あうしぃ@カワイイマンガ
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2021/03/04
「近さ」を巡る百合短編集
『ふたりべや』では二人の恋愛ではない?親密さを描き続ける雪子先生。この短編集『おねだりしてみて』も、様々な「近さ」を描いている。 それは寄り添って安心を得る、という『ふたりべや』に近い内容もあれば、秘された心と向き合い、関係を構築する内容もある。いずれも恋心がどうこうよりも「どうすれば安心できるのか」の方が大切なテーマの様だ。 だから読後には、二人の「続き」への興味と空想が尽きない。興味深い連載のパイロット版が何本も並んでいる様な面白さなのだ。 そしてここから『ふたりべや』も始まる。 ♡♡♡♡♡ ●『おねだりしてみて』隣人の喘ぎ声が気になる。近付き、事情を知り、そして……ラストにビックリ。 ●『魔法少女が将来なりたい職業1位になりました。』魔法少女養成学校に、おバカ女子と賢い親友が挑む!彼女の資質は親友力? ●『No.105』液体になれるけど元に戻れないアンドロイドと、彼女に苛立つ博士の助手。心開けば、彼女は水鏡。 ●『筍と帆立の春雨サラダゆず胡椒風味』不眠症のお姉さんとサラダしか食べない少女、深夜の逢瀬。 ●『泣きたい人は何処にも居ない』彼女は私に傷付けさせる。嫌なのに抗えない、そして彼女は……。グロ注意。 ●『蜂蜜日和』双子の姉妹はいつも密接していて、でも少し内面は違って、それでも一緒にいる。 ●『ふたりべや』連載作品の元になった同人作品。少し設定は違うらしいが、ほぼ一緒。この近さ、良いなぁ。
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2021/03/03
〈超密着〉二人の同居はもう7年目…
同居物語には大抵、喧嘩が付き物。喧嘩しても仲直りして絆深まるのが物語の常ですが……いやいや、現実なら拗れて終わるでしょ?と思う訳です。 『ふたりべや』の二人は……そもそも喧嘩しませんねぇ、驚く程。 仲が良過ぎて、同居初日から一緒のベッドで寝てるし、頬寄せ、膝枕、手繋ぎ、何かと言うと体寄せ合ってくっ付いている……恋愛抜きでですよ?それを8巻、高校から大学四年まで7年間続けて、本人達も読んでる方も全く飽きない。 しっかり者の桜子は、食いしん坊で面倒くさがりのかすみに、あれこれ世話を焼く。彼女にとってはそれが愛情表現で、やりたい事。でもそれはかなり過剰。そんな桜子をかすみは、やりたい様にさせて置き、喜ぶことで受け止める(意外な程の思慮深さで)。 お互いのあるがままを受け入れ(時に引かれても)相手に素を見せて甘え、寛ぐ。そこには恋愛の甘々や情動ではなく、夫婦という絆でもない、ただ一緒に生活を楽しむだけの、決して壊れない究極の「仲良し」感がある。 周囲には女性同士の恋愛模様が、幾つか描かれる。それを見ても二人の様子は、何も変わらない。私としては、いつか壊れる恋愛よりも、こんな関係性が羨ましい。 物語とか要らない。二人の同級生になったつもりで、この関係性を何処までも眺めていたい。そんな風に思わせる作品です。 (8巻までの感想です)
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2021/02/25
ジャージィ・ローマンと九十九の敬意
陸奥九十九の闘い方は二通りある、と描かれる。一つは、陸奥圓明流としての効率的な殺人拳。そしてもう一つは、敢えてそれをしない闘い方だ。 陸奥九十九は、これはと思った相手……本能的に恐怖を感じる、それ故尊敬に値する相手と試合う時、わざと相手の土俵に乗る。 相手の得意分野で闘い、正面から互角以上に渡り合った末に、遂に相手を凌駕する。その象徴的な闘いが、第三部・ボクシング編のジャージィ・ローマン戦だ。 「神の声」を聞き、完璧な読みで攻撃を封殺するローマンに対し、陸奥九十九はスピードを何段階も上げ続ける事で「神の声」を置き去りにし、無効化しようとする。 陸奥九十九は試合前も後も、常に言い続ける、「ローマンが怖い」と。そこには「神が怖いのでは無く」という含意と、〈人間〉であるローマンへの敬意があるだろう。 相手の得意分野を凌駕して見せる事で、陸奥九十九は、敵の全てを折る。ローマンの「神」もそうだが、所属団体や流派のプライド、最強の称号、等々。しかし陸奥九十九は恨まれない。敗者は皆、そんな負け方に納得してしまうのである。そして負けて全てを失っても、陸奥との闘いを胸に、先へ進める。 陸奥圓明流という殺人拳を使いながら、相手の土俵で闘うという「敬意」によって陸奥九十九は、相手に爽やかな敗北感と次へ向かう力を与える。こんなに「精神的な」美しさがある格闘マンガもなかなか無い。 ジャージィ・ローマンの、身体では無く〈心〉が闘いを止める瞬間の印象的な1ページを眺めながら、そんな事を思った。 #マンバ読書会 #少年マンガの名バトル
