ちほちほ先生は、岩手県宮古市在住の漫画家です
主として日常エッセイ漫画を描いています
私が先生の作品に初めて触れたのは、「好日(前編)」という短編エッセイでした
ツイッターで話題になってたのかな…?当時はpixivで読めました
内容は、東日本大震災の話です
宮古市は、津波でかなりの被害を受けた地域。そこにいた人のエッセイ漫画というと、やはり、ものすごくドラマティックなというか、衝撃的なというか、そういうものを、読み手としては期待してしまう
でも、そういうものではありませんでした
ちほちほ先生の描く震災は、当事者目線でありながら、どこか乾いた感触で、淡々としていて、でもだからこそ、ものすごくリアルだった
もちろん、これは、ご自宅も家族も無事だったからこそ、という背景があると思うのですが、それにしても、「震災をこういうふうに描ける」というのは、かなりの衝撃でした
実は私、東日本大震災のときには気仙沼に住んでました
幸いにして、自宅は無事、身内で亡くなった人もいなくて、被災者のような被災者でないような、不思議な立場でした
そんな立場の人間の感じる、震災に対する距離感というか、視線というか、そういったものも、見事に描写している作品でした
3.11当日、テレビでは、火の海に包まれた気仙沼の空撮映像を流し、「気仙沼市全滅!」みたいな報道をしていたそうです
しかし、現地にいた私は、テレビもうつらないし(停電)、携帯電話も繋がらないし(基地局が潰れた)、仕方ないから、懐中電灯の明かりの中で、自宅で「バイオレンスジャック」を読んでました(でも怖いから10分おきに外に出て津波の様子を確認していた)
そして、ああいう災害を経験すると感じるのは、災害と日常は地続きなのだということ
そこにははっきりした境は無くて、災害はいつ起きるか分からないし、災害と日常は、実は、同居しうるものであるということ
この作品を読むと、そのことも思い出されます
ところで、ちほちほ先生は、「好日(前編)」を含む作品群をコミティアで発表していたのですが、その後いろいろあってトーチで賞を貰い、さらにはトーチで連載を持ち、コミックが3冊発売されました。それが本作「みやこまちクロニクル」です
私、「好日(前編)」を読んだあとは、恥ずかしながらちほちほ作品を追ってなかったのですが(『「好日(前編)」は良かったけど、それ以外は読まなくてもいいかな…』とか思ってた)、現在、リイド社の電子書籍がセール中とのことで、せっかくなので全部買って読んでみました
1冊目(震災・日常編)は、コミティアで発表していた作品群の再録。「好日(前編)」もタイトルを変えて収録されています
2009年~2016年まで描かれており、震災の話、復興の話、そしてその中での日常が描かれます
2冊目と3冊目はトーチ連載分。「コロナ禍/介護編」「父ありき編」です
2019年~2023年まで描かれています。内容は、主として、親の話。ちほちほ先生は、両親と同居して暮らしているのですが、特に父親について、介護が必要になって、次第に、状態が悪くなっていく描写が描かれます
正直、かなり重い話です
でも、不思議と暗くはない。また、やはり描き方は淡々としているので、比較的あっさり読めてします
でも実は激重なので、読んでいると、気づかない間に、どんどん心が重くなっていく
変な例えですが、「軽く飲めるのにアルコール度数高いお酒」みたいな作品…というか
また、これは私の個人的な問題なのかもしれませんが、非常に強く感情移入できてしまう
ちほちほ先生と自分は、きっと、似た感性をしているのだろうなとか、私も同じ状況に置かれたら、きっと私もちほちほ先生のように感じるんだろうなとか、そんな気持ちになってくるのです
思考がトレースできるとか、人生を追体験できるとまで言うと大げさですが、それにしても、あまりにも強く共感しすぎてしまう
作中で、登場人物(特に親)が、強めの訛りを使うのもポイントですね。私も岩手出身なので、登場人物が、何を言っているか、どういうアクセントなのか、はっきりわかってしまう。ちょっと、リアルすぎる
私は、結局、東北を離れ、今は関東で暮らしています
この作品を読んでいると、これは、「もし自分が東北に残ったら」という、ifの物語なのかもしれない、とも思えてきて、他人事とは思えなくなってしまうのです
あと、うちの親はまだ元気ですが、将来の親との関係も考えなくちゃいけないなとか、そういうことも考えさせれました。まぁこれを言い出すと今度は「父を焼く」の話になるのですが、ここでは触れません
何を言いたいのかというか、この作品は傑作だということです
「好日(前編)」だけでも傑作だったのですが、「コロナ渦/介護編」「父ありき編」は、別ベクトルで傑作です
そして、この作品は、私にとっては、忘れられない作品になりました
3巻の「続き」はまだ描かれていないようです。続きを読める日を待ち続けたいと思います