あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/07/08
漫画と土地の記憶(インタビュー記事を読んで)
『今日どこさん行くと?』の作品ページに、作者の鹿子木灯先生のインタビューへのリンクが追加されたので、読んでみました。 熊本地震で被災された先生が、熊本のPRのため、そして復興していく様子を残したいという意思のもと、この作品を産み出されたことに、色々な感慨が湧くのですが、読者としてこの作品が嬉しいのは、 ●変わりゆく熊本の記録が読める ●美しく楽しい熊本が描かれている の二点を両立しているところにある、と思っていたので、先生のインタビューは大変納得いくものでした。 敢えて復興の途中を描くのは、美しさに欠けると思われるかもしれませんが、記録としては貴重なものです。何よりもそれは、復興を望む人々の、強い想いの記憶でもあります。そう思えば、復興の生々しい過程も、完成された美しい光景も、その土地の人々にとっては等価に愛しいものでしょう。 ある土地を描くことは、その土地の記憶を描くことです。(長い目で見れば)いずれ失われる物を描き残すことは、そこを大切にした人々の、生きた証を残すことでもあります。 こうした漫画作品が残されることは、何よりも熊本の方にとって、嬉しいことでしょう。そのことは、次作の熊本ドライブ漫画『私の魅力がわからんと!?』が、ネッツトヨタ熊本さんの企画であることにも表れていると思います。 今(2020年7月)、熊本をはじめ九州地方は大きな水害に遭い、再び郷土が奪われる事態となっています。『私の魅力がわからんと!?』の内容にも今後、それが反映される「かもしれません」。また他作品では、『放課後ていぼう日誌』の舞台・芦北町は甚大な被害を受け、作者の小坂泰之先生も被災され、連載を休載されるようです。また、『カワセミさんの釣りごはん』の地域も大雨に見舞われているようです。 様々な作品の発表に、大きな影響が現れるのかもしれません。しかしまずは、何よりも先生方と九州の皆様の、身体の健康と心の安寧を、お祈り申し上げます。 私達はまず、今ある作品でこの地域に想いを馳せ、もしこの後、作品がまた産み出される時が来たら、その作品から様々に変わっていく九州と、変わらず美しい九州を、また鑑賞し、コレクションすることで応援出来たらと思います。 結論:まずは『今日どこさん行くと?』と『私の魅力がわからんと!?』を読もう!
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2020/07/05
優しくて切ない天才の短編集
この短編集は、オールカラーである……水彩タッチのとても淡く、優しい色彩と、繊細な描線。 「萌え」という言葉にある程度、揶揄が込められているとすれば、優先生の描く造形は、「萌え」に水彩的な「優しさ」を加えて、誰も揶揄する気になれない程にまで美しく、愛らしく突き詰めた芸術品だ……控えめに言って天才だ、と思っている。 『おおかみこどもの雨と雪』『五時間目の戦争』も美しかったが、優先生の本質はカラーにある……と私が思い込んでいるのは、私がはじめて触れた先生の作品が、この短編集『さよなら、またね。』の表題作だったからだろう。 『季刊GERATINE』というカラー漫画雑誌の2010年秋号に掲載されたこの作品。いつ単行本になるのか……と思っていたら、2017年まで待つことになる。 表題作を始めとして、優しい雰囲気の中に描かれるのは、残酷な状況が多い。もう取り戻せない物、気づいた時には失われている恋、否応ない別れ……余りにも切なくて、私は表題作でいつも手が止まってしまう。 この年、優先生は亡くなられ、もうこの様な作品達は生み出されない……という事情を差し引いても尚、この切ない天才の、決して色褪せない作品に、是非一度触れてみていただきたい。