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2021/02/24
ヒーローは博士ポジ?(「らしさ」の解体)
『魔法先生ネギま!』の私的ベストバウトは、27巻のネギ・スプリングフィールド対ジャック・ラカン戦です。 犬上小太郎とのタッグ戦ですが、終始ラカンとネギの力比べが繰り広げられます。しかし魔法世界最強傭兵に対し、実力的に劣るネギ。それをカバーしたのは、何重にも仕掛けた罠と、天才的な魔法開発力、そしてあらゆる力を取り入れた、なりふり構わぬ戦術でした。 戦いの後、ネギは称賛と共に揶揄されます。「(筆者注:それはヒーローというより)どう考えてもハカセポジションやで!」 (27巻249時間目より引用。口調からして味方の小太郎ですね……) ヒーローらしくない博士ポジの主役……そうネギが呼ばれる時、私は同時代に週刊少年マガジンで連載されたテニス漫画『ベイビーステップ』を思い出します。 ベイビーステップの主人公・丸尾栄一郎は、浅いキャリアと肉体的な不足を補うべく、「研究」と「コントロール」を武器として強豪と対峙する。遂に世界ランカーになる彼ですが、最後までコートで研究ノートを書き続けました。 2000年代末から2010年代にかけて同じ誌面に描かれた、二人の「博士ポジ」主人公。彼らはヒーロー「らしく無さ」がカッコ良くなる、と言う事を示してくれました。 この10年でマンガに描かれてきた、ジェンダーの揺らぎや、新たな文化系ジャンル、もしくはスポーツ漫画の新たな価値観や育成観。そこでは少年マンガに顕著な従来のヒーロー「らしさ」は、解体されて行く。 そしてそこで描かれるバトルは、従来のヒーローバトルよりも更に複雑で、新たな視点からの面白さに満ちている。旧世代代表のラカンを乗り越えるネギの戦いは、その代表例と言えるでしょう。 #マンバ読書会 #少年マンガの名バトル
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2021/02/20
駄目プロ絵師と世話焼き腐女子
最初タイトルを見て、メンヘラ的内容なのかなぁ、と思ったのですが、そこまで重い物は無かったです。 〈不安定さん〉は、プロのイラストレーター。締め切りに追われ、筆が乗らず、自信も持てなくて……と、クリエイターっぽい苦しみに、布団を被って落ち込むかソシャゲに逃避。その上極度のコミュ障で、打ち合わせの外出すらままならない。 そんな不安定さんと同居する〈しっかりさん〉は、かなり年下のOLで腐女子。世話好きの彼女は同人活動に勤しみながら、不安定さんを支える。 構図としては『2DK、Gペン、目覚まし時計』が近いですが、不安定さんはかえちゃんがコミュ障な感じ、と言うと、その救いの無さが伝わるでしょうか。一方しっかりさんは奈々美ちゃんよりずいぶん幼く見えても、甲斐甲斐しいのは似ている。 不安定さんを叱咤激励しつつ、つい甘やかし、お世話することに喜びを見出し、そして男装した不安定さんにときめいてしまうBL好きのしっかりさん、という百合は思っていた以上に強力に! 同居に懐疑的な家族が出て来るのですが、それに対するしっかりさんのアンサーは、なかなか度胸があって、これが推しへの愛なのか……と感激のラストでした。
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2021/02/18
親友女子のチャレンジ同居生活 #完結応援
