あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
1年以上前
『対ありでした』の内容については前のクチコミを見ていただくとして、ここでは本作の作者・江島絵理先生の過去作を引き合いにして、本作の魅力を別角度から見たいと思います。 まず『対ありでした』の1巻表紙、カワイイ女子の「涙」が印象的です。結んだ口、溢れる大粒の涙。強い感情がもう、そこにはある。 江島絵理先生の前作『柚子森さん』でも、小学生女子の柚子森さんの「涙」が、印象的でした。女子高生の主人公・みみかに惚れられる柚子森さんは、普段はクールです。いつもテンパっている年上のみみかを、表情を崩さずにリードする役割。 そんな柚子森さんが、遂に涙を流す時というのは、感極まった想いと怒りが溢れる瞬間でした。思わずもらい泣くような、強い感情の大粒の涙。 一方みみかは、柚子森さんの前では常に紅潮しながら、汗をかいている。そして柚子森さんに気持ちをぶつける時、やはり大粒の涙を流す。二人の流す、ここぞという時の「体液」に、心を持っていかれるのです。 さらに前前作『少女決戦オルギア』では、例えば殺される間際の女子高生の、震えと共に汗・涙。今際の際に流れる体液が表現する恐怖に、同調してしまう……それは殺す側の主人公・水巻舞子の、汗ひとつかかないクールさとの対比で強調される。 さらに致命傷の傷から噴き出す血液は、瞬く間に怪物となって、敗者を喰らい尽くす。死の刹那の、黒い奔流。 ここぞという所、極まった瞬間に迸る体液の生々しさに魅せられる、江島絵理先生の創る画面。 『対ありでした』でもそれは、遺憾なく発揮されます。皆の憧れのお嬢様「白百合さま」は、普段は汗などかかない。湿度0%のさらっさら。それが人知れずアケコンに向かう時……汗をかき、負ければ涙し、噛んで血すら吐き……熱すぎる感情剥き出しの、度を越したゲーマーが湿度100%で表現されます。 そこにはやはり、熱く飛び交う、過剰な感情表現としての「体液」があるのです。 そんな白百合さまを、たまたま見てしまった主人公の綾。お嬢様を目指して格ゲーを捨てた綾に、その姿はどう映るか。綾は白百合さまに心動かされるのか、白百合さまに煽られて、体液を迸らせる時は来るのか……。 ○○○○○ 『対ありでした』を楽しまれた方は、江島絵理先生の「体液」と熱い感情のある旧作も、どうぞご覧下さい! 少女決戦オルギア https://manba.co.jp/boards/17564 柚子森さん https://manba.co.jp/boards/73510
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
結婚するときに「互いの好きなものを尊重して否定しない」というのは大事な条件だと思います。世間ではたまに夫の鉄道模型やガンプラが留守の間にすべて処分されるなどの悲劇も起こってしまっています。お互いに同じものが好きであれば理想ですが、せめて自分にとっては興味がなくとも相手の中ではそうではないかもと想像できるとこの世の悲しみは幾分減ります。趣味嗜好がより細分化していっている現代ではなおさらでしょう。 私の家族は「ジャンルは何にせよオタクはオタクと結婚するのが幸せ」と主張しています。自分に命より大切にしているものがあるからこそ、相手のそれを侵さないということを自然に行える人が多いからです。 1話を読んだときから大好きになって、こうして1巻が発売して紹介できるのを楽しみにしていた『ラブらず 恋が分からない男女の話』のふたりは、そういう意味では夫婦としてはある種理想的です。 塚瀬清春と早見りこ。恋愛という感情をまるで理解できない同僚の男女同士が、互いに協力してその気持ちを何とか理解してみようと悪戦苦闘する「ラブらないコメ」です。現代ではこのふたりの考えに共感できる方も非常に多くなってきているでしょう。 清春は、握手会などにも行く推しに生かされているドルオタ。一方りこは、鉄オタで同人誌を作って即売会にも参加するほどの熱量。このお互いの趣味に対して、無関心でいてくれるならそれだけでもういい伴侶でしょう。しかし、清春はりこのサークルの売り子として即売会に参加するのみならずりこの本を熟読してツボを押さえた感想を述べてくれるし、りこはりこで清春の推しへの想いを最大限に尊重しながらも握手会にも付き合ってくれるのです。 もちろん、実際に結婚して一緒に生活するとなったら他の細かい部分に関する許容値の多寡も問題になってきますが、入口はパーフェクトではないかと思わされます。 ふたりは本物の恋人同士がやるようなこと、例えば高いレストランに行ったり綺麗な夜景を見に行ったりといったことにも一生懸命トライするのですが、それでも恋愛が理解できず変な思考と言動に陥る様は笑えながらも人によっては強く共感するところでしょう。 私自身、三次元の人間と恋愛したりましてや結婚したりする気はさらさらなかったので、清春とりこの気持ちは非常に解ります。ただ、気付けば至極円満な結婚生活を送って数年。私も恋愛という過程はほぼ経ずに「何だか一緒にいることによるストレスが全くないなぁ」で結婚に漕ぎ着けたので、彼らもきっと夫婦になったらいい関係性でやっていけるだろうと思います。 そこまで行くかどうかはわかりませんが、普段は穏やかでありながら熱い心も持ち思い遣りに溢れたふたりのやり取りだけでも微笑ましく楽しいので、今後も見届けて行きたい物語です。