その他の感想・レビュー3417件<<6768697071>>弱者の魂なんぞ救ってやらんとでも言わんばかりの新訳罪と罰 柳沢きみお ドストエフスキー野愛柳沢きみお先生にとっては格差社会も資本主義も大した問題じゃないのだろう、強者の理論で生きてる人だ、と思わせる作品。 原作を読んだのは数十年前なのではっきりとは覚えていないが、ドストエフスキーは強者の理論の人だと思った記憶はない。つまりこれは柳沢きみおオリジナルだ。 舞台は現代の東京に置き換えられているけれど、ストーリーはほぼ原作通りである。でもオリジナルだと言いたい。 苦悩の果てに殺人を犯す主人公・龍一がひたすら醜悪で傲慢で、とても有能な人物には見えない。やれ貧困だ不幸だと言うが、同情する気にはとてもなれない。 ラスコーリニコフが強迫観念に囚われ、狂気に取り憑かれていく様とはまた違った印象を抱いた。 雑な言い方をすると、龍一はただのちょっとヤバいやつ程度の描かれ方だと感じた。 それでこそ柳沢きみお先生だよなあ、と思った。 弱者に寄り添うような視点なんて、格差社会や資本主義に対する疑問なんて、描かれなくていい。いつまでもマッチョで家父長制の権化みたいな作品を作り続けてほしい。 そんな人じゃないのかもしれないけど、そんな人で居続けてほしい。 価値観や常識は時代に合わせてアップデートしていくべきものだと思っているけど、表現活動についてはその限りではないとも思っている。 良くも悪くも人の心に棘を刺せる作品は、凄いものだ。 このまま魂の救済されないまま終わらないかな。それぐらいのことをしても柳沢きみお先生なら許されるのでは。それぞれの人生が交差するアパート坂の途中の小鳩荘 曽根愛兎来栄寿じんわりと沁みる作品に触れたくなった時、お薦めしたい作品です。 タイトル通り、坂の途中にあるアパート小鳩荘の住人、そして大家さんを1話完結のオムニバス形式で描いていきます。 101号室のお父さんがいない幸子ちゃん。 103号室の野球でそこそこ有名だった大学生タケシ。 104号室のサーカスで育ったターニャさん。 201号室の駆け出しイラストレーター早川さん。 202号室の宇宙人の山本さん。 204号室の妻に実家に帰られた村上先生。 そして太極拳教室に通う大家さん。 ジェラートが美味しかったり、友達の何気ない言葉に傷付いたり、相手の気持ちを考えられず傷付けてしまったり、ちょっとした親切が嬉しかったり…… そんな彼らのそれぞれの日常の悲喜交々が穏やかで優しい筆致で彩られ、そして時に交錯します。 それぞれの営みが今日も明日も続いて、変わらぬ速さで回っていくこの世界の不思議さと面白さ。 何の変哲もないけれど、特別な物語です。タフ&エコノミーな探偵のド派手アクション! #完結応援探偵物語カブ かわぐちかいじ 林律雄たか日本が舞台なのに当たり前のように銃が出てきてロシアンルーレットするわ、馬に乗って逃走するわ、元力士のストーカーとバトルするわで最高にエンターテイメントしてて面白い! 出版年は1998年らしいですが、作中の時代はどう考えてもそれよりかなり前の80年代って感じ(営団地下鉄とかプッシュホンとか電気屋のパソコン(?)とか聖徳太子の1万円札とか)がして懐かしい。 具体的にいつごろが舞台なのか気になる。 仲のいい不良刑事に売れっ子女優の彼女。やる気に溢れてるわけじゃないけど仕事はキッチリこなす。 探偵ってやっぱカッコいいよなぁと憧れる気持ちを思い出させてくれるいい作品でした。気づいたら新装版はアダルト作品指定に…弾(アモウ) 山本貴嗣さいろく出版社が自主規制したのかな…? 昔読んだ山本貴嗣センセーの「弾(アモウ)」ですが、どうやら何度も出し直しされている様子。 こちらでストアへリンクがあるのは少し古い版なのかなー 内容はアダルト指定されてしまうだけあってそういうシーンがいっぱいあります。ただし、ほとんどが痛い系です。。 ナイスバディないい女で凶暴っていう天羽弾(あもうはずみ)が主人公なのですが、凶暴というか撃ちまくり撃たれまくり刺されまくりやりまくり。。。 山本センセーのやりたい放題系マンガでございます。