ピサ朗
ピサ朗
1年以上前
この作品に関してはもう評する術が無いというか、本当に凄い作品なんだけど、一応ネタバレ感想にした上で少しぼかして言うと「最後の最後の展開」が、この作品に100か0の極端な評価を付けざるを得ない物にしてしまっている。 関東を襲った地獄地震で死の荒野と化した関東でどんな力に蹂躙されながらも逞しく生きる人々、破壊と再生をもたらす謎の男バイオレンスジャック、自分も含めた人を傷つける事しかできない怪物のような人間スラムキング、さらに永井豪作品から多数のキャラがゲスト出演しているお祭り感も凄まじく作品から物凄いエネルギーが迸っている。 とにかく徹底してるのは暴力描写、東京が壊滅した状態でお上品に生きられるはずもなく、比較的理性を失ってない人でも暴力を持たない訳にもいかず、失った人は当然もっと凶悪な暴力を振るい、どんな人間も生きるため奪うため立ち上がるため、何かの為に戦って戦って戦い抜く。 この暴力の嵐、とにかく徹底的におぞましいほどの人間の悪性と描かれながら、人間の強さと共に描かれており、グロテスクですらある程の強烈な暴力描写がむしろ爽快で清潔な印象さえ出ている。 多数の登場人物の中でもタイトルにもなっているバイオレンスジャックは放浪する謎の男として描かれ、関東の魔王スラムキングは詳細が描かれていてこの二人が一応の主役と言えるが、どちらも人間離れしているが、悪役として描かれているはずのスラムキングは徹底した暴力で人々を蹂躙するのだが、素性からすればその怪物的な所業はむしろ人間的ですらあり、バイオレンスジャックが一応人を救う側でありながら徹底して素性が明らかにならず徐々に人間離れしていく事から、むしろ作中後半はスラムキングに感情移入してしまう…の、だが、 とにかく最後の最後の展開があまりにもあまりにもな展開で、一応綺麗に完結しているのだが、これを「有り」にできるか否かで間違いなく分かれるだろう。 幸か不幸か、自分は中盤辺りでネタバレ遭遇してしまったので、その衝撃はリアタイ読者より数段劣るだろうけど、実際評価不能になってしまった。 ネタバレ無しに読んでればおそらく賛・否いずれかに属していたのだろうけど、中盤までは滅茶苦茶楽しんでいただけに肯定したいのだが、最後の最後を肯定できるかと言うと難しい。 ネタバレ無しに読んでいればおそらく否定していたのではないかという思いがどうしても消えない、そのためどうしても自分の中で評価不能になってしまっている。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
孤独に寄り添う物語を、いつの世も愛しています。 『アタマのナカの鈴せんぱい』や『ベイビー・ブルー・クラスター』の原作でも知られる、にゃるらさん企画の美少女ゲームが原作で、ネームを『吸血鬼すぐ死ぬ』の盆ノ木至さんがある本コミカライズ。もう、1話目から引き込まれました。 最近は配信者をテーマにした作品も増えていますが、この作品の秀逸な点はヒロインのあめちゃん(配信時は「超絶・最かわ・てんしちゃん」略して「超てんちゃん」)視点ではなく、彼女をプロデュースするプロデューサーのおじさんの視点で描かれていることです。 あめちゃんのキャラクターは非常に破天荒でかなり際どい言動が繰り広げられますが、常識人であるおじさんがツッコミ役、あるいは調整役として挟まることによって多くの人が共感を得やすい作りになっています。 そして、何よりにも物語の根本にあるダウナーさと、切実な感情が最高です。 あめちゃんの、意識低めで社会的に不適合な立ち居振る舞い。そして、その裏にある孤独、それを埋めたいがために生じる承認欲求。 そんな彼女を支えるのは、現代社会の暗部によって貶められ挫折を味わい底辺にいる元アイドルプロデューサー。 何者でもなく社会的弱者であるふたりが出逢い、始められる塵芥のような世の中への反逆。そんなの、応援せずにはいられないじゃあないですか。ふつうに生きていたら接点などないであろう、しかし強烈に結び付いてしまったふたりの関係性がね、良いんですよ。 まさに「今」な物語とキャラクターが描かれており、超てんちゃんが少しずつ人気を博していったときに語られる過去のパートなど、実際読んでいて救われる人も多いのではないでしょうか。 個人的に5話は特に神回だと思っているのですが、単行本では巻末のおまけとしてまさにその部分の盆ノ木さんのネームが7ページ分も掲載されています。ネーム段階でも既にとても良いんですが、やはり大倉ナタさんの絵が乗算されて最高になっているなと感じます。このシーンの表情は、とりわけ大好きです。 私のように原作をまったく知らなくても問題なく楽しめますので、9月のパワープッシュ作品として推したいです。 ここ数年はAVGやりたくてやりたくて我慢して震えている状況なのですが、ルーツとなっている作品群に親しんできた身としては原作にも触れてみたいと強く思います。