながら、本文のモノクロもまた美麗な絵柄でオメガバースの世界観における美しい雪の肌のΩ・イリヤが、国を統べるカリスマ性を持ち合わせて生まれたα・ハーリドが、高い画力で雄弁に描かれます。 政略結婚に巻き込まれ自分の役目として子を産むことはしても、魂までは明け渡さないと心に誓うイリヤが、ハーリドとの関わりを通して変わっていく姿、またハーリドの方もイリヤによってさまざまな影響を与えられていくところは見所です。 読んでいる間、 「何とご立派な……」 「御身に仕えられること、身に余る幸甚」 「斯様な時が来ようとは……ラタテ神よ」 と、傅く家臣のスゥヤの気持ちに同調し続ける作品でした。民の上に立つ稟質を持つ者の魅力が、画面から伝わってきます。 また、虎のタルジュがとてもかわいらしくて好きです。あとがきで描かれていたようなことを私もしたいです。 玉座を巡る血腥いサスペンス展開もあり、隣国の思惑や駆け引きもあり、シンプルに物語の面白さとキャラクターの心情に引き込まれていきます。 上巻の引きが強く、一体どうなってしまうのか気になること間違いないですので上下巻を一気に買っておいて通読することをお薦めします。
完兀
完兀
1年以上前
『総員玉砕せよ!』は巨匠・水木しげる先生が自身の戦争体験を基に描き切った長編戦記漫画だ(※新装完全版を読んでのクチコミです)。 等身大の兵隊さんたちの日常が淡々と描かれる前半から、その淡々さはあまり変わらないまま物語のトルクは増していき、やがて感動的というにはあまりにも悲しく、あまりにも空しい結末を迎えて話は終わる。私はこれを読み返す度に泣いてしまう。 巻末の筆者あとがきで「九十パーセントは事実です」と物語の最後を脚色したことが語られ、寄せられた解説ではそのことについて「(ラストのフィクション化によって)”事実を超える真実”を描くことに成功した」と評される。 とても同意できるのだが、私としてはあのラストは水木先生にこみ上げてくる”わけのわからない怒り”を最も強く紙にぶつける挑戦であり、戦死者の霊たちがさせた仕業ではないかと思う。そしてそのラストが”わけのわからない怒り”をどれだけ昇華させることに成功したかはわからない。確かなことは、強烈な読後感を読者に与えてくれるということだ。     ラストも印象的だったが、天国のようなところだと作中で触れられる舞台の美しい背景、とりわけ数度あらわれる鳥と花、及び天から射す光が印象的だ。 どれも日本人の想像する天国と結び付けられる存在なのだが、そういった観点で、鳥は物語から姿を消すタイミングが、花は背景に現れるタイミングが、天から射す光はコマとして使われるタイミングがなんとも思わせられる。特に花は、水木先生が大胆に意図して配したフィクションではないかと考える。泣けてくる。         それからこの作品と一緒に、ズンゲン支隊に関するNHKの戦争証言アーカイブの視聴も薦めたい。 水木先生の生証言は当然だが、堀亀二さんの証言なんかも必聴ものだろう。印象深いキャラクターである中隊長の下で戦争を過ごしたズンゲン支隊の生存者だ(1965年にズンゲン支隊の本を出版されてもいる。水木先生も資料としてあたったかもしれないが、この本は簡単には手に入らなさそうだ)。 最後に、些末な不満点が一つある。新装完全版『総員玉砕せよ!』はなぜ文庫サイズで発売されてしまったのか。同時期に出た『漫画で知る「戦争と日本」』と同様のA5サイズだったらどれほどうれしかったことか…
六文銭
六文銭
11ヶ月前
思想の違いから新選組と袂を分かち、伊東甲子太郎を筆頭に組織された御陵衛士。 結果として、新選組から狙われ「油小路事件」へとつながる。 この一夜の事件をたっぷり3巻使って、新選組VS御陵衛士たちの奮闘を描いた力作。 とにかく、剣戟シーンが圧巻なんです。 日本剣術史上最大の戦いと言及されているように、今まで「戦」といえば、対馬上だったり、対鉄砲だったり、対弓矢だったりして、刀対刀での戦いは意外とマレだったんですね。 ガチの真剣勝負ってのは、戦争がなくなった江戸時代を通して、各流派による剣術指導が盛んになってからというのが面白い。 そんな、剣術を磨き込んだ猛者たちが、信念や仲間を背負い戦う姿は、格好いいの一言。 御陵衛士もそうですが、新選組もかつての仲間と戦わなければならない葛藤も、味わい深いです。 普段、新選組は主役になりがちですが、敵として表現される姿も新鮮で良かったです。 一部の過激な新選組シンパの人以外であれば(実際、御陵衛士の1人によって近藤勇は暗殺未遂、捕縛され、新選組の崩壊へとつながるので)、歴史マンガとして、またバトル・友情マンガとしても、楽しめる内容だと思います。
ゆゆゆ
ゆゆゆ
11ヶ月前
タイトルから、これは経費、これは違う、とひたすら教えてくれる漫画かと思いきや! 経理の人のスッキリとしていたり(数字が)、悩ましかったり(人間関係が)、ドラマたっぷり、ラブコメもあるお仕事漫画でした。 四角四面、イレギュラーは調整してイーブンに。 そんな生活、そんな性格の主人公。 あれこれ気遣って仕事をしているのに、まわりからの評価は「怒らせるとこわい」。 経理という仕事柄、そう思われやすいのでしょうか。 そんな主人公の日々のおしゃれだったり、気遣いだったりに気づいて惚れてしまった、営業のエース太陽くん。 アプローチするも、主人公は「いつまで続くんだよ、このおしゃべり」と心のなかで思い話を打ち切るだけで、アプローチと気づかない。 推理モノめいた経理のお仕事と並行して、なかなかハードルが高そうなラブコメも進んでいきます。 お金の話はあるけども、売掛買掛、財務諸表やらなんやらは出てこないので、数字が苦手でも安心して読めます。 ちなみに経費になるかどうかは、「それはその仕事をするために必要な金か」という論理を作れるかどうかだというのは、覚えていても損はなさそうです。 おもしろい漫画です。