ひさぴよ
ひさぴよ
2020/08/21
日本沈没チームによるオムニバス短編
2011年をきっかけに取り壊された神保町にかつて存在した九段下ビル。築80年の歴史ある建築物を舞台に、4人の作家が、それぞれの時代の人間ドラマを描いていく作品です。ビルの場所は神保町ということもあり、漫画家とも少なからず縁のあったビルだったことが伺えます。 執筆している4名の作家さんですが、一色登希彦さんがスピリッツで「日本沈没」を連載していた時のスタッフが、元町夏央さん(元夫婦)、大瑛ユキオさん、朱戸アオさん、という繋がりがあります。(私は勝手に日本沈没チームと呼んでますが) 収録作 『スクリュードライブ らせんですすむ』一色登希彦 『ごはんの匂い、帰り道』元町夏央 『此処へ』朱戸アオ 『ガール・ミーツ・ボーイズ』大瑛ユキオ いずれの作品もそれぞれの作家さんの持ち味が感じられる短編です。なんだかんだ一色節が好きなんですけど、やはり今オススメするとすれば朱戸アオ先生でしょうか。朱戸アオさん目当てで、この本を手に取る人も少なくないと思いますが、インハンドやFinal Phaseより以前の作品も読みたい、という方は読んで損はありません。この本の中で最も大きなドラマを描いてましたし、ひときわ記憶に残る作品でした。
ひさぴよ
ひさぴよ
2020/08/15
戦後70年を過ぎても読んでほしい戦争特集号
2015年、戦後70周年に際して組まれたビッグコミックオリジナルの増刊号。各世代の漫画家が表現した「戦争マンガ 」16作が収録されています。過去作の再録だけでなく描き下ろし作品が半数近くあり、いずれも力作揃いです。戦中戦後の話だけでなく戦争の未来を描いたものまで幅広く、憲法9条を擬人化した「さよなら憲ちゃん」のような意欲作もあって面白いです。ちなみに、いましろ先生だけは釣り&愚痴のいつも通りの漫画になります(^ ^;) 重いテーマの作品が多いですが、収録順に趣向が凝らしてあり、最後まで疲れずに読み通しやすいです。収録作をまとめてみましたが、これが五百円で読めてしまうなんてお得すぎます。 以下、収録作 水木しげる「人間玉」 滝田ゆう「夢いちりん」 松本零士「晴天365日」 さそうあきら「奈々子戦記」描き下ろし 浅野いにお「きのこたけのこ」 高橋しん「LOVE STORY, KILLED.」 いましろたかし「自爆列島」描き下ろし 山上たつひこ「光る風」 呉智英さん解説付き 三島衛里子「橋のたもとで」描き下ろし 石坂啓「さよなら憲ちゃん」描き下ろし 比嘉慂「砂の剣」 あまやゆうき/吉田史朗「僕はあの歌が思い出せない」描き下ろし 竹熊健太郎/羽生生純「ほーむ・るーむ」 東陽片岡「五式戦じじいのブルース」描き下ろし 井上洋介「少年と戦争」 花輪和一「小日本鬼子穴」描き下ろし <コラム> いとうせいこう、無着成恭、横尾忠則、モーリー・ロバートソン、片岡義男、南信長「漫画と戦争」   漫画の合間のコラム「わたしの戦後70年談話」も読み応えがありました。 著名人が戦争を語ってゆくのですが、有名な教育者である無着成恭先生の「なぜ戦争はなくならないのか」という問いに対しての回答がとにかく素晴らしかったです。仏教的な観点で人間、畜生、餓鬼に例えた説話がおもしろいのなんの、このテーマだけで本一冊作れるのでは?と思ってしまうほど。 最後に<編集後記>堀靖樹さんのメッセージは本当にその通りだと思いました。”時代のカナリア”として戦後70年を過ぎても読まれ続けてほしい一冊です。 > 『こうして眺めてみると漫画家はやはり自由の民です。本能的にお上の胡散臭さを嗅ぎ分けてますし、自分の生死は自分の戦場で決めたいと考えています。だからこの増刊は時代のカナリアかもしれません。漫画家の想像力はもう何年も前から、日本の行く末に警鐘を鳴らしていたのです。 漫画は別にお国のためにはなりません。そして、その作品で仕事をしている我々、編集者もしかりです。だからこそ、この時代の「嫌な感じ」に声を上げましょう。そんな増刊号です』
ひさぴよ
ひさぴよ
2020/08/10
コテコテの刹那の連打!!連打!!
