酒チャビン
酒チャビン
1年以上前
全19巻なのですが、17巻くらいまでは王道中の王道と言っていいスポーツマンガです。 良いですね。 やっぱ高校部活ものは、代替わりなども良いですし、先輩後輩の関係とか、あと同期の友情や逆に妬みなど、3年間という縛りがあるからこその儚い夢的な、なんと言っていいかわからないのですが、高校部活ものが良いです。 本作も17巻まで王道中の王道の高校部活もので、しかも先生はジャストミート等でおなじみの原先生なので、安心して楽しく読めます。先も猛烈に気になります。ピンチにはハラハラしますし、勝てばこっちも嬉しいです。 ですが、18巻19巻にまさかの展開が・・・ --以下激しくネタバレです-- メインのキャラ(ピッチャー)である江崎が1年夏の甲子園で、全国的な名門である成京学院戦でナイスピッチングをし、勝利するのですが、古傷でもある肩をイワせてしまいます(その直後の準決勝で敗退)。 一時は再起不能を宣告されるも、チームのみんなや関係者、監督、医師、ケガ後に知り合ったももこの助けもあり、なんとか再起します(ももことは互いに惹かれ合う展開に)。 けれども再起後はケガの影響で「全力で投げるのが怖い」というトラウマになっていて、どうしても以前のような投球ができず、苦しみます。 そんなときまさかのももこさんがレイプされてしまいます・・・ 江崎はその事実から受けたショックと、何もできない自分への怒りで自暴自棄になりかけ、犯人を殴りに行こうとします。ですがももこの願いはそんなことではなく、江崎が投手として復活すること。色々な感情が交錯する中でそれをボールにぶつけることにより、江崎は完全復活します(2年時・3年時と連続で夏の甲子園優勝。あと大量の試合で完封してたと思いますが細かくは忘れました)。 2年の甲子園の前にももことは別れてしまってましたが、最終的には良い感じになったように描かれてましたので少し安心したのですが、この18巻・19巻は結構な鬱展開で、ただの面白い野球マンガ以上の爪痕をわたしのこころに残した作品です。 そのような展開ですので、「面白い」と一言で片付けることは抵抗がありますが、とにかく先が気になり続けたマンガではありました。17巻までがむしろ明るく、ほがらかな作風だっただけにそのギャップにもビビりました。とにかくももこさんにだけは幸せになってほしいと願うばかりです。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
生きて、死ぬ。すべての人間に例外なく訪れるその最後のときを、どのように迎えるのか。 40歳で漫画家を志してデビューし、現在76歳の齋藤なずなさんが数年前から少しずつ描き連ねた連作短編が単行本化されました。 「現在、読者のニーズは多様化しているにもかかわらず、『青年誌』『青年コミックス』という大きな呼称ではシニア読者に届けきらない時代になってきました。そのため、人生のフロントライン(最前線)に立つ70代以上の読者に向けたレーベルとして、新たな売場を創設していく必要性を感じ、今回『ビッグコミックス フロントライン』レーベルを誕生させました」 として「老いや介護、看取り、終活、終の棲家など、シニア世代向けの題材」を扱った新レーベル「ビッグコミックス フロントライン」の作品です。第一弾の『父を焼く』から始まり、読み応えのある作品を送り出してくれています。 内閣府のデータによると、1980年には65歳以上の高齢者を含む世帯数は800万世帯ほどで、その内単独世帯は90万世帯ほどでした。それが現在では、昨年厚生労働省により公表された「2021(令和3)年国民生活基礎調査の概況」によると、65歳以上の高齢者を含む世帯数は1500万世帯で、その内単独世帯が742万世帯と約半数を占めます。今後ますます高齢者を含む世帯、とりわけ単独世帯は増えていくことでしょう。 本作では、かつて「ニュータウン」と呼ばれた街のとある団地を舞台に、主に高齢者を中心にした群像劇が描かれます。1話完結型ですが舞台や登場人物は共通しており、それぞれの人物の語られる深度の違いや、異なる視点から見たときに感じられるものがまさに団地での人付き合いに似た手触りを覚えさせられます。現代的な、基本的に隔てられていながらも薄く繋がっている時代における「最期」を意識したお話たちは、来るべき未来のお話として切実です。 中心となっている人物のひとりは一人暮らしでマンガを描いている女性で、同じく団地暮らしであるという筆者の実体験や考えが多分に反映されているのでしょう。 自分から見れば羨ましく見える状況が、その人にとっては悩みの種であったり。 表には何の苦労もなく生きているように見える人が、裏ではとても辛い想いを重ねていたり。 人にはそれぞれの幸不幸、天国と地獄があってそれは簡単に外から推し量れるものではないということをさらりと鮮やかに見せてくれます。 自分は売れた経験もなく、若い才能はどんどん出てきて、苦労して描いたネームも没になり、それでも僅かな国民年金では生きていけないので体調不良を押して次から次へと死ぬまでマンガを描き続けねばならない。しかし、そんなことすらもある人からは「辛くても本気でやらなくちゃいけない、誰でもできることじゃない自分だけの仕事があることが羨ましい」と言われます。こういう所が本当にグッときますね。 どのお話もそれぞれの良さがありますが、1話のガラケーからスマホに変えて「フェースブック」を始める男性のお話がとても好きです。SNSは負の側面が取り沙汰されがちですしそういう部分もしっかり描かれますが、ひとりで暮らしていても繋がりを持てることや、アップする写真を撮るためにそれまで見向きもしなかったものに触れることで生まれる豊かさは良いものです。このお話は構成も良く、ラストの美しさに感じ入ります。 試し読みの冒頭から情報量が多く、最初は少し取っつきにくさも感じるかもしれませんが、本当に素晴らしい作品で広い世代に届けたい1冊です。