鳥人間2019/04/14言葉で説明しづらい、不思議な読後感に浸れるpanpanya先生の作品は、不定期だけど繰り返しパラパラと読み直したくなる、アナログで手元に置いておきたいマンガのひとつ。 その商業第1作『足摺り水族館』。 個人作品を再構成しつつ、未収録作品を追加されたもの。この雑多な感じが魅力だなーと思う。panpanya先生といえば現実と非現実をフワフワと漂いながら行ったり来たりするような、不思議な世界観が魅力。 表題作「足摺り水族館」は作中で3編に分かれて描かれている。古めかしい栞に誘われて不可思議な空間へ向かう。中編は写真と文章で日記みたいな感じ。後編はなんだかもう集大成といった雰囲気。 他にも様々なテイストの作品があって面白い。 お母さんからのメモに全く読めない謎の言語で書かれた品物が一つあり、それをなんとかして買いに行こうとする「完全商店街」。木炭絵?っぽい画風の「イノセントタワー」(2つ目の京都タワーに向かうお話)。不可思議な空間を少年が歩いていく描写で台詞が一切ない「無題」。喋るし動く自動販売機のお話「マシン時代の動物たち」などなど多種多様。 これ以降の作品も、もちろん素晴らしいけれど、本作はとくに各作品個性が際立っている気がする。まさに混沌。中には合わない作品もあるかもしれないが、「読んでよかったなー」と思うエピソードがきっとみつかる、はず。 そして「無題」がさっぱりわからないので誰か教えてほしい……(笑)足摺り水族館panpanya2わかる
鳥人間2019/04/04近未来老後SF!軌道エレベータが建設された結果、沸き起こる宇宙バブル。数多くの建造物が宇宙に作られ、そこに移住する人々が増えた時代。冒頭で、若い夫婦が宇宙へと旅立つ。その先にある夢が語られると思ったら……そういうのはすっ飛ばして、まさかの老後が描かれている。 老夫婦の暮らす場所は、宇宙バブルの頃には最先端だったホテルが老人ホーム化され、老朽化に耐えながら運用されているようなところ(低重力環境は老人ホームにちょうどいい)。医療の進歩で高齢者の肉体的な若返りはある程度、実現している。しかし脳についてはまだ未知数な領域で、認知症は解決されていない。そんな状況で暮らす、認知症を患った妻と、その夫のお話。 なるほど自分たちが年老いた場合、こういう環境に身をおくことになるのか……そんな想像をしてしまうほど近未来の世界観がすごく興味深かった。そして、ほとんどのSFが寿命を超越したり、心身共に若さを保ったものな気がするが、この作品は「わりと普通に老いる」という視点で描かれていてとても新鮮に感じた。 作中、リハビリを受ける高齢者たちが描かれている。認知症になっても手先を使うことは覚えているということで、キーボードやゲームコントローラーをガシガシ使っている姿にちょっと笑った。 自分が老人になっても……ゲームはしてそうだなぁ(笑)半世紀の箱庭かやまゆう5わかる
鳥人間2019/03/12ネタバレアスペルガー症候群の女性の自伝的バンド・デシネアスペルガー症候群の女性を主人公とした物語。病気を知る前の日々思い悩む姿と、病気を知って、共存していこうとする姿が描かれている。カラーで描かれていて、主人公の女性の感覚を、本人の言葉や表情で語ることなく、色で表現しているかのような使い方が素晴らしいと思った。真っ赤に染まるコマはこれほどのストレスなのかとゾッとする。 フランスも日本的なところがあるんだね。むしろ、自閉症についての理解がかなり浅い。一般の人はもちろん、医者ですら「君は自閉症なんかじゃない」と言い切るというのはある種の恐ろしさを感じる。 そして社会に入るのであればその社会になじまないといけないという、同調圧力。日本っぽく感じたほどだけど、これはフランスの物語。程度の差はあれど、どこにでもあるのかもしれない。 郷に入れば郷に従えというがそれができない病。何がつらいってそれを「病」であると主観的にも客観的にも理解するのが難しい病気であるということ。でも、それに気づき、理解してくれる人が周囲に増えて、ただただ思い悩みながらルーティンで刻んでいく生活から、日々を楽しむ生活へと切り替わっていて、本当に良かった。 純粋に面白かったし、病気のことや、それを取り巻くフランスの状況が垣間見えて良かった。あと、パン屋さんの伏線もいい。見えない違い 私はアスペルガー原正人 ジュリー・ダシェ マドモワゼル・カロリーヌ1わかる