でも人気はあったんじゃないかな…? 「エルフ・17」の新刊通知が来たので(なんで今さらって感じですが新装版だったぽい)懐かしんで先生の作品一覧を見ていたら思い出した、というキッカケでした。 悲しみを吹き飛ばす、明るい三姉妹の每日 #1巻応援三拍子の娘 町田メロメnyae※ネタバレを含むクチコミです。性癖のデパートで好感度高い(1巻感想)天地を喰らう 本宮ひろ志たか人から勧められて積みっぱなしだった天地を喰らう。「ふーん、本宮ひろ志の三国志ものか〜」と思いながら1話読んでたら、いきなり劉備玄徳が諸葛孔明と一緒に龍(※竜王の娘たち。病気持ちの女に化け、夫となってくれる人物を求めて道端で物乞をしていた)に乗って天へ昇りだしてぶったまげた。 「娘たちと交わった男たちは天下を獲る」という設定はまあいいとして、女たちはクソデカ巨人サイズで男の方は童貞という設定なのが性癖丸出しで笑ってしまった。 竜王の娘たちはなんか普通にブラしてるし…JRPGに出てきそうなエッチな鎧着てるし…こういうのなんかすごくいいなと思いました。 このあとどう展開するのか、普通の三国志展開に戻るのかどうかすらまっったく読めなくてすごく気になります。表紙とずいぶん絵が違う水すまし源五郎 かわぐちかいじマンガトリツカレ男内容は主人公が海上保安士なのでシージャックや船の保険金詐欺などの話になる。峰と源五郎の暗い友情と言えばいいのか微妙な関係で物語が進んでいくが明るい話はなく全編通して暗い。現在連載しているかわぐちかいじのマンガと全く違う感じだった。まあ俺はこれはこれで好きなんだよね。 絵的に麻雀漫画の傑作プロとかより前の感じかな お嬢様が競艇の女子レーサーになる物語競艇少女 寺島優 小泉ヤスヒロstarstarstarstarstarウマタロ競艇漫画といえば「モンキーターン」が有名だが、この作品も同じく90年代の漫画。同じ競艇漫画であっても、女子が主役ということで視点の違いや受ける印象はやや異なる。主人公・晶は、お嬢様の身でありながら、厳しい競艇界に飛び込むのだものだから、普通にいじめられるわ、女性差別を受けたりする。それでも健気に苦境に耐えながら、プロとして実力を身につけて、人間的にも成長していくというストーリー。主人公・晶は非常に良い子で応援したくなる娘なのだが、いかにも男読者をターゲットしたキャラ設定に陥ってたのは少々残念。やたらとサービスシーンが多くて、必死に努力している状況でもお風呂に入ってはハダカを見せてたので、そこまでしなくても…という気持ちになることも。とはいえ競艇に純粋な興味があれば充分楽しめる漫画である。ふざけんななんて絶対言ってやらないアトモスフィア 完全版 西島大介野愛西島大介はとんでもなく悪いやつだ。なんとなく恐ろしくて意味があるのかないのかもわからないけれど、雰囲気だけだろと言い切る勇気すら奪うような作品を生み出すのだから絶対に悪いやつだ。 なんて、全部全部言いがかりだけども。 ある日、わたしの前にわたしの分身が現れる。恋人も家族も居場所もすべて奪われるけれど、わたしは一切取り乱したりしない。「ふざけんな」なんて絶対に言わない。 わたしは全てを赦しているから。 そこにあるものを受け入れること、赦すことは救いだと思っている。怒りなんて生産性のない感情を手放し、ただそこにあるものを見つめる。自分にとっても世界にとっても正しいことだと思っている。 この考えを手放すつもりはない。そうでなければ自分を保てないと思っている。 この広い世界のどこかで手放した自分が自分として生きていたらどうしよう。 飲み込んだ言葉が、切り捨てた感情が実態を持って生きていたら。殺した自分が生きていて、自分の目の前に現れたら。 そんなことある訳ない。 でも、作品中のわたしだってそんなことある訳ないと思っていたはずだ。 自分は自分である。誰にもわかってもらえなくても自分だけはわかっている。 曖昧にして唯一の揺るぎない真実だと思っていたことを、いとも簡単にぶち壊しにきた。ぶち壊して怖がらせるだけ怖がらせといて、最後の最後は電源をぶちんと切るみたいにぶん投げて終わる。こんな終わり方信じられない。