📷
狩撫麻礼&泉晴紀のタッグによる25編、560ページ超に及ぶ分厚い短編集です。 (連載時の名義はダークマター、泉レッドドラゴン) 狩撫麻礼さんの没後に刊行された完全版になります。 中身としてはオチがなくて意味がよく分からない話もありましたが、泉晴紀先生のギャグっぽい作画がハマってる所もあり、楽しめた話とそうでない話が半々くらい。 ーーーー 特に好きな短編 「ダークマスター」 表題作。味は良いが、店主の性格に難があって繁盛しない店を他人に任せることになり、店主の代わりになんでもやらせてしまう話。何を表現しているかは言わずもがなです。オチはないけど面白いっ。 「ミッションあるいは伝道」 高齢化した個人商店とニートをマッチングさせて、寂れた商店街を復活させようとする男の話。発想は凄い良いけどたぶんうまくいかないと思わせてくれる所が良い。 「眠らぬ男」 オチの秀逸さでは「オッパイ説」か、この話が一番好きですね。ネタバレできない面白さ。 ーーーー 話のバリエーションは多いので、昔からの狩撫麻礼ファンに限らず、「世にも奇妙な物語」のような不可思議な話、刹那的なショートストーリーが好きな方なら楽しめる短編集だと思います。
ひさぴよ
ひさぴよ
2020/08/08
何者でもない犬、それが雑種犬
桐島いつみ先生の飼い犬”ももちゃん”を描いたハートルフル4コマ。 (90年代のアンソロジー本「犬っこ倶楽部」の連載) ウチで初めて飼った犬も雑種で、見た目が”ももちゃん”によく似た犬だったので、親近感ありすぎ…。見た目だけでなく性格も行動もそっくりというのは、雑種犬に共通する何かがあるんでしょうか。 外見からは、なんとなく「犬」であることしかわからず、犬好きから「犬種は何ですか?」と聞かれても困ってしまうのが雑種犬。 しかし、純血種にはないたくましさがあります。 病気に強く、長生きする犬が多いし、親しみやすさがある犬が多いのです。 飼い主含め、ズボラだけどおおらかな性格で、良い所もダメなところも含めて、ありのままの生活を描かれている漫画だと思います。 愛犬家の人が読んだら、もしかすると怒ってしまうような、いい加減な飼い方かもしれません。 でも自分にとっては、犬も飼い主も完璧じゃないところが好きで、共感する部分が多かったです。 ちなみに、他の作品に登場するキャラ(「まいったカッパは目でわかる」のカッパとか)を見てると、仕草や表情からどことなくももちゃんの面影を感じることがありますね。
ひさぴよ
ひさぴよ
2020/08/04
今日マチ子自伝〜中学受験から藝大受験まで
これから中高一貫校受験しようと考えている親子向けの受験案内&学校紹介情報を扱った書籍です。 学校案内の文章と、今日マチ子先生の体験を描いた漫画を中心とした構成になります。作者も中高一貫校出身であるため、非常に説得力かつユーモアに溢れた自伝的漫画の側面を持っています。 小学生時代の勉強の仕方から、受験に合格して中高一貫校での学校生活、そして大学受験までの体験をサラッと描かれているのですが、これが実に面白い漫画になってます。 変わり者といったらアレですが、一つ一つのエピソードが普通の人と違うので、受験テクニックの参考にはならないかもしれません。しかし、子供の目線で感じていたことが素直に描かれていて、日々の過ごし方や、入学してからの楽しい学生生活の雰囲気を伝えることに力を入れてあり、受験合格後の生活をイメージするには良いと思います。 