鳥人間2019/03/05原作リスペクト感がたっぷりあるコミック版Bloodborneは元々はフロム・ソフトウェア開発のゲーム。その海外でのコミカライズ版があると知って早速買って読んでみた。購入したのは日本語化されたもの。中身は海外著者のアメコミ風(?)だが、日本語版のカバーイラストは、漫画家の林田球先生による描き下ろしだそうだ。 たぶん原作ゲームを知らない人が読むと、さっぱりわからないと思う。死んで、狩人の夢の中で目覚めて、また現実をやり直すというループめいた現象は、ゲームをやってる人しかピンとこないだろう。逆に原作を知っている人であれば、この雰囲気や謎めいたストーリーで「あぁこんな感じこんな感じ!」と思うはず。 ストーリーは著者のオリジナルだそうだ。とはいえ原作のストーリーはフロムお得意のユーザーに想像をさせるところが多く、多様な解釈ができる不明瞭なもの。ストーリーについては数あるアイテムテキストや状況から推測しなければならない部分が多いゲームだ。おそらく著者もその辺りをよく理解しており、原作の世界観に著者の考えを上手く盛り込んでいると思う。 そして原作リスペクトがとてもよくわかる描写やキャラクターたち。例えばボスモンスター「血に渇いた獣」が原作通り絶望感たっぷりに描かれている。ゲームで最初こいつに出会ったときの「どうやって倒すんだよ……」と途方に暮れた感覚を思い出した。他にもボスでいえばアメンドーズ。NPCでは狩人デュラ、ゲールマン、人形など。ノコギリ鉈や回転ノコギリといった仕掛け武器。旧市街や禁域の森、漁村などのエリアが描かれていてファンならニヤリとするだろう。 全編オールカラー、カッコいいコマも多く、見応えがある。ストーリーは希薄だが隙間を想像しながら楽しめる。とりあえず1回だけ読んでみたが、繰り返し読めば色々発見がありそう。言い換えれば不明瞭な話なので、モヤモヤとした感じを覚える人もいるかもしれない。原作ファンでも好みは分かれそうだ。Bloodborne: The Death of Sleep林田球 アレス・コット ピョートル・コワルスキ アディティア・ビディカー ブラッド・シンプソン
鳥人間2019/01/16ありそうでなさそう?(いやないかなw)素粒子研究所内ラブコメアルキメデスのお風呂ってあれか、黄金の王冠の逸話かな。 東海村のJ-PARCが監修しているということで、興味を湧いて読んでみた。 弁当屋店員でぽっちゃり女子の原陽子は仕事でもプライベートでもボロボロになり、駅のホームで自殺を図るという、いきなりなんとも重い話からスタートする。 しかし、そのとき助けた人物が(ちょっとおかしな)王子様のような理系男子。二人には意外な接点があり……といった感じでラブコメ展開へとつながっていく。 作中の舞台となるA-PARCは実質、実在のJ-PARCなのだろう。たぶん。筑波のKEKへは一般公開日に何度か行ったことがあるので、そういうときに見聞きしていたので存在は知っていたけど、さすがにこちらは行ったことがない。その内情が見て取れるというのは面白い。 ラブコメ要素には正直あんまり興味がない(笑)が、素粒子の基礎研究という何に役に立つんだかわからない研究と、暗中模索な恋愛模様を交錯させて描く様はなかなか面白い。それに各キャラクターがなかなか個性的で面白いし、1巻時点では各キャラクターの背景に何やら色々抱えていることがありそうで、この先が気になることは確か。おそらく今後登場するであろうエミィも曲者であってほしいなー。アルキメデスのお風呂 単行本版ニコ・ニコルソン1わかる
