兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
溜息が出そうなほど美しい表紙・裏表紙に惹かれたなら、その直感を信じて手に取ってみて欲しいです。 『休日のわるものさん』や『ひるとよるのおいしい時間』の森川侑さん最新作は、滅びた世界で目覚めた少年と、彼をコールドスリープから目覚めさせた自称・大魔法使いの青年が、人間を探して旅をする物語です。 この作品は、表紙・裏表紙や広告のイラストを見てもらえば解る通りまず絵が素晴らしいです。文明が滅びて、植物に侵食された世界が緻密に美しくたくさん描かれていきます。カラーも美しいですし、白黒で細かく描き込まれた背景も魅力的です。樹々の間を差す木漏れ日、苔むした朽ちた建造物、人のいない静寂の世界でも美しく広がる空……廃墟好き・ポストアポカリプス好きには堪らない作品でしょう。 私自身もそういう趣味嗜好が多少ありますが、そのルーツを辿ると幼い頃に無限にリピート視聴していた『天空の城ラピュタ』に行き着く気がします。特に、ラピュタに着いた後に周囲を探索しているときの水面下で魚が泳ぎながらその下に滅びた都市が広がっているという構図が大好きです。『リュシオルは夢をみる』の中でも正にそういった感じの描写が行われていて「ああ、好きだなぁ」となりました。『DQⅢ』で大魔王ゾーマが「死にゆく者ほど美しい」と言っていた気持ちもちょっとだけ解る気がします。 即座に命を脅かすような危機もなくゆったりと静かに進んで行く物語ですが、その中でしみじみと感じ入るようなエピソードも描かれます。 滅びた世界を旅したい方、美しい背景に浸りたい方にお薦めです。
酒チャビン
酒チャビン
1年以上前
Youtubeなどで話題になっていて気になっていたのですが、友達が持っていて読ませてもらいました。 マンガ自体は作者の方が高校生の時に書いてマンガ賞に応募して少女フレンドに載った読切です。 ストーリーはちょっとシンデレラインスパイアというか、前半よくある流れなのですが、自分が本当はブサイクだとバレたところでフラれるのがリアルで新しかった(といっても1966年の作品なのですが・・)です。 作者の中学校時代の文集に寄せた文章なども併録されてるのですが、それも併せて読むと、グッと作者のことを好きになれました。 キレイごとを排して本質をつき(だからエリノアはフラれます)困難にぶち当たりながらも、それでも愛や希望を見出そう、求めようとするその姿勢がいいと思いました。 文集の文章に認められたメッセもすごく共感でき、なるほどと思える内容だったので、もっとたくさんの作品を読んでみたかったです。 仮に生きてらしても他に良い作品を生み出したとは限らないとの意見もあるでしょうが、私個人的な意見としては、小手先のテクとかではなく、すごくしっかりとしたメッセージをお持ちの方のように思えたので、良いストーリーの作品を残された可能性はかなり高いと思いました。 読んで良かったです。普通なら、おっさんが1966年の少女フレンドに掲載された読切を読むチャンスは皆無なので、関係者やネットの進歩に感謝です。
かしこ
かしこ
1年以上前
・朝日新聞「ののちゃん」の連載内で描かれたものをベースに再構成して大幅に加筆修正したものである ・いしいひさいち先生が自費出版で出された ・ポルトガルの民族歌謡ファドの歌手を目指す女子高生ロカが主人公 ・どうやら百合要素もあるらしい ・すごく評判がいい 色んな情報を知って期待値が上がったまま読んだけど超えたと思いました。でも私が一番感動したのは「ロカがインストアライブをやったら客が13人しかいなかったけど、13人全員がサイン入りCDを買った」という回です。分かる人にしか分からないだろうものをやっていくことも本人にとっては幸せだと思うんですけど、でもそれ以上のことがあればもっと幸せなわけで。だからその場にいる全員が認めてくれるって心強いですよね。それが私の中でこのROCA 吉川ロカ ストーリーライブが自費出版で出されたことに重なったりして感動しました。いしい先生にはそんな切羽詰まったものとかないかもしれないけど(笑)。4コマ漫画は読者のその日その時のコンディションで刺さるところが変わるので、感動したポイントは人それぞれ全く違うんだろうな〜。 なんか複雑な気持ちになった時に「サウダージ サウダージ」と言っていこうと思いました。
