円環のように繋がる壮大な連作短編集
1話の主人公・喜多さんが先生に告白するといういきなりの導入から始まる連作短編集。各話ごとに主人公が移り変わっていき、それが巻を通して読むと円環のように繋がっているという構成がまず見事。また、それぞれの話を見てみると、各話の主人公たちの人生のターニングポイントとなるような場面を切り取って描かれているけど、明確なハッピーエンドともバッドエンドとも描かれていない作品が多い。同じ事象を別視点で描いている部分も多く、受けてによってプラスにもマイナスにも捉えられるということを思い知らされる。そして何より、どんな人にでもそれぞれの物語があり結末を迎えることなく進み続けるしかないということを1冊を通して感じさせる壮大な作品。
間違いなく2019年で最も注目すべき新人作家の一人でしょう。
世界はこんなにも多彩な感情が幾層にも折り重なり、互いに響き合って混在しながら今日も回っているのだなあとしみじみ思わされる物語たちが集まった短編集。その中では、世界におけるその総量など全く意味を持たずそれぞれに切実さを持ちながら発露したり秘められたりしているあらゆる感情が豊かに描かれています。非常に令和感のある、鮮烈な一冊です。
個々の背景から生じる種々の強い想いは、人によって共感したり辛くなったり、愛おしくなったり嫌悪を催したりすることでしょう。
一冊の本としての満足感がとても強いストーリーテリング・構成力もさることながら、端然とした絵もまた実に魅力的です。
また一人素晴らしい描き手が現れたことに乾杯しましょう。ひの宙子さん、今後の活躍が楽しみです。