プレゼントフォーユー

誰かに贈りたくなる、贈り物のお話

プレゼントフォーユー 四宮しの
兎来栄寿
兎来栄寿

『銀のくつ』や『とんだりはねたり』の四宮しのさんの最新単行本……と言っても知らない人の方が多いかもしれませんね。 皆さんには表紙だけで「きっとこのマンガはいいマンガだ」と予感できた体験はないでしょうか。四宮しのさんの作品は比較的マイナーなレーベルから出されることが多いのですが、押し並べて表紙を見ただけで内容の面白さを予感させてくれるタイプであり、本作も真白地の中央に水彩のようなタッチで描かれた制服を着た女の子が曖昧な表情でバナナを差し出しているというシンプルな表紙ですが、この表紙から何かを感じ取った人には間違いなく訴求するものがある作品です。 内容は、タイトルが示す通り「プレゼント」という事柄にフィーチャーした連作短編集です。 贈り物をする時には、当たり前ですが必ずその相手がいます。人が人と関わり合う、その中で生まれる絆。そんな絆を保持したり、より強めたり、あるいは生み出すための「プレゼント」にまつわるお話。 具体的な内容については読んでいただくとして、全体を通して表紙絵から予感するような胸に広がる柔らかな温かみで心が満たされる一冊となっています。 発売したのが丁度クリスマス前でしたが、まさにクリスマスプレゼントにこういう一冊を贈るのもとても素敵ではないでしょうか。 四宮しのさん、多作ではないですがこれからもこういう作品を描いていって頂きたいです。

親友は悪女【単行本版(オリジナル描き下ろし付)】

単なる胸糞女討伐漫画ではないのだ

親友は悪女【単行本版(オリジナル描き下ろし付)】 和田依子
野愛
野愛

広告でよく見る漫画はなんやかんやで気になります。 特に嫌な女に振り回されるお話は最後まで見てスッキリしないと気がすまなくなってしまいます。 という訳で読んでみました。 SNSを通じて高校時代の友人と会ったらヤバ女で男取られた、乱暴に言ったらそんな話です。身も蓋もない話のようですが、真奈と妃乃の人物像の解像度の高さに引き込まれてしまいました。 人を疑うことを知らない純粋無垢なお人好し・真奈。 人の男を寝取るためなら手段は惜しまない悪女・妃乃。 善人と悪人のコントラストが過剰に描かれているようでありながら、どちらも絶妙に「いる」んです。 真奈を見下し、彼女の恋人をあの手この手で奪おうとする妃乃が許せないのはもちろんですが、妃乃を疑いもせず最後まで親友であろうとする真奈にも苛立ちを感じてしまいます。真奈の純粋さを受け入れられない自分に気づくと、なんとなく妃乃の気持ちも見えてくるような…。 本音を言えば、妃乃の過去や心のうちを深追いしたらもっと面白くなりそうな気はしますが、短くてスピーディーな物語の中に人間のいいとこやなとこがちゃんと凝縮されています。 単純なハッピーエンドではない終わりかたもわたしは好きです。最後まで真奈は真奈だし妃乃は妃乃らしくて素敵だなと思います。

狂人関係

諸行無常の響きあり

狂人関係 上村一夫
野愛
野愛

天才浮世絵師・葛飾北斎という圧倒的な存在を軸に、弟子・捨八や娘・お栄らの生活を描いた作品。 捨八と彼を取り巻く女達の姿が艶っぽく、移ろいゆく四季と相まって心を掻き乱されるのです。 捨八への想いを内に秘めたまま彼を見守るお栄と、派手好きで大胆なお七、正反対のような女2人がなんとも魅力的。 どちらも激しくて悲しくて、どうしようもないくらいに「女」として描かれています。 個人的に一番感嘆したのはお栄の手の描写です。冬は北斎や捨八の世話を焼く手があかぎれだらけになり、だんだん暖かくなるにつれてもとの白い手に戻っていく。綺麗になった頃にはまた厳しい冬がやってくる。 季節の移り変わりとともに、お栄という女の強さと儚さがこの描写に凝縮されているように思います。 手が綺麗になっても、男と女が関係を持っても、浮世絵が完成しても、終わりに向かっているだけである。失われていくだけである。 激情に満ちていながらも、根底に流れる諦念のようなものが美しく儚い作品でした。純文学に出会えました。 決して理想的ではないけれど捨八に惹かれてしまうのは女の性だし女の業ですね。狂おしいほど好きです、捨八。