天沢聖司
天沢聖司
1年以上前
・読んだ直後に思ったこと ※一番大事!※ よくあるテーマと侮って読んだら予想外に面白くて嬉しい!おもしれー女! ・特に好きなところは? 決めゴマがメチャクチャ魅力的に描かれてるところ! ・作品の応援や未読の方へオススメする一言! 女性たちの感情がいろんな方向性で、いろんな組み合わせ飛び交うので最高…!4巻で一区切りなのでぜひ4巻まで読んでほしい!   【以外、長文語り】 まぁ、とにかく主人公の玲琳がおもしれー女すぎる…! 皇太子から寵愛をうける才色兼備で情弱でか弱いお姫様ねーハイハイと思ったらとんでもない!実は虚弱さが日常であるために、どんな高熱であろうと詩作・管弦・碁・舞など教養の研鑽は欠かさないとんでもないド根性の持ち主。 物語の序盤、入れ替わった直後に牢に入れられた際、ゴキブリを素手で捕まえ「(牢の同居人である)ネズミさんのご飯が確保できた」と喜んだところでこいつ只者じゃないなと好きになってしまいました。 1話だけ読むつもりが、気づいたら3話→1巻(KindleUnlimited)→4巻と順調に全部読んでいました。 入れ替わり前は健康なときの方が少なかったからこそ何でも出来る健康な体をこれでもかと桜花し、さらには健康な肉体に元々のド根性が加わりパワフルさが半端ない。軽妙なコメディはほぼ主人公が発信源になってます。 そんな鋼のような強靭な精神力と雅な立ち居振る舞いに寛容さを併せ持つスパダリ(概念)のため、入れ替わり前から各方面から愛されているのはもちろんのこと、入れ替わり後にと呼ばれ「総嫌われ」になっても会う男女をほとんど落としていく。 玲琳(才色兼備で努力家誰からも慕われる病弱な雛女 “殿下の胡蝶”)⇔慧月(人を妬み虐め努力はしない誰からも嫌われている雛女 “ネズミ”) という構図で入れ替わるのですが、慧月に入った状態でも玲琳は ・慧月に虐められていた女官 ・後宮の風紀を取り締まる長官(男) ・芸術を愛する雛女・清佳 ・玲琳を敬愛し仕えていた筆頭女官・冬雪(入れ替わった玲琳をどぶネズミ呼ばわりした) ・慧月 を落としてます。 玲琳を溺愛し慧月を蛇蝎のごとく嫌っている皇太子が、慧月のために汲んだ清水のおかげで玲琳の正体に気づくという展開がよかったですね…。あと冠を外して懇願するとこ。 というかこの作品 ▼妃・姫同士 玲琳⇔慧月 黄 絹秀(皇后)⇔朱 雅媚(朱貴妃) ▼主従 玲琳←莉莉 玲琳←冬雪 玲琳と慧月の関係性の変化を同じ構図で白黒対比させたの、綿密に寝られた演出で好きです。 ▼『ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』2巻6話 https://i.imgur.com/Wl6FjEX.jpg ▼『ふつつかな悪女ではございますが ~雛宮蝶鼠とりかえ伝~』3巻14話 https://i.imgur.com/D2B7chm.jpg マジで女同士のクソでか感情が飛び交いすぎてる。 特に皇后と朱貴妃。これは岸辺露伴みたいにスピンオフで映像化されたほうがいいレベル…。 >「いいや 使わん あんな男に見せてやるのはもったいない これは妾の手巾にする」(ちゅっ) 「ちゅっ」じゃないよ…サラッとそういうことしないで…! そしてこの皇后が玲琳に対してはなんか含むものがあるようなのが気になる。 気になりすぎてコミックスの続きであろう原作3巻を買ってしまいました。いつか超絶作画でアニメ化してほしい!! https://zerosumonline.com/zerosum/comic/futsuakujo 【追記】 そもそも何がきっかけで読み始めたんだっけ…?と閲覧履歴をさかのぼったら、デパコス行ったらめっちゃ褒められたというまとめを読んでたら、ツイ主(中村颯希先生)が『シャバの「普通」は難しい』の人で、しかも名前だけは知ってた『ふつつかな悪女』の作者でもあったとわかったからでした。何が読書のきっかけになるかわかりませんね(しみじみ) https://togetter.com/li/2051279
