スパイの家

本格派でエンタメもしてる諜報(スパイ)漫画の良作

スパイの家 真刈信二 雨松
ひさぴよ
ひさぴよ

日本はスパイ天国などとよく言われてるそうですが、実は世界各国からの工作活動をギリギリのところで防ぎ、陰で日本を守り続けてきた一族がいたのです。(という設定) その名も「阿賀一族」。800年にわたり日本の諜報活動を担ってきた一族の末裔である、父とその娘が主人公。一族の誇りを持ちながら娘には手を焼いてる父親ですが、いざ政府から仕事の依頼を受ければ、各国のスパイたちを相手取り、情報戦や派手な戦いを繰り広げます。次第に娘の方もスパイの才能が開花して…。 原作は真刈信二氏ということで、設定やストーリー構成は言うまでもなく本格派。しかし落ち着いた展開ばかりでなく、映画のようなエンタメ要素(アクションやお色気シーン)もバランス良く盛り込まれています。作画も非常に洗練されていて、重厚感のあるストーリーにふさわしいカッコ良さがあるのです。 何かきっかけさえあれば、もっと人気が出たはずの作品だと思うのですが、6巻という微妙な巻数で終わってしまいました。せめて10巻くらいまで続いても良かったのに…。最新の情勢を取り入れて、いつか続編とか始まったら面白いと思うのですが。

ヤサシイワタシ

悲劇でも負けていない!!

ヤサシイワタシ ひぐちアサ
影絵が趣味
影絵が趣味

ひぐちアサの『おおきく振りかぶって』という大仕事に取り掛かる以前の貴重なラインナップその2であります。 その1の『家族のそれから』もそうでしたけれども、死がひとつのモチーフになっている。『家族のそれから』は母親が亡くなることをきっかけに物語が始まっていますが、『ヤサシイキモチ』は主人公とその恋人になるヒロインがいて、終盤でヒロインが亡くなるという悲劇のかたちが明確にとられています。でも、ひぐちアサに悲劇はちょっと似合わないというか、らしくないような感じがしますよね。 やっぱり、そうなんです。形としては古典的な悲劇を踏襲していながら、なんか、どうも負けていないような感じがあるんです。『おお振り』の野球部たちのように、ひたむき且つ賢明な「転んでもタダでは起き上がらない」精神がここにも確かに息づいている。 このことは何べんも書いているような気がしますけど、大事なことだと思うのでもう一度。ひぐちアサは、生があって死がある、というような描き方をしないんです。プラスがあってマイナスがあるんじゃないんです。プラスをマイナスが帳消しにするように、生を死がなかったことにするなんてことはあり得ないんです。 不安で不安で仕方ななくて、いっそ風船に針を刺したい、高い所から手を離したい。そういう気持ちはあるかもしれないし、じっさいに針を刺してしまう人も、手を離してしまう人もいるかもしれない。でも、どんなことだって、それは良いことでも悪いことでも、それがあった起こったということは途方もない事実として消えることがないと思うんです。確かに今はそれはないかもしれない、でも、そんなことがあったという事実そのものはいつまでもそこに残り続けると思うんです。 最後の最後に、あのすっとこどっこいで、がむしゃらで、嫌なところもあるんだけど愛おしくもあるヒロインの弥恵さんの笑顔がコマのなかに現前としたとき、生は死なんかによって帳消しできるもんじゃないと確信せざるを得ないのです。しかも、弥恵さんはとある高校球児として生まれ変わる。そう、三橋くんとして。そして主人公の芹生くんもその後を追う。弥恵さんの、そして三橋くんの手を握って安心させてあげたいのは、芹生くんであり阿部くんなのだから。

EDEN It’s an Endless World!

ジャパニーズSF漫画の看板の1つ

EDEN It’s an Endless World! 遠藤浩輝
さいろく
さいろく

アフタヌーンで読んでいた頃はこんな超大作になるとは思っていなかった。 個人的アフタヌーン作品ベスト5に入る大好きな作品。 ガワだけ硬質化してしまって中身がドロドロになる人間の終焉を表したかのようなウィルスによってボロボロになった人類はそれでも地球でしぶとく生きていた。 第一話はタイトルにもあるとおり、エデンとは何なのかを示唆している(最初はこの1話だけでの読み切りの予定だったとかなんとか) 二話から初めて主人公となるエリヤが登場、彼の素性や性格などを少しずつ描いていくが、ディストピアとなった地球は弱肉強食であり、それはまた人類も同じだった。 電脳ハックやロボットとの融合など、理にかなった説明があり腑に落ちるように描かれていて遠藤浩輝の素晴らしいのはここなんじゃないかと感じる。 今読み返しても2巻までの間に死んでいく仲間(というか脇役達全部)の印象深いシーンが読んだ当時まだ大人になっていなかった自分の脳裏にトラウマレベルで焼き付いていたことがわかる。 女性が酷い目に合うシーンがたまにあるんだがそれがまたしんどい。。 ただ、圧倒的な暴力の食い物にされるような展開は嫌いだが、この世界では仕方がないと思えるところもちょっとある。それでも数冊に渡って出ていたキャラに痛々しい死に方をされるのは心に来るものがあるが。 ストーリーはもちろん、そもそもの世界観や主役級の登場人物たちの背景の描き方など、天才としか言いようがない。人種の表現力もまた素晴らしく、日本人の良さや中東の儚さや辛さ、欧米軍人の強さと容易さなど本当に評価に値するところばかり、と私は思っている。 とかいうわりにだいぶ久しく読んでいなかったので最後までもう一回読み返そう。電子の合本版でもいいんじゃないかな。 自由広場のスレであった「女の子の部屋にあったら惚れ直す」みたいなタイトルの中に是非加えたい作品。

菫画報

ユーモアのおもちゃ箱みたいな漫画

菫画報 小原愼司
ANAGUMA
ANAGUMA

なんといっても主人公・星之スミレのキャラクターが強烈。173cmの長身でタバコをスパスパやりながら周囲の迷惑顧みずやりたいことに猪突猛進。持ち前の破天荒さにはいつもスジが通っていて嫌味なところがありません。見ていて気持ちのいい、カッコイイ主人公です。 スミレの所属する新聞部のメンバーも魅力的。スミレの相棒かつストッパーの優等生・琴子、ガタイはデカいけど繊細な部長に、スミレLOVEの後輩・上小路くんとバランスがよいです。 特に上小路くん、ちょっとおマヌケなキャラなのですがふとした時にスミレとちょっといい雰囲気になるのがほっこりします。いい部活モノだ…。 基本は高校生活のドタバタした日常を描いているのですが、ちょっとファンタジーな出来事もごくごく普通に起こったり。 それを「まぁいっか!」と受け入れてしまえる理由のひとつは、スミレを始めとするキャラクターたちの実在感でしょう。 何が起きても彼女たちのあり方は変わらんだろうという安心感が作品の懐を深くしている気がします。 そしてもうひとつはどのページ、どのコマにもたっぷり詰まった遊び心。どんな展開になっても必ずくすりと笑えるのがすごい。 頭をユル〜くして想像力とウィットの世界に身を委ねるのが最高に気持ちいい作品です!