オタクだよ!いかゴリラの元気が出るマンガ

完結してなかったのかよ、いかごりら

オタクだよ!いかゴリラの元気が出るマンガ いかゴリラ
六文銭
六文銭

全身コンテンツのようなマンガ家さんで、SNSでも個人的に楽しませてもらっているいかごりら先生の単行本。 まってましたよ!しかも、版元は天下の集英社だ! んーでも1巻完結かよ! という、まるで地獄に仏から蜘蛛の糸を切られたような気分だったのですが、なんと最近2巻でた!ので嬉しさのあまり小躍りしてます。 (でも2巻に完結フラグが!二度あることは三度ある…と信じて。) 内容は、いかごりら先生の日常をおもしろおかしく描いているだけなのですが、独特の着眼点とツッコミで腹抱えて笑えます。 自分、女性漫画家のギャグ漫画って基本苦手なんですよね。 なんというか、一歩引いた斜に構えたギャグ「風味」みたいなところが苦手なんですけど、同じように感じていた人は、このいかごりら先生は安心して読んでください。 この方は、もう全力です。生きることに全力。 ネタは基本誰かを罵ったりするものではなく、自虐中心(絵が下手とか、いかごりらって自称するくらいなのでスタイルがアレとか)なんだけど卑屈じゃなくて最高に笑えます。 周囲の友人もパンチきいてて最高です。 こんな時代だからこそ、いかごりら読んでみんな元気をだして欲しい!

月と金のシャングリラ

君はチベットを知っているか?

月と金のシャングリラ 蔵西
名無し

 私がチベットについて知っていることと言えば、「そういえば、マニ車ってチベットだったよな」ぐらいの浅い知識でした。そんな私でもあら不思議このマンガを読むとチベットの世界に潜り込むことができるのです。その要因は、何と言っても作者様の裏打ちされた知識と圧倒的書き込み&美麗な線画! 蔵西先生は、大のチベット好きで前作『流転のテルマ』もチベット文化漫画。何度も現地に赴きご自身の目で耳で体験したことが作品に活かされているのです(取材旅行の様子はエッセイ漫画にもなっています)。そして、圧倒的書き込みで表現される広大なチベットの大地、生活風景など紙の上でもまるで眼前に広がっているような存在感があります。 余談ですが、書き込み&美麗、異文化圏漫画と言えば『乙嫁語り』が思い付く方も多いのではないでしょうか。『乙嫁語り』が好きなそんな貴方は、きっとこの作品にもハマれるはず……!  この作品の魅力的な部分として、僧院に暮らす少年たちの交流を挙げておかねばなりません。特に主人公であるダワ、ダワのことを気にかけ友人として接してくれるドルジェこの2人の関係性は外せません。父親に置き去りにされ身も心も1人だったダワは、親身に寄り添ってくれたドルジェに対して心を許し支えてもらっていきます。所謂、ブロマンス(男性同士の極めて近しい性的な関わりのない親密さの一種)がダワの片想いという 形で描かれていきます。ブロマンスの関係性には「男同士の熱い友情」が近いと言われており、性的描写のあるBL作品に比べると男性でもかなり読みやすいのではないでしょうか。  また、登場人物みんな顔がいいです。イケメンという意味ではもちろんそうなのですが、注目すべきはキャラクターたちの表情です。この作品キャラクターたちは、一部を除きまだまだ幼く抱いた感情がそのまま顔に表れ、それを通し感情、想いが私たちの胸にダイレクトに届くのです。この表情まで含めてみな顔がいいのです。  歴史に詳しい方は、お気づきかも知れませんが物語はこの後「チベット侵攻」というチベット激動の時代へと進んでいきます。暗い洞穴の様な時代の中で、少年たちがどういった選択、人生を歩んでいくのか。また、ダワの父は幼き子を置いていかなければいけなかったのか、そしてダワの秘めた想いはどうなるのか気になるポイントはいくつもあります。惜しくも8月発売の2巻で完結が既に告知されておりますが、逆に言えばまだまだ追いつくのは簡単です。是非みなさんもこの美しく儚い物語の結末を一緒に見届けませんか?

凹村戦争

読んだひとだけが闘える世界で 

凹村戦争 西島大介
野愛
野愛

閉塞感を打ち破る何かが欲しい。火星人でも魔法でもなんでもいいから、ここをぶち壊してどこかに行きたい。 外界から隔離された凹村という小さな村。少年少女たちはどこにも行く場所がないと嘆いたり、ここが世界のすべてだと目を伏せていたり、閉塞感に包まれながらも平和な日常を過ごしている。 ある日、物体Xが落下する。 何も変わらないと思っていた世界に、非日常がやってきたらどうする? 宇宙人が侵略してきたら、窓からテロリストがやってきたら、異世界に転生したら。 平和すぎてつまらない日常を変えたくて、ありもしないことを夢想する。起こり得ないと思っているから、誰もが一度は通り過ぎる妄想。 本当に起こったら、どうする?逃げる? わたしは闘う?見て見ぬふりをする?撃ち落とす? 闘う妄想はしていても実際は体が動かないかもしれない。恐怖すら感じず、人ごとのように過ぎ去るのを待つかもしれない。 だって、そんなことあるわけないんだから。 凹村ほど閉ざされてないにしろ、何もない、絵に描いたようなくそド田舎で育った。 日常に疑問すら持たない周囲の人間に辟易しながら、カラオケとかセックスとかお手頃な娯楽を消費する青春を送っていた。 凹村みたいに閉ざされた空間で、インターネットだけが世界だと思っていた。 そんな青春から逃れていつの間にか大人になっていた。 ところで。 どこか新しい場所へたどり着けた? 物体Xが落下したらどうする? 火星人が侵略してきたらどうする? 西島大介先生が描いてみせた答えは、実にクールだ。 クライマックスの怒涛の畳み掛けがもの凄い。滅茶苦茶じゃねえか、投げっぱなしじゃねえかと思う人も少なからずいるのではないか。絶望的だと思う人もおそらくいるだろう。 わたしが見たのは希望だった。 確かな闘い方を、ひとつ教えてもらった。 この世界はつまらないしちっぽけだ、それなのに見えてない部分や知らない部分が多すぎる。何もないように生きることだって、難しい。最悪で滅茶苦茶で容赦のない世界で、わたしたちはは生きるしかないのだ。 ならば。この方法で闘おうじゃないか。 パルプンテなんて待ち望んでる暇があったら、読みましょう。そして、世界と闘おう。 最後まで読んだらきっと、闘えるはず。