鳥人間2019/01/10ただのSFサバイバルではない! ミステリ要素も詰まった良SF作品『SKET DANCE』の篠原健太氏の作品。 全5巻で完結と、コンパクトにまとまっていてとてもいいです。それでいて話の骨子は結構シリアス目。とはいえコミカル要素もたっぷりと詰まっていて読みやすさも十充分。 宇宙へ行くことが当たり前となった世界で、地球から遠く離れた惑星にキャンプをしにいくことになった9人の学生たちのサバイバル劇。謎の球体によって突然宇宙へ飛ばされ、本当に唐突に遭難してしまう。しかし、運よく宇宙船を見つけ、9人で協力して母星を目指すことになる。なんとも突拍子も無いスタートだが、全部読めば「なるほど」と思うはず。 様々な惑星の多様な生態系に翻弄されながらも生き延びていく……だけかと思いきや、それだけで終わりません。ネタバレになるので詳しく書くことは避けましょう。後半からラストにかけての怒涛の伏線回収がなかなか見事ですよ。彼方のアストラ篠原健太1わかる
鳥人間2018/12/19ネタバレ綿密に設計された漫才人生マンガ周到に用意された流れに沿って描かれたマンガということで、これほど完成度が高くて面白いマンガってなかなか無いのではないでしょうか。 1話冒頭の2人が、べしゃり暮らしの2人なわけですね。「いやー思い出すな、高3の秋に俺ひとみちゃんに告られたんだよ」って言ってますが、確かに何巻かで「ひとみちゃん」に上妻が告白されてましたね。変な関西弁って言われてフッてましたが(笑) 森田まさのり先生は、この作品を描くにあたって、吉本興業の養成学校・NSCに1年間通うほどの力の入れようで、お笑いを学んだそうです。そして、最初から最後までの流れも決めて、ラストのコマも決めて連載に臨んだとのこと。物語の終盤、漫才中にアドリブが行われて、1話冒頭のシーンにつながったところは感動的。 そしてさすが感情表現を描くことに長けている森田先生。心に響くような台詞が多いこと多いこと。個人的には梵の台詞「もし才能が売ってたら………借金してでも買いたい………」はゾワッとしました。べしゃり暮らし森田まさのり3わかる
鳥人間2018/11/30食事を通して宇宙への思いを馳せるマンガ低い身長のために宇宙飛行士の夢を諦めた主人公。なんとなーく惰性で就職活動を続けていたところでJAXAの求人を発見。「誰もが行ける宇宙を目指して一緒に働きませんか?という言葉に心惹かれて応募。見事に就職する。 そこでの仕事は宇宙食の開発。研修で宇宙食の献立を検討することになり、しかもその献立を国際宇宙ステーションにいる日本人宇宙飛行士へプレゼンするという。いきなり現役の宇宙飛行士と仕事ができることでテンションが上がる主人公。 しかしその後、食事という宇宙とはいまいち関連性の薄そうな対象にテンションが上がらず戸惑う。どうしたものかと悩んでいたところに実家からの荷物が届き、ひとつの気付きが得られ、再びテンションが上がり……とまぁそんな流れ物語は進み、作中では割とリアリティのある宇宙食の情報も描かれている。いろいろと取材しているのかもしれない。 連載中に宇宙へ行くようなことはなく、宇宙食の開発を現実的に描く路線なのかなーと思うけど、食事を通して、主人公がどこまで宇宙に近づけるのか? 今後が楽しみ。宇宙めし!日向なつお
鳥人間2018/09/14映画鑑賞中のコマが良い📷モーニングで読み切り掲載があったので読んでみた。コミックDAYSで連載中らしい。 ただ事務所のテレビで映画見てるだけでも、臨場感ある表現がされていい感じ。水曜日のシネマ野原多央3わかる
鳥人間2018/08/31熱闘、濃厚、野球愛が詰まってる野球マンガ短編集。表紙からすでに熱くて濃い。そして登場人物みんな野球愛が凄まじい。それぞれが独特で、かつ、スカッとする終わり方が多くて良い。同著者の『ドカコック』っぽさを感じた。 個人的には、最初に読んだインパクトが大きかったせいもあるかもだけど「アスピリンをもう一度」が良かった。これぞプロ野球の要素の一つだろうなぁって思った。熱球時代渡辺保裕
鳥人間2018/05/22ネタバレドカコック新連載!!!相変わらずカッコイイなぁ京橋さん。 ドカコックのノリのまんまで終わった第1話だった。ドカコックじゃなくてなんでドカせんなんだろう?学生みたいな若い人たち感銘を与えることが多くなる作品なのかな?と思いつつ、最終ページを見ると「次号、ドカ担、高校赴任」といったワードが。 まさか教師になるのか?wドカせん渡辺保裕