まずはこの短編集がいいだろう。そして『五時間目の戦争』を是非。 ①さよなら、またね。 七年ぶりに化けて出た元クラスメートは、生まれ変わるから挨拶に来た、と言う。 ②なくしたことば 自分を模したAIを載せたサイボーグが、眠りから覚めない……何の夢を見てる? ③はるのはな 遠く離れた兄と妹。レシーバーで偶々の交信。人の体でない兄が向かうのは……。 ④なつのいと 先生は私の名を間違える。私とよく似た、婚約者の名前と。 ⑤おかえりなさい 田舎に帰省する姉は、いつも明るい。俺が望んだのと、違う。 ⑥猫の日 飼い猫を助けてくれた級友に、つい暗い本音を話してしまう。彼の反応は……? ⑦きずあと 切りすぎた前髪を、男の子に見せに行く。彼のせいで、残った痕を、苦しい初恋を。
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2020/07/04
「飼育」を夢見るロリおね?百合 #1巻応援
小学五年生の舞ちゃんは、家の前で倒れていた高校生のお姉さんにご飯を食べさせる……そこから始まり、生活力の無いお姉さんを小学生がお世話する日々が描かれる。 積極的に動くのは舞ちゃん。子供離れした料理テクで、お姉さんに美味しいご飯を食べさせつつ、他にもあれこれ世話を焼く。 一方、お姉さんの方は、美人で頭も良いが謎めいていて、何よりも無口の中に時折見せる感情表現が、舞ちゃんと読者の「庇護欲」を唆る。中々ズルいヒト。 そして舞ちゃんが抱いてしまうのが……タイトルにもある通り、お姉さんを「飼育したい」という気持ち。 一人暮らしのお姉さんと、親がなかなか帰ってこない舞ちゃん。複雑な寂しさを抱える二人が出会い、ひととき寄り添う。舞ちゃんは芽生えた感情に戸惑い、お姉さんは何かを隠しつつ。 不安を抱きながらも、ひとまず優しさを持ち寄る二人は、温かいが少し切ない。「飼育」という舞ちゃんの欲望の落とし所と、二人の関係性の落ち着く先を、今後も追いかけて行きたい。 □□□□□ 食漫画としては、地方性よりも、お腹が空いた人が喜びそうなメニューが並び、唾が出る。むしろ地方性が出ていそうなのは『アイラップ』というツールである。ご存知の方、おられるだろうか……?
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2020/07/03
出征する級友達と戦えない二人
島の中学校の新学年、三年生の時間割に「戦争」が加わった。毎週金曜五時間目に、選抜されて本土に出征していく級友。しかしそこに、安居島都と双海朔の二人だけ、選ばれることはなかった。 正体不明の敵、子供も駆り出される程切迫した戦況……絶望的な状況下で、混乱しつつも日々を生き、恋をする中学生達。そして出征を拒まれる二人の謎とは……。 □□□□□ 小さな島の日常の穏やかな、優しい情景と裏腹な、不穏な情勢と多くの謎に、心が宙ぶらりんになりながら、読むのをやめられなくなる作品である。 好転しない現実、死と隣り合わせの毎日。その中で迷い苦しみ、ある者は怯え、または覚悟を決め、あるいは何かを見出そうと必死になり……在り方は様々だが、皆一様に、悲壮である。 一人ひとりの懸命な青春を、どんなに丁寧に描いても、その命はいずれ奪われていく。そして、辛い鬱展開が待っている。 その中で、一番辛いものを背負うのは、実は生き残っている安居島都である。その過酷さはある意味、筆舌に尽くし難い。それでも「食」をよく分かっていて生きる力の強い都は、前を向く。少しの幸せだった思い出を胸に……。 生きるのに必要なのは、悲壮さではない。淡々と飯を食い、命ある限り前向きな意志を持つことだ。そんなメッセージを最後に提示するために、4巻を丁寧に描き切った優先生に、今は深く首を垂れたい。
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2020/07/01