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恋人と親友、何が違うのか?と考える。 恋?性欲?……特別感と言う事なら、親友もかなりの物ですよ?百合を「精神的な清い繋がり」という狭い定義で捉えるなら、時に親友は恋人と並ぶ位、百合的だと思うのは私だけでしょうか?(そういう関係性に、私はよくロマンシスという語を当て嵌めます) ルームメイトで同じ会社に勤める伊勢さんと志摩さんは、高校の時からの知り合いですが、親友になるのは社会人になってから。 要領が良くてもドライな伊勢さんと、仕事は出来なくても人当たりが良い志摩さんは、仕事でも日常生活でもナイスコンビ。恋は無くても互いが切り離せない二人は、うん「相方」ですね!(画像は1巻/CHALLANGE10より。周囲から見ても「相方」な二人) 毎日やりたい事、試したい事をチャレンジ表に書き出して、試していく日々は楽しそう。でもこれ、二人だから続くんだろうなぁ……と羨ましくもあり。 恋をしたい!という二人ですが、次第に二人の間には少しの、ズレや複雑さが見えて来る。最後まで読み進めれば、単純なユルフワお友達ではない、互いを奥深くまで受け入れた「親友」の、心震える感情交換が味わえます。 そして全て分かってから、また1巻から読み返してみると……えっ、この時彼女は何思ってたの?という感じで、かなり驚かされる造りになっています。その辺は是非、本編で確かめてみて下さい!
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2021/02/12
みんな百合同棲で幸せになろうぜぇ
いゃぁ、ぶっちゃけ出生率が下がろうが「私」の幸せには関係無いじゃないですか?だから百合同棲で幸せになれるならガンガンすれば良いと思うし、足立区は滅びれば良い※(追記あり) 『同棲生活』の社会人女性カップルは、少しのすれ違いや言い合いなんかはあるけれど、深刻な対立にならない。なので、現実の荒んだ日常に疲れた人の癒しになるし、なんなら女性同士の同棲に夢を見られる。 ……百合同棲で、自分も幸せになれるかも?って。 ただ難易度高いと思うのは、お互いを「責めない」事。例えば片方は料理苦手だし、仕事のコトをグジグジ愚痴る。方やタバコを吸ったりして、互いに喧嘩になる要素はありそう。それでも互いに「愛されている」という自信(作中では「慢心」)があるので、逆にどこまでも相手を赦し愛する。 大きな情動は少ない代わりに、どこを切り取っても楽しさしか無い。良いパートナーに巡り合えた二人の、日常の遣り取りをただただ眺めて、幸せになる作品です。 攻め受けがくるくる入れ替わるエロ要素も、トキメキいっぱい!(俗に言うリバですが、二人の関係は対等なので、割と自然です) ※「足立区は滅んでしまう」発言については下記記事を参照下さい。 https://www.google.co.jp/amp/s/www.tokyo-np.co.jp/amp/article/61336 ※追記:その後2021年代4月1日に、足立区でパートナーシップ・ファミリーシップ制度が施行されました。カップルに子供がいる場合、家族として証明するという、もう一歩進んだ制度となっているそうです。 区の真摯な取り組みに敬意を表すると共に、足立区が全ての人にとって住みやすい地となる様、祈ります。 https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/95246?__twitter_impression=true
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2021/02/10
え!?私が「する方」ですか!? #完結応援
イェーイ私アリサ!目が覚めたら目の前に美人のお姉さんが。何か私、三年間の記憶失っててお姉さんは恋人なんだって!ウソーお姉さんめっちゃ好みだし私よくやった!でもどんな風に同棲してたか思い出せない〜! ♡♡♡♡♡ 概ねこんなノリで、アリサは記憶喪失をモノともしないポジティブさで、年上のマリさんとの同棲を再開。 関係を再構築しようとする二人に立ちはだかるのは、元の関係の「捻れ」。 年下で記憶の無いアリサを引っ張らないといけないマリさんが、何故かモジモジしている。どうやらかつてマリさんは「引っ張られる」方だった様で、キスの仕方すら忘れているアリサと向かい合って固まってしまう……みたいな様子は初々しくも焦ったい。 アリサはおバカだけれど超ポジティブ。真面目なマリさんを引き摺り回して、周囲も明るく認めさせて、関係を前進させる様が楽しくて気持ち良い。しかしこと「性」に限っては、十代の知識と恥じらい。そしてマリさんにガンガンエロい事していた「昔の私」に嫉妬する羽目に……可哀想だけれどウケる。 記憶喪失は重くは描かれないが、二人の捻れは意外と尾を引く。互いに好きすぎて、体の関係も持ちたいのに、望む形になれなくてあたふたするエロコメディは、見ていてあ゛ーーってなる(語彙力… アリサのおバカテンションにソワソワしっぱなしになる作品。お願いだから、二人のエロを暴露するのはやめてあげてよ!