プロレススーパースター列伝

プロレスファンへ送られた愛と夢のある入門書

プロレススーパースター列伝 梶原一騎 原田久仁信
名無し

80年代に活躍した人気レスラーを、それぞれ数話の シリーズで紹介した自称ノンフィクション漫画。 各レスラーの成長や活躍話を読んで、 どんどんこの漫画とプロレスにのめりこんでいった人は 多いだろうと思います。 実際にはかなりのフィクション・脚色・虚構が 含まれていたわけですが。 連載当時から 「この話ってホントなの?」と、読者からの 疑問の声は上がっていました。 しかし「面白いからいいか!」が超越していました。 ピュアなプロレスファンは素直に面白がり、 スレたプロレスファンはツッコミを入れながら 面白がっていたと思います。 ピュアで、この漫画を見てプロレスファンになった人も、 いつかは第何巻かの何かのエピソードをみて 「あれ?」「これはさすがに・・」 と気が付いてしまうのです。 私はハンセンがベアハッグでドラム缶を潰した シーンを見てそう思いました。 「だがそれでもプロレスは面白い」 と読み続けてしまった・・ という人が多いのではないでしょうか。 場合によっては「だからプロレスは面白いんだ」 と思ったり。私がそうです。 ハンセンでもドラム缶は潰せないだろうとは思いつつ、 もうプロレス大好きになってしまっていますから、 この漫画を読みプロレスを見ることがやめられなく なっていました。 今になって思いますが、あれだけ強いレスラー達が 描かれていて、でもそれを読んでいたころは 「ところで誰が最強なんだよ!」とは あまり考えなかったですね。 もうね、ハンセンもアンドレもマスカラスもフレアーも、 みんな強くて凄くて個性的で「それが良い」と思うように なっていましたね。 プロレスを楽しむ見方を、考えの仕方を、 知らないうちにこの漫画によって誘導されてしまっていた、 という感じです。 最近になって某古本で作画の原田久仁信先生の インタビューを読みましたが、それによると 連載開始したころはそれほど人気が出なかったそうです。 けれどタイガーマスクが現実に登場した後、 ほぼリアルタイムでタイガーマスク編を始めたら 少年サンデー(掲載誌)の人気アンケートでベスト3に 入るくらいに人気が上がったそうです。 確かに、そのころ私も現実のタイガーマスクの 正体とか経歴とか僅かには知っていましたが、 列伝でのタイガーマスク編を 「あのタイガーの正体がわかるかも」と毎週楽しみにして 読んでいたことを覚えています。 「いや、さすがに猪木さんまでタイガーの正体を  知らないとか、それはありえんだろ」 とかツッコミを入れたりしながらですが(笑)。 プロレスを好きになる理由や、どう見て楽しむかは 人それぞれであり、その許容範囲の広さもまた プロレスの魅力の一つでもあったと思います。 そんな中で私の性格にあったプロレスの楽しみ方を 指南して導いてくれたのがこの漫画だと思います。

デスデウス ヒーロー・オブ・ザ・デッド

聖なる力を持ったJKがフランスでゾンビと英雄をしばくマンガ

デスデウス ヒーロー・オブ・ザ・デッド 森小太郎 ホビージャパン×SANKYO 齋藤将嗣 大山竜
ANAGUMA
ANAGUMA

よ、要素が…!要素とルビが多い!! 大量のゾンビ・屍生者(リバーサー)と不死英雄(ヒーロー・オブ・ザ・デッド)と呼ばれる蘇った英雄に支配された世界!救うのは100年のコールドスリープから目覚めた女子高生シロガネ・シオン!彼女は聖なる力で悪を屠る聖葬拳士(グレイブ・グラップラー)なのだ!なんて元気の出るあらすじ! 1巻に出てくる敵幹部、死闘士(デスナイト)はマリー・アントワネットとジル・ド・レェ、一方味方の聖葬拳士(グレイブ・ナイト)は宮本武蔵と服部半蔵とメンバーの格はいきなりクライマックスで、バトルは大迫力です。ちょっとネタバレですが『朕は国家なり』を使うボスも出てきますよ。惜しみないですね。 シオンのキャラクターデザインは『楽園追放』の齋藤将嗣さんデザインだけあってツボが抑えられてます。聖煌氣(セラフィックアウラ)を使って変身するエロカワカッコイイコスチューム聖鎧布(アウラギア)のデザイン、間違いがないですね。 1巻はイカれたニュートンがリンゴを掲げて「このリンゴも世界も全ては我らがグールゾンの手に落ちる」と宣言するところで終わり。そんなカツ丼みたいなマンガです。ホビージャパンを信じろ。漢字にカッコイイカタカナが振ってあったら楽しい!という人に手に取っていただきたいですね。

これってセクハラなのかしら? ~1人で悩んでいた私の話~

読んでしまったので見届けたい

これってセクハラなのかしら? ~1人で悩んでいた私の話~ ぽん子
野愛
野愛

SNSで見かける胸糞悪い話を見に行きたくなる感情ってなんなんでしょう。野次馬根性みたいなものなんだと思うんですけど、見るとしっかりショック受けちゃうんだなあ。 このお話もそういう気持ちで見始めて、結局最後まで見届けたくなってしまっている。 主人公のぽん子さんが上司や取引先からセクハラを受けでどう闘っていくかという話なのですが、今のところただただ傷つけられているターンが続いています。 加害者側は軽い気持ちでやってるんだなあと、それを見る周りの人も当人が傷ついていることにすら気づいてないんだなあと、家族や恋人が力になってあげられればいいけれどそこにたどり着くまでにもうボロボロになってしまっているんだなあと…。 辞めちゃえば?とも思うけど、なんで悪いことしてない側が辞めなきゃいけないのかなあとも思ったり。 ちゃんと言えばいいじゃんとも思うけど、言えたら苦労はしないよなあ。 とにかくこの手の漫画は読み出したら見届けるしかないのです。 同じ悩みを抱えている人たちが少しでも救われますように。そして、身近な人が悩んでいたら適切な方法で手助けをしたいと思うのでありました。