子供の人生選択…その時母に出来る事
恋した人は、狼男でした……やがて二人の間に姉弟の「おおかみこども」が産まれるが、母子を残して狼男は死んでしまう。人の世界に組み込まれず孤立する母子。生活に限界を感じた母は、ある決断をする。 □□□□□ 物語は、狼と人間の姿を行き来する子供達の成長を追い、人か狼かの生き方を選択するまでを追う。 性格、好奇心、本能……それぞれの人生選択は、丁寧に二人の性質を追う事で、意外なようでいて納得のいく必然性をもって描き出される。そして二人を庇護してきた母の苦労を丹念に描く事で、人生を選んだ子供に最早何もできない苦しみと、懸命の祈りが胸に迫る。 幼い二人の表情の豊かさに癒された後で、生き方を違えた二人の表情の対比に驚かされる。最後まで読み終わった後に、姉弟の最初を見返すと、ひどく懐かしい感じがする。こんなにも遠くに来てしまったのかと。 同名映画のコミカライズである本作が初単行本となった、優先生。感情の描き方の強さと複雑さに、心を動かされる。笑顔、泣き顔の表情一つひとつが強力で、表情につられて貰い泣きする場面が本当に多く、人前でおいそれと読めない感じがする。 (映画版を観ていない感想です)
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2020/06/19
楽園までどのくらい?いや、目の前に。
この単行本の後半は『純水アドレッセンス』の追加エピソード。養護教諭×生徒のカップルの、生徒が卒業まで逢瀬を止めようと悩んだり、結婚式とその先を考えたり、卒業後に学校に残される教師を想ったり……次々と訪れる「区切り」と向き合い、精一杯に恋を生きる物語が、爽やかに鮮やかに描かれている。 『純水アドレッセンス』を読んでいる人は、これは絶対読みたいはず! そして前半は『楽園まで、あと…』という作品。『楽園』誌で中村明日美子先生が連載されていた『おはよう楽園くん(仮)』の二次創作に勤しむ同人作家とその恋人の百合。因みに『おはよう楽園くん(仮)』はBLである。 二人の「区切り」は同人誌即売会。印刷所の締切を巡ってアレコレしたり原作の新展開に萌えたり推しカプで微妙な感じになったりと色々あっても、怒涛の即売会を乗り越えて二人は……という感じのお話だ。 ♡♡♡♡♡ 遠い将来を考えると、同性カップルでなくても、不安になる。だからまずは目の前の「区切り」を一つひとつ、精一杯に満たされる。それの積み重ねが、確かな将来なのかもしれない……そんなメッセージが全体を貫いていると感じた。 楽園まであと、どのくらい?という問いには「先ずは目の前のオアシスで喉を潤そう」と答えたい。 ♡♡♡♡♡ そしてもし興味がおありなら、『おはよう楽園くん(仮)』も一緒に読んでみると面白い。二人が何を見て悶えていたかとか、二人の繰り出すセリフの元ネタなど……色々分かって面白い。そして中村明日美子先生の引く美しい曲線と、カワイイ楽園くん(仮)の、微妙に醸し出されるエロスが癖になりそう。 BLは守備範囲外の私でも楽しめた、愛らしい小品!
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2020/06/18
「眼差し」と「間」で描く恋愛の強度