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2021/02/08
オカシな私に、踏み込んでよ #1巻応援
SM漫画としては、例えばスパンキングを見せておいてからのソフトな首輪束縛といった誘導や、各話間の注意書きやTipsにリアリティが……あるのかなぁ、私も成人漫画かビデオ位でしか知らないので……。 しかしここに複雑な「百合」関係性を織り込んで、特殊性癖を切ないドラマにして、心に刻み付けて来る。 登場人物は ●初恋相手に再会した高校生・更紗(S) ●更紗の1歳年上で初恋相手・澪(?) ●更紗の妹の中学生・桃乃(M) ●桃乃の級友でクラス委員・立花(?) とある事情から、短い期間で澪との関係を構築したい更紗。更紗と澪が近づく事で暇になった桃乃と、不真面目な桃乃を更生させたい立花。 描かれるのは「相手に踏み込みたい、何とか繋がりたい」という切実さ。それがSMプレイに込めて伝えられる時、昂る感情はエロスと噛み合い、巨大感情へと育って行く。 真摯さとインモラル、甘い恋とエグい性欲。そんな相反する物、あなたには無いか?と突き付けてくる。私と本気で繋がる気なら、私の中の異常性に踏み込んでよ、と。 (SMとしてはソフトだが)肉体的にも精神的にも痛々しい描写達。しかしこの痛みでしか、伝わらない感情がそこにはあった。
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2021/02/07
恋は無くとも「エモい」同居 #1巻応援
勿論ただの同居なら、別に恋愛は無くても、友情とか利便性とか契約とか、どんな関係でも構わない訳です。 で、この作品ですが、同居する二人の関係はかなりヘンテコ。 空き巣に入られて身の危険を感じた社会人・きのめは、一時的に居候させてくれる女性・あけびを姉に紹介される。しかし彼女、実は〈姉に〉恋してる! 漫画家のあけびはカッコよくて優しくて、変な男性に纏わり付かれるきのめには、頼れる存在。一方きのめは、得意な料理を振舞ってあけびに喜ばれる。win-winな関係は噛み合っていて楽しげですが、きのめの気がかりは、あけびの姉への恋心。 最初「姉を好きな人」とどう接して良いか分からずテンパる所から始まり、あけびの純愛に触れるきのめの、情緒が激しすぎて可笑しい。そして二人の生活は次第に楽しくなって行きつつ、あけびの恋はブレない。純情なあけびのポンコツな挙動も、また可笑しい。 心通わせてゆくコンビですが、恋になる感じは、する様なしない様な……姉の本心含めて、1巻ではゴールが全然予想出来ない。けれど同居物としては既に、互いへの思い遣りが「熱い」内容だし、今後もエモい展開が見られそうな気がします。
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2021/02/06
料理は化学!院生オタク語り飯 #1巻応援
この漫画は、料理漫画?百合だかロマンシスだか言うやつ?いやいや、この漫画一番の見所は…… 「オタク語り」! 農理学部の修士1年女子・鳥見川さんは、料理上手だけれどコミュニケーションに難ありの様子。彼女は化学好きで、オタク語りが止まらなくなる気質。 そんなオタク語りを受け止めるのは、同じ学部で研究室の違う博士課程の塔山さん。彼女は「何故?」という好奇心が止まらない気質。それ故、鳥見川さんの料理化学のウンチクが楽しくて仕方ない。 鳥見川さんが作る夜食を共に食しながら、お互いの欲を満たし、受け入れられる関係性はどう見ても〈運命の人〉。盛り上がる二人の様子を眺めるだけでも楽しいですが、実は化学の解説がかなり分かりやすく、文学部卒の私でも楽しく理解できました。 レシピを知るのでは無く、レシピの「理由」を知ることが出来る、今までに無い料理漫画?化学漫画?これを読んでも料理マスターにはなれなさそうですが、知的好奇心を満たしながら、一人のオタクがありのままで受け入れられる様子を喜びたい、そんな作品です。
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2021/02/05