本当に本当に西島大介は悪いやつだ。 でも赦す。大島弓子を友達に貸して思ったことロングロングケーキ 大島弓子かしこ私にとって大島弓子は特別な作家なので100人読んだら100人が好きになるだろうと思っていたのですが、どうやらそうではないようですね…。人によっては、コマ割りが単調だし登場人物がどうしてそういう行動をするのか分からないそう(「秋日子かく語りき」でいうと鉢植えを奪ってくるシーンとか)。なるほどねぇ。言われてみればそうかぁ…と思わなくはないけど、でもそこじゃないんだよな。この表現は適切ではないかもしれないけど大島弓子の作品には計算がないんだと思う。無意識から作られているようなところがあるから奇跡が起こってるんだと勝手に思ってる。そして私は物語に救いを求めてるから大島弓子が好きなのかもしれない。 人それぞれの幸せ。夏の十字架 ウチヤマユージstarstarstarstarstar干し芋『夏の十字架』不思議な独特の世界観、すぐに引き込まれます。 知らない裏社会のお金の洗浄の仕方、だましだまされ自分しか信用できなくなる世界ですね。 そして、最後の迎え方・・・。 個人的には、『カナシミ』が好きでした。 じわっと瞳が潤みます。寝る前に読みたくなる漫画です深夜0時にこんばんは 冬川智子猫あるく寝る前に読みたいささやかな物語。深夜0時に始まるラジオにリスナー3組の日常を描いた作品です。特にカホちゃんの話はすごく優しくて残酷。冬川智子先生の描く切ないのにあたたかい空気感大好きです。人類に復讐するために生み出されたアンドロイドダイバー0 松本零士starstarstarstarstar_borderマンガトリツカレ男アンドロイド達の意思を受けついで人間に復讐をする子供型アンドロイド「ダイバー0」が主人公。初期は人間への復讐がメインですが、途中から松本零士の名キャラクター「キャプテンハーロック」が登場してからハーロックがダイバー0の師匠みたいな形になっていく。途中で「ダイバー0」がいろんな経験やハーロックとの話で心境の変化が出てこれからというところで終わる。 これ個人的に「ワダチ」と同じぐらい好き 四畳半シリーズを見せかけてSFワダチ 松本零士starstarstarstarstarマンガトリツカレ男松本零士のマンガは色々読んでるけど個人的にはトップクラスに好きな作品なのがこの「ワダチ」 最初は他の四畳半シリーズと同じように"大下宿荘"の四畳半でトリさんやネコともにワダチが暮らしている。初期の話によっては無茶苦茶暗くこれからどうなるんだ思う内容だが途中で出会う佐渡酒造によってその後の人生が変わっていく。 途中から「カミヨ計画」などのハードな内容になっていくがやはり松本零士のマンガに主人公らしく「約束は守る」「卑怯な真似はしない」「借りは作らない」という生き方なのでいい。ただ全編通して暗い... 前時代的な話も多く令和ではわかりにくい話かもしれないがこういう精神は持ち続けていたいかわいい。尊い。かわいい。妹の友達が何考えてるのかわからない 玲。野愛つゆちゃんがただひたすらにかわいい。かわいい。尊い。かわいい。 つゆちゃんはお友達のちえちゃんのお兄ちゃんが好きで、お兄ちゃんの前だとドキドキしていつも以上に無口になっちゃう。 何考えてるのかわからないとタイトルにはありますが、つゆちゃんめちゃくちゃわかりやすいです。恋する乙女の顔してます。 そんなつゆちゃんを無口な子だなあ仲良くなりたいんだけどなあと思いながら接するお兄ちゃんもかわいい。尊い。いい子。 そんな2人を茶化したりせずひたすら協力するちえちゃんもかわいい。明るい。かわいい。 ピュアでかわいい優しい世界。みんなずっと幸せでいてください。朝からビール!? 二人で楽し #1巻応援夜明けのふたりごはん 湖西晶あうしぃ@カワイイマンガ夜勤明けの楽しみは、皆が出勤する中帰宅する開放感と背徳感。一方それを共有する人がいないというのは、少し寂しかったりします。では、夜勤同士で暮らしてみたら……?というのが、この作品。 締め切りに追われ夜間に執筆する小説家と、夜間警備のバイト。