かずまこを先生の作品は、登場人物の強い「眼差し」にやられることが多い。 『純粋アドレッセンス』のななおの向こう見ずさ、『ディアティア』の睦子の、純粋に相手を知りたい感情、『さよならフォークロア』の二人の、現状を乗り越える意思etc……彼女達の「眼差し」が伝える強い感情に胸を打たれ、動悸が止まらなくなる。 彼女達に見つめられた者は、時に目を逸らし、時に見つめ返す。表情を僅かに変えながら、その「間」で思考を巡らせ、言葉を返す。 交わす気持ちの、伝わらなさがもどかしかったり、ふと通じる瞬間にときめいたり……いずれにしても、二人の「間」そのものが愛おしい。 かずまこを先生の作品の描く「眼差し」と「間」は、この短編集『名前はまだない』の各掌編に端的に描かれている。 まずこの短編集で、かずまこを先生の「眼差しと間の強度」を知るのもいいと思う。連載作品にも全く同じ強度があるという、その贅沢さをお伝えしておきたい。 ●3秒ルール 相手の言葉に、返事するまで3秒以内。言葉に詰まったら負け。 ●uracoi 睨んでからコミュニケーションする女子の、佇まいに惚れる。でも告白してくれたら、眼を逸らすなんて……。 ●恋はお静かに わたしが頭を打ったら、寡黙な委員長の饒舌な脳内がダダ漏れ? ●消し去る恋と願いごと 片想いしている先輩が、急に明日スイスに引っ越し!?先輩は私の秘密の願いを知りたがる。 ●名前はまだない(recalculation、interim solution含む) 本心を隠して周囲との距離を楽しむ優等生女子は、ぶっきらぼうな孤独女子が気になる。気を引き、距離を縮め、駆け引きするも、彼女はなかなか厄介で……。 ●匿名プロローグ 保健室の先生と女子生徒の恋物語『純粋アドレッセンス』の冒頭エピソード。
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2020/06/17
養護教諭が生徒に貰う、恋の熱
教師を呼び捨てにする、不躾で、でも真っ直ぐな女生徒。養護教諭はその怒り顔と、愚直な愛を気に入る。密かに付き合い始める二人だが……。 ♡♡♡♡♡ この作品で印象深いのは、教師の松本律子のスカした表情に対する、女生徒・奥村ななおの真っ直ぐ見つめる怒りの表情だ。 そこにあるのは、どこまでもブレない恋心。 年の差百合の、『星川銀座四丁目』『草薙先生は試されている。』等でも見られる、気の強い年下女子の突破力……なのだが、それにしても、ななおの目力と言葉の強さが凄い。見ていると目眩がして来るその圧力で、ななおは二人の恋を強力に主導していく。 一方松本は、大人っぽくななおを翻弄するようでいて、実は先行きを考えすぎて、恋に二の足を踏む。二人の恋愛で起こる、力関係の転動が面白い。 真っ直ぐな心が、考えすぎて混乱する心を救う図式は、幾つかのサブストーリーの中にもあり、特に過去の恋を引き摺る女教師の話など、切ない。 サブストーリーも含め、『純水ルミネッセンス』という単行本の後半に追加ストーリーがあるので、併せてご覧いただきたい。
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2020/06/14
月曜の呪いを、惑わぬ恋が解く。
その女子校で、まことしやかに囁かれる噂。月曜日に女子に触れると、心中した生徒に呪われる……皆がその噂に怯える中、転校生の真白は、タブーを犯す様に皆とスキンシップを取り、恐れられる。 何故そんな事をするのか……真白の涙と本心を見てしまった先輩の高瀬は、真白に惚れつつも、彼女の願いを叶えてやろうとする。 真白の願いは…… 「恋人のふりをして」 ♡♡♡♡♡ ある目的の為にタブーを犯す真白。自我を通す彼女の真っ直ぐさは(強気な時も涙する時も)最初から最後まで、強烈だ。 先輩の高瀬をからかううちに、変化していく真白だが、その時々の真っ直ぐさは変わらない。 一方、そんな真白に惚れ、彼女の願いのために何かしたいと願う高瀬は、次第に従順な生徒の群れから離れ、自分の意思を表明する様になる。最初弱々しかった高瀬の視線は、次第に強い眼差しとなり、恋と決意の表情にドキッとさせられる。 大切な人の為に、強く真っ直ぐであろうとする二人は、学園の呪いに打ち克つことが出来るのか……。 高瀬が入れられた反省室に隠された、過去の恋人達の手紙など、謎めいた雰囲気に心ときめく。手紙のイニシャルが仄めかすものとは……分かりにくいけどそれがいい!