鳥人間2018/05/14作者の母を追いつつ、自身の源流を探る物語近年の押切蓮介といえばハイスコアガールのイメージが強いかもしれない。「あの事件」によって憔悴しきった時期に、大物っぷり溢れる豪快な母の半生を描くことに挑んだヒューマンコメディ。 母の歴史を知ることで、母の言葉の重みを知っていく……なかなかに心に響くマンガ。うるさいだけだった母の小言が、作者自身にも、もちろん読者にも、ドスンと響いてくる。 母を素晴らしい存在として描くだけの良い話ではなく、若かりし母の残念なエピソードもちらほら。このあたりは従来の押切作品っぽさを感じつつも、それがまた「あーこんなことあったんだなぁ」というリアリティを感じられて良い。 過去作の「猫背を伸ばして」にも押切母が登場するが、こちらも合わせて読むとより楽しめると思う。 単巻で短いながらも濃密な作品でした!HaHa押切蓮介1わかる
鳥人間2018/03/28ハードSFのエッセンスがギュッと詰まった短編集!著者の八木ナガハル氏がコミケやコミティアで発表していた作品をまとめた単行本とのこと。全8編。著者曰く「守備範囲が海外SF小説がメインのハードSF者」と巻末に語っているように、かなりのハードSFだった。 どのお話もSF的なアイデアを軸にしたスモールストーリーだけど、SF的エッセンスがこれでもかと詰まっていて濃密。そして全体を通して読むと宇宙や生命といった全体像への想像が膨らむ。作中に出てくる『人類圏』という何らかの情報群にはこうしたストーリーが記録として詰まっているのだろう。そんな『人類圏』ですら、データベースの片隅にひっそりと保存されているほどに進化した人類、もしくはそれに類する何らかの存在がいたりするのだろうな……といったグレッグ・イーガン的な遠い未来を想起せざるを得ない。 これほどドストレートなハードSF漫画はなかなか無いと思う。そいう要素にピンときた方々におすすめしたい。無限大の日々八木ナガハル3わかる
鳥人間2018/03/09リアリティある描写が満載大きく、そしてリアリティのあるストーリー。緊迫感のある描写がこれでもかと詰め込まれている。 専守防衛といいつつわりと攻撃に重きを置いている描写が多くて気になるところ。攻撃にいたる経緯や登場人物の考え方を鑑みるに、そうなってしまう納得感はあるが、それはそれとして、戦争容認へ向かいつつある大きな流れが見え隠れするのが怖い。まぁ現実にはこうもすんなりと政府が英断を下し、国民がそれを信頼するっていう構図は想像しづらいが(笑) 東都新聞の記者が前線へ乗り込んで写真を撮っている場面、最初は極秘行動に水を指す程度の低いジャーナリズムを笠に着た行為のように見えたけれど、その後の本社とのやり取りでギリギリ利敵行為にならない範囲で国民に情報を伝えるという本当のジャーナリズムが感じられて、印象が180度ひっくりかえった。今後の報道のされ方で国民の戦争容認空気感に一石を投じることになりそう。空母いぶきかわぐちかいじ 惠谷治
鳥人間2018/01/15ネタバレ哀しいけれど希望を見出すことができた下巻相変わらず表紙が素敵。二人が手を繋いで並んでいる姿を読後に改めて読むとグッとくる。 プラティーノは西暦2320年の未来からやってきた旅人だった。大きな争いによって地球土壌が汚染され、その結果、放棄政策が取られたようだ。貴重な人的資源である若者たちが宇宙へと半ば強引に移民させられる。大人たちは地上へ取り残された。 娘が定期的に戻ってくると信じていたプラティーノの妻サラが娘を取り戻そうと自暴自棄になり、立入禁止区域に侵入した結果、銃撃を受けて死んでしまう。絶望したプラティーノは流刑者が行っているという特殊な任務に一般人として初めて志願する。目的は過去に飛び、土壌汚染を防ぐ準備をすること。 過去に飛んで土壌汚染を防ぐ植物の種を各時代、各地に撒く。その際、記憶は消去され任務遂行にのみ邁進するよう思考をプログラミングされる。可能な限り他人と交わらず、様々な時代を歩くことになるようだ。 