自分も中高一貫校出身なので分かるのですが、学校によって教育方針や環境が千差万別で、入学してみないとその学校の本当の所は分からないのが、中高一貫校の特徴です。なんと言っても卒業までの期間が長いです。中高6年間の過ごし方を、事前にイメージできている事は特に大事だと思います。高校受験のない一貫校の宿命ともいえる「中だるみ地獄」がどういうものなのか、この漫画を読めば参考になるはずです。 さて、漫画後半で高校生になった今日マチ子先生は、美大への受験を決意します。予備校に通い、努力の末にめでたく合格。短いページ数でサラッと合格したように見えますが、その大学とは「東京藝術大学」です。いや、すごすぎて参考にできない…。いま流行りの美大受験漫画「ブルーピリオド」のようなドラマがあったかもしれないと思うと、それはそれで別の漫画として読みたくなってきます。予備校時代の同級生であり、漫画家の近藤聡乃先生も登場しますし。 あくまでもこの本は受験生とその親に向けられた本になりますが、同時に漫画ファンも楽しめる作品だと思います。エッセイ漫画が好きな人、美大受験漫画が好きな人、自伝漫画が好きな人など。漫画を読むためだけに買っても損はないです。
ひさぴよ
ひさぴよ
2020/07/29
心にいつもニコボール
90年代の少年サンデーで連載していたゴルフ漫画。小さな少年・青葉弾道(通称ダンドー)がド素人の状態からゴルフを始めて成長していく物語です。ゴルフにそれほど詳しくなくても楽しめる作品です。 子供の頃に読んだ時は気付きませんでしたが、原作は風の大地の坂田信弘先生だったんですよね。今にして読むと坂田ゴルフ塾の教えが随所に散りばめられているのが分かります。 ダンドーという主人公は、ある意味、坂田先生の理想の少年像ともいうべき存在かもしれません。 誰よりも他人への思いやりがあり、健気なまでに努力家で、窮地に陥っても絶対に諦めず笑顔を絶やさない。その象徴として、ボールに笑顔を書いた「ニコボール」という存在があります。 試合では対戦相手の嫌がらせを受けたりして、毎度ピンチに陥るんですけど笑、このニコボールに思いを乗せたスマイルショット(ウルトラスーパーショット)を繰り出すのです。 たとえ非現実的なショットであっても、ニコボールという特別な想いの力で納得させてくれるのが最高ですね。こういう所が漫画の素晴らしいところだなあと思うのです。 また、ダンドーと同じくらい魅力的なプレイヤーとの出会いもあります。ダンドーの最初の師匠、新庄さんをはじめ、兄貴的存在の拓さんも忘れられません。拓さんのキャディーをダンドーが務めた全日空オープン編は、何度読んでも感動してしまいます。それと実在のゴルフ界のレジェンド、帝王ジャックニクラウスも登場し、ゴルフの奥深さを見事に示してくれます。 ご都合主義的なところもある漫画でしたけど、最後はダンドーの純粋さが全てをひっくり返してしまうパワーがあって何だかんだ好きな漫画でした。
ひさぴよ
ひさぴよ
2020/07/23
宜保愛子の自伝的マンガ
> 「みなさんこんにちは。私の名前はぎぼあいこ。小学五年生。」 このあらすじを見た瞬間、ゾッと寒気がしました。 霊感ではありません。 実に興味深い漫画だ…という第六感を感じたのです。   宜保愛子(1932 - 2003)さん、ご存じの方も多いと思いますが、かつて一世を風靡した心霊番組に出演していた霊能力者です。 その人生は波瀾万丈なもので、幼少期の事故によって左目をほぼ失明してしまい、それがきっかけで霊能力に目覚め、人には見えない霊や魂が見えるようになるという漫画の主人公みたいな人物です。