同じ時間帯に働く二人の女性の同居は、お互いを補い合い、楽しげ。 何と言っても面白いのは、朝食にビール!……私もこの発想はあったのですが、朝から勤めに出る家族の手前、なかなかやりにくかった事を思い出しました。夜勤同士の同居いいなぁ! メニューも如何にもな朝食からコッテリ目まで様々。朝食メニューにビールを合わせるのが斬新で、食漫画としてもちょっとした新境地、かも。 夜明けの仕事上がりのテンションやその後のリラックス感、夜勤あるあるといった意外と見かけない題材が面白く、かつて夜明けまで仕事していた時の事を思い出しながら楽しみました。 少年ジャンプで体当たりの政治を扱った意欲作やぶれかぶれ 本宮ひろ志hysysk自身が参議院選挙に立候補してその様子を漫画にするという企画で、「選挙活動を漫画化するのは事前運動にならないか」「漫画界のハジ」など集英社のみならず業界を巻き込んだ一大プロジェクトになっていく(有名漫画家達からの応援、批判コメントも見どころ)。 担当編集になった堀内さんは後に集英社の社長になっていること(2020年から会長)、当時の政治家達のインタビュー、最後の作者の台詞など、非常に考えさせられるものがある。 終盤は文字が多く漫画としては読みにくいが、少年誌だからといって手加減せず、難しい内容もそのまま載せている。当時の作者の限界だったのだろうけども、そこをごまかさないところに好感を持った。大人にこそ読んで欲しい作品。これを読んで「物語」とは何かを知る忍者武芸帳(影丸伝) 白土三平名無し【ネタバレ】 戦国。忍者。剣豪。 この心躍る3つのワードが筆致優れたる作家によって描かれるのだから面白くない筈がない。 勧善懲悪だけが少年漫画なわけではない。 ハッピーエンドだけが少年漫画なわけではない。 ウルトラマンや仮面ライダー、戦隊モノを観てワクワクしていた無垢な少年は、これを読んで決して世の中は思い描いた通りにはいかないことを知るのである。 なのに、面白いのである。 目をみはる剣術、恐るべき忍術、渦巻く陰謀、心揺さぶる恋模様。 多彩なキャラクターたちが物語を豊かにしている。そして、彼らを描ききった白土三平の才能たるや。 全国の小中学校に教育漫画として置いてほしい。入湯料は寿命5年分お代はあなたの寿命です 岡田鯛名無し人生に息詰まった人がネットで「生きる意味」と検索したらヒットしてしまう温泉宿。そこには寿命5年分を対価に不思議な体験をすることが出来る湯がある。湯に入ればたちまち後悔だらけの過去にタイムスリップしてしまうのだが、傲慢に生きてきた自分のことを陰ながら味方してくれていた人物が必ずいて、それに気づかずに自滅していたことを知るのだった。そうして宿を去る頃には心を入れ替えて別人のように生きていくが、残りの寿命は少ないので最後には必ず死んでしまう…。導入とオチは型が決まっているんですが、2話目の売れない俳優の話の方が好きでした。こういう風に自分はならないように気をつけたいですが、人生って終わりよければ全てよしだなぁと思えるような明るい終わり方なのがいいですね。 前半が「子供の情景(けしき)」後半は「大人の情景」子供の情景 さそうあきらstarstarstarstarstarひさぴよ女性誌JOURに掲載された短編を主に収録。短編集と言いつつ半分は「僕らは柿生こども警察ダ!」シリーズが占めていて、ガキ大将が女の子の設定でほっこりするお話が多い。やや乱暴に言ってしまうと浦安・ともお・まる子を合わせたような読み味で、子供達のキャラが微妙な強さで。。会話が自然なだけに逆にキャラっぽくない方がもっと好きになったかもしれない。 後半は「大人の情景」と題した短編に変わるので、タイトルに「大人の〜」と含めた方がわかりやすいと思う…。 最後の方の「ユーランと岩田くん」が作品の中で一番良い短編だと思う。DIYってめっちゃ楽しいじゃん☆黄昏てマイルーム コナリミサト名無し子同棲していた顔だけはかっこいいヒモ男にフラれて、家具をすべて持って出ていかれた主人公のキコちゃんがDIYに目覚める話。コナリミサトさんの作品はどれを読んでも映像化してくれ〜!ってなりますね。