二人の百合猛者に学ぶ人事のお仕事
人事部の先輩後輩である二人の女性。彼女達が偶然出会うのは、ラブホの入口。お互いに「彼女」を連れて。なんてこった……。 □□□□□ 百合作品なのですが、主人公の先輩後輩コンビは、恋愛関係では無い。性格も恋愛感も好みのタイプも全然違う二人ですが、互いの秘密を知って以来、飲んでお話しする関係に。これは……百合同志ですね。 分かり合えたり無かったりだけれども、腹を割って話せる二人の関係が楽しい。そして互いの性格を掴みながら、先輩から次第に人事の仕事をレクチャーされてゆきます。 心理学的テクニックを仕事に活かしていく様子は、納得感が大きい。営業のエースだった後輩が人事の機微を学ぶ成長物語としても、二人が協力して問題解決するバディ物としても面白く、お仕事漫画として充実! そして忙しくお仕事しながら、それぞれの恋愛模様にも変化があり、人心掌握に長けた先輩のドライな恋愛の裏側など、これから話は重くなりそう。 この先輩後輩、恋愛関係では無いのに、その関係性はやはり良い感じで、新しい百合の形かもな……と思ったりします。 (2巻までの感想です。最終第3巻は2021年3月8日発売!)
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2021/02/04
欠落した私は貴女の側で満ちる
百合漫画に出てくる、異性愛を前提とする恋バナ女子集団の同調圧力に、イラッとする。しかし一方で、自分も圧力をかける側だったかもしれない、と緊張もする。そういう事に気付ける百合漫画には、万人に読んで欲しい普遍性があると思う。 ♡♡♡♡♡ 普通の恋愛が出来ない事に思い悩む女子は、会社の友達との恋バナに疲弊しながら、言い寄る男性を拒み続ける。 周囲への劣等感や男性への嫌悪感等々、幾つもの苦しみを抱えた彼女は、それを軽くしてくれる人に出会う。 会社では真面目な堅物、一匹狼なその人に自分を肯定し、受け入れて貰えた喜びは、やがてもっと近づきたい、という感情に変化する。しかしその人もまた恋情に疎く、妹に対する強い思いに縛られていた。 人目を気にして外面を取り繕ってきたオシャレ女子の心の解放に、こちらの心も軽くなる。一方で真面目女子の物語はまだこれからの様で、予断を許さない。しかし妹の、姉への思いと動向が意外で、物語を楽しくしてくれている。 二人で歩く月夜の秘密と開放感に、私も救われる感覚がある。苦しみの先に生まれ続ける優しさを、スマートでふんわり美麗なページを繰りながら見続けたい。 (2巻までの感想)
あうしぃ@カワイイマンガ
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2021/01/30
役を生きる、私が生まれる。
恋が分からない侑と、彼女に初恋を覚える先輩・燈子、そして燈子の親友・沙弥香。彼女達の心は、難解だ。 恋を知る私は、恋が分かない侑に感情移入しにくい。燈子の完璧さが隠す物も見えないし、沙弥香の燈子への心もどこか胡乱だ。 侑に甘えながら心を開き切らない燈子。燈子を受け止める侑の優しさ・苛立ち・変化。二人を見る沙弥香の複雑な心情。それを表現する彼女達の言葉は、時に鋭いが時に遠回り。 相手の事は思い遣れるのに、自分の心は掴めない三人。そのモノローグを追ううち、私は彼女達の本当に言いたい事を、未だ形にならない心を、考えずにはいられなくなる。 まるで人の複雑な心に踏み込む舞台の脚本の様な、彼女達の心理描写。そこには私を考え込ませ、よろめかせる強い引力がある。 ☆★☆★☆ 物語は、彼女達の心の変遷と生徒会劇の製作とをシンクロさせて進む。元々は燈子が自分の「人生の役」を完成される為に仕組んだ生徒会劇。図らずも燈子の内面と重なってしまった台本を巡り、三人の心は絡み・切迫し・圧縮されていく。 燈子のために侑が望んで変更した結末。そこに込められたメッセージを受け取った燈子は、舞台で役を生き切った時、「人生の役」から解放されていく。 舞台の完成と、燈子の新生。