クシー君の発明

洒脱な結晶

クシー君の発明 鴨沢祐仁
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

鴨沢祐仁は、漫画史にポツンと光る宵の明星である。 イラストレーターとしての活動のほうが知られているだろうが、本書のような漫画では、カッチリとした、『タンタンの冒険』のエルジェをさらにモダナイズしたような熟練の洒脱なタッチで、稲垣足穂『一千一秒物語』に強い影響を受けたクリスタルなエピソードを描く。 足穂インスパイアな作品は多くあるが、これほどまでに美事な仕事はちょっと思い浮かばない。 読んで満足、棚に飾って嬉しく、オシャレなプレゼントとしても最適! いや、ホント、こんな漫画家は他にいない。 劇画やヘタウマというムーブメントが激しい意識の変容をもたらした時代に、その潮流に与せず我が道を進んだ「西洋アンティーク版“林静一”」とも呼び得る存在として、真にユニークな才能である。 だが、林静一のイラストレーションが手に負えないほどの危険なエロスを秘蔵しているのと同様、鴨沢祐仁も、実はかなりエロスな人なのだ。 稲垣足穂は『少年愛の美学』『A感覚とV感覚』の「大変な変態」(雑な回文)な人でもあるので、その影響下にある鴨沢も、初期には、かなりネットリと耽美的なタッチだったりもしていることが、本書では分かる(…と思う。自分は青林堂版で持っていて、このPARCO出版の復刻版を電子化したと思しいeBookJapan Plus版を読んでいないのだが)。 後の作風ではそれを漂白してしまっているが、どちらも自分はとても好きなのです。

夏の魔物

これは決して夏のせいなんかじゃない #1巻応援

夏の魔物 ノムラララ
せのおです( ˘ω˘ )
せのおです( ˘ω˘ )

ララ先生は、個人的にコミティアの新刊の中で一番楽しみにしていた作家さんですが、遂にデビューされました! 私がララ先生の作風で、そして『夏の魔物』で一番好きな点は、 人物たちが抱える、あらゆる方向性を持った複雑な感情が、全て綺麗に表情に現れているところです。 微妙に変わったり、コロコロと変わったりと、1コマ1コマ全て違う表情をしている人物の顔に、我々は釘付けになります。 『夏の魔物』の中で、主人公の佐藤さんと村田くんが複雑な感情を持っているのは、枷になっていることがあるからです。 それは、絶対に覆ることのない、女性アルファと男性オメガの、オメガバースの関係性です。 オメガバースには、オメガが弱者、アルファが強者という、カースト制が存在します。 (詳しくはググっていただけると助かります…笑) オメガは、ある時期に入ると、無条件にアルファを惹きつけてしまうので、恋愛・肉体関係においてオメガに選択権や決定権はないものとされています。 『夏の魔物』の魅力は、 "絶対的なカースト制がある世界観のもとで生まれたこの感情は、自身の体質≒階級(アルファ・オメガ)を排除したものだと信じたい(信じている)" という想いから溢れ出る、主人公たちの言葉や行動です。 オメガは無条件にアルファを引き寄せますが、その中でも特別惹かれあったアルファとオメガの繋がりを「運命の番」などと言います。 しかし、本作は違うんです…! 2人はアルファだから・オメガだから惹かれあっているんじゃないんです。 佐藤さんは、第一話で村田くんに告白するために空き教室に呼び出しますが、 そこで初めて自身がアルファであること、また、村田くんがオメガであったことに気づき、 「この気持ちは、ずっと恋だと思っていた。でも違った!私がアルファだから!」と混乱し、取り乱してしまいます。 ここで取り乱してしまうのも、今までの村田くんに対する感情は本物の恋であったことを信じている故なのです。 なので、読んでいてとても苦しいシーンでした。 村田くんも、オメガだから佐藤さんを受け入れた(ナニがあったかはもう是非読んでください…!!笑)訳ではないという気持ちを打ち明けるタイミングが、また絶妙なんですよね…!! 彼は佐藤さんに対して、少し投げやりな台詞や行動をとるのですが、それはまるで、 "自分は決してアルファ=佐藤さんに支配される側ではなく、アルファとオメガの関係性とは全く無縁のところで、佐藤さんを想っている" ということを遠回しに言っているかのようです。 そんな村田くんのちょっと生意気な性格と表情、是非みなさんにも見て欲しいです。 絶対虜になります…!笑 本作は、2020年4月現在、コミックシーモアにて先行配信されていますが、今後各電子書籍サイトでも配信予定だそうです。 もしかしたら、「オメガバース」というジャンルに抵抗を持っている方もいるかもしれませんが、まずは試し読みをしてみて欲しいです…! もちろん、オメガバースを知らなくても楽しめます。 この作品のあの空気感に触れたら、読者は「夏の魔物」に取り憑かれること間違いなしです。 …余談ですが、過去のコミティア出展の際に、Twitterで大童澄瞳先生から絶賛のコメントを頂いたことのある作家さんなので、 作画や構成力はピカイチです!