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2020/06/12
誠実な二人の恋は臆病、でも優しい。
周囲の女子が次々と告白しては振られる、先輩の成田秋人に疑問を持って近づいた桐ヶ谷睦子は、彼の重い内情を見てしまう。一方、傷つけるのが怖くて女性を避ける秋人は、強く真っ直ぐに自分を見つめる睦子に、初めての恋を覚える。 互いに初めての恋の戸惑いと、相手への思い遣りと、止められない感情を不器用に交わし合う、とても純粋な恋物語。この物語の魅力は二人の誠実さ、真っ直ぐさにある。 高校生にもなれば、恋人同士ならキスのひとつや……くらい、と思ってしまうが、この二人は恋人らしいこと一つするにも、相手の立場や気持ち、そして周囲の事まで、あまりにも生真面目に考えてしまって、なかなか進展が無くてヤキモキさせられる。 しかしその誠実さは、周囲と読者に安心感と、応援したい気持ちを与える。二人の遣り取りと、悶々とした感情にハラハラしながらも、きっとこの二人なら大丈夫だと思わせてくれるのだ。 問題は、秋人の「優しさ」が「怖れ」の裏返しであること。睦子や周囲との関わりで、彼が本当の優しさと「安心」を得ることが出来るのか……。 それにしても、睦子の真っ直ぐな瞳と、二人の嘘の無い遣り取りは、どこまでも眩しい。出来るならば、彼らを見習って真っ直ぐな恋をやり直したくなる。そんな作品だ。 □□□□□ 1巻が出た時、内容とリンクしたカバーニス加工に、やられた!と思ったものだが、これも名和田耕平デザイン事務所の仕事だった。
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2020/06/11
お馬鹿男子との恋は成り立つか? #1巻応援
この作品は、かずまこを先生が『楽園』誌で連載した、高校生男女の恋愛漫画『ディアティア』のスピンオフ。主人公・桐ヶ谷睦子の友人・諏訪環の物語である。 行動の早い環の恋は睦子の恋を刺激したが、環の恋の実際は、本人の報告からしか分からなかった。そこを環の高校入学時から描いているのが、本作だ。 環の恋の相手・佐久間は、典型的な「お馬鹿男子」。ガサツでバカばっかりやって、見てる分には面白いが、時に真面目な女子が腹を立てる様な。読む前は彼の恋愛話が、読み応えのある物語になるという気が、あまりしなかった。 しかし、佐久間の心理描写、とりわけ「女子嫌い」が描かれるうちに、物語は深みを増していく。 佐久間は女子の、自分への評価を、どこまで分かっているのか……彼の内面描写が、かなり丁寧になされる。男子らしい自意識で苛立ち、女子への感情を拗らせている佐久間の内面は、同じ男子の私には結構、共感できる。 一方、佐久間の男子ノリが好きな環は、女子のノリや、女子達の佐久間への態度に違和感を感じる。この環の心境は、「同調圧力」に覚えがある人は、理解できるのではないだろうか。 環に芽生えた佐久間への恋は、彼の友情との取り引きになる。恋を告げた瞬間、友情は失われるのか……? 1巻では1年生が終わり、新学年、環が睦子達と出会う所まで。 2巻以降、ある程度二人の進展は『ディアティア』で知っている訳だが、そこでの二人の心理描写や対話の細部がどの様に描かれるのか……1巻は瞬間の思考と、繊細で丁寧な心理描写に心動かされた。2巻も期待して待つ!
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2020/06/10
複雑な「人の心」にシンクロする百合 #1巻応援
ある時、目の前の人が隠し持つ「何か」に触れる。 思いがけない秘密に触れて、その『昏さ』に混乱し、時に何かに気付かされ、時に受け入れ……様々な感情の在り方が、この『あなたと私の周波数』という短編集には描かれている。 その感情はかなり複雑だ。喜びの中に苦しみがあったり、プライドと憧れが混乱していたり、割り切れないまま前に進んだり……それは複雑なのだが、同調できるリアルさがある。 一言では言い尽くせない感情の機微を描いた、読み応えのある物語達。人の心の複雑さを忘れない為に、一つひとつの物語に心をシンクロさせつつ、読んでいきたい。 ●あなたと私の周波数 貴方は私の想いを知らない……そう思っていたOL。ふと見つけたトランシーバーから……貴方の声? ●お前に聴かせたい歌がある バンドのメンバーに「私の死体を埋めるのを手伝って」と頼まれる。……生きてるよね? ●あんたが背中を見せたから 陸上部のエースは転校生に負けてしまう。エースのプライドに対して、転校生は……。 ●君のすべて 弁当屋のバイトJKと、彼女に懐くJC。自分の父親が亡くなった〈らしい〉と聞いたJKは、JCの父が亡くなったと聞く。 ●私たちの長すぎる夜 好きな人に振られた事を引き摺り、泣きながら酒を飲み、女子をナンパしようとする女。