そんな宜保さんを主人公にして学校の心霊現象を解決するストーリーだなんて、絶対面白そうだと思いませんか…。 ひとまず読んでみての感想ですが、いずれも1話完結型なので読みやすいです。主に学校で怪現象が次々と発生し、それを宜保さんが霊を説得するなどして解決します。 かなり怖い話もあり、ちょっとハートフルな話もあり、心霊学園漫画としてなかなかの面白さです。中には「これはさすがに漫画向けのエピソードだろうな〜」と思ってしまう部分があるのは否めません。宜保さんが美少女すぎるし、時代背景も明らかにおかしいです。 宜保さんは1932年生まれですから、当時の学校生活はバリバリの軍国教育の時代だったはずです。なのに学校は昭和の雰囲気で、水洗トイレが登場したり、服装や設備が現代的すぎます。演出として仕方ないとはいえ、さすがにストーリーとの違和感はありました。 ところが3巻の3話目「鉄矢ちゃんの悲しみ」の回以降で、この漫画はまるっきり別の漫画へと変わります。 > 「ここからのお話は私が生きてきた戦争の時代のお話をしたいと思います」 というモノローグが突如現れ 「えっ・・? じゃあ今までの話はなんだったんだ・・・」 という気持ちは置き去りに、物語は戦時中の体験を描いたエピソードへ変わっていきます。 服装もモンペ服に変わり、厳しい軍国教育と食糧不足に悩まされる日々。最大の理解者だった兄を戦争で亡くし、弟も交通事故で亡くしているんですよね…宜保さん。 そして、空襲で地獄のような体験をします。生きてる人と、霊の区別がつかなくなるほど悲惨な状況に、宜保さんは遭遇してしまうのです。 後半はとても重い話が続きますが、それだけ宜保さんにとって戦争のことは忘れずにはいられない記憶として残っているという事が伝わる内容でした。 ===補足=== 他にも宜保愛子さんの過去が語られている漫画として、『MMRマガジンミステリー調査班』があります。 第2巻のノストラダムス大予言1999「人類は滅亡する!?(前編)」に宜保さんがゲストとして登場。キバヤシ達に、霊界の話や自身の幼少期の体験を語っています。興味があれば併せて読むと良いでしょう。
ひさぴよ
ひさぴよ
2020/07/15
死んでもやめんじゃねーぞ!
原作は未読です。漫画の方だけ読みましたが、史群アル仙先生の作風に合ってる作品なんだろうなと感じました。両者に相当なシンパシーがなければ、ここまで内面に食い込んだ壮絶な孤独や絶望感は描けない気がするのです。 だからこそマンガ化に至ったのも頷けるわけですが、どうやらマンガ化の話は、原作ツチヤタカユキ氏から史群アル仙さんに向けて熱烈なラブレターを送っていたことで実現したようです。 『笑いのカイブツ』漫画化決定!|『笑いのカイブツ』公式 https://warainokaibutsu.com/n/n789f569bbd78 自分の気持ちを理解してくれると信じた作家に託して、描いてもらえたのは、ツチヤタカユキ氏にとって、とてつもなく幸せなことだったのではと思います。 私が、ツチヤタカユキ氏を知ったのは、オードリーのラジオを紹介した記事がきっかけで、漫画の印象とは若干異なる部分もあったりします。 ラジオでは、ドがつくほどの下ネタを投稿していたと思うのですが、漫画内には下ネタがあまり出てこないのです。できるだけキレイなネタが多い気がするのは、下ネタだと話がブレてしまうからなのかも。 この辺は原作を読んでない分際で意見する資格はないのですが、ツチヤ氏のヤバい下ネタの数々を漫画でも出してほしかったですね。