そして孤独な旅を続けていたプラティーノは、西暦1851年のペルー付近に降り立つ。何度目かの旅路で村の住人達に出会い、記憶が紐解かれていくわけだ。 プラティーノはチロと出会って救われ、希望が持てた。チロもプラティーノと出会ったことで、父親を失った悲しみからやっと立ち直った。 過去にも未来にも悲痛な出来事があった。けれどバッドエンドではなく良い終わり方だったと思う。 意外とSFだったなぁという印象。細かいところは省かれているが、物語の構造上これくらいがバランスが良いのだろう。チロの物と会話できる能力というのは、もうそういうものだと割り切るしかないwどこか遠くの話をしよう須藤真澄1わかる
鳥人間2017/09/041つ1つに様々な要素が濃密に詰まった逸品SF短編集SFといってもジャンルに多少の幅があり、王道なSFの他に、ファンタジーっぽいもの、超常現象や超能力など色々ある。岡崎二郎作品は宇宙家族ノベヤマを読んだことがあるけれど、あの作品のようにとても気持ちがほっこりとするような話が多い。このアフター0もバッドエンド的なお話はほとんどないと思う。 これでもかというくらい示唆に富んだストーリー、感情表現、舞台設定など多種多様な要素がみっちみちに詰め込まれている。「そうきたか!」と唸らざるをえないひねりや、なるほどと思わせる登場人物の考え方(たぶん作者の考え方なんだろう)など、読むと自分の世界が広がるような漫画だ。こういう感覚を抱いたのはグレッグ・イーガンの「ディアスポラ」を初めて読んだとき以来かもしれない。比較的ゆるい感じの絵なので、いわゆるハードなSF好きな方々はそこで敬遠してしまうかもしれないが、騙されたと思って一度読んでみてほしい。 「これも学習マンガだ!」にも選出されているようで、なるほど確かにお子さんが読んでもほぼ安心だし、かつ、多くの驚き・発見が得られる良書だと思う。しかもわかりやすい話が多い。自分も、もっと子供の頃に読んでみたかった。 http://gakushumanga.jp/manga/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%BC-0/アフター0岡崎二郎
鳥人間2017/08/18鳥肌が立つほどのリアリティを感じるマンガマンバ通信の記事を読んでみて興味が湧いたので読んでみた。 実在する病気って名なんだろう?と思いながら読み進めていたら、なるほど確かに知ってはいるけど実態はよく知らない病気だった。 でも手強い病原体とはいえ昔からあるものだし、治療法や対策は確立されていそうだから、パンデミックといっても人為的なミスや、政治や組織の問題で感染が広がっていって大規模になるのかなぁ?と想像していたら……それだけではないなるほどそりゃオソロシイわという展開で1巻が終わり。実際に起こりうるんじゃないか?と思わせる巧みな設定とストーリー展開に恐怖感を覚えざるを得なかった。 パンデミックを取り扱った作品はマンガに限らず数多くある中で、今後どういったストーリーが描かれていくのか?何か新し切り口が描かれるのか?いろいろと楽しみ。 続きをはよ!リウーを待ちながら朱戸アオ
鳥人間2017/08/16神話と科学が融合した独特な物語表題の「イワとニキの新婚旅行」から始まり「神託と灰色の髪の少年」「アンドロメダ号で女子会を」「さよなら私の兵馬俑」「海の女神と旅立つ船」の全5編。宇宙から飛来した“帝国”が地球を占領して、人類の心を掌握すべく帝国が作り出した、各地に残る神話や宗教を用いた"統治システム"を軸とした独特な切り口の短編集。 あとがきにも書いてあるように「もしも空気の読めない宇宙人がやってきて地球を支配し、各地にある神話を真に受けたらどうなるの?」というのがテーマのようだ。“帝国”が地球を支配するというかなりの大事を「ごくありふれた全面戦争なので詳細は省く」と何度か書いてあって笑った。 短編集とはいえ微細な繋がりがあってニヤリとできる。もちろん短編の良さもあって、それぞれ微妙にテイストが違ったりもする。「アンドロメダ号で女子会を」がコミカル寄りで好みだった。 ファンタジーっぽい描写が多いものの、帝国の人類を超えたテクノロジーによる仮想世界やAIの表現もされていて、SFとしての読み応えもあって満足度が高い。この世界観で長編も読んでみたい気もするな。イワとニキの新婚旅行白井弓子