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2020/06/03
貴方と歩く月夜が、私の人生。
獣耳を持つ種族が暮らす、とある国。そこでは女性同士の婚姻が認められていた。財閥の一人娘・春日ちるは16歳にして、幼い頃に決められた許婚・18歳の東雲千里の元に嫁ぐ。幼い頃の温かな記憶を頼りに、互いに寄り添う生活が始まる……。 ♡♡♡♡♡ 描かれる世界は、明治・大正期の日本がモデルのようだ。懐かしい光景の中、天真爛漫なちると物静かな千里の夫婦が暮らす穏やかな日々に癒され、侍女のカヨや千里の幼馴染のハクとのコミカルなやり取りに、明るい気持ちにさせられる。 「許婚」から始まった二人は、「許婚」を超えて互いの存在を求める。二人とも自分に自信は無いながらも、自分の意思で相手を知り、受容しながら愛情を育む物語は美しい。 一方、登場人物の中には、封建的家父長制の価値観の元で、家の都合・親の意図で、生きる道を選ぶ者が出てくる。彼女達はそれに疑問を持たないのだが、ふとしたきっかけで「自分の望む道」について考えることになる。 ちるの侍女・カヨも、女教師の日和も、明るく後押しするちるや、幼くも強い意思を持った生徒の百(千里の妹)に影響され、自分の生き方に初めて自分の意思を持ち、行動する。 彼女達の決意の表情と、希望に満ちた眼差しに「独立した個」の立ち上がる瞬間を見て、心震える。 明るいやり取りの中に綴られる、自分の人生を「愛する者」の為に歩む物語を、ゆっくり追いかけたい、そんな作品だ。
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2020/05/31
「保護」から本当の愛情へ…
人間不信から老メイドと共に、大きな屋敷に閉じ籠ってきた女性は、老メイドの提案で一人の獣人を引き取る事にした。メイドとして働く獣人の少女・メルと、主人となった女性は、互いを思い遣る優しい関係を築いていく……。 ♡♡♡♡♡ 英国風世界観の美麗さと冒頭2話の優しいお話に、何処までも温かな物語が続いていくことを願ってしまう。しかし、事はそう簡単には進まない。 第3話から語られ始める「獣人」の設定は、ついスルッと受け入れてしまいそうになるが、「国家の保護管理」を示唆するワードがどうしても心に引っかかる。そうするとメルが日頃装着しているある装具が、妙にリアルな重さを常に思い出させるようになる。 世間を知らないメルは主人に信頼を寄せ、心安らぎ、親愛の情を寄せる。そして主人もメルの純粋さに、次第に「人を信じる心」を思い出す。 心を交わし、温もりを確かめ合う二人と、それを支える老メイドの生活は穏やかで、心温まる。しかし、メルの親愛の情が別のものに変容し、主人がそれを受け入れたいと思った時、「獣人」の設定はメルの装具のように生々しく二人に纏わり付く。 優しい日々に不安を潜ませ、二人の行く末の幸福を祈る物語として、または「国家・管理・差別」といった問題意識の寓話としても重みのある作品だ。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/05/29
猫娘&猫好き娘の猫喫茶、百合営業中♡
小児のうちに罹患する「猫娘病〈カトルス病〉」。患者には猫耳と尻尾が生え、時には猫に変身!そして何故か、女の子に惹かれるように……。 猫娘病の白椛雪はコミュ障のゲーマーだったが、高校の入学式に猫まみれで登場した彩野りことの出会いで、生活が一変!……私に友達?私が接客?本当に? ♡♡♡♡♡ 疾患としての猫娘という設定は、差別されることもあるが(4巻時点では)それ程深刻なものではないので、猫好きの方が安心して楽しめる様になっている。 様々な品種の特徴を持つ、猫娘高校生達の愛らしい活躍に癒され、更に随所に散りばめられた「猫あるある」や猫の解説を読んでいると(私は猫を飼った事がないので)猫を観察してみたくなる。 雪と共にりこの家の猫喫茶で働く猫娘達は、愛らしい上になかなか「出来る」子達。コミュ障で不器用な雪は引け目を感じるが、他の猫娘やりこに励まされ、辿々しく頑張る雪の姿は却って「尊い」。 菩薩のようなりこに惹かれる雪だが、人間関係を過剰に警戒する雪は何かあるとすぐ躊躇し、ぐるぐる脳内会議を始める。しかし、りこは雪のことが大好きで、優しく、時にグイグイ接触。頑なな雪の心が融かされる様子はやっぱり「尊い」! なかなか笑顔が出せないツンデレ猫娘を愛で、晴れて笑顔を見せる瞬間を待ち続けたい、そんな作品だ。
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2020/05/27
つけ耳ガールは、発・情・寸・前!