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
日本列島に最強寒波が襲来して、各地でとんでもない寒さになるとのこと。皆さんも暖かくしてご自愛しながら、部屋でゆっくりマンガなど読みながら過ごすのが良いのではないでしょうか。 そんなゆったりとした時間のお供にお薦めなのが、こちらの『サテライト・コインランドリー』。心の洗濯になる、SF洗濯マンガです。 表紙や1話だけでも見ていただければ解りますが、とてもゆるくて可愛らしい絵で可愛いらしいお話が展開されていきます。ちょっと疲れて、難しいことを考えたくないときにもスッと入ってくる作品です。 聞いた話ですが、アメリカの砂漠地帯の方だとコインランドリーのような施設が極端に少ないところがあり、またホテルの洗濯サービスもコロナの影響で使えなくなってしまっていた時期があって、結果洗濯をできるところが全然ないため旅行者向けに臨時の洗濯代行サービスを行ったら日本円にして1回8000円ほどでも大人気だったということです。 地球上ですらそうなので、とある銀河系で唯一水が豊かにある星で営まれているコインランドリーはさぞ大人気だろうなと思いました。 お客さんとして多種多様な宇宙の住人たちが来訪し、想像力を刺激されます。基本的に1話完結ですが、SFならではのスケールで描かれるお話もあれば、緩いだけではないお話もあり、楽しませてくれます。また、ピニャコなど可愛いサブキャラも魅力的です。 『ドラえもん』や、高橋聖一さんの作品が好きな方にお薦めしたい一作です。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
胡原おみさん、以前に描かれていた『赤毛のアンの食卓から』や『みけねこ鍼灸院』などが隠れた良作で大好きだったので、新作も楽しみにしておりました。 すると、期待以上に素晴らしい作品が登場して嬉しい限りです。 『逢沢小春は死に急ぐ』は、日本でも安楽死が法的に認められるようになった世界の物語です。有名人を多数含んだ集団自殺が契機となり、本人の意志を尊重して自由意志により安楽死を選択することが可能となっています。 世界的にも類を見ない少子高齢化社会であり、労働人口は減る一方であるのに対して医療費は青天井である日本。今後ますます医療技術が発達して平均寿命が伸びていけば同時に尊厳死の問題も広がり、安楽死に関する議論もより活発になっていくことでしょう。本作は、そんな社会を先取りした思考実験的な作品でもあります。 端的に言えば、本作のヒロインである逢沢小春はタイトル通り「高校を卒業したら安楽死する」と決めています。その理由は、聞けば理解できてしまうものであるため、主人公の柏原常(とき)も軽々に止めることは難しい。しかしながら、常もとある理由により小春の安楽死を止められるものなら止めたいと強く思っています。 そんな彼らにより、限られた時の中での青春が繰り広げられていきます。高校生の頃なんて時間は無限にあるように感じられるのが普通で、無為に時を過ごすのも青春の一部という感すらありますが、死を意識している状態だからこそ日々を無駄にしないように大切にやりたいことに全力で生きる彼らは輝いて見えます(純粋に胡原おみさんの絵がかわいいのもあります)。 この作品が良いなぁと思うのは、周囲の脇役たち。ヤンキーやカースト高め女子など、普通の作品であれば悪役や嫌なキャラとして配置されそうなところが、徹底的に良いヤツらとして描かれる優しい世界であるのが、逆に今の時代のリアルも感じさせます。色々な人たちと徐々に繋がって、助け合って。そういう学生生活の描写が本当に気持ち良いんですね。 普通、良いヤツだけだと盛り上がりに欠けそうなものですが、本作は主軸となるテーマとそれに寄り添った全力の青春の気持ち良さだけで十分素晴らしいものになっています。 果たして、小春の死を止めることはできるのか。彼らの時が終わらないことを祈りながら、続きを楽しみに待ちます。