それが同時に表現される時、難解だった心情はシンプルになって私の心に届く。6巻まで積み上げた先に広がる光景は、凄い創作物を見た喜びと、燈子への祝福に満ちていて、脳が焼けつくような多幸感で煌めいている。 凄い創作物を見た時に、新たな発明品の目撃者である事と、純粋に描かれた内容に感激する事は、両立する事もあるし、そうで無いこともある。そして『やがて君になる』は、確実にそれらが両立する作品だ。 切ない人達の心の解放と新生を描いた、心に残る創造物が、創られ届けられた事に、深く感謝したい。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2021/01/29
恋の舞台裏は、みっともない。
『青い花』の中で一番印象的な人、と問われると、私は実のところ、主人公の奥平あきら(あーちゃん)や幼馴染の万城目ふみ(ふみちゃん)よりも、ふみちゃんの先輩の杉本恭己を思ってしまう。 杉本先輩は所謂「王子様」。あらゆる女子の好意を一身に浴びる彼女は、ひと時ふみちゃんと付き合うものの、すぐに破局する。 彼女を印象付けるのは、完璧な仮面の裏に潜ませた、どうしようもなく幼い片想い。そのみっともなさは、美しい外面と落差がありすぎる……まるで派手な舞台と、その舞台裏の埃臭さのような。 舞台裏は暴かれてしまえば、表の煌びやかさを失わせる。しかしそれを観る事もまた、興味深い。舞台裏の必死さとツギハギな工夫、人間ドラマは、飾った美しさとはまた別な良さがある。 ◉◉◉◉◉ 演劇部の活動を通じて、しっかり者だがどこか幼いあーちゃんは、裏方からメインキャスト、部長として大きく成長し、幼さを捨てて変貌していく。一方ふみちゃんは、自分を振った先輩を叱り、あーちゃんに対する恋心から逃げないと覚悟する強さを得る。 しかしそんな二人の裏には、やはり美しくない物が隠される。 成長したあーちゃんだが依然恋心が分からず、それでもふみちゃんを傷つけたくなくて付き合う事に苦しむ。そしてふみちゃんは、この恋で傷ついてもいいと思いながら、いざ傷つくと泣いて執着する。 真摯で優しい二人の物語だが、決して美しい所ばかりでは無い。こうありたいと願う美しさの裏に、ままならなさと必死さを隠して、それはある時、ふと見えてしまう。しかしそんな彼女達の覚束なさを見る時、私は演劇公演の舞台裏を覗く様にドキドキし、剥き出しの心に同調する。うん、そういうこともあるよね、と。 心は不可解で、美しいのにみっともない。そう『青い花』は繰り返し描く。私はそんな美しさもみっともなさも、どうしようもなく好きなので、何度でも『青い花』を手にするのだ。
あうしぃ@カワイイマンガ
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2021/01/27
女の国、男は頭上を舞うばかり。
桜が覆う丘の上の女子高では、桜舞う頃、演劇部がチェーホフの『櫻の園』を上演するのが習わし。部員達は練習に励みながら、それぞれの恋の季節を過ごす。そんな青春模様を描いた四編のオムニバス。 ◉◉◉◉◉ 女子校に通う彼女達だが、お付き合いするのは周囲の高校の男子。描かれる恋は多様だ。 彼氏と体を重ねる事を躊躇う子も、彼氏を放って悪い遊び方をする子も、大切な人に何かを教わり、友達と会話を重ねながら、自分の心と体を大切にする事を覚えていく。心の解放に向かう様子に安堵する。 百合読者としては、後半の二編が気になるところ。自分の中の〈女性〉と折り合いをつけられない二人の女子は、片や男性らしさを身に纏いながら男性に恋し、片や男性を嫌悪しつつその女子に恋する。 二人は最後、互いの気持ちを知りながら、ただ分かり合い、慰め合う。そんな様子を見ていると、女性同士というのは恋をする以前に「分り合う」関係性なのだ、と思い知らされる。そういう意味では、実はこの作品は最初から最後まで〈百合〉的だ。 桜の精って男なんだって……という台詞(p113)とその前後の「男の気持ち悪さ」の遣り取りを読むと、どんなに愛し合い番ったとしても、男は女を解れないのだから、せめて彼女達の冠として咲いてろよ、という気持ちになる、男の私でさえ。