近未来の女子の間で流行のファッション、それは「つけ耳」!高校1年生の乃々は、好きな人とお揃いのつけ耳で告白しようとする。 つけ耳ショップの店員・みかんに後押しされ、みかんの幼馴染・ねおんに告白……でもつけ耳には実は副作用が……乃々の副作用は「発情」!? ♡♡♡♡♡ ファッションとして、外科的施術で簡単に装着できる獣耳というアイデアは驚きの斬新さで、動物を選ぶコーディネートの楽しさ、その動物の生態×装着者の性癖による副作用の多様さなど、想像の余地の広い世界観が楽しい。この作品は二次創作したくなる! しかし副作用が強く出る娘は、性的な部分で困ったことになり、エッチなハプニングはしょっちゅう……そこを起点として、ショップのお客達は次々と百合の花を咲かせることになる。ドキドキ……。 そしてショップでバイトを始めた乃々と、みかん、ねおんの三人娘もジワジワと仲を深め、馴染み客の「つけ耳アイドル」も加わり、思惑が交錯する。お客達よりゆっくり進む彼女達の関係も最後に大きく動き、目が離せないドキドキ。 エッチな物がウェルカムな方……この作品は、ジャケ買いして間違いない!表紙絵の神懸った可愛さは、作中でも最後まで崩れない。ドキドキしっぱなし!
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2020/05/24
日向で寄り添う、寂しい二人。 #1巻応援
対外的には強い女として、孤独を抱えて生きているOLの伊勢見小春は、雨の夜に木陰で震える子猫を拾った……はずだったのに……。 人の姿と猫の姿を行き来する「化け猫(自称)」の幼女を、無碍にできないOLが庇護する……寂しい二人が寄り添う生活が、始まる。 ♡♡♡♡♡ 猫の人間変化といえば猫又が有名だが、あれは長寿の猫がなるもの。産まれたばかりのこの「化け猫」が、どういう存在なのかは1巻では明かされない。 そういうこと以前に、寂しそうな子猫を拾った小春は、そのヤンチャぶりや、考えの分からなさに振り回され、苛立ってしまう。 小春はそんな子猫を面倒臭いと思いながらも、つい孤独な子猫をかまってしまう。寂しさを抱える小春の相反する行動に、どうしても共感してしまう。 一方子猫の方は、常に何かに怯えている。少しずつ安心していく彼女……名前を付けられ、明るい笑顔を向ける瞬間の愛らしさが、心に染みる。 幾つかの出来事を経て、二人の間にはまだ、温かな信頼感が生まれたばかり。2巻に続く新たな展開が仄めかされるが、とりあえずはクルクル表情の変わる愛らしい猫耳幼女と不器用な保護者の、ぎこちなくも温かい交流に、優しい気持ちを貰いたい。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/05/23
ヤサシイオトナに癒されるJK #1巻応援
女の子達が大人の男に脅かされるのを見聞きすると、大人として、男として申し訳ないと思う。辛い思いをした子達が大人の男に警戒心を抱いたとして、怖くないよ、安心だよとは、私には軽々しく言えない。 彼女達に救いをもたらすとしたら……大丈夫な大人もいるよ、と自ら体現して見せる事から?……いや、男である時点で、それも難しいのだろう。 ○○○○○ コンビニで男性客に脅されているバイトの女子高生を助けた、優しくて勇気のある女性。三十路で特にパッとしたところもない彼女だが、その女子高生に惚れられてしまう。そしてその子をきっかけに、更に二人の女子高生が女性のもとを訪れ、様々に関わっていく。 三人の女子高生に共通するのは、大人・男に寂しさや不信感を抱いている事。