鳥人間2017/04/25比較的よくあるような青春ラブストーリーと思いきや「響〜小説家になる方法〜」作者による作品。 ド直球すぎるタイトル。そしてぱっと見、ある意味王道ともいえる内容だけど、全体の構成がよくできていてなかなか読み応えがある。 新しい高校生活に大きな期待を抱く元気な少女・千穂がイケメン男子・和哉とその幼馴染の余命幾ばくもない少女・遥と出会って仲良くなってあれこれあるラブストーリー。と、これだけ書くといたって普通。 普通の青春ラブストーリーならもっと3人の交流が描かれそうなものだけれど、ちょっと普通ではなく、タイトルにもあるようにあまりにも唐突に遥は亡くなってしまう。 その後、場面は十数年後に急転換。いくつか謎を残しつつも暖かさの漂う余韻で終わる。 普通であればここでおしまいだと思うが次の章で亡くなる1か月前の遥の病室に再度場面が急転換。このとき何があったのか?という前章で現れた謎が解かれつつ、遥の強い決意が描かれる。 3人のそれぞれの想いと読者の思いが絡まって、きっと人それぞれ思うところが湧いてくるんだろうなーと思える作品だった。 結構ドスンとくる内容。でも1巻完結でとても綺麗にまとまっているし読んでみてほしい。女の子が死ぬ話柳本光晴
鳥人間2017/04/05ネタバレゆるふわな上巻ぬくもり溢れる絵と内容の上巻。タイトルと表紙、中身の絵も素敵すぎた。 手で触れた物の声を聞くことができる少女・チロ、村に辿り着いた謎の旅人、あたたかい村の人々。ちょっと不思議でゆるふわな環境の中でじわじわ少しずつ謎が解かれていく感じ。でも何やらチロは哀しい過去を背負っている様子だし、旅人は記憶喪失で言葉も通じず、村人が見たことないようなものも持っていたりで、ただあたたかいだけのゆるふわ物語ではない。上巻の終盤では「え?そういう流れ?」とちょっと意外な展開を見せる。 旅人が喋っている言葉をググってみたけど、これといってヒットせず。創作言語なのか、それともマイナーな言語なのか……。 おそらく下巻の始まりから物語が大きく動くのだろう。今から楽しみ。どこか遠くの話をしよう須藤真澄
鳥人間2017/03/29ネタバレとてつもなく哀しいがどこか美しさもある短編集たまに心温まるようなお話や救いのあるお話も混じっているが、殆どが不幸。とてつもなく不幸。でもどこか美しさや輝きめいたものも感じる。絵が綺麗なせいもあるだろうけど、それだけじゃない気もする。 1話の後2話を読んだら、ほとんと同じ顔の登場人物が出てきて「あぁ続きの話かな?」と思ったら、どうも違う。どうやらキャラクターを役者のように見立てて、各話を描いているようだ(タブン)。それに気づくと何かすごくよくできたドラマを見ているような気分になった。 主役格の男は、現代では考えられないほどごつい体格に濃い顔をしたいて、どこか昭和スターを彷彿とさせる。妹のいる兄であったり、結婚詐欺師、トラックドライバー、サラリーマン、結婚詐欺師などなど、さまざまな設定を演じている(脇役で登場することもあったと思う)。 同僚に勧められたときに「話が重すぎて1日1話読むのがやっとだ」と聞いてちょっと身構えていたけれど、「これはドラマなんだ」と気づいてことでほんの少し気楽に読めた。 例えば「ラメのスウちゃん」。源という男が不細工で誰からも全く相手にされないホステスのスウちゃんに一目惚れする。同棲を始め幸せそうな生活を過ごすことになるが、源が事故で失明してしまう。目を失ってどんどん自暴自棄になる源に対してスウちゃんは献身的に尽くしていくが、ある時、源が階段から落ちて死んでしまう……。 作中、スウちゃんが繰り返し繰り返し歌っている軍歌が頭にこびりつく。時代や世相を反映したもので、公開当時の人々にはもっと実感としてグサリと突き刺さるものだったのかもしれない。 短い作品だけど、とても人間臭く、濃密な人生の一端が描かれている。 こんな作品が詰まり詰まっている。哀しい人々あすなひろし