鉄楽レトラ

ふたつの赤い靴がつなぐ青春の絆

鉄楽レトラ 佐原ミズ
ANAGUMA
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青春の瑞々しさ・ほろ苦さ・爽やかさにくわえて、若者の持つエネルギーの熱さ…。 ジュブナイルストーリーの魅力がたっぷり詰まったマンガです。 佐原ミズ作品は本作が初めてだったのですが、圧倒されてしまいました。 主人公・鉄宇(きみたか)とヒロイン・宝(たから)はバスケとフラメンコ、それぞれの夢に敗れてしまいます。偶然出会った彼らは、自分には似合わなくなったバスケシューズとフラメンコシューズ…お互いの「赤い靴」を交換します。 高校生になり、宝が新たにバスケを始めたことを知った鉄宇は、自身もまた彼女から受け取った赤い靴を履き、フラメンコ教室のドアを叩くことに…。 本作の多くの登場人物は過去に引きずられ、未来におびえています。 鉄宇と宝は靴と一緒に、互いの夢を交換することで、未来に向かって進んでいけるようになりました。 鉄宇が赤い靴を履いたことで「アイツががんばってるんだから、自分もがんばろう」と周囲のキャラクターも、みな少しずつ変わっていくのです。 一度くじけても、誰かと一緒なら新しい夢を追っていける…その姿に勇気づけられます。 6巻と短いストーリーではありますが、彼らの未来に思いを馳せながら読了した時の充実感、味わってみてほしいです。 末筆ではございますが、妹の銘椀(なまり)ちゃんが終始かわいいことを付け加えさせていただきます。 ホント健気でいい子でね…。

ぱじ

温かくもどこか切ない老人と幼子の生活

ぱじ 村上たかし
六文銭
六文銭

両親がなくなり、残された幼い娘とおじいちゃんだけで暮らす・・・その生活を想像しただけで、私、秒で泣けます。 なんか読んでて、切ないんですよ。 もう先が長くないとわかっている老人が必死に子育てする姿とか。 幼い子どもが、両親が亡くなってシンドイながらも気丈に振る舞う姿とか。 一生懸命、ご飯食べている姿とか。 全て胸にくる。 作品自体、別に泣かせにきているわけでもないんです。 地域住民など二人に関わる人、全員が優しくて支援してくれて、ほっこりハートフルな世界に包まれているのです。 読んでて優しい気持ちになれます。 だけど、私は、どこか漂う二人の哀愁にページをめくるたびに涙腺が緩みっぱなしなんです。 えもいわれぬ不安感ーきっとこんな生活も長く続かないんだろうという考えが暗い影をおとして、病気とかひどい目にあうわけでもないのに、ただ物悲しいのです。 おじいちゃん子だった、自分の原体験に基づくのでしょうね。 最後も大方の予想通りなのですが、不思議とこれまでの悲しさはなく、充足感を得られるハッピーエンドだと思います。(詳しくは書きませんが…。) 家族を思うこと、優しく生きること、周囲との温かい絆をもつこと、思いやりに満ちた1冊です。

消えた初恋

ベクトルがぶつかり合わない不思議な三角関係

消えた初恋 アルコ ひねくれ渡
sogor25
sogor25

消しゴム忘れた! ↓ 片思いしてる橋下さんが貸してくれたヤッター ↓ ケースから出した消しゴムには"イダくん♡"(前の席の男子)の文字…orz ↓ その消しゴムをまさかの井田くんに見られ、自分の物だと勘違いされて… というピタゴラ展開でなんとも残念な三角関係に巻き込まれることになった主人公の青木くん。橋下さんからは頼られて嬉しい反面、彼女を応援することはつまり自分が報われない展開に進むということで。一方の井田くんはなぜか勘違いしたままバカ真面目にこちらの恋心に向き合おうとしてくるし。そんな板挟みな青木くんのちょっぴりおバカ、でも真っ直ぐに純情なラブコメ。 基本的には自分の恋心に素直、でも要所で自分の利を投げ売った優しさを見せる青木くん。それにちょっと引っ込み思案だけど純粋な橋下さんと曲がったことができない井田くん。実は好きのベクトルが全然ぶつかってない、でも3人ともが幸せになる未来が見えない三角関係。ストレートな恋愛模様もあり、ちょっとBLっぽい雰囲気もあり、いろんな要素が詰まってて、こんな少女マンガが読みたかった!と思える作品。 1巻まで読了

未来のアラブ人 中東の子ども時代(1978-1984)

子どもの目で見た世界のかたち

未来のアラブ人 中東の子ども時代(1978-1984) 鵜野孝紀 リアド・サトゥフ
ANAGUMA
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フランス人の母、シリア人の父を持つ「未来のアラブ人」リアド・サトゥフの自伝的エッセイマンガ。原著は現在4作まで出ていて、1作目は6歳になるまでの子ども時代を描いています。 彼はパリで生まれたフランス人ですが、幼少期は父親の仕事(と思想)の都合でカダフィ独裁政権下のリビア、父の故郷シリア、そして時々フランスで暮らすことになります。 2つのアイデンティティ、3つの国と文化、さまざまな政治や宗教をまたいで幼少期の人格が形成されていくようすを克明に捉えた… みたいに書くとなにやら難しそうですが、幼いリアドの感性が色々な文化に触れて、心を動かされたものを素直に映し出していくようすは純粋な面白さがあるし、とっても楽しいです。 発展途上国や独裁政権のキツイ側面、多文化理解や国際政治の困難もしっかり描いてあるのですが、絵がカワイくてオシャレなのでスルスル読めてしまう。 サトゥフは風刺マンガのシャルリで働いていたこともあり「色々難しいことはあるけど、ま、笑っちゃおう」という姿勢はなかなか小気味よいです。 これもマンガの力ですね。 昨今、地球上のあらゆるものごとが複雑になっちゃった気がするけど、リアドの目を通してみると、意外と些細なことやなんでもないことで出来上がっている。 世界って思ってるより単純で気楽なものかもしれないな、という気持ちになれる快作です。