大人や男に屈折した気持ちを持つ彼女達は、大人として子供を守る包容力と優しさを体現する女性に安心していく。 芽生えた女性に対する感情に戸惑う者、突き進む者それぞれだが、どんな相手の感情にも誠実に向き合う大人の女性の在り方に、学ぶ所は多いと感じる。 この作品を安易に「百合に目覚める」物語とするよりは、子供を大切に受け止める大人と出会えた女子高生達の、幸せとそれまでの不幸に思いを馳せる物語として、真剣に受け止めたい。 この「百合」作品を十代の子達が読んだらどう思うのだろう……聞いてみたい。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2020/05/22
あなたの心に、繋がりたい♪ #1巻応援
「ココログイン」という言葉がもう、ステキな発明だと思うわけです。 ゲーム世界を始め、何らかの特殊空間・時間軸に自己が接続する事を「ログイン」と言うなら、他人の精神、もしくは自分の内面の未知の領域に接続する瞬間を「心にログイン=ココログイン」と呼ぶのは、ちょっと冒険の匂いがしてワクワクする。 相手の心を探り、暗中模索しているうちにふと、隠れていた秘密に触れた瞬間を「あっ今、ココログインした」なんて言ってみるのは、なかなかしっくりくるなぁと、この連作集を読んで思ったりしました。 心の繋がらなさと、心が繋がる瞬間の諸相を描いた連作集『ココログイン』。優しく晴々とした気分をくれる。 ●Hocus Pocus 東北地方の高校に、方言を話さない転校生が転入。慣れない響きの言葉を使う者に対しての、微妙な距離感と憧れはいずれ……。 ●Träumerei(前後編) お昼休みの校内放送は誰が話している?秘密を巡る男子と女子とおじさん先生と。 ●Contact(前後編) ゲーム世界の友達とオフ会。リアルなコミュニケーションに自信の無い二人が、現実クエストに挑む! ●Grandma's Song(前後編) 好きだった祖母はボケたのかな……同じ魔法少女アニメを見続ける祖母は、私の彼氏に頬を赤らめ……どういう事!? ●My Place 滅多に家から出ない少女が気になる少年と、少女を守りたい隣人。 ●In Other Words 空を飛ぶ夢は不安の夢。そう告げる男子をじっと見る女子。思い当たる節はあるのだ。
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2020/05/20
魔力禁止! 悪魔にママは難しい #1巻応援
魔界の悪魔を呼び出した、小4の桜。悪魔セーレ(男)に魂を差し出して願ったのは……「ママになって!」 ……悪魔に頼む事じゃない! 悪魔セーレにしてみたら、今迄に考えたことも無いケース。そもそも何を求められているのかも分からず、母親と死別していて母子関係が分からない桜の、曖昧な願望に振り回される。 何か頼まれると、強力な魔力と悪魔の価値観でダークに張り切るセーレは、「そうじゃない!」と桜に突っ込まれる。色々分かっていない悪魔が悪いようで、突っ込む少女も賢いが何かズレてる……?というヘンテコなやり取りが、凄く笑える。 セーレと桜の「二人の」契約は、桜が独断で行ったため、さらに面倒なことになる。次々と増えていく登場人物……!その都度、割ときちんと対応していくセーレだが、悪魔の凄みが隠しきれず、結果ツッコミどころ満載! セーレが家事面でも精神面でも、桜と家族を助ける存在になるのかどうか……先行き未知数のかなりぶっ飛んだ、悪魔男子の〈継母〉コメディ。桜の寂しさも描かれ、人間の機微と「察する」ことを覚えつつあるセーレの対応力に期待! (去年の作品ですが……2020年5月時点で次巻が未定なので応援!)