DIY知識もたっぷり登場しますが、こじらせメンズ好きとしては「凪のお暇」の慎二とゴンさんの2人を合体させたようなヒモ男がたまらんです。本田宗一郎の生涯 #お買い得本本田宗一郎本伝 飛行機よりも速いクルマを作りたかった男 毛利甚八 ひきの真二starstarstarstarstarひさぴよホンダ創業者である本田宗一郎の伝記マンガ。制作はビッグコミックで活躍した毛利甚八先生と、ひきの真二先生という実力派コンビだけあって、ビジネス系自伝マンガでありながら、商業連載作品に引けを取らない作品。読んでいて全く退屈しない面白さがあります。 本の価格は、この厚さ・内容で880円(税込)は正直言って安い!令和時代の本の値段と比べると、かなり安く感じます。500ページ超えて、解説も充実しているので、現在の価格で考えると少なくとも1800円以上でもおかしくない内容かと。 今日もどこかでナイブスが生を紡ぐ惑星をつぐ者 戸田尚伸名無しこの作品の読後感は 例えるなら「短編映画の隠れた名作」を観た後の 重厚と疾走を同時に味わった感と似ています。 もっと評価されてほしいし、されるべき作品だと思います。 ソリッドな絵柄と真摯なストーリーの親和性がとても高く、全1巻と短尺ながらも決して投げっぱなしのような終わり方ではなく、「連載」という観点からは完結しているものの その先をいくらでも想起できる、夢のある結末を迎えています。 紙で買うとプレミア価格になる可能性もありますが、なんと数年前からすでに電子書籍化していることもあり、SF好きな方には是非読んでほしいですが そういった方々の間では既に名が知れた作品に思うので、ここは敢えてSFに詳しくなかったり、なんならあまり興味のない方に読んでもらえたらうれしいです。私もその状態で読んだ結果ハマったので。 おすすめです。殺人鬼に会いたくて警察官になった男ミッドナイト・ウォーク 榎屋克優名無し日々ロックの作者の初期短編集。ほとんどが雑誌に掲載されたものではなく、大学の卒業制作や同人誌の為に描かれたもの。なので荒削りな部分は多少ありますが、初期衝動が詰まった作品集になっています。 特に表紙にもなってる『夜半』がいいですね。正義感ゼロの男が人間の悪意に興味があるという理由で警察官になって、いつか本物の殺人鬼に遭遇したいと思いながら夜の街をパトロールしていたところ、暗闇の写真ばかりを撮っている大学生の男の子と出会って仲良くなります。しかし大学生が殺人事件の犯人を撮影してしまって…という話です。この内容が元になって短編集のタイトルが「ミッドナイト・ウォーク」になったんですね。なんとなく買ってみたら当たりでした。<<6768697071>>
柳沢きみお先生にとっては格差社会も資本主義も大した問題じゃないのだろう、強者の理論で生きてる人だ、と思わせる作品。 原作を読んだのは数十年前なのではっきりとは覚えていないが、ドストエフスキーは強者の理論の人だと思った記憶はない。つまりこれは柳沢きみおオリジナルだ。 舞台は現代の東京に置き換えられているけれど、ストーリーはほぼ原作通りである。でもオリジナルだと言いたい。 苦悩の果てに殺人を犯す主人公・龍一がひたすら醜悪で傲慢で、とても有能な人物には見えない。やれ貧困だ不幸だと言うが、同情する気にはとてもなれない。 ラスコーリニコフが強迫観念に囚われ、狂気に取り憑かれていく様とはまた違った印象を抱いた。 雑な言い方をすると、龍一はただのちょっとヤバいやつ程度の描かれ方だと感じた。 それでこそ柳沢きみお先生だよなあ、と思った。 弱者に寄り添うような視点なんて、格差社会や資本主義に対する疑問なんて、描かれなくていい。いつまでもマッチョで家父長制の権化みたいな作品を作り続けてほしい。 そんな人じゃないのかもしれないけど、そんな人で居続けてほしい。 価値観や常識は時代に合わせてアップデートしていくべきものだと思っているけど、表現活動についてはその限りではないとも思っている。 良くも悪くも人の心に棘を刺せる作品は、凄いものだ。 このまま魂の救済されないまま終わらないかな。それぐらいのことをしても柳